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40 帝国よりの凱旋に向けて

済みませんが次回の投稿も事情により日曜日となります。

次話の投稿は2月14日となる予定。


人々の希望の声が満ち再建の喧騒に包まれた大アルガン帝国の帝都バンデル。




ザルク皇子派を打倒し大きな勝利を獲得したメッサリナ皇女は

各方面に戦闘の終結と正式な選帝侯会議の開催を呼びかけた。


各地の後継候補たる皇族に参加を促すべく確保していた帝都の

所有権を放棄し選帝侯会議に全権を委譲する事を宣言したメッ

サリナ皇女。


さらに皇位継承で敗れても軍事力の行使を行わないとする

宣誓文書にも署名し会議開催を請求した。


大幅な譲歩。それはひとえに帝国の戦乱を終結させ国民の苦しみ

を取り除きたいメッサリナ皇女の強い意向があったからである。


これに各陣営は同意し内戦は一旦鎮火、帝都を始め大アルガン帝国

各地で復興が始まった。要請を受けてラースラン王国の空中補給艦

も資材運搬に活躍している。



「ですが、別にお人好しという訳でもないのですよ?」


「でしょうね。今回の英断に戦乱から開放された国民からの

熱烈な支持が沸き起こっている事でしょう。」


帝宮の豪奢な廊下を行くメッサリナ皇女と婚約者である

ラースラン王国のユピテル王子。


この三階にある廊下に連なる窓から復興に沸く帝都の様子が遠巻き

ながら見る事が出来る。外に一瞬目線を向けユピテル王子が返答した。



王子が今この帝都に居るのは援軍の特務武官としてであり婚約者として

ではない。戦乱が収束した以上は速やかな帰還が伝達されていた。


懸念事項があり引き伸ばしてきたが遂に本日、ラースラン王国への帰国

の日を迎えたのである。廊下を行く二人。だが、あえてその事には触れ

ず政治的な話を続けていた。


「例の御仁の動きが大人しくなったのは他の選帝侯や皇位継承者が帝都に

入城し始めたからでしょう。ですが…」


「ええ、ザン・クオーク選帝侯が静かになったのは表向きでしょうね。

水面下での動きに注視する必要があります。」


ザルク派の壊滅後、ザン・クオーク選帝侯はそのままメッサリナ派に

鞍替えし、エネルギッシュに政治活動を展開し貪欲に影響力拡大に動

いていた。


ザルク派壊滅の経緯からザン・クオークを危険人物との認識を持って

いたメッサリナ皇女だが表立って動けない。自派に味方する選帝侯を

排除するなど大義名分が必要なのだ。メッサリナに代わりレクトール

選帝侯が重鎮らしく睨みを利かせていたがそれ以上にザン・クオーク

の動きを縛っていたのはユピテルだった。


権限の限られた特務武官ながらユピテルは政治的に危険な動きを

鋭く察知し先回りでザン・クオークの工作を阻止してきた。


「懸念はありますが例の御仁にとってもザルク派の一方的な敗北は

想定外だったはず。今の動きも周到な準備を整えた訳ではない。逆

に追い詰めすぎず泳がせておいた方がボロを出すかと思われます。」


ユピテルの言葉にメッサリナ皇女も頷いて肯定する。


「ザン・クオーク選帝侯については引き続き目を光らせておきましょう。

それと今回の会議の不確定要素として消息不明となったセスターク皇子

についてですが…」


それは誰も予想しなかった展開だった。


突如セスターク皇子が挙兵しバーテラ選帝侯と共にルアンから進撃。

そのまま戦力温存していたリーナン皇子派の軍と激突し大敗する結果

に終わった戦い。


戦況不利と見るやセスターク陣営の主力だった三大英雄の1人、

ボーグ・サリンガと配下の傭兵団『ゲルグ軍』はセスターク皇子

