24 皇女の挙兵。そして火蓋は切って落とされた。
メッサリナ皇女、挙兵す!その総兵力は公称10万!!
その一報は帝国全土を駆け巡る。各陣営はメッサリナ派の動きに
注目してはいた。諸侯の中で最大戦力を動員できるレクトール
選帝侯を後ろ盾とするメッサリナ皇女はドラゴンに対する対抗
手段を得れば軍事行動に出るのは明白。しかし各陣営は時期を
読み違えていた。
皇女はラースランの空中艦隊を迎え入れるや間髪を入れず挙兵し
帝都奪還を掲げロォス帝国街道へ進撃を開始したのだ。
時間を掛ければもっとも強く正規の帝国軍に支持されている
メッサリナ派により多くの戦力が集結するだろう。
各陣営ともメッサリナ皇女が帝国全土の帝国軍に
檄文を送り戦力増強に努めている事は突き止めている。
各地の軍の反応を見れば待ているだけでいくらでも
戦力が得られよう。
10万人という兵力ですら大軍でありその数倍の兵力があれば
全てを圧倒できるだろう。故にメッサリナ派は力を蓄える
手に出ると読まれていた。
戦いは数。これは正しいがメッサリナ皇女はもう1つの
重要なファクターである『時間』を重視した。
時間を掛けすぎて対抗策を用意されては大軍の利を潰され
かねなかった。進路上の橋を落とされたり中継都市を焼き
払われては侵攻や補給線の維持に困難が生じる。ましてや
レクトール選帝侯領には20万、30万という兵力を長期に支
える補給物資の集積は出来ていない。
補給に困難が生じる大軍の準備を待つより敵に優越出来るだけの
戦力が整った時点で電撃侵攻する。
補給に不安を持つ軍勢の弱さを知るメッサリナ皇女らしい
判断だといえた。
メッサリナ派の挙兵を受けて果断な行動に出たのは
リーナン皇子派である。
皇帝ミットラーとハイエルフの側妃リーリルを父母に持つ
ハーフエルフのリーナン皇子は歳若いが果敢な決断をする
人物として知られている。
現在、リーナン派はラゴル王朝の支援を受けるザルク皇子派と
帝都の覇権をかけて争っていたが徐々に不利な状況に追い詰め
られていた。
最強の精霊使いアスニク姫はドラゴンに対抗できる。しかし
敵側のドラゴンは複数でアスニク姫がいない方面での劣勢な
戦いが続き帝都での拠点維持が精一杯となっていた。
そんな状況下でメッサリナ皇女挙兵の一報にリーナン皇子は
帝都からの全面撤退を決断した。
政治的には大きな失点である。戦えない他の皇族が帝都から
退避したのと違い彼は戦う力がありながら帝都を放棄、いや
投げ捨てたのである。
穏当に選帝侯会議が開かれたらリーナン皇子に立つ瀬はない。
しかし政略では失敗でも戦略としては理に適っている。
帝都を掌握したザルク皇子派はその政治的優位を保つため
帝都奪還を掲げるメッサリナ皇女と全面対決せざるをえない。
政治的に失墜したリーナン皇子など後回しでドラゴンを擁する
ザルク軍とドラゴンに対抗する空中艦隊の支援を受けたメッサ
リナ皇女の大軍が真正面から激突するのだ。
そして、どちらかが滅亡する。勝ち残った方も無傷では済むまい。
そこにリーナン皇子は決戦を仕掛ける。政治的失点を負って得た
戦略的優位。リーナン皇子は此処に全てを賭けた。
そしてザルク皇子派もメッサリナ皇女派もその事を理解しながら
乗るしかない状況なのだった。
大アルガン帝国 帝都バンデル
巨大都市の大通りの全てが集中する中心に荘厳な宮殿が聳え立つ。
壮大さと豪華絢爛、そんな言葉の結実のような巨大建造物。
それこそが巨大帝国の中枢であり皇帝が住まう帝宮である。
帝宮の謁見の間、本来は皇帝が着座する玉座に少年が座っていた。
年の頃は7~8歳と思われる少年は豪華な装束を纏い帝が持つ
錫杖を手にしていた。
頭には竜人を示す2本の角、そして額の中央には装飾のように
