32 竜都ドルーガ・ライラスの輝き
竜都空域、ラースラン王国とラゴル王朝との決戦場に今、混乱した
怒号が飛び交っていた。
「嫌じゃ!嫌じゃ!!誰かワシを守れ!!死ぬのは嫌じゃぁぁ!」
「落ち着いて下され!王弟たるお方を見捨てませぬガーキン様!」
先頭を行くプラチナドラゴンの令嬢ベルクーナが爆炎に包まれた
直後に数十発余りの黒いミサイルが出撃したドラゴン部隊を襲う。
レモラ・オーブの護りを頼っていたドラゴン達はミサイルの
被害を受けオーブの力が役に立たない事を悟る。
動揺した彼らを統制する役目である出撃部隊の総大将たる
ミスリルドラゴンの王弟ガーキンは本人が一番パニックを
起こしてしまい、副将にしてベルクーナの父でもあるプラ
チナドラゴンのヴァルファー侯爵はそれを宥めるのが精一杯
となって部隊の混乱に手を付けられなくなっている。
猛烈な速度と執拗な追尾でドラゴン達に迫る漆黒の対空ミサイル。
遮蔽物の無い空、身を護るには他の誰かを盾にする他無い。
仲間のドラゴンを盾にすべく彼らは更に密集した。まるで
大型の魚に追い詰められるイワシの群れのような塊へと
追い込まれてゆく。
その間にラースラン空中艦隊の包囲陣形は完成していた。
ちょうどバケツを横倒しにしたような陣形で、バケツの底
の位置に戦列艦が砲門を開いて配置され、上下左右そして
斜めに艦列を延ばして砲撃艦やコルベットがドラゴンを立
体的に包囲していた。
全ての艦艇の全攻撃が集中する1点にドラゴン達がみっちりと
ダンゴ状態に密集している。
「こちらから見て最高の配置になりました。実に見事な
手腕ですな烈風参謀殿。」
「全て予定通りに進捗しております。私の采配というより
敵が自ら陥穽に嵌った結果でしょう。」
「くくっ、ラゴルの仕掛けた大博打は破綻したな。一気に決めるぞ。」
ダラン准将が烈風参謀に賛辞を送り、指令室内で待ちに待った
ネータン総司令の決定が下ろうとしている。
歯を剥く猛獣の笑みを浮かべネータン総司令が攻撃命令を
発令した。
「全艦、攻撃開始せよ!」
その瞬間、文字で表す事など到底無理な凄まじい轟音がとどろく。
空中艦隊大国のラースラン王国の主力艦艇の7割近くが集結し
全艦が全ての火砲を寸分違わず斉射したのだ。ラースラン王国、
いやこの大陸の全ての国家の空中戦でも初の試みだろう。
圧倒的な数の魔導砲や魔力付与し射程を延ばしたバリスタの矢、
おまけに時空戦闘機ハイドルの荷電粒子砲やガープ艦の高プラ
ズマ砲まで加わった苛烈な攻撃が逃げる事も抵抗する事も困難
なドラゴン軍団に叩き付けられる。
数百もの強大なドラゴン、普通に考えれば小国など瞬時に滅ぼす
事が可能な存在が一方的に打倒され窮地に追いやられている。
もし、レモラ・オーブなどという安易な手段に頼らず竜帝王が
陣頭に立ち全ドラゴンが散開して戦いを挑めばラースラン艦隊
を打ち破りラゴル王朝が勝利する可能性もあったろう。
しかし強き力は傲慢に繋がり高い知性は狡猾・卑劣へと至って
しまった王朝のドラゴン達には叶わぬ夢であったのかもしれぬ。
ラゴル王朝と袂を分かち離れてしまった誇り高いドラゴン達は
こうなる事を予見していたのかもしれない。
空域はドラゴンの屠殺場と化し羽虫の様に撃破された竜族が
次々と撃墜されてゆく。
「あえて退く!!こんな戦いやってられ…ぎゃあああ!!」
ドラゴン軍団の副将だったヴァルファー侯爵はその場で
Uターンして逃げようとする愚を犯した。
濃密な敵の火力に捕捉されている状況で背中を向ける愚、ろく
に敵弾を見もせず回避など満足に出来るものではない上に群れ
から離れては格好の標的となる。その上にプラチナドラゴンは
ピカピカとよく目立つのだ。
数発の魔道砲が着弾すると同時に荷電粒子砲の直撃を後頭部に
受ける特大級の不運によってヴァルファー侯は即死してしまった。