を見捨ててあっさり戦線離脱。実質的に軍の指揮を取っていた

バーテラ選帝侯配下のアーボン将軍が戦死するやセスターク軍の

陣形は修復不能なほど混乱し急速に瓦解してしまったのだ。


「結局、バーテラ選帝侯はズタボロに敗走し自領に逃れ、セスタ

ーク皇子は行方不明。彼らは一体何がしたかったのでしょう?」


メッサリナ皇女の疑問に二人から数歩後ろに従っていた女騎士

ゼノビアが応える。


「直接尋ねる機会も訪れましょう。バーテラ選帝侯とリーナン皇子は

ルアンに在する五大賢者の仲介で和睦。選帝侯会議に出席する為に

バーテラ選帝侯も近々に帝都に入城する運びとなっております。」


「まあ、答えてもらえないとは思いますが。戦端を開いた時期から類推

するに彼らが仕掛けて来たのは我々とザルク派が戦い、勝ち残った方に

リーナン軍が決戦を挑んだ場合には最良のタイミング。新勢力ガープに

よるドラゴン退治という異常事態がなければ彼らの目論見は成っていた

かもしれません。」


「タイミングは絶妙ですがそれは戦闘の推移が予想通りだった場合だけです。

希望的観測で軍を動かすのは軽率。何か誤認情報でも掴んだか大博打に打って

出たか…。」


「おそらく誤認情報でしょうね。遠隔地で勢力を温存して来た慎重な人物が

博打を仕掛けるとは考えにくい。」



政治的会話を続けながら二人が歩んでいる廊下。それから程なくラースラン

関係者が滞在する離宮方面に繋がる渡り廊下との分かれ道に差し掛かる。


廊下の入り口にはミディ・ミトラ補佐官などラースラン側の幕僚が

待機していた。


「それでは私ここで…」


「ええ。」


この後に駐在武官としての離任の式典があるが公的な場であり、

私的な会話を交わせるのはこれが最後となる。


「次は帝国風に名を改めて正々堂々と帝都に来ます。」


きっぱりと宣言するユピテル。ラースラン王国と大アルガン帝国では

姓と名の順が逆である。名を改める。つまり婚礼を挙げるために婚約

者として帝国に来るとの決意であった。


「心よりお待ち申し上げますわ。殿下。」


手をとり合って見つめること数瞬。二人は笑顔で分かれた。

抱擁したい衝動に駆られたが今でなくとも良い。とにかく

今は忙しい。


あれやこれやは婚約者として再会した時に堪能すればよいのだ。



幕僚らと離宮方面に去ったユピテル王子。今回帰国するのは彼らと

新勢力ガープ部隊。艦隊主力の帰還は復興支援任務をこなして正式

な軍としての終戦式典に臨んだ後である。


ガープについては召還したデーモンとは口実であり新たな勢力である

事を帝国上層部に公表した。だが彼らが異形の戦闘集団である事には

変わり無く、混乱や誤解を避ける為に戦いが終わったら速やかに退去

する事が望まれたのだ。



ユピテルらラースラン軍関係者と別れ執務室のある主郭へと向かう

メッサリナ皇女。


「!」


前触れ無くスッと護衛に付いていた騎士ゼノビアが前に出た。それに

呼応するかのように廊下に連なる扉の一つが開く。


「おおっ!!これはメッサリナ皇女殿下ではありませんか。何たる偶然、

何たる僥倖!!」


「…まるで待ち構えていたかのような偶然ですね。ザン・クオーク

選帝侯殿。本日は貴殿との会合の予定は無いはずですが?」


「ええ。まったくの偶然ですからね。会合の予定ではありません。

この後に私も待ち合わせの予定があります。」


一瞬たりとも笑みを絶やさずザン・クオーク選帝侯が言い放った。


「私が向かう西の回廊は途中まで同じ方角。皇女殿下に献策を申し

上げたき儀がございますれば同行してもよろしいでしょうか?」


(断っても平気な顔してついて来るでしょうね…)


