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51 秘密結社式の迷宮探索

リアルの仕事の都合で今後しばらくは日曜日の投稿となります。




ザッ ザッ ザッ 


埃っぽい丘の道を下る複数の足音。




「昔々、ラースラン建国の王ゼルフトがこの地を領有していたランシャム国を

倒して征服し、この土地に乗り込んだ際に不思議に思ったそうな。」


「何をですかな?」


歩きながら楽しげに語る魔術師ギルド長のバーサーン最高導師に相槌を打つ

紫髪の特濃なキャラ付けの美形に変身した怪人ウオトトス。


「モンスターが少なく肥沃な土地で交通の要衝でもあり大河と丘陵に守られた

防衛にも適した良質の地。なのに何故かランシャム国はこの地を何も開発せず

原生林が広がるばかりの無人の原野としていたのさ。ま、理由としてはランシ

ャム国を裏で操っていた五大賢者どもが禁じてたんだろうがね。」


「ふむ、実に興味深いですね。」


「まあ、五大賢者が露骨に敵であるランシャム国を支援したせいで余計な

手間と多大な苦労を強いられた建国王ゼルフトは戦いの勝利後に五大賢者

が持ちかける裏取引を一蹴し、この地に王都アークランドルを建設しちま

ったのさ。」


「よりにもよって王都ッスか。」


オレンジ髪の陽気な若者に姿を変えている怪人モーキンは建国王の強引な

決定に王の人柄を見たような気がした。


「ま、絶好の立地条件でもあったしね。ただし、この地の一部で頻発する

怪現象が王都建設のネックでね。それを解決する為に招聘されたのが他な

らぬ私ら魔術師ギルドという訳さ。」


そうして魔術師ギルドが総力を挙げて調査した結果、驚くべき発見があった。


「永久化された幻影魔法で厳重に偽装された場所を発見し暴いてやったら

驚いたの何の。伝承や古文書で存在が明示されているだけの存在だった

『禁忌の迷宮遺跡』の入り口だったんだからね。」


「それで即座に禁忌の迷宮遺跡のある丘に魔術師の塔を立て魔術師ギルド

総本部を引っ越して来られた、っと。フフッ、重要施設を分捕られた五大

賢者の口惜しさが目に見えるようです。」


「裏でコソコソやってたツケさね。最初から遺跡を隠蔽せず堂々と所有権を

主張し占有しておけばここ・・を失う事は無かったろうさ!」


歩いて来た一行は丘の麓、城壁の内側にあるもう一巡の城壁で囲まれた

一画へとたどり着いた。


城壁の門前は広い空き地になっており既にガープ戦闘員達が変身を解いて

運んできた荷物を開き探査作業の準備を始めていた。


災害用テントタープのような物が幾つも設置され様々な機械に座席と

液晶画面が配置されてコントロールルームが形作られていた。色々な

種類の大きなアンテナが林立し驚く事に電力の供給も始まっている。


特に大きい皿のようなアンテナが上を向いておりそこに電光の様な光が

降り注いでいるのをウオトトスが見て、


「宇宙空間で太陽エネルギー発電した電力をもう衛星から受け取っている

のですか。仕事が早いですね。」


ガープの多目的人工衛星『紫微星』は折り畳んだ超高効率太陽電池パネル

を展開。極薄のそれは1500メートル四方の面積に広がり太陽エネルギー発

電を常時実行、地表の受け取りアンテナに向けてレーザーに変換してエネ

ルギーを送り届けている。


潤沢なエネルギーは衛星自身の機能維持の他に最大出力では地上まで届く

強力な攻撃レーザー砲を使用する事にも使われるのだ。


モーキンが既に稼動し始めているコントロールルームの液晶画面のひとつを

覗き込む。衛星測位システムで測量された魔術師の塔のあるこの禁忌の迷宮

遺跡の丘の正確無比な3次元CGモデルが表示されていた。



「モーキン副隊長、ミューオン透過検知機器の丘外周への設置が完了しました。

後は迷宮遺跡正面への設置が済めば設置終了です。」


そのモーキンに戦闘員の一人が報告する。それに興味を持ったのがバーサーン

最高導師だった。


「何んだいそれは?」


「物質を透過する素粒子ミューオンを利用した地下透視技術ッス。こいつと

地中レーダー探査を併用して地中の構造物や空間を透視して調べ上げるッス。」



「……魔法を使わずにそんな事が出来るのか?!」


