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45 新たなる布石


とかく戦勝とは国威を高揚させる。


連戦連勝の吉報続きにラースラン王国の王都アークランドルは

沸き立っていた。


凱旋した空中艦隊は割れんばかりの歓呼の声で出迎えられ

出征していた兵士達の行進には空を覆い尽くさんばかりの

紙吹雪、地を埋め尽くさんばかりの花束が投げ込まれた。


お祭り騒ぎは当面続く。ラゴル王朝からの凱旋に続き半月後には

大アルガン帝国派遣艦隊の凱旋だ。そして祝賀のクライマックス

は総司令官たるネータン王太女の帰還を待っての勝利宣言である。


称えられるラースラン軍の陰に隠れ功績を認知されず顧みられる事も

無い者たちがいる。艦隊と共に帰還した新勢力ガープの戦闘部隊だ。


ガープにとって実に好都合であった。


このままラースラン軍と行政に恩を売り、貸しを作ったまま

お祭り騒ぎの中、目立つ前にトンズラするのが利口だろう。


実際、手早く王宮において重要な政治的提案と工作を済ませて

そのままガープ要塞に帰還する手筈になっていた。


予定外なのは怪人ウオトトスら大アルガン帝国に派遣された部隊

の帰還がトラブルで遅延している事だった。概算で2日ほど合流が

遅れるようである。


「まあ、悪い事ばかりではない。手強い相手が居ない間に政治的な

根回しを済ませてしまうとしよう。」


アークランドルの空中船港に着艦しているガープ艦の中で烈風参謀が

決断した。ネータン王太女に加えウオトトスと同時に戻ってくる筈の

ユピテル第三王子もいない。切れ者が居ない王宮への工作は楽に捗る

と思われる。




   ○  ○  ○  ○  ○




祝賀ムード漂う王宮にある小会議室の一つにラースラン王国の重要人物達が

護衛と共に来客を待っていた。


この日の午後は国王が招聘する御前会議がある。だが室内の人物達は今から

行う会談もそれに劣らず緊張する物であるようだ。


「到着されました。」


「ご案内したまえ。くれぐれも無礼の無いように。」


侍従の言葉に室内の重要人物の1人、コストー財務大臣が応えた。

これから会合を持つ相手はガープの産業生産と財務を担当する者だった。


コストー大臣は今やラースラン王宮での親ガープ派の1人である。


ガープ戦闘部隊の活躍によって今次戦争においての損害が劇的に少なく済み

財政負担は大いに軽減された。


更に大臣個人も好感を持つ理由があった。あのモーキンと亜竜タラスクが

闘技場で戦った後、ガープ側はズタズタになって価値が半減したタラスク

の遺体を生きたタラスクと同じ金額で引き取ってくれたのだ。


『財務大臣との折衝によってこの金額で買い取らせて貰うと決めました。』


そう公言する烈風参謀のおかげでコストー財務大臣の評価と声望は大いに

高まった。更にガープは買い取ったタラスクから幹細胞と脳の一部、そして

魔石だけを取り出すと残りは行政当局を通じて冒険者ギルドや素材ギルドに

超安価で放出したのだ。


おかげで行政当局に対する市井での評判も上々。行政官僚らの態度も

目に見えてガープ寄りになって行く。


一事が万事。新勢力ガープはこのようにしてガープ側に立つ人脈を作り出し

その立場を強化するように計算され尽くした行動を取っていた。


上は国王から下は一官僚までを対象とするラースラン王国中枢に対する

浸透作戦。それは悪のノウハウを活用した協力関係構築の推進である。


しかしその親ガープのはずのコストー財務大臣をはじめ室内の人々の

表情には極度の緊張が見て取れるのだった。


ギイィ…… …


二人の侍従が両開きの扉を左右から開く。


ヌゥと姿を現した者はその入り口いっぱいの巨体を器用に進め

小会議室内に歩み進む。


直立したワニガメを凶悪にしたような怪物。全身が凶器としか