「ええ、問題ありませんわ。それで献策とは一体どのような

お話なのでしょう?ザン・クオーク殿。」


「極めて重要で一考に価する提案にございます。」


ザン・クオーク選帝侯の笑みが深くなった気がした。


「ラースラン第3王子ユピテル殿下との婚約を破棄なさいます

よう提案申し上げます。皇女殿下。」


「…婚約破棄?」


(そう来たか…)


「畏れながら殿下は今や帝位にもっとも近いお方です。一皇族の時に

結んだ婚約を維持するには些か立場が違ってきておられます。」


ザン・クオークの笑みの影が濃くなる。


「皇帝陛下の伴侶が外部勢力に繋がった血筋では影響が大き過ぎ

ましょう。まずは地盤を固めるべきです。帝国国内の有力者の子

弟より婚約者を選定すべきと愚考いたします。即位された後に

勢力の基盤が整っていれば治世もスムーズに進む事でしょう。」


「だからと言ってこの戦いに絶大な貢献をされたラースラン王国を

蔑ろにするのは如何なものでしょう。武をもって名を成すかの列強

を軽視は出来ますまい?」



だから・・・です。ラースランは強国。かの列強が万が一に邪な野心を

持っていた場合は帝国にとって深刻な結果を招く事となります。」


「ザン・クオーク殿は私がラースランの操り人形に成り下がると?」


「まさか。世評がどう見るかという仮定の話です。」


メッサリナの氷のように冷たい視線と言葉。それを平気で受けて

笑みを絶やさない鉄面皮と神経の太さを見せつけながらザン・ク

オーク選帝侯は話を続ける。


「実は五大賢者の1人、黄玉の賢人シス殿から新たな婚約者を勧めるよう

アドバイスを頂きまして。それが真に名案。是非とも皇女殿下にはご検討

を願いたく。」


「新たな婚約者?」


「バーテラ選帝侯の子息の1人、ビーエル殿です。これは妙手ですぞ。

現在の成り行きからリーナン派に取り込まれそうなバーテラ殿を味方に

引き入れ支持する選帝侯を得られます。更にルアンに在する五大賢者や

勇者の支持も得られましょう。そして何より…」


「?」


「ビーエル殿は絶世の美少年。美しいメッサリナ皇女殿下と似合いの

伴侶になるに違いありませんぞ。」


「確かビーエル殿は男色家でセスターク皇子殿下と深い関係にあると

聞き及んでいたのですが?」


「根も葉もない噂に過ぎません。」


公然の秘密なそれ・・をきっぱりと否定してのけたザン・クオーク選帝侯。


「ともかくラースラン王国を過度に信用なさらないよう。かの王国は

例のガープとやらの怪しい連中と結んでいる。用心に越した事はあり

ません。」


「新勢力ガープについては先日公表した内容以上に怪しむ話は無い

ように思いますが…」


「物流が復活して各地の人、モノ、カネの流れが帝都に集まっていまして、

民衆の間で噂になっていますぞ。曰く、ガープとはハヴァロン平原に出現

した凶悪無比の怪物軍団である。とか、おぞましい魔王軍の同盟者だとか、

あと各地でガープの怪物が狼藉を働いている等々。」


「!!」


(ガープについての情報が歪められて拡散されている?!)


