33 竜帝王の落日と届く二報
トラブルで帰宅が遅れこんな時間に投稿となりました。すみません。
爆煙に包まれし壮麗だった大竜宮殿。
燻る瓦礫の中から一際巨大なドラゴンが姿を現す。
並みのドラゴンに倍する巨体を誇るこのミスリル
ドラゴンこそ竜帝王ラゴル・ダイナスその人であった。
庭園という屋外であった為に大本営の最初の爆発での
被害は大きかった。幕僚の半数は変身するのが遅れて
消し飛び、下位のドラゴンの中には竜形態のまま倒れた
者もいる。巨大銅鑼を演奏していたホワイトドラゴンな
ど銅鑼とともに吹き飛んでしまった。
もしカノンタートルがラゴル王朝の大本営が戦見物をする
ために庭園に移転されているという馬鹿馬鹿しい状況を知
っていれば(そして信じられれば)初撃は中枢と想定され
ていた宮殿中央ではなく庭園に向けていただろう。
結果、砲撃の爆発は巨大な宮殿を破壊するのに費やされ
爆風が庭園に及ぶのにタイムラグが生じていた。おかげ
で大本営は深刻な被害で済み全滅だけは免れた。
「陛下、ご無事でございましたか…」
ヨロヨロと出てきたのは小柄なミスリルドラゴンだった。
名をナーテス。竜帝王の側妃である。
竜帝王ラゴル・ダイナスは正妃を置かぬ。ただ楽しみの為に
複数の側妃を置いていて後継者すら産まそうとしない。
長命な彼にとっては後継者すら自身の地位を脅かす存在に
すぎない。ラゴル王朝とは彼だけの為にある王朝であり
所有物としか認識していなかった。
ゆえに直後に眩い死の閃光が奔り2発目のプロトンビームが
炸裂した際に取った行為は竜帝王からすれば当然であった。
「がああああ?!りゅ、竜帝王陛下…何を…なさいます…」
竜帝王は側妃ナーテスの首に喰らい付き、彼女の身体を盾にして
大爆発から己の身を護ったのだった。
ズガアアアアアアアアアアアアン!!!
浮遊する竜都そのものすら揺り動かす大爆発。残っていた建物
も瓦礫と化しモニュメント等も薙ぎ倒され生き残ったドラゴン
たちを叩きのめす。しかし竜帝王は優秀な盾のおかげで
無事だった。
ズガアアアアアアアアアアアアン!!!
3度目の大爆発。もはや被害は目を覆わんばかりで大本営は
事実上の機能停止となった。ヨロヨロと傷だらけのゴールド
ドラゴンが飛び立って逃げる。ズノー参謀長だ。だが彼はすぐ
平べったい飛行艇の放つ真紅の光線、荷電粒子ビーム砲の集中
砲火を浴び空に散った。
ペッ
それを見ていた竜帝王は咥えていた側妃だったミスリルドラゴンの
遺体を吐き捨てる。果たして彼女を死なせたのは2度のプロトンビ
ームの直撃か、それとも逃がすまいと渾身の力で喉を噛み潰した竜
帝王の牙だったのか。
「上へ逃げるのは不味いようだな。では地下の『ドラグーンパラダイス』
に一旦引っ込むとするか。」
そう言うと竜帝王は先刻まであったバルコニー付近を強靭な尻尾の
攻撃で薙ぎ払う。すると巨大な扉の残骸の背後に大きなトンネルが
現れた。
地下にあるドラゴン形態のまま楽しめる保養施設へと繋がる
竜帝王専用通路へと進みラゴル・ダイナスの姿は消えた。
まだ動ける臣下のドラゴンも追随し、動けない者達を見捨てて。
ドギュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥウン!!!