言いようが無い攻撃的なフォルム。


それなりの広さの小会議室、なれど手狭に感じるほど重要人物を守る

護衛達が居り、全員が凶悪な姿の亀怪人を凝視している。


その室内を亀の怪物は一巡見回し、牙のような鋭い突起がズラリと並んだ

岩をも噛み砕きそうな恐ろしい口を開いた。


「お初にお目にかかります。私はガープ改造人間のカノンタートルいいます。

新勢力ガープの財務と産業を統括する主計局の代表として参上いたしました。

どうぞよろしゅう頼んます。」


ペコリ


カノンタートルの柔和な態度と言葉に虚を突かれたコストー財務大臣は

慌てて応えた。


「こっ、これはご丁寧に。私はラースラン王国の財務大臣を勤めております

ロゥ・コストーと申します。本日はどうぞお手柔らかに。」


「おお、貴方がコストー財務大臣ですか!烈風参謀はんから相当な切れ者と

伺っております。今後ともご贔屓に。」


このカノンタートルの様子に周囲の者たちは追い付いていなかった。


あらかじめ護衛達も含め全員が闘魔将グロリスをカノンタートルが

壮絶な火力で討ち破った映像を確認している。友好的な話し合いの

場ではあるが全員が相応の覚悟を持って臨んでいたのだ。


その恐ろしい姿と力で強圧的な交渉に臨んでくるのではないか?


親ガープ派のコストー財務大臣ですら密かに危惧していたのだが

良い意味で意表を突かれ、ホッとした安堵感から財務大臣は新勢

力ガープに対する信頼を更に深めてゆく。


コストー大臣はもう1人の重要人物の紹介を行った。


「カノンタートル殿、こちらは商業ギルド長のボーリー・モーケル殿です。

王室御用達のモーケル商会の会頭でもあります。」


「しばしお待ちを。財務大臣。」


コストー財務大臣に紹介されたばかりの小柄な老人が待ったをかけた。


商業ギルド長モーケル。彼は一流の装いを着こなした上品な人物だが

眼光の鋭さは肉食獣もかくやと言う凄まじさ。その意志の強い瞳だけで

武骨な護衛達を超えカノンタートルに匹敵する迫力を放っていた。


「商会の会頭職は息子のペイデに譲りまして今は私ではございません。」


「ペイデ・モーケル殿が新会頭?それは何時からですかな?」


「昨晩です。」


「なっ?!」


万が一に備え商会の継承を済ませて来た。その用心深さに絶句する

コストー財務大臣。更に露骨な危険視を受けカノンタートルの態度

が硬化するかとの危惧を抱く。しかし……


「流石に王室御用達は違いますなぁ。」


うんうん頷きカノンタートルは感心する素振りを見せる。


「コストー財務大臣さんの好意的態度は嬉しいしモーケル会長の

用心深さは頼もしい。いや、今日の交渉は上手く行く予感バリバリ

ですわ。」


全てを受け流し柔和な姿勢を崩さないカノンタートルにモーケル会長は

内心で舌打ちしていた。


(外見に騙されて考え無しの魔獣などと思ったらバカを見るな。こやつは

タフな交渉人だ。油断できん……)


「商業ギルドの代表ボーリー・モーケルじゃ。本日は有意義な話し合いに

なる事を願う。」


「こちらこそ。宜しゅう頼んます。」


コストー財務大臣とモーケル会長の二人が会談相手。だがここには他に

多くに人員が居る。カノンタートルは財務大臣側の壁際に整列している

護衛隊を率いる者に声をかけた。


「お役目ご苦労様ですアガット将軍。自分みたいな怪物のせいで余計な

残業させてしもうて申し訳ありません。」


ラースラン地上軍の猛将アガット将軍。そして彼に率いられた歴戦の猛者が

完全武装で整列している。いかに親ガープで染まりつつあるラースラン王国

といえど強力な戦闘力を示した改造人間を王宮に招き入れる事に反対意見が

出て妥協案として王宮を護る親衛騎士ではなくバリバリの実戦経験豊富な精

鋭隊が出向く事になったのだ。


(おそらく魔法的な監視も付いとるやろな。)


