37 激戦が終結に向かう時
『…・・・…・・・…。』
(ちいっ。面倒だが行う意義は充分にある。それに実行も可能か。)
特殊な亜空間であるガープ空間から復帰した要塞前の荒野。
最上級怪人アーマーテンタクルこと死神教授は通常空間へ復帰
した途端に要塞からの通信で闇大将軍からの要請が届いた。そ
れを受けて内心で思考を整理を始める。
手負いの魔王軍四天王、武闘公インプルスコーニを撃破する
策に要請に応じる修正が必要だった。
一方、インプルスコーニは通常空間に復帰した事を理解し周囲を
眼で確認し戦況把握に努める。
闘魔将ドルブは打倒されダークレイス部隊の敗色は濃厚。
ただガープ側も戦闘員が何名か倒され巨大ロボは横倒し
になり黒煙と炎に包まれており無傷ではない。
(だが部隊としては負けだ。支援は期待できん。むしろ俺が
タコジジイを倒してからガープ全員を粛清する他あるまい。)
インプルスコーニの思考に焦りが忍び寄る。この作戦を推進した
経緯を思えば仕方が無い。なにしろ大魔王の御前で大見得を切っ
たのだ。
あの日、闘魔将グロリスの消滅映像の確認後に四天王揃い踏みで
大魔王クィラの御前に参内し、裁可を得る為に大魔王へ全ての報告
を行った。
その際に武闘公インプルスコーニの積極攻勢案と謀略公クロサイト
の陰謀作戦案も同時に大魔王へと提示される。
そして大魔王より下されし裁定。それは全て同時に進めよと
いうものだった。
『我が比類なき配下たる皆の献策に優劣は付けられぬ也。
同時に進めよ。さすればより良き策が功を成す也。その
結果を以って賞と罰を決する哉。』
暗黒の宮殿に殷々と響く大魔王の言葉。何人たりとも覆せはせぬ。
積極攻勢案と陰謀作戦案が同時に成功するなどありえない。
それぞれの案を提示した武闘公と謀略公のうち一方が賞賛され
もう一方が処罰される事が確定する嗜虐性を秘めた大魔王の決定。
内心の思いはどうあれ武闘公と謀略公は同時に頭を下げ賛意を示す。
「「偉大なる大魔王陛下の勅、謹んで拝命いたします。」」
こうして魔の軍勢は非道な科学の軍勢との戦いを始動させた。
まずは統帥公ボーゼルの指揮の下に情報収集が開始され、
闇の諜報機関が続々と敵について調べ上げ、その調査結
果が魔宮へと送り届けられた。
基本、独立独歩で個性的な魔王軍四天王にあって組織を束ね
運営する面倒な仕事は全て総司令という職務を兼任するボー
ゼルが担っている。
情報の裏取り、再調査の可否や検証など参謀さえ置かずに
1人で全て取り仕切り、綿密な調査報告として纏めて他の
四天王に提供を続けるボーゼル総司令。
そうして得られた『敵対者ガープ』のデータを元に投入戦力を
選定してゆく武闘公インプルスコーニ。
(まず敵の火力は圧倒的だ。ゾンビなどは元よりオーガーロードや
トロールソルジャーの部隊など戦力にならんな。ドラゴニュート、
実体化したデーモン、ゴーレムなら死にはしないだろうが損傷は
免れん以上、満足に戦えるかどうか…)
検討した結果、魔力の無い攻撃を受け付けない非実体の戦力を
投入する事に決定する。候補に挙がった精神生命のサイコデー
モンか霊体のダークレイスのうち、魔法攻撃しか使えないサイコ
デーモンを退け吸精接触という直接攻撃が可能なダークレイスが
選ばれた。ガープに対し魔法攻撃は効果が薄いと判断されていた
からだ。
同じ理由で送り込む闘魔将に選ばれたのは水怪ドルブ。熱攻撃
に耐性があり魔法によらない液体の身体を使った攻撃を主体と
する点が評価された。
そして超巨大魔獣ゼルーガ。鉄の要塞を粉砕する衝力として
インプルスコーニが強引に出撃許可をもぎ取った。
万全の体制と自負する陣容を整えガープの隙をうかがう。
そして遂に待ちに待った報告が届く。
敵対者ガープ、ラースラン王国の戦争に加担し戦力分散させた模様
との報が届くや武闘公インプルスコーニは間髪を入れず出兵を決め、
さらに自身が先頭に立っての出陣を決めた。
未だに策略の準備を行っている謀略公クロサイトを尻目に
大魔王に大見得を切って出撃するインプルスコーニ。
「必ずや小癪な敵共を撃滅してご覧に入れます!」
(それが…この体たらくか…。)
綿密に検討し勝算を立てたはずの戦力は崩壊し自身は
満身創痍。だが、敗北した訳では無いのも事実である。
気持ちを切り替え思考する。
敵の首魁たる死神教授もまた大きなダメージを受け、罠に
掛けた筈のガープ側も損失を被っていた。
(奴らにはもう後詰、予備兵力はあるまい)
三大幹部の1人と怪人全員が出払っている事は分かって
いたが懸念があったのは生首状態の幹部の存在だった。
しかし、この段階に至っても姿を現さない以上、問題は無い
と判断される。元から戦えない存在なのかそれとも戦えない
状態なのかは不明。もし戦える存在ならば現状で姿を現さな
い意味は無い。
(タコジジイさえ倒せば凍りついたドルブを燃えるゴーレムの
炎に投げ込んで溶かしつつザコを始末すれば我が軍の勝ちだ。
勝算はある。奴さえ倒せば!!)
