表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/104

41 精霊使いと妖精皇子

次回からまた土曜日投稿に戻れそうです。


魔導飛行艦は魔核力炉によって浮遊し魔導エンジンによって推力を

得る魔道機関を組み込んだ空飛ぶ艦船である。


ガープ艦も例外ではない。対ドラゴンを想定しての制空権確保

の為に時空戦闘機ハイドルを運用する移動プラットホームとし

て新勢力ガープが貸与された輸送艦。それを改造し産み出され

た飛行船。


ハコとして魔導エンジンなどの魔道機関を搭載した船体そのまま

にガープの科学技術の武装等を搭載して完成されたモノで、基本

的に機動力や航行能力は輸送艦と大差ない。


空中艦の特質として水上の船と違い方向転換が容易である事が

挙げられる。その場でクルりと回れるのだ。




炎の上位精霊フェニックスの強襲を受けたガープ艦。


正面から直進すれば数分で接敵してしまい迎撃準備が間に合わない

と判断。反転後退し距離を開けようと飛行していた。


フェニックスの方が格段に速いので追い付かれるだろうが

戦闘態勢を整える時間は充分に稼げる。




「さて、ここはアタシの出番だろうね。多分この船の熱線砲は炎の

精霊たるフェニックスには効かないだろうよ。」


魔術師ギルドの総帥であるバーサーン最高導師が名乗りを上げた。


「我々のいた世界では精霊などという存在は未確認でフィクション

でしか知られていませんでした。ですので推測ですが確かに炎の精

霊に対して搭載している高プラズマ砲の攻撃では効果は期待できな

いでしょう。」


戦闘員No100のカタブツ君がバーサーン最高導師の見立てを首肯する。

しかし最高導師の魔法での迎撃案に怪人ウオトトスが待ったをかけた。


「最高導師殿の強大な魔法力は疑うべくもありませんが、に備えて

とっておきましょう。ハイドルによる要撃を行います。発進準備は

出来ていますね?」


「ああ、なるほどね。了解したよ。」


「あの、次とは一体??」


ウオトトスとバーサーンの会話に疑問を持ったミディ補佐官に

ユピテル王子が応えた。


「上位精霊が人里で遭遇する事なんてまずありえない。十中八九、

操っている者がいる。上位精霊を呼び出せる実力者でアルガン帝国

に近しい者となると思い当たるのは只1人だ。」


「リーナン皇子の切り札、最強の精霊使いアスニク姫。しかし

実力は分かりますが何故に帝国に近しい者だと?」


「術者は帝都から遠くに離れられない。そして帝都郊外に我々が

出るタイミングを狙ってきた。帝都の人口は膨大だが城壁の外は

帝都に食糧を供給する帝室直轄の荘園、広大な農地が広がってい

る。そして農閑期の今は何も植えておらず人もいない。我々を撃

墜させても被害は出ない。」


「分かったろ補佐官さんや。フェニックスを始末したらアスニクが

出てくる。アタシが魔力勝負を挑むのはその時さね。」


ユピテルが解説しバーサーンが作戦を説いてミディも納得し頷いた。



「ハイドル発進準備完了!!」


「よろしい。では災害用消火弾を搭載して下さい。…安全機構を

一段階解除した上でね。」


本来、この戦役において帝都バンデル攻防戦があると想定されており

戦場となった帝都に戦火による大規模火災がある可能性を考慮して空

中投下の消火弾が用意されていた。しかし…


「…安全機構解除?なんだか穏やかじゃないねぇ。」


「ええ、実は事情があって我がガープには災害救助の装備などが

不足しておりまして、投下式消火剤の代わりに窒息式の殺戮兵器

である酸素破壊爆弾『オキシ・デストロイ弾』に二段階の安全機

構を組み込んで消火剤替りにしているのですよ。」


「穏やかじゃないどころじゃないです!!大丈夫なんですか?!」


「安全機構は死神教授がしっかりと設計しておりますし安全テストも

合格しています。今回は兵器としての威力を存分に発揮させますが

万が一を考えもう一段の安全機構は残します。敵に命中せず外れた

場合には完全中和した上で自爆し地表に悪影響が出ない仕様になって

いますゆえ御安心を。」


「うわぁぁ…」


「ま、まあ最悪の事態になっても何とかしてくれるんだろう?