「お気遣い痛み入る。カノンタートル殿。」


あくまで役目を冷静にこなすアガット将軍に敵意は無い。

それに比べ強い敵意を放ってるのはモーケル会長の背後にいる一団だ。


「間違いが起きぬよう紹介しておこう。彼らはワシが雇った護衛の冒険者、

『君臨者』の一行じゃ。」


モーケル会長が指し示す5人の男女。オリハルコン級冒険者パーティー

『君臨者』。王都を拠点にしている冒険者で最高ランクの実力者である。


豪華な全身鎧の男と巨大な戦斧を抜き身で構えた大男はどちらも身長は

2メートルを超えている。戦斧の男は急所をプロテクターで護っている

が半裸に近く盛り上がった雄大な筋肉を見せ付けており髪型は地球での

モヒカンに似たワイルドなものだ。ただし髪色はピンクだが。


朱色の髪をした修道女のような女は作り笑みを浮かべながらメイスを

抜き身で構えている。その隣には全身黒ずくめの斥候らしき痩せた男、

不気味な事にドクロを模したフェイスガードを付けている。


そして魔術師風な若い男。片眼鏡を掛けた長髪の美形だがその表情は

酷薄なものだ。どうやら彼がリーダーらしく紹介された時に彼だけが

薄ら笑いを浮かべ会釈した。


「よろしゅう頼んます。」


カノンタートルも会釈するが君臨者側から返事はない。どうやら名乗る

つもりなどは無いようだ。だがカノンタートルの次の言葉に魔術師男は

一瞬目を瞠った。


「コストー大臣、モーケル会長、無駄な出費の原因は此方側。もし良ければ

護衛に掛った費用は私等が負担しますんで遠慮無く請求して下さい。」


「それには及ばん。無駄・・な出費に終わるかまだ分からんのでな。」


「大変嬉しい申し出ですがお気持ちだけ頂戴いたします。それではお二方、

どうぞ着席をおねがいします。会合を始めましょう。」


室内に誂えられた円卓にコストー財務大臣とモーケル会長が着座。カノン

タートルは椅子を退け床に直接座り込む。


「私が椅子に座るたびに弁償せなあきませんので。失礼して床に直接座らせて

もらいますわ。」


床にちょこんと正座するカノンタートル。常人より二周りほど大きい怪人の

彼がこうすると丁度良く財務大臣や商業ギルド長と目線が合った。


「さっ、儲け話を始めましょうか。」


ここでの話し合いは交易についての取り決めだった。準備会合だが

国王の決裁を待っての正式な協定締結に至る重要会議である。


異世界間交易に先立って試金石としてまず新勢力ガープとラースラン王国

との間での交易を先行スタートさせる計画だ。


ガープ要塞内には亜空間収納で納められた工業プラント群がある。その

生産力は21世紀日本の中京工業地帯と同水準。このくらい無くば時空

戦闘機を部隊単位で生産・維持・管理するなぞ不可能だ。さらに農業生

産プラントやクローン体の部位家畜による原料生産と嗜好品生産により

酒や菓子等の嗜好品の製造も開始している。


カノンタートルはガープ側の生産体制と交易品の準備は既に整っている

事を説明し物資集積所としてのガープ前進基地の建設の必要性を訴えた。


「つまり、その交易品を備蓄する前進基地とやらを我が国の西の国境近く