ちなみに彼が支えるはずだった大将の王弟ガーキンはガープ艦の
戦術AIによって最優先標的として認定され荷電粒子砲や高プラズ
マ砲の集中砲火を浴びて真っ先に戦死を遂げてしまっている。
絶体絶命のピンチに陥ったドラゴン部隊。
だが竜都ドルーガ・ライラスは救援を出す様子も無く
沈黙している。
実は同時進行で竜都ドルーガ・ライラスもてんてこ舞いの
状況に陥っていた。
「ええい!!下等種族どもめ!この忙しい時に愚かしい真似を!」
戦端が開かれて間も無く竜族以外の下等種族と蔑まれて来た
他種族の兵や民が一斉に竜都から逃げ出したのだ。反乱では
なく逃散である。
ラゴル王朝の軍は特殊だ。その戦闘力は九分九厘ドラゴンの力に
拠る。他種族は束になっても勝てはしない。では彼らの軍における
役割は何かというと後方支援だ。補給や救護、伝令や偵察など継続
的に軍隊として活動する為の仕事をする。それが一斉に逃げ出したのだ。
ホークマンやハーピー兵は自力で飛び去り、浮遊の魔法が使える者も
彼らに追随する。飛べない者は彼らの力を借りたり、見栄えの為に羽
を切られ馬車に繋がれていたペガサスを救護所に勤めていたエルフが
治癒呪文で翼を治して彼らの背に乗って脱出するなど事前に計画して
いた脱出行を決行している。
「急げ!!ルーフル様の言っていた刻限まであとわずかだぞ!!」
「あわてるな!新竜帝王ルーフル陛下が日時と刻限を報せてくれて
いたおかげで用意は万全だ!」
彼らはドラゴンの制裁より示されし刻限より遅れる事を恐れ
逃げ去ってゆく。
この騒ぎに大本営は機能不全に陥りつつあった。
なにせ情報伝達を担う伝令すら居なくなったのだ。それでも
最低限の機能が生きているのはルーフルとラースラン側が勝利
する事が信じきれずラゴル王朝側に残った少数の他種族兵がい
るおかげである。
竜帝王の傍らに立つズノー参謀長が矢継ぎ早に指令を飛ばす。
「王朝に残った者共を賞賛し騒動の原因についての情報提供を
した者には褒賞を出すと伝えよ!!」
味方に残った者を厳しく取り調べるのは悪手である。それより
情報提供に褒美と優遇を与える事を示す方がよい。
「…首謀者を見付け出し八つ裂きにせよ。この戦いが終わったら
逃げ出した連中とその家族は皆殺しだ。」
「は!!」
竜帝王ラゴル・ダイナスの怒りに満ちた低い声にズノー参謀長は
敬礼し返答した。
不機嫌な竜帝王に傍らに控えていた側妃が酒杯を差し出す。
ひったくるように酒杯を取った竜帝王は一息に飲み干すのだった。
「そろそろか?烈風参謀。」
「はい、総司令官閣下。間も無く刻限に至ります。」
「そうか。」
艦隊旗艦マトゥの作戦室、烈風参謀に時刻を確かめると
ネータン総司令官は口端を吊り上げ全艦に通達を発令する。
「間も無く竜都に派手な花火が上がってドラゴン共が動揺する
だろう。艦隊は一気に包囲網を狭めて敵ドラゴンを追い込めよ。
ありったけの火器を叩き込み奴等を粉砕し撃滅する!」
ラースラン艦隊に指令が浸透し準備が粗方済んだ頃合で
突如として竜都ドルーガ・ライラスが閃光に包まれた。
圧倒的な光、しかしそれは死の輝きだった。
次の瞬間、全てを圧倒する轟音が響き、竜都の中枢、
大竜宮殿を中心とした市街地の大半を呑み込む大爆発
が炸裂する。
戦術核並みの爆裂。それは単艦行動を取っていたガープ1号艦の
甲板の上から改造人間カノンタートルが放ったプロトンビーム砲
によってもたらされた破壊であった。
只の一撃、しかしとてつもない一撃によって大竜宮殿は半壊し
豪華な街並みは砕かれ火災が発生している。
大爆発から生き残った竜族は殆どドラゴン形態に変身して
身の安全を図っている中、例外的に人型形態で崩壊しそうな
市中を急ぐ者が居た。
(レモラ・オーブはいまだに正常に機能しているのに何故だ?