「それこそ根も葉もない噂話ですわ。しかしその話は一体どういった…」


「おっと、西の回廊ですな。私はここで失礼いたします。メッサリナ

皇女殿下、なにとぞ婚約破棄の件について真剣な御検討をば。」


遂に笑顔を絶やさないままザン・クオーク選帝侯は立ち去った。

小さく息をつくメッサリナに沈黙していたゼノビアが声をかける。


「選帝侯殿にとってユピテル殿下はよっぽどの目の上のコブのようで。」


「ええ。ですが聞き捨て出来ない話もありました。」


そう言ってメッサリナ皇女は廊下に連なる窓に顔を向け、


「どうやら想定以上に諸問題の顕在化が早いようです。一刻も速い

エイセイ通信の設置を実現し緊密な連絡体制構築を切に願います。」



三階の廊下、その窓の外に窓枠より上の位置に小型ドローンの

ガープ・ハウニブがメッサリナの歩調に合わせて飛んでおり、

その音声を逐一ガープ艦に送っているのだった。


その様子を更に上から見ている者たちがいる。


先日入城したリーナン皇子の近習であるピクシー姉弟の

ソアとリルケビットだ。彼らは一連の様子を10メートル

ほど上空から見ていたのだ。


普段の陽気な様子から様変わりした不安げな顔でお互い

頷き合うと羽を羽ばたかせ何処かへと飛び去っていった。



その一刻の後、ラースラン特務武官の離任式典が行われた。

式典とはいえ帝国全体ではなくメッサリナ派だけの小規模な

儀礼でありスムーズかつあっさりと終了する。


最後にメッサリナ皇女からユピテル王子にラースラン国王レムロス6世

宛ての公式の書簡とガープに宛てた非公式の書簡が手渡される。


その時、数瞬熱い視線を交わし目礼する二人。こうして

別れの儀式は恙無く終わった。





ギュゥゥゥゥンンンンン…… …


ユピテルを乗せ帝国の大地を離れるガープ艦3号。


そのまま雲の上に出る高度まで上昇しラースラン方面へと

飛行を開始した。



「さらば帝国よ。また来訪する日まで。」


「何やってんだい?」


「何やってるんですかそれ?」


「えーと…何かの儀式でしょうか?」


黄色いハンカチを指でつまみ帝都に向けて振るウオトトスに

バーサーン最高導師、ユピテル王子にミディ補佐官が同時に

突っ込みを入れる。


「まあ、気持ちの区切りみたいなものとご理解下さい。」


ウオトトスの副官を務める戦闘員No100『カタブツ君』が

苦笑交じりに解説する。


「お気楽な事だねぇ。まあ気持ちは分かるけどね。」


「フフッ、お気遣い痛み入ります。無事に任務をやり遂げ何とか

戦いに勝利し、昨日の連絡でガープ要塞の方でも難局を切り抜けた

との事で少し浮かれてしまったようで。」


「何とか戦いに勝利ねえ…楽勝だったように見えるけどね。」


「慢心は禁物。完璧な戦いなどありません。勝利の為により努力

した側が戦いを制する。私はそう信じているのですよ。」


(慢心しない強者ほどやっかいな相手もいないな。)


ユピテルは物思いに耽りそうになるのを堪え思考を巡らす。

行きと違い単艦行動だがガープ艦は戦列艦に引けを取らない

、いや凌駕さえする強力な飛行艦だ。おそらく安全な帰路と

なるだろう…


そう考えたユピテルの想定は直後に揺らぐ。


ヴォオオオオ!!  ヴォオオオオ!!


けたたましい警報。艦橋でレーダーやセンサーを担当している

戦闘員が緊迫した声で報告を上げ始めた。


「レーダー反応希薄なれどセンサー反応極大!!極めて高温な

高エネルギー存在が本艦に接近中!!距離約50キロメートル!!」


「50キロメートル??」


「ラースランの距離単位でおよそ46メルカです。」


カタブツ君が即座にラースラン関係者に向け説明する。


「電子式超望遠レンズで確認を。」


ウオトトスの命令で正面スクリーンに急接近する存在が投影された。


強烈な光を放つ真っ赤な炎。よく見れば巨大な鳥の形をした火炎が

飛翔する姿がモニター現れた。


「鳥型の炎の翼長はおよそ80メートル!!大型です!」


オペレーターの戦闘員の報告する相手の大きさに一同息を呑む。


「間違いないね。あれは炎の上位精霊フェニックスだよ。」


バーサーン最高導師が相手、いや敵の正体を喝破する。




巨大なる炎の精霊フェニックスは明確な敵意を持ってガープ艦に迫っていた。





次回の投稿は2月14日になります。

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