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42 妖精王の要請



機能優先で武骨一辺倒なガープ艦の艦橋メインゲート。


そこをエルフの魔法騎士だけを伴って飛来したハーフエルフの少年、

大アルガン帝国皇位継承権者のリーナン皇子が進む。


その身に纏うは上等だが実用的な服装で足取りも軍人のそれだ。


出迎えに出たのはこの艦でラースラン王国を代表するユピテル

王子と魔術師ギルド長のバーサーン最高導師。外見の凶悪な怪

人ウオトトスらガープ関係者は出ていない。友好度が不明な相

手に出張ると余計なトラブルを招きかねない姿だからだ。


「まずは予告無きまま来訪する無礼を謝罪致します。ラースラン

王国特務武官ユピテル殿。」


口上と共に胸に手を当て深く会釈しリーナン皇子は言葉を続けた。


「そして会談を申し込む機会を与えて下さった事を私アルガン・

ゼオ・リーナンは心より感謝いたします。」


13歳という年齢に比して堂々たる態度と気品。その人物に

感嘆しつつもユピテルは極めて事務的に言葉に温かみが無い

よう気を付けながら応える。


「まずは賞賛致しましょう。騎士1名のみ伴って自ら乗り込んで来られた

その勇敢さを。相変わらず外見に似合わない豪胆さですねリーナン殿下。」


ここは君にとって敵地だぞ。言外にそう含めてみせたユピテルだったが

この程度で揺れる相手とも思っていない。メッサリナ皇女と共に何度も

休戦交渉の場でリーナン皇子とは対決して来たのだ。


「勇敢などとんでもない。私は最近まで乳母にお尻を叩かれていたような

小僧っ子です。彼女に付き添ってもらわねば勇気が出なかったでしょう。」


リーナン皇子は傍らにいる女エルフの騎士を紹介した。


白銀騎士はくぎんきしの1席たるリア・ヴラウ殿。妖精国ミーツヘイム

より派遣されし精鋭です。」


「な、なんと!」


ユピテルは光り輝くエルブンアーマー姿の白銀騎士に目を向く。



白銀騎士


妖精王クリークを護る一騎当千の10名の騎士たち。その実力は

伝説級で噂では三大英雄や魔王軍の闘魔将にも匹敵するという。


妖精王の十本剣や十傑騎士などとも呼ばれる実力者。


リア・ヴラウは兜の面頬を下げ目元を出し美しいが鋭い瞳を現す。

口元は見えないが澄んだ美しい声で一言自己紹介した。


騎士きしリアと申す。よしなに。」


(リーナン皇子派が妖精国から白銀騎士の派遣を受けているという

噂は本当だったのか!)


静かな言葉だが迫力を感じ気圧されそうになるユピテル。だが

傍らでニヤニヤ見ているバーサーン最高導師やあのガープの怪

人ウオトトスなど頼りになる実力者が味方に居る事を思い出す

事ですぐに落ち着きを取り戻した。


「名高い白銀騎士とお会い出来て光栄です。いや、噂に違わぬ

迫力ですね。」


「彼女の実力は噂以上ですよ。本当に頼りになります。」


白銀騎士の護衛の紹介を終えたリーナン皇子はバーサーン最高導師に

向いて片膝をつき頭を垂れて、


「氏族の最長老にして高祖母たるバーサーン・ソーマ・ヤマンバル様に

初めてお目もじ仕りま…」


「ちょい待ち、アタシは堅いのは苦手でね。余計な口上はそこまで

にしておくれ。その氏族の長への敬意は確かに受け取った。今は危急。

初対面だけどヒイヒイ婆ちゃんだよと親交を深める余裕は無いんだろ?