圧倒的な砲撃を受け爆煙を上げている竜都へと猛進する
ガープ艦。
パンピーン
『突入予定まであと5分。ガープ・ハウニブ投入開始します。』
突入部隊の地形把握と敵の捕捉をサポートする小型ドローン
の発進を告げる合成音声の艦内放送が流れる。
突入時刻まであと5分。砲撃担当のカノンタートルが
甲板からブリッジに戻り突入隊長のモーキンと最後の
打ち合わせを行う流れで気になる情報の確認をしていた。
「その飛行物体ゆうの竜帝王とは違んやな?」
「はい。対象は音速を超えておりミスリルドラゴンで
ある確立は2%以下。別の何かである可能性が98%
です。」
2度目のプロトンビーム砲撃の後、7色に輝く高速飛行
物体が飛び去った事を彼らは捉えていた。
「竜帝王が逃亡したのじゃないなら問題無いっス。デー
タを持ち帰って死神教授に解析して貰うっスよ。」
「せやな。そんでもう一回確認やけど竜帝王の電光ブレス
対策の電磁バリアー・フィールド発生装置は正常に機能し
とるんかい?」
カノンタートルはモーキンの腰に巻かれたベルト状の
装置に目を向ける。
モーキンをはじめ突入部隊全員がドラゴンブレス対策に
耐熱皮膜を身体に表面処理で塗布されている。高温や低
温の被害を大幅に軽減してくれるがウオトトスのゲル粘
液に比べると格段に性能は落ちるので特に強力と言われる
ミスリルドラゴンの電光ブレス対策として用意されたのが
電磁バリアー・フィールド発生装置だ。
「装置の調子はばっちりっスよ。ただ回数制限には気を付け
るっス。」
そう、ミスリルドラゴンのルーフルの協力で得られた電光ブ
レスのデータ、威力は装置を設計した死神教授の想定を上回
っていた。その為に電磁バリアー・フィールド発生装置は3
回までしか確実に電光ブレスを防げず4回目以降の負荷に耐え
られるかは未知数だった。
「まっ、討伐が難しい時は自分が囮になって竜帝王をハイド
ルの粒子ビーム砲の射角に誘い込むっス。」
パンピーン
『突入予定1分前。突入部隊は最終配置に移行されたし。』
「じゃ行ってくるっス。」
そう言ってモーキンは最後の装備であるバックパックを装着した。
短距離飛行ユニットであるジェットパックである。
「鳥の怪人やのにそんなもん着けないと飛べんとはねぇ。」
「仕方ないっス。自在に飛べる筋力を持ったら維持するのに
戦闘力のリソースを削る事になるっス。それに自分は飛行を
捨て戦闘力を取った恐鳥類をモデルにした怪人っスよ。」
「そうやったな。ワシ等の身体は必要十分なスペックを備え
外見は別に実情に沿ってないしな。ワシも泳ぎとかヘボいし。」
砕けた口調からカノンタートルは態度を改め、
「モーキンはんは必要十分に強い。戦果を期待してまっせ。」
「大船に乗った気でお任せっス!」
自信に満ち溢れた声で応えモーキンは甲板に出る。
甲板には既に装備を整えた戦闘員80名が整列している。
外装式の第2特殊装甲にジェットパック。そして無反動砲を
携えている。無反動砲はカールグスタフ砲にどこか似ている
が常人の数倍の筋力を誇る戦闘員が扱うため口径が110mmと
大型で自動装填装置と弾倉を備えている凶悪な代物だ。
『接岸します。作戦開始。』
遂にガープ艦はドルーガ・ライラスの外延部に到達し
モーキンに率いられた奇襲突入隊が一斉に発進する。
ギュイン!!ギュイン!!ギュイン!!