でなきゃ流石に看過出来ないよ?」


「無論です。攻撃隊とは別にオキシデストロイ弾不発に備えてのハイド

ルも出す予定です。これは安全機構の不具合に備えた中和剤散布の装備

を載せた機体でして、中和装備は最初から帝都火災の消火活動の際にセ

ットで使用する予定になっていました。」


「さすがに科学技術に関しては手抜かりは無いようで安心しました。」


ユピテルが矛を収め納得すると同時に二つの報告が上がる。



「高熱源体フェニックス、目視できる距離まで接近!!」


「ハイドル隊、全機発進!!」



ガープ艦の飛行甲板から次々と時空戦闘機ハイドルが発進して行く。

万が一の時に乗員を脱出させる為に2機が待機し6機が飛び立つ。



迫る炎の上位精霊フェニックス。それに向かい4機が攻撃態勢に入り

中和装置を搭載した2機が支援態勢につく。



「フフフッ、さて炎の精霊いかなるものか…『燃焼の三要素』の一つ

である酸素の供給が完全に断たれて存在が維持出来るか見ものです。」



しかしウオトトスがあえて説明しなかった事があり、ここでも言及し

なかった。


安全機構を外された酸素破壊爆弾、オキシ・デストロイ弾の威力である。


化学反応を起こし一定範囲内の酸素を一瞬で破壊してしまい死の領域に

変えてしまう爆弾。さらに生物の細胞内の酸素まで破壊してしまう。


恐ろしい事に酸素を破壊する際の激烈な化学反応は酸素を多く含む

細胞をズタズタに粉砕し、骨格など骨を残してドロドロに解け崩れ

炸裂、その生命を絶命させてしまう。動物も植物も微生物もだ。


その威力は酸素を含んだ細胞をTNT爆薬に匹敵する爆発物に

変えるような物といえた。


ただし、安全機構を働かせ消火剤として使用した場合の効果は絶大で、

地球の北米大陸での超大規模な山火事などでも数発の使用で生物の細胞

を破壊する事無く鎮火可能なのである。



猛悪な威力の爆弾を満載して迫るハイドルに至近まで来た

フェニックスから先制攻撃が放たれる。


ヴォオオオオオオオオオン!!


炎の翼から火炎の羽根が勢い良く撃ち出される。短い間隔で数十本、

その発射音は連なり一つの轟音となって響いた。


高温の炎の投槍と化した火炎羽根の連射。その速度はかなりのモノ

だがマッハで飛ぶハイドルの回避運動により全弾回避された。しかし…


『…機体表面温度1000℃ヲ突破…』


パイロットに機体のAIが報告を入れる。炎の羽根が至近距離を掠めた

だけで表面温度が急上昇したのだ。


もし普通の飛行体ならば生物、無生物を問わず深刻な影響を受けて

いたであろう。しかし宇宙空間や亜空間を自在に飛ぶハイドルはそ

れに耐え切って見せる。


4機のハイドルは編隊を組んだまま上昇し炎の精霊フェニックスの

上を取った。編隊はフェニックスの直上で一瞬停止しウエポンベイ

を開き収納されていた酸素破壊爆弾の投下を開始。


効果的に火災対応出来るよう熱に反応する赤外線誘導でホーミング

するスマート爆弾になっていた酸素破壊弾は吸い込まれるようにフ

ェニックスに全弾命中。爆発的に広がる青紫のスモッグに炎の精霊

は包み込まれてしまう。


粘りつく気体・・・・・・としか表現の仕様の無い青紫スモッグ。


それまで圧倒的な迫力で飛行していたフェニックスが急停止、

急激に膨張し数倍の規模の火球へと変化し超新星爆発のような

激しい光を放って燃え盛った!


高次元のエネルギー生命といえる炎の精霊フェニックスは

誇りをかけて異世界からもたらされた猛悪な兵器に抗って

その影響を消し去ろうとしていたのだ。


「ふむ、無駄な足掻きですが凄いものです。普通の生物では

足掻く事すら出来ずに滅び去る威力なのですが。」


「…命の根源を蝕む力を感じる。アンタら、よくもまあ

あんな代物を火消しに使おうなんて考えたね。もし万が一

にも人に対しての攻撃に使ったら絶対に許さないよ。」


「その怒りを頼もしく思いますよ。あれを人々に使えと命令され

たり脅されたとしても絶対に使わぬ覚悟ですが、もし我々が血迷

って使おうとした時は遠慮なく我らガープを滅ぼして頂きたい。」


ウオトトスとバーサーン最高導師が穏やかならざる会話を交わして

いるあいだに必死の抵抗を続けていたフェニックスが遂に力尽きよ

うとしていた。


熱で変質する事の無い爆弾の効果は確実に酸素破壊反応を

発生させ続けフェニックスの炎を窒息させ絞め殺そうとしている。


やがてガスコンロを強火から弱火に落としたように炎の塊となった

フェニックスが萎み衰弱し始めた。そして…



キュオオオオオオン…… …



咆哮と言うにはあまりに悲痛な声を上げフェニックスの命の灯火は

消え去りその存在は消滅してしまった。不死鳥の死である。


「辺りの空間に怒りが満ちてるねぇ。精霊使いってのはね、召喚した

精霊と感覚や感情を同調させてるものなんだ。アスニクの小娘はフェ

ニックスの末路に激昂してるに違いない。」


「来ますか。では…」


「いや、来たよ。まあここはアタシに任せなさいな。」


言葉を終える瞬間にバーサーン最高導師の姿が虚空に消えた。


無詠唱の瞬間転移。


おとぎ話に出て来るような魔術でバーサーンは艦橋から外の

飛行甲板に転移していた。強風が吹く高空なはずだが最高導師

の周囲は無風なのか身に纏う魔術師のローブは揺れてすらいない。


「おやまあ、随分と余裕の無い事だね。」


自信に満ち溢れた表情で空中のある一点を見つめるバーサーン。



カッ!!