バーサーンの側近として立ち会っている魔術師ギルドの幹部、ケイロゥ大導師は

驚嘆の声を上げた。


「ま、魔法が使えてもこの遺跡に対しては無意味だけどね。それにしても

入念に準備するもんだね。てっきり破壊力を生かして一気に突入するもん

だと思ってたよ。」


「貴重な遺跡です。重要なポイントを傷付ける危険を減らす必要があります

し確実な生還と成果確保を期するなら力押しは真っ先に選択から外します。」


いつの間にか近くにいたウオトトスが応えモーキンに説明をするよう促した。


「まず概略図でもいいから正確なマッピングして突入ルートの策定。突入後も

連絡線は確保するッス。妨害機構や機械装置式のトラップの可能性を衛星を通

じてネット接続するガープ要塞の量子スーパーコンピューターが常時解析し対

応策を送信して貰いつつ探索。その際に魔法的な妨害についてはギルドの皆さ

んのアドバイスを期待しているッス。」


「そう言われても我々は禁忌の迷宮には入れん。いや入り口に近寄る事すら

困難なのだが……」


「ご懸念無用ッスよ。皆さんはこのコントロールルームから我々が中継する

映像を見ながら通信を使ってアドバイスや遺跡探査の指示を出して下されば

オーケーッス。」


「その映像は記録として残せるのかね?」


「もちろんッス。」


「では壁画や魔方陣、碑文の古代文字も静止画像として写す事も可能か?」


「余裕ッス。」


「その記録映像は我々にも…」


「最優先で提供させていただくッスよ。」



うおおおおお……


この場にいる魔術師ギルド関係者が期待と興奮に包まれる。


「超魔法文明の第一級資料が間もなく得られる…ワシ大興奮じゃ!!」


「うむうむ!これで悲願じゃった禁忌の迷宮遺跡の内部が開陳される。

古代の英知が我等の手に!!」



「あー、皆さん落ち着いてほしいッス。今回はあくまで第一次調査。

表層から一定範囲の潜入で内部構造の把握と資料確保、あと威力偵察

ッス。今回で得られたデータを元に最深部まで調べ尽くす第二次以降

の調査計画を組み上げるッス。」



「例え表層階の調査でも私らにとっては得がたいのさ。何せ私らは

あそこ・・・から先に進めないんでね。」


魔術師ギルド長のバーサーン最高導師はそう言って迷宮遺跡入り口へと続く

2重城壁の城門を指差した。


「フフフ、ではそろそろ禁忌の迷宮遺跡と御対面と洒落込みますか。」


ウオトトスとモーキンが怪人姿に変身し設置する探査機材を運搬する

戦闘員たちと共に城門へと進んだ。



重々しい音を響かせ城門が開かれる。


(相変わらず、おぞましいねぇ)


バーサーン最高導師は目を細め門の向こう側、荒れ狂う暴走魔力の渦を

凝視する。迷宮の入り口から漏れ出る狂乱の魔力は迷宮内部のそれに比べ

格段に弱いがそれでも人体と精神に致命的な影響を与えうる危険な力だ。


ギリギリで影響を受けない距離に城壁を築き封鎖してあるのだが

バーサーンの目には激しく揺らぎ昇る陽炎のような魔力に遮られ

向こうの景色が歪んで見える。


20メートルほど先の迷宮遺跡入り口。大きく歪んだ人面を象った

石像レリーフの口が入り口という悪趣味な仕様だが揺らぐ陽炎の

せいで入り口の顔がニヤニヤと嫌らしく笑っているように見えた。


バーサーン最高導師をはじめ魔術師ギルド関係者は固唾を呑んで見守って

いる。ガープ関係者は魔力の影響を受けないというのが前提だ。


もしもその前提が崩れたら全てオジャンである。モーキン達は特に気にする

感じもなく城門の奥にスタスタ進んで行く。周囲を警戒するウオトトスやモ

ーキン、戦闘員と機材は特に変わった様子はなかった。


「ちょっとアンタ達、身体の具合は大丈夫かい?」


「問題無いッスよ?」


門のギリギリから声をかけたバーサーンはハッとして別の質問を

投げかける。


「周りの様子はどうだい?何か気になる事はあるかい?」


「そうッスね、ブサイクな顔の入り口がちょっと気になるッスけど

後はただの荒地ッスね。」


「ふむ……地衣類やコケの類が生えていないですね。やはり不可視の

影響力が働いているように思います。」


(ガープの連中は暴走した魔力を感じ取る事も無く何の影響も受けて

いない!これならイケそうだ!)