艦首の砲塔から高プラズマ砲が上陸支援として連続発射。
付近のドラゴン達を押さえ込む。
ジェットパックの推進剤を使いきり予定の地点に無事に
上陸を果たすや部隊は即座に戦闘行動に移行する。
「ドラゴンは怪物っス!!まともにやり合わず弱った
部位を狙い撃つっスよ!」
怪物のようなモーキンが指示し戦闘員達は地上にいる
ドラゴンの弱い箇所を攻め立てた。
下位のドラゴンでも鱗は途轍もなく硬く皮下組織も生物とは
思えないほど強靭だ。しかし殆どのドラゴンは大爆発の影響
で怪我を負っている。その鱗が剥がれ肉が裂けて血を流して
いる怪我の箇所に戦闘員達は主力戦車を撃破する無反動砲の
徹甲榴弾をドカスカ撃ち込んでいった。
「ぐああああ!!」
「止めろぉ!!助け…ぎゃああああ!!」
生き残っていたドラゴン達を掃討しつつ快進撃を続ける
ガープ奇襲部隊。小型ドローンのナビゲーションで大本
営が設けられていた庭園跡に到達し竜帝王が逃げ込んだ
地下へと続くトンネルへと侵入を開始する。
地下とは思えぬ広大な広間。最も高い所は天井まで数十メートル
はあるドーム状のこの場は広大な湯殿、観葉植物や彫像で飾りた
てられた豪華な空間だった。広さには明確な理由がある。ドラゴ
ンの姿のまま竜帝王や側近達が休息を取っている様子からここは
竜形態で過ごせる保養施設だと分かる。あまりに異常な戦況に
戦える姿で過ごせるこの場に退避して来た竜帝王の耳に侵入者の
足音が多数入り口側から聞こえてきた。
乱入して来た敵の姿に竜帝王は目を剥く。
人間と怪鳥を混ぜたような化物に率いられた奇怪な戦闘員の
群れ。英雄気取りの冒険者を迎え撃つつもりだったドラゴン
達も絶句している。
「見つけたっスよ!お前が竜帝王っスね!!この切り裂きの
モーキンが切り裂いてやるッス!!」
「ほほう、見苦しい化物の分際ながら威光という物が理解できる
と見える。余が竜帝王ラゴル・ダイナスだと一目で見抜くとはな。」
「一番良い場所に座って一番偉そうで一番大きくてデブったドラゴン
っスから一目瞭然っスよ(笑)」
「ぐっ、無礼な奴めが!!」
ギュババババババ!!!!
一瞬で激昂し口を開いて電光ブレスを撃ちだす竜帝王。予備動作を
読んで余裕を持って回避したつもりだったモーキンだが弾速の速さ
から意外とギリギリだった。焼け焦げた床の惨状に威力の一端が
垣間見える。
「ええい!!者共かかれい!!…何だと?!」
竜帝王が周りのドラゴン達に命令した時は戦闘員達の攻撃が
開始されたタイミングであった。十数頭のドラゴンが80名
の戦闘員に包囲され傷口に火器を撃ち込まれて右往左往して
逃げ惑い、命令に応えるなど出来そうに無い。
ビュン!ビュン!ビュン!!!
ガキィィィン!!
ガキィィィン!!
ガキィィィン!!
「!!」
竜帝王の隙を付いてモーキンの鉤爪が高速斬撃を
繰り出すが全てミスリルの鱗に弾かれてしまった。
他のドラゴンとは違い竜帝王ラゴルは何も怪我を負って
おらず装甲車両をスクラップにするモーキンの鉤爪攻撃
も殆ど効果が無い。
「小賢しいわ!!」
なんと竜帝王ラゴルはドラゴンの姿のまま2足歩行で
立ち上がった。傷口の代わりに頭部に狙いを絞ろうと
考えていたモーキンは内心で歯噛みする。
(頭が遥か上っス…)
ヒューン…ズガーン!!!
ビュン! ガキィィィン!!
配下のドラゴンを仕留め終えた戦闘員の無反動砲や
モーキンの鉤爪斬撃を無敵の鱗で跳ね返しながら竜
帝王はブレス攻撃を繰り出した。
ギュババババババ!!!!
「ちょこまかと鬱陶しい!!死ねぃ!」
ギュババババババ!!!! ギュババババババ!!!!
バシュン!!!
「ぬぬっ!!」
遂に連発される電光ブレスの一撃がモーキンに命中する。
続けて戦闘員の一部にも命中弾が出始めた。だが当てたは
ずの竜帝王が目を丸くして絶句している。
電磁バリアー・フィールド発生装置の機能によって
命中を受けた側が無傷だったからだ。
(とはいえ、このままじゃジリ貧っス。それに装置への
負荷も予想以上…)
驚いている様子の竜帝王にモーキンは状況打破の賭け
に出る事を決意した。
(一か八か、この竜帝王のおっさんがアホである事に
賭けるっス!!)
「クエーケケケッ!!お前はもうお終いっス竜帝王!!
お前の電光ブレスは此方には効かないっス。お前には
もう攻撃手段が無いっスね!!」
「愚かな化物めが!!その愚劣さを死んで後悔するがいい!!」
竜帝王は二足歩行を止め四足歩行に切り替える。自らの鉤爪で
敵を引き裂き牙で噛み殺す為に。
(腹這いになった!これで頭を攻撃できるっス!!)
モーキンの想定以上にアホだった竜帝王のおかげで
賭けに勝った。しかしはしゃぐ事無く冷静にこの好機
を活かすべく慎重に戦う。
ビュッ!! ビュッ!! ブオオンンン!!