まさか威力半減でこれほどの破壊力の魔道砲…ありえん!!)
「ええい!このハーリク、一生の不覚!!」
五大賢者の1人にしてアクアマリンを象徴として持つ
青玉の賢人ハーリクと彼を補佐する役目を与えられた
グリーンドラゴンのレイアの二人が地下の古代遺跡の様子
を見に行く為に人型形態で急ぐ。
地下への入り口に入りかけた瞬間、ふたたび強烈な閃光と轟音が
轟いた!!カノンタートルの火力の真骨頂、プロトンビームの連
続発射の2撃目が着弾したのだ。
凄まじい大爆発の後、煙がたち込め始める中で瓦礫の下から
ゆらりとハーリクが姿を現す。
「ハーリク様!ご無事ですか!!」
生き残っていたレイアが声をかける。が、ハーリクの
様子が妙だった。瓦礫から出る際に破損してしまった
らしい異形のマスクが顔から外れ落ち、それを呆然と
見詰ている。
「此処は一体?そうか、解放か。我は解放されたのだな。」
今までとまるで違う口調で呟くやハーリクと呼ばれし竜人は
足元の異形のマスク、特に亀裂の入ったアクアマリンを憎しげ
に踏み砕くとレイアに一瞥も向ける事無くドラゴン形態に変身
する。
その姿は瓦礫の中にあってさえ神々しく優美であった。
磨き上げられた鏡のような光沢の黄金色の鱗は角度に
よってエメラルドのような緑、深い海のような青、ある
いは夕日のような朱色など様々な光を放ち輝いている。
「…オリハルコンドラゴン、まさか!!」
レイアがその姿に目を奪われていると輝くドラゴンは
翼を広げ崩れた天井から覗く蒼空へと一気に飛び立った。
プラチナドラゴンなどとは次元の違う超スピードで
空を翔け一瞬でその姿は虚空に消える。
7色に輝き目立つ姿ながらあまりにも速過ぎるゆえに
誰の目にもオリハルコンドラゴンの姿を捉えられなかった。
ガープ艦の対空レーダーやセンサーという例外を除いて。
そのガープ艦1号の甲板にて怪人カノンタートルが3発目の
プロトンビームを放とうとしていた。
ガープ艦は竜都ドルーガ・ライラスに向け微速前進を続けて
おり現在位置は竜都から1.5キロメートル弱の座標を航行
している。
絶好の射撃位置。
「どっせい!!」
気合を入れると同時にカノンタートルの砲身から青白く輝く
極太ビームが放たれた。
三度、ドルーガ・ライラスを閃光と轟音を伴う大爆発が
襲い3本目のキノコ雲が立ち上る。
「よっしゃ。準備砲撃終了や!」
カノンタートルは短時間でプロトンビーム砲を連続発射できる
怪物の中の怪物だ。しかし発射に必要な生体エネルギーは限ら
れ無尽蔵ではない。最大6連射まで可能だが余力を残す為に
今次作戦では3連射の上陸支援の準備砲撃に留め残りは状況に
合わせて使用タイミングを計る事になっている。
艦内では突入部隊が最後の準備に勤しんでいた。予定では3発目
の準備砲撃の後に間髪を入れず突入する手筈になっている。
装備の最終チェックをしつつ突入隊隊長のモーキンが発破をかけた。
「さあ、新勢力ガープの竜退治ッスよ!派手に行くっス!!」
4機の荷電粒子砲搭載型のハイドルを従えたガープ艦が
駆動音を上げ動き出す。
射程内の目標に粒子ビーム砲やプラズマ砲を撃ちまくりながら
竜都に向けガープ艦が全速前進の突撃を開始した。