「いいね、時間を取らせて悪かった。迷宮探査の準備を頼むよ。」


「了解ッス!」




それから30分後、すべての準備は整った。


機器の設置と稼動に10分。観測による地中構造物のマッピングに5分。

得られたデータを衛星通信を通じてガープ要塞の巨大な量子スーパー

コンピューターに送りデーター解析と脅威予測、進入ルート策定の為

の計算時間に1秒。それに合わせた突入部隊の装備に準備に15分である。


コントロールルーム内で液晶画面の一つを見ているバーサーン最高導師、

画面には何の変哲も無い荒地と丘の側面に開いた顔のレリーフの入り口

がポツンとあるだけだ。


「魔力を感じない目で見るとこうなるんだね。…初めて見るよ。」


そうしてバーサーンは程近い門の中に目を向ける。


揺らぐ陽炎のような狂気の魔力の向こうで顔のレリーフが正面に設置された

ミューオン透過検知機器に困惑の表情を浮かべているように見えた。



怪人形態のモーキンとウオトトスを先頭に機材や装備を整えた戦闘員20名

が突入準備を整えている。



ブイィィィン……


小型ドローンのガープ・ハウニブが1機、真っ直ぐに禁忌の迷宮遺跡へと

直進する。


バキィィィィ!!


迷宮に入った途端ガープハウニブは見えない力で半壊しヘロヘロ地に落ちる。


「ふむ、魔力の無いガープ・ハウニブも砕かれますか。量子コンピュータの

予測通りですね。」


事前に地に落ちている石を投じて一瞬で粉砕されることを確認し、地球由来の

魔力を含まない物質で構成される小型ドローンを使い試したのだ。


「量子スパコンの予想だと純粋な衝撃波か何らかのエネルギー照射かッスけど

これは後者ッスね。」


『何でそう思うんだい?』


モーキンのインカムからバーサーン最高導師の声が響いた。

既にモニターの前で待機しているバーサーン最高導師らと

通話する体制が整っている。


科学テクノロジーに溢れたコントロールルームに如何にもな姿の

上位の魔術師達が揃っているのは実にシュールな情景だ。


「石コロは砕け散りガープ・ハウニブは半壊。もし衝撃波とかだったら

同じなはずッス。魔力の有無や大きさで威力が違うのは謎エネルギーの

攻撃ッスよ。」


『…なるほどね。侵入者の魔力が大きければ大きいほど受ける被害も甚大に

なる理屈だねぇ。で、どうするんだい?』


「量子コンピューターの予測だとエネルギー攻撃トラップは入り口のレリーフ

から奥行き3メートル付近が効果範囲のようです。そこで量子コンピューター

が最適解を出しました。」


そう言ってウオトトスが前に出る。


「私が居る事で掘削機材の搬入の必要が無く実行可能な方法です。」



 シュキイイイイイイァァァァァ!!!!


鋼鉄の装甲を楽々と切断するウオトトスのウオーターカッター・ブレスが

迷宮入り口の左側3メートルの丘の中腹に撃ち込まれる。


異常な魔力の影響を受けようと何だろうと基本的には砂岩に過ぎない。

あっという間に幅2メートル高さ3メートルのアーチ型に岩壁をくり

貫いて見せ、そのまま奥行き5メートルのトンネルを掘り抜いてしまった。


「顔レリーフごと入り口を削り取ってしまう第2案も提示されましたが

安全性があまり変わらず資料価値を損なう可能性を考慮してこういった

仕儀とあいなりました。」


ドロドロドロ…


削りだされた岩石や土砂が溶けてゆくのを尻目に新トンネル内に進み

突き当りから右、つまり迷宮本体に向けトンネルを掘る。


 シュキイイイイイイァァァァァ!!!!


「ほほう?迷宮内部の素材は比べ物にならぬくらい頑強な素材で出来て

いますね。ですがまあ開通しました。」


ウオトトスが掘り終えると戦闘員達が鋼板をトンネルの内壁に張って

行き、一定間隔で支柱を立て安全に仕上げてしまう。


突入口が出来ると怪人モーキンの合図で4つの大型ケースの口が開かれた。

1ケースにつき25機。全部で100機のガープ・ハウニブが飛び出す。


各種センサーに高感度カメラ、迷宮内の構成素材の成分検知する機能を

搭載した命無き小型飛行機がガープ突入部隊に先駆けて禁忌の迷宮遺跡

の内部へと次々に突撃して行くのだった。



バーサーン最高導師はポカーンと口を開け冒険者達が行う迷宮探索とは

あまりに違うガープの手法を只々見守るばかりであった。



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