竜帝王の鉤爪攻撃や強烈な尻尾の一撃を冷静に回避し
焦れた竜帝王の苛立ちを誘う。
「ちょろちょろ逃げるな!!我が爪に掛かり引き裂かれる
までじっとしておれ!!」
頭に血が上り呆れた言い分を喚き散らす竜帝王の様子に
機は熟したと判断したモーキンは一気に仕掛ける。
まっすぐに竜帝王の顔に向かって突撃したのだ。
「良い覚悟だ!!貴様が鳥肉の味がするかどうか余が
直々に吟味してくれるわ!!」
長剣のような牙が並ぶ巨大な口を広げ竜帝王はモーキンに
喰らい付いた。
「ふがが?!」
だが全てを噛み砕くはずの竜帝王の顎が閉じられない。
渾身の力で噛み砕こうと四苦八苦する竜帝王。
モーキンを覆う磁場のような反発する力場、物理攻撃に
反発する『防御力場』を活用しモーキンは好機を造った。
そのまま鱗など無い竜帝王の口の中を鉤爪攻撃で切り裂く。
ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!ザシュ!
「ぐわあああああ?!」
激痛にのたうちモーキンを吐き出そうとする竜帝王。
だが一瞬早くモーキンは竜帝王の上顎から脳髄へと
貫く渾身の一撃を放った。
グシィィ!
「グオオオオオオオオオオオン!!!!!」
目を裏返らせ断末魔の咆哮を上げ竜帝王ラゴル・ダイナスは
地に伏した。さしものミスリルドラゴンといえど脳を直接破壊
されてはなす術はなかったのだ。
倒れた竜帝王の口からモーキンが立ち上がり、死せる
ミスリルドラゴンの右目を貫き止めの一撃を叩き込む。
そうして確実な絶命を確認してから雄叫びを上げる。
「竜帝王ラゴル・ダイナス討伐完了っス!!」
ついに竜帝王は倒された。それは彼の名を冠する王朝の
終焉をも意味していたのである。
○ ○ ○ ○ ○
その頃、竜帝王ラゴル・ダイナスが討ち取られ実質的に
ラゴル王朝が終焉したとは知らず王朝の地を進軍するラ
ースラン王国の地上軍の姿があった。
国境沿いの王家直轄領ラッケンを策源地にして地上部隊
の用意が成されていたのである。
ラースラン王国としては勝利後にラゴル王朝を併呑する
つもりは無かった。傀儡政権を樹立させ都合よく利用し
統治させる。
その時点で滅びたであろう旧ラゴル王朝首脳に全責任を
押し付けての戦争責任の清算、戦災復興や戦死した者の
遺族の慰撫など全て新政権に任せておき、ラースラン王
国としての利権はしっかりと確保する。
しかし、親ラースラン寄りの新政権を樹立させても占領
の実績も無く領土の割譲を迫るのは無理があるものだ。
そこで地上軍を派遣し割譲させて得る予定の商業や産業
の中心地、地下資源の鉱山など形ばかりの占領を行う必
要があった。
宰相オジオンと新勢力ガープの意見により穀倉地帯には
手を付けない。ラゴルの新政権の民に食料と燃料だけは
潤沢に供給すれば情勢は安定する。さらに滅びた竜族が
独占していた富の再分配を行えば王朝の国民の生活水準
は向上すると見込まれていた。
軍の後方を取り纏めるために方面軍指令として幕僚を従え
デザリアムス国防大臣がラッケンに入り、侵攻軍の大将に
エラッソン侯爵の嫡男オーヘルが就任し経験豊かなアガット
将軍が補佐に付いていた。
15歳のオーヘルにとって初陣である。
「この戦力で大丈夫だろうか?アガット将軍。」
短い準備期間で王国が用意した侵攻兵力は8000。
その主力は5000人のエラッソン侯の軍である。
「問題ありますまい。空中艦隊が阻止限界線を超え敵側の
首都に迫っています。今頃はラゴルの主戦力は総力を挙げ
空中艦隊と決戦に及んでおるはず。此方を見る余裕などは
ないでしょうな。」
スキンヘッドで隻眼の強面なアガット将軍が自信たっぷりに
断言するとオーヘル少年の不安もいくらかは払拭されたよう
だ。更にとアガット将軍が上を見上げて、
「あれ等も直掩で航空支援に付いています。心配は無いで
しょう。」