とりあえず艦橋へ行こうさね。ここに居たら『対人せんさー』とやらの

働きでメインゲートが閉められないそうだからね。」


言外に身内贔屓で味方に回る事を期待するなというメッセージを込め

リーナンの年齢に似合わぬ抜け目無さを嗜めるバーサーン最高導師。


しかしリーナン皇子は澄ました顔で何事も無かったかのような態度で

頷くと、


「正しいお言葉です。確かに余計な儀礼に割く時間は無いですね。

とりあえず先に進みましょう…」


「ちょっと待ったあぁぁ!!」


「その会談に異議ありぃぃぃ!!」



大声で叫びながら小さな姿が二つ、外部から飛び込んでくる。


「は?ピクシー??いったい何者ですか?」


騒がしい闖入者にユピテル王子が誰何するが彼らが返事するより

早くリーナン皇子が名を呼んだ。


「ソアにリルケビット!!どうやって此処に来れた?!あの牢から

脱獄出来たの?」


「出来るに決まってるだろう!!」


「牢ってチャンピー鳥用の小ちゃい鳥カゴじゃないの!」


「うっ、しかし封印の結界込みで簡単に突破できないはずだったのに…」


「ぐえっ」「きゃっ」


少年の顔に戻って困惑するリーナンに変わり白銀騎士リアが電光石火の

早業でソアとリルケビットを捕らえてしまう。


「失礼ながらリーナン殿下はこの二人の評価が少々お甘いようで。

この者達は高い水準の魔法力を備えておりますれば油断無きよう。」


「騎士様ひどい!!僕らがリーナン殿下に危害を加えるなんて

ありえないのに!」


「ほほう?これが危害でなくて何だというのだ?妖精王陛下の助言を

リーナン殿下に正確に伝えずアスニク姫と結託して大騒ぎを巻き起こ

し、挙句はリーナン殿下の打開の動きを邪魔しそうになるなど。」


「それは聞き捨てならないね。」


白銀騎士とピクシー姉弟の会話にバーサーン最高導師が割って入る。


「どうやらアスニクの和平協定違反の攻撃の理由が聞けそうだ。

4人とも一緒に艦橋へ登ってくれるかね?いまさら引き返す気は

無いんだろ?」


異論は出ずそのまま全員揃って昇降口から奥へ進む。ズズウンン…と

後背でメインゲートが閉まる音が響くのを聞きながら階段を上がった。


その間、ソアとリルケビットはガープについてのネガティブな話を

声高に叫んでいた。戦火が一旦収まってから帝都に夥しい数の人や

物、情報などが集まっているが予想以上にガープについての噂や

憶測が飛び交っている事をメッサリナ皇女からの通報や小型ドロー

ンのガープ・ハウニブの簡易偵察でユピテルも察知はしている。


(しかしリーナン皇子の派閥の急進派が実力行使を決意させる

程の密度の情報が流れている…故意に流布しているのは魔王軍か!)


この戦争に突入する以前に新勢力ガープと接触したのはラースラン

王国と魔王軍のみ。自分達ラースラン側から情報の流布を行ってい

ない以上、結論は一つだ。


魔王軍が仕掛けた謀略。それに違いない。



ユピテルが思案している間もピクシー達の怒涛の文句が続く。

歌う小鳥、チャンピー鳥もかくやである。流石にリーナン皇子

が嗜めた。


「ソア、リルケビット。二人とも冷静になってくれないかな?

普段の二人なら流言飛語に踊らされるはずがないのに何故?」


「僕らは見たんだよ?ドラゴンが敗れたあの戦いを。」


「もし噂通りガープが悪い奴らだったら妖精王陛下の助言に従って

リーナン殿下が直接ガープと会うなんてヤバすぎるわ。超危険よ。」


(ああ、そういう事かい。クリーク陛下はガープを見極めようと

している…アタシも便乗させてもらおうかね。)