その一点、ガープ艦に極近い空中に明けの明星のような強い光が現れる。

その光を中心にした周囲に複数の虹の環が現れた。環の大きさはガープ

艦が通れる程の大きさでその向こうは謎の空間に通じているようだった。


「あっ!あれは!!」


ガープ艦の艦橋でユピテル王子が叫ぶ。幾つもの虹の環からそれぞれ

強大な存在が姿を現そうとしていた。


「風の上位精霊ジン!!それに氷雪の上位精霊フェンリルにフェニックスも!」


「ほほう?何ゆえ大地の精霊や水の精霊がいないのでしょうか?少し見てみた

かったのですが…」


「それは…召喚した途端に地上に向かって墜落してしまうからかと。」


ウオトトスの緊迫感に欠ける疑問にミディ補佐官が律儀に返答した時、

状況に更なる変化が訪れた。バーサーン最高導師である。


計ったかのようなタイミングで魔法術式を発動するバーサーン。

虹の環で精霊を召還しようとしている光の正面に巨大な魔方陣が

出現し、バーサーンが古代魔法言語で詠唱するのに反応して強い

力の波動を解き放つ!!



バチン!!


バアン! バアン! バアン!



平手打ちのような音と共に最初の光が消え、次に特大の風船を

割るような音を立て次々と虹の環が出現中だった精霊と一緒に

消滅して行く。瞬間的に大きな力が加えられたのだろう。ガー

プ艦に乗っている者たち側も静電気のようなショックを感じた。


後には光の粒子を放ちながらゆっくりと消失してゆく巨大魔方陣

が残るのみ。あっという間の勝利である。


それを成し遂げたバーサーン最高導師は最初に魔法術式を発動

する為に指で印を結んだまま微動だにしていなかった。


ふっと息を吐き、


「さっ、仕上げと行こうか。」


そう言ってバーサーンは別の魔法術式を発動するのだった。




   ○  ○  ○  ○  ○




その一刻後のガープ艦の艦橋にて一同はバーサーン最高導師を

賞賛していた。


「凄い物を拝見させて頂きました。まさか精霊界と通じる門ごと

大量の精霊召喚をシャットアウトしてしまうとは…」


「実はね、あれが最高の好機だったのさ。かさんが怒りに任せて

魔力の限界いっぱいに召喚しようとしていた。アタシがやったのは

地面に置いた大荷物を持ち上げようと踏ん張った瞬間にその足元に

油を撒いてやったような事さね。」


そう言ってチラリと艦橋の一角に目を向ける。


そこには空中に小さな魔方陣が二つ浮き出ていた。


上下に二つの魔方陣に挟まれて1人の小人が捕らえ

られている。


美しい虹色のアゲハ蝶の羽を持ち美しい衣を纏った常人の

十分の一程の小人、息を呑むほどの美貌は気品に満ち溢れ

強い印象を見る者に残す若き美少女。


虹の環を産み出していた強い光の中心にいて最高導師により

囚われし者。彼女こそ精霊使いアスニクである。


ハイ・フェアリーの精霊使いアスニク姫は俯いていた顔を上げ

可憐な唇を開いた。


「チッ、手前ぇがいる事を忘れてたわクソババア。ここぞって時に

邪魔する事には長けてやがるな畜生め!」


「お言葉だね精霊使い。年齢で言ったら大差無いだろうに。それとも

何かい?自分の事も普段からババアって…」


「言う訳無い!だいたい年齢が大差ないってどーゆー理屈?!アタシ、

あんたの玄孫と親友なんですけど?!」


「人間の基準ならともかくアタシ等にとっちや何百年なんて誤差の域、

あっという間さね。ところでこの約定違反の武力行使はその親友、皇帝

と結婚したリーリルも承知してるのかい?」


「言う気は無いね。アタシは気に食わない奴等を滅ぼそうとしただけ。

それ以上の理由は…ああ?!」


「ふふっ、この気配。どうやらリーリルの倅が来たようだ。

詳しい話はそっちで聞くとしよう。」



バーサーンが艦橋から飛行甲板を見る。ツバメのような速さで

飛来した二人の人物が着艦しようとしていた。


光の翼を生やした靴、飛行のマジックアイテムであるフライング

シューズを履いて降り立ったのはハーフエルフの少年だった。その

愛らしい顔立ちは美少女と間違えそうになる。


ハイ・エルフの側妃リーリルの子、皇位継承権者のリーナン皇子だ。

そして護衛と思われる騎士。工芸品のように優美なミスリルの鎧、

エルブンアーマーを装備したエルフの女騎士が控えるよう後ろに

降り立つ。


こちらは自らの飛行呪文で来たらしい。高位の魔法戦士と思われる。


艦橋直下のメインゲートが開き要員を引き連れバーサーン最高導師と

ユピテル王子が迎えに来た。



半妖精の皇子はまるで決戦に赴くような真摯な表情でガープ艦

内部へと進む。可憐な外見に似合わない堂々たる足取りで。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