 のハヴァロン平原の端に建設すれば即日交易を始められると?」


「その通りです。けど前進基地から王国内の西方街道に繋がる道路の

建設許可を頂いて作らんと機能しませんのです。」


ラースラン王国は東の国境を旧ラゴル王朝やソル公国ら帝政トラフと

接しており、西の国境は魔物の領域ハヴァロン平原、南西に大アルガ

ン帝国。そして真南にはロガー獣人族連合という国と接し、北方には

ポラ連邦という国が存在し接している。


ラースラン王国の西方街道は王国中枢だけでなく周辺諸国とも繋がっており

この道にアクセス出来れば交易拠点として一気に発展する事が見込まれる。


「もし建設許可が出ればこの見積もり通りの利益が得られるのですな?」


カノンタートルが提出した見積もり書にはラースラン王国の貿易収支を

大幅に黒字化させる巨額の利益が記されていた。試金石などとんでもない。


異世界間交易が早期に実現しなくとも充分な権益となる数字であった。

しかも協定内容はラースラン王国に極めて有利な内容だ。


「ちょっと訂正あります。そこに書いたのは最低限の数字。実際の儲けは

もっと多くなる可能性が有りまっせ。」


「おおおっ!」


「………。」


色めき立つコストー財務大臣と厳しい表情を崩さないモーケル会長。


「…随分と我が方に有利な条件の取引じゃな?」


「おや?この条件がお気に召しませんか?」


「ふん。『不当に高い商品は注意せよ。不当に安い商品はもっと注意せよ。』

ここまでの好条件は詐欺師でも揃えんわ。いったい何を企んでおられる?」


「ええ言葉ですなぁ。我が方にも『タダより高い物は無い』って言葉が

ありますよってよく分かります。モーケル会長のご懸念はごもっとも。

けど我々の目的を隠すつもりはありません。」


「その目的とは何でしょうか?」


「ラースラン王国に甘い汁をタップリ吸ってもろうて大いに繁栄して頂く

事ですわコストー財務大臣さん。」


「は?」


「そんで、その繁栄する王国の姿を周辺諸国に見せ付けて貰えば我々の

目的にかないますんや。ガープと友好的になれば甘い汁を吸えるって事

を回りの国々に宣伝して貰えるだけで充分。」


カパっと口を大きく開くカノンタートル。この場に居る全員がカノンタートル

がニンマリと笑ったように見えた。


「コストー大臣、モーケル会長、皆で一緒に幸せになりましょうや。な♪」





刻限至り謁見の間。


国王の宣誓により厳かに御前会議が開幕した。


カノンタートル、そして烈風参謀がラースラン王宮内で積極的なロビー活動を

展開し充分な布石を打った上でいよいよ国王を迎えての御前会議に臨む。


ラースラン王国における最終的な国家意思決定の場。


だが前半は万歳三唱や戦勝祝賀と歓呼に終始した。そして戦後処理の方針に

沿った法整備の議決を経て会議が一段落がつくと国王が上機嫌で全員に新た

なる吉報を告げた。


「知る者も居ろう。過日、ガープの鉄の城塞に魔王軍の侵攻があった。

だが周到な罠を張って迎え撃ったガープ側が勝利し魔王軍四天王の1人

インプルスコーニを討ち取られた!」


おおおっ!!