にんまり笑うバーサーン最高導師が先導し艦橋に到着する一行。


シュッ


スライド式の自動扉が開きガープ艦の中枢に入室する。


外を見渡せる窓もあるが様々な映像を映し出すモニターパネルが

中央にあり、向かって右前方が魔道機関を操作するラースラン空

中軍より派遣された機関士たちの座席になっており左側に機械文

明の利器を扱うオペレーター、ガープ戦闘員達がいる。


艦橋の奥、入り口付近にラースラン王国のミディ補佐官と捕らえ

られた精霊使いアスニク。少し離れた艦長席付近に恐ろしい姿の

怪人ウオトトスとガープ戦闘員達が整列していた。


小さく息を呑みリーナン皇子はガープ側に向かって歩き出そうと

した。そこに横から声が掛かる。


「行ってはならぬリーナン!妖精王の要請なぞ無視せい!」


「…アスニク姫、貴方ほどの方が下らぬ噂に踊らされるとは

いささか軽率ではありませんか?」


「噂など知らん。我が『真理の瞳』によって奴らの魂の刻印たる

ソウル・レコードを読み過去の所業を感じ取ったのだ!コイツ等

は決して信用できる存在ではないぞリーナン!!」


「貴女の真理の瞳が間違える事はないでしょう。おそらく妖精王

クリーク陛下も分かっている。ですがそれを踏まえての要請です。

おそらくこれを為すのが最善なのだと思う…」


「行っちゃだめだ殿下ぁ!」


「危ないよう!」


白銀騎士に捕らわれたままピクシー姉弟がリーナン皇子の

身を案じ必死で引き止めた。それを振り払うかのように皇

子は前に進み恐ろしい姿のガープ部隊の前に立つ。


「お初にお目にかかります。大アルガン帝国皇位継承権者アルガン・

ゼオ・リーナンと申します。新勢力ガープ部隊の方々よ、私は貴方達

の指揮官との会談を望みます。その旨ご伝達をお願いします。」


「これはご丁寧に。私の名はガープ改造人間ウオトトス。この派遣部隊の

暫定指揮官を務めておりますれば私がお話を伺いましょう。」


「なっ?!貴方が?!」


正直、リーナン皇子は戦闘員やウオトトスの事を高度に機能化された

戦闘生物の類と考えていて自立した思考を発揮するとは考えていなか

った。ましてや指揮官とは。


「これは失礼致しました。」


「お気になさらず。我々の姿を見てその判断は無理からぬ事です。

それでは立ち話も何ですゆえ…」


ウオトトスが副官である戦闘員№100に合図すると床から

簡素ながら寛げる仕様の応接セットがせり上がって来た。


「…相変わらず技術力の無駄使いだねぇ。」


呆れる口調のバーサーン最高導師。


「フフッ、全員が着座できる席数がありますゆえどうぞ皆様お寛ぎを。」


ウオトトスはそう言って周囲を見回し、白銀騎士に捕まっている

ソアとリルケビットに近寄った。


「ひえっ…」


「またお会いしましたね勇気あるピクシーの方々。以前は戦場で

距離がありましたゆえ挨拶できず申し訳ない。」


そう言って顔を二人に近寄せる。牙だらけの口が迫り戦慄する二人に

意外に器用に小さくひそめた囁き声でウオトトスが語りかける。


「あなた方は強い忠誠心を持った信頼出来る存在と見受けました。どうか

リーナン殿下の傍らへ。殿下の心の支えになって下さい。」


それからウオトトスは白銀騎士を見る。兜の中で戦慄した表情の

騎士リアはハッとしてソアとリルケビットを手離した。


ピュー…… …


もっとも恐怖し最大限に警戒している怪物に評価され気を遣われた

事に呆然としたソアとリルケビット。開放されても羽ばたく事も忘れ

そのまま下に落下してしまった。


危なく床に激突する寸前に羽ばたいてリーナン皇子の傍らへと飛んで行く。


促されるまま着座したリーナンの正面の席にウオトトス。


「さて、まず最初に伺いたいのですが妖精王からの要請とは何でしょう?」


「それは…まず私が貴方達と会談し信頼が置けると判断した段階で貴方達に

向けた要請をお知らせする事になっています。」


「なるほど。では最初にお知らせする必要がありますね。」



ウオトトスは姿勢を正し、



「先ほどアスニク姫がおっしゃった我々の過去の所業は真実です。

我々ガープは元の世界で最強・最悪の軍事組織として破壊と暴虐の

限りを尽くしておりました。」



ウオトトスは周囲を慄然とさせる事を静かに語った。





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