目前の最上位怪人と化した死神教授さえ仕留めれば逆転勝利。
インプルスコーニは深く呼吸を整え酸素と魔素を取り込み
パワーを急速に高めてゆく。ここで退く手は無い。
手負いではあるが相手も同じ。それにインプルスコーニは既に
死神教授の値踏みを終えていた。規格外の超怪物だが戦士ではない。
戦う気構えや訓練などとは程遠い存在である、と。
(敗退したとて処罰など恐れん。だがクロサイトめに見下され陰湿な
嫌味など言われては我慢ならん!)
自覚の無いまま焦燥に駆られ前のめりになっている武闘公に火種が
一つ投じられる。
「クククッ!ボロボロじゃのう武闘公殿、それに手下も壊滅じゃ。
ここは素直に逃げ帰り大魔王かお仲間に泣き付いたらどうじゃね?
おヌシでは実力不足じゃろう?」
「黙れぇジジイ!!闘者ですら無い奴が戯言を!!」
あまりの言葉に一瞬で激昂し手刀を構えフルギャロップで突進する
インプルスコーニ。
「ふむ、確かに戦闘は不得手じゃ。戦争は得意じゃがの。自分でやった
改造手術の際に設けたサブウェポンすらこういった使い方しか出来ん。」
(!!!しまった!!!)
通常空間へ戻ったばかりで頭に血が登るに任せて急襲を仕掛けてしまった。
急激な重力の変化に勢いが付き過ぎてしまったインプルスコーニは強烈な
殺気を感じ急停止すべく制動をかけるが間に合わない。
アーマーテンタクルが残存する4本の触手を2本一組として真っ直ぐ
前に突き出して正面から待ち構えていた。
触手の先端と先端の間に眼に見えないほど細い糸のような物が風閂の
ように張られている。
磁場によって整列させられた単分子。それは分子1個分の厚み
しかない究極刃物『単分子カッター』であった。
極限の鋭利さを持つこの刃は磁場の運動作用によりチェーンソー
のように駆動して対象を切断する。本来なら切断糸のように扱う
事も可能な武器だが訓練を怠っていたアーマーテンタクルがそれ
をやると自分の身体もスパスパ斬ってしまいかねないので使用を
控えていた。
「じゃが、こうして待ち構えて斬るなら技術はいらん。さあ、
ワシの触手をざくざく切り刻んでくれたお返しをさせてもらうぞ。」
アーマーテンタクルも構えたまま前に出る。
そして両者のシルエットは静かに交差した。
ころん ころん
切断音は無かった。綺麗な断面を見せてインプルスコーニの左腕が
落ち、次に首があっさり落ちる。
究極の鋭利さを持つ単分子カッター、そして他ならぬ武闘公自身の
猛烈なる突進力がまったく予想外の幕切れをもたらしたのだった。
「おっと。」
インプルスコーニの首が地に落ちる瞬間、アーマーテンタクルの
頭殻の側面に魚雷発射口のような構造が開きゲル状の液体を落ち
る前の首に浴びせかけ包む。
残った武闘公の胴体と腕にも同様の処置を行うと、
「ワシの状態保存は長時間は保たん。急いでメディカルセンターに
運び込むのじゃ。」
「生かして連行するのですか。危険なのでは?」
「心配要らん。首だけでは奴は何も出来ん。ワシのココがそう
判断しておるわ。」
そう言ってアーマーテンタクルは指でコツコツと自分の頭殻を
示す。
死神教授の頭脳を疑う者はガープには居ない。戦闘員達の
異論と不安は霧散した。
その様子に満足げに頷きながら教授は皆を鼓舞する。
「さあ、大勢は決した!!皆、残敵を掃討せい!」
「…いえ、もう終わりそうなんですが。」
「ぬ?」
見れば残っているのはダークレイス部隊のみ。しかも
半数まで数を減らしていたダークレイス共は闘魔将に
続き四天王まで倒された事で戦意を失い次々と戦場から
離脱していた。
「死を恐れる死者か。何だかのう…」
呆れるアーマーテンタクルに戦闘員達が指示を求めてきた。
「闘魔将凍結作戦に成功しました。これが水怪ドルブですが
おそらく仮死状態になっているだけと推測しています。いかが
致しましょうか?」
「ふむ。」
アーマーテンタクルは氷塊となったドルブを見上げて、
「どうするかのう。止めを刺すか、冷凍倉庫に放り込んで
いずれ何かの実験に使うまで置いておくか…」
「一つ報告したい事があります。よろしいでしょうか?」
「何じゃ?遠慮はいらんぞ?」
「ドルブによってNO25、505、893が倒されました。」
「…ピアニストにヤクザ、あのダジャレ親父もか…」
アーマーテンタクルの声が真面目なトーンに変わりぽつりぽつりと
語りはじめる。
「彼らは善を成す為に魔王軍と戦い散って逝った。その死は
決して無為なものではない。決してな…」
「…はい。」
語りながらアーマーテンタクルは触手を動かし分子結合崩壊で
氷塊となったドルブの身体を消滅させて行く。ドルブの中心部、
そこに水と同じ色に偽装された生命核が存在したが丸ごと原子
分解され水怪ドルブは完全消滅し露と消えた。
「これで一仕事の区切りかの。流石にワシも疲れたわ。」
右足を失い全身はボロボロ。痛覚を遮断しているがアーマー
テンタクルの肉体はとっくに限界状態だった。
「よし!とりあえず魔王軍は撃退した!!要塞内へ凱旋じゃ!」
闇大将軍よりの要請、武闘公インプルスコーニを生存させたまま
無力化する事を見事に達成し死神教授率いるガープ部隊は意気揚
々と要塞へと帰還するのだった。