彼らの上空には2隻のガンボートと2機の時空戦闘機ハイ
ドルが随伴していた。ラッケンにもハイドルが配置されて
おり、ガープが保有し稼動しているハイドルが全てラース
ラン王国の戦争に投入されていた。
初陣の大将が落ち着きを取り戻し始める。ちょうどそこに
伝令が報告に現れた。
「ご報告申し上げます!!ソル公国がラゴル王朝に宣戦布告し
我が国と連携を取ると称し公国軍1万2千が進軍を開始した模様!」
「何と!!可能な限り詳細の確認を行え!!」
「御意!!」
僅かな時間で確認出来たのはソル公国軍は国境の町レアガンクから
まっすぐ東へと進軍している事と冒険者パーティー『覇道の剣』が
同行している事だけだった。
「どうやらラゴルの領土の争奪戦にはならないようですな。」
「どういう事だ?」
「レアガンクは堅固な城塞都市ですが規模が小さく補給物資の
集積、それも1万2千の兵を支える補給を賄うには脆弱です。
おそらく長期の出兵は想定しておらずソル公国の東にあるラゴ
ル領のアレイワー平原の確保が主目的でしょうな。」
さらにアガット将軍は初陣の少年に丁寧に説明してゆく。
アレイワー平原は石だらけの荒地で塩を吹き耕作には
向かず資源も無い土地でラースラン王国的には無価値。
しかしソル公国はここに街道を敷けばナンギヤン山地を
迂回していた交易路を直線化。劇的に運輸を改善出来て
経済を大きく発展させる事が可能となる。
「なるほどな。しかし『覇道の剣』とはまた随分と凄い
名前が出てきたな。」
「おそらくソル公国はドラゴンと一戦交える事を想定して
いるのでしょう。それにかの公国は覇道の剣の活動範囲ですし。」
覇道の剣、それはこの大陸ナンバー1との呼び声も高い
オリハルコン級冒険者パーティーで超人とまで言われる
リーダーのライユークに率いられた一騎当千の猛者達だ。
規格外の逸話を持つライユークの実力は勇者や三大英雄に
も比肩すると言われている。もっとも人気の高い冒険者で
憧れている者は多い。
「この戦いの後、戦勝祝賀会でライユーク殿と会う機会がある
やも知れないな。」
初陣の不安感を払拭出来たオーヘルは少年らしい感想を漏らす。
その様子を微笑ましい思いで見るアガット将軍だった。
○ ○ ○ ○ ○
ラゴル王朝は僅か半日の戦いによって滅亡した。
戦いから始まった早朝より時刻は進みはや夕刻。
まもなく日が沈む。
戦いは終結しラースラン軍と共に竜都ドルーガ・ライラスへ
帰還したルーフルとフィンは絶句するしかなかった。
壮麗にして絢爛豪華だったドルーガライラスは瓦礫の山に
変じ、絶対君主だったラゴル・ダイナスは躯に変わり果て
ネータン総司令が首実検を行っている。
結局、生き残ったドラゴンは50にも満たない数であった。
この事実は要するにこの大陸に住むドラゴンの総人口の約
半数が消失した事を意味していた。
ルーフルたちの前に広がる廃墟に命の気配は無い。
「虚栄に満ちた都は消え去った。きれいさっぱりとね。」
何も言えずにいたフィンにルーフルが言葉をかける。
意外にも明るい声だった。
「さあ再建だ。今度は皆が笑い合える平等な国を造ろう。
一緒に来てくれるね?フィン。」
「もちろんです。一緒に最高の国造りを成し遂げましょう。」
フィンは差し出されたルーフルの手を取り強く強く握り
締めるのだった。
そして、艦橋に差す血のように赤い夕日の陽光を背に
烈風参謀が2日半遅れの通信文を二つ読んでいる。
どちらも他の戦線にいるガープ部隊からの通信だった。
一通は大アルガン帝国に向かった作戦名『赤』に参加している
部隊からで、
『ロォス帝国街道での決戦に勝利。ザルク軍主力とドラゴン部隊
の撃滅に成功し間も無く帝都方面への進軍を開始する。』
そしてもう一通が、
『ガープ要塞に魔王軍襲来せり。』
この通信を読んだ烈風参謀は目を細め、微かに口端を
吊り上げるのだった。