どよめきが起こる中、更に国王の言葉が続く。


「そして魔王軍に捕らわれていた我が子、アニーサスがガープの手によって

救出された!!治療とジジルジイ大導師による呪縛や悪意の魔法などが無いか

確認が済めば弟たるロムルスと一緒に帰還する運びになっておる!!烈風参謀

殿、心より礼を言うぞ。我が王妃に笑顔を取り戻してくれた事も含めてな。」


「過分なお言葉痛み入ります。インプルスコーニの本性は強烈な魔力を放つ

寄生体、アニーサス王子はその宿主にされていたとの報告を受けました。そ

してそれを切り放す事で王子を救いインプルスコーニを本当の意味で討ち破

る事に成功したとの事。つまり王子を救う事イコール勝利への最善手だった

のです。」


王弟のオジオン宰相も礼を述べた。


「例え作戦上であろうとも可愛い甥を救ってくれた事に変わりない。

本当にありがとう。所でそのインプルスコーニの遺体はどう処分され

たのかな?出来れば晒し首にしてやりたいが寄生体では流石に無理か。」


「報告を受けた時点では生存していたようです。ですがそのまま

死神教授の実験対象として切り刻まれたとの事です。」


この場の多くの者が人体実験を繰り返す狂気の錬金術師を思わせる

死神教授の姿を思い出しインプルスコーニの末路を察する。



…少しずつ……少しずつ欺瞞情報を混ぜながら報告をする烈風参謀。

この御前会議で話された内容は魔王軍など外部に漏れ伝わると確信

し全てを計算に入れながら。



「ははははっ!実験動物として最後を迎えたか!悪行に相応しい末路だな!」


普段は温厚なクローニン民生局長が豪快に言い切った。


普段から魔王軍による国民の苦しみに向き合って来た彼だからこそ

の言葉なのだろう。



「さて、こうなっては新勢力ガープには何らかの褒賞を出さねば。

受けてくれるかな烈風参謀殿?」


国王レムロス6世が烈風参謀に下問する。


「我らは共に利益を分かち合い繁栄を手にする同盟者。褒賞など恐れ多く

、お気持ちだけ頂戴いたします。その代わりという訳ではありませんが

我らの要望を前向きに御検討頂ければ幸いです。」



烈風参謀が提示している新勢力ガープの要望は2つ。


 一.貸与されているガープ艦の使用期限の延長。


 二.西部国境近くにガープ前進基地を建設し主要街道との連結。


まずガープ艦については貸与ではなく無償供与となった。

いかに元補給艦とはいえタダでの進呈である。


ただし、


ガープ側に魔道機関などの技術移転は行わず魔道機関についての保守管理は

ガープがラースラン王国に対価を支払って委託する形に決着した。



そしてもう一つのガープ側の要求提案、西国境近くにガープ前進基地を

建設し西方の主要街道と連結する事。これについてはコストー財務大臣や

クローニン民生局長が賛成に回り国王の裁定もあって烈風参謀の望む形で

妥結した。


「さて、過日の戦役においてオーヘル殿が指揮する地上部隊の大手柄により

我がガープの偽者の存在が判明致しました。それに効果的に対処する為にこ

の前進基地に相応の戦力を配置したいと思いますが許可いただけますかな?」


「理に適った要求ですな。新勢力ガープは同盟者。もし我が国に危機が

訪れた時には頼もしい援軍となるでしょうし私は賛成とさせていただく。」


息子オーヘルの功績を持ち上げられ上機嫌で賛成に回るエラッソン侯爵。


「賛成ですな。集積する交易品を防備する為にも充分な戦力は必要かと。」


交易開始による利益を最優先するコストー財務大臣。


結局、重鎮二人に国王まで賛成し前進基地と道路建設に許可が下り

烈風参謀は深く頭を下げる。黒い笑みを浮かべながら。


王宮でのロビー活動が功を奏し、新勢力ガープは主要街道に影響力を

持つ要衝に大規模な戦力を配置する事に成功したのだった。





   ○  ○  ○  ○  ○




同時刻。


王都の繁華街、キオナントゥス通りと呼ばれる大通りに面した

酒場兼食堂といった風情の『七色玉石亭』という店の奥、密談

などに使う個室で酒盃を傾けている者たちがいる。


オリハルコン級冒険者パーティー『君臨者』たち。


「皆、あのカノンタートルの事をどう見た?」


片眼鏡をした美形の魔術師、エルド・リーチーが全員に問う。


「俺が武技を込めてコイツを奴の急所に叩き込めば倒せそうだ。」


モヒカンの大男、スモートが戦斧を構えて言い切った。


「ああ、奴は遠距離支援型だ。白兵戦なら勝算がある。それに

奴の主力兵器は至近では撃てまい。撃てば自滅する威力だ。」


全身鎧の魔法戦士オルスタインが補足する。


「いやいや、僕が言いたいのはそういう事じゃなくてさぁ……」


「と言うと?」


頭を振るエルドにドクロマスクの斥候にして暗殺者の二トゥが

問う。


「奴の羽振りの良さだよ!あの様子だとガープって連中は相当に

貯め込んでるに違いないよ。」


「それは私も思いましたわ。交易の話といい素敵なお金の匂いが

プンプンしました。」


朱髪の女僧侶クラーガが即同意する。


「ふん。いくら金があろうと国の上層部と結託してる相手から奪う事など

不可能だし奴らに取り入った所で儲けにはならんだろう。」


「金だけじゃねえ。ガープにゃ俺達の面子を潰されている。奴らと

手を組む選択は無ねーよ。」


暗殺者ニトゥと闘士スモートが否定的に断言する。だがリーダーの

エルドはニヤリと笑い、


「今、巷でガープに対する面白い噂が流れ始めてるのは知ってるな?

その噂を大いに広めて扇動しガープがただの魔物集団って事にしてし

まえば国も手を引くだろう。上手くすれば多方面から奴らへの攻撃が

始まり利用できる。」


エルドの表情が陰険な形に歪み、


「魔物集団ならその拠点、鉄の要塞も前進基地もタンマリお宝の詰まった

ダンジョン扱いさ。殺し放題、略奪し放題のダンジョンにね。」


エルドの言葉に君臨者全員が欲望剥き出しの笑みを浮かべるのだった。





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