美しい銀色の鱗が一つあった。
その少年、ザルク皇子は不安げな様子で目前に跪く武人の
説明を聞いていた。
「心配ございません。メッサリナ軍10万とはあくまで公称。
誇張されたものに過ぎず実数はもっと絞られましょうし、
荷駄運びの下人など非戦闘員も含みましょう。」
「それは誠なのだな?パブロフ将軍。」
「はい。間違いございません。」
パブロフと呼ばれた犬獣人族の将軍は断言した。
ザン・クオーク選帝侯の盟友にして闘将と呼ばれるパブロフは
ザルク派の軍事を統括する立場にある。
彼は人族より大柄で鍛え上げられた肉体に短い体毛が生え揃い、
その顔は地球のドーベルマンという犬にそっくりであった。
大アルガン帝国では異種族であっても帝国に忠誠を誓い能力が
あるならば出世に差別は無い。
逆に多数の民族や種族を統べる帝国において特定の種族を
迫害や優遇をすれば秩序が瓦解してしまう為に差別は表向きは
禁じられている。
「そういう事ならば我が方も全軍を出す必要は有りませんね。
パブロフ将軍、そなたに兵3万5千を預けます。必ず敵軍を撃
滅しメッサリナ皇女の首をここに持ち帰りなさい。」
ザルク皇子の右側に立っているヤネル側妃がパブロフに
そう命令した。
ザルク皇子の生母であり皇子と同じく2本の角とシルバードラゴン
である事を示す特徴の銀の鱗を持つ彼女は儚げな外見とは裏腹に
我の強い性格と息子への溺愛から何事であろうと柔軟に対応する
事の無い人物だった。
(3万5千…つまりザルク皇子を守る為だけに1万を残せと
いう事か)
懸念を小さく伝えたのは軍の士気の為にザルク皇子が自ら出陣して欲し
かったからなのだが逆の結果になりザルク派の手持ちの兵力、約4万
5千から四分の一近くが削られての出陣となってしまった。しかしパ
ブロフはこの展開も想定はしていた。
パブロフ将軍は玉座の左側に座している人物に目を向ける。
「次の戦いは我らの最終勝利を決定付ける大決戦となるでしょう。
此度も偉大なるドラゴンの御力を頼り最強の主力として配置する事と
なりましょうぞ。何とぞ強大なる力をお示し下さい。ガリッガー卿。」
不遜な事に玉座の隣に豪華な椅子を用意させ傲慢な態度で座る男。
ガリッガー卿と呼ばれた男にも竜人の角があり額にはゴールドドラゴン
を示す黄金の鱗が生えている。
このガリッガーこそラゴル王朝から派遣されて来たドラゴン部隊の
指揮官である。粗野と怠惰が結合したような容貌のガリッガーは
パブロフを蔑む態度を隠そうともせず言い放つ。
「元より貴様ら虫ケラの力など当てにはしておらんわ。メッサリナ派
とかいう虫ケラも我らが捻り潰すだけの話よ。」
「虫ケラ…ですか。しかし今度の相手にはラースランの空中艦隊も
居るのですが?」
「…面倒な相手である事は認めよう。だが聞く所によれば40隻弱
の艦艇のうち厄介な戦列艦はたった5隻。それなら何とでもなるわ。」
そこにザルク皇子が不安げに尋ねてきた。
「敵には魔術師が召喚したデーモン軍団も居ると聞きました。
ガリッガー卿、その、大丈夫でしょうか?」
「我ら偉大なるドラゴンの前に虫ケラが召喚した魔物なぞ
物の数ではない。竜の血を引いているとはいえ所詮は混ざり
物の小僧には理解できんと見える。」
「ガリッガー卿。」
氷の刃のように冷たく鋭いヤネル側妃の声が響く。
「大アルガン帝国の帝位に付くザルク皇子殿下には敬意を払えと
竜帝王ラゴル・ダイナス陛下の通達があったはず。お忘れかえ?」
「チッ!!」
侮蔑される我が子を守ろうとするシルバードラゴンの側妃の眼光に
傲慢なゴールドドラゴンの化身は大きな舌打ちで応える。
険悪な雰囲気が場を覆い始めた時、それを打ち消すような声を
上げる人物が謁見の間に登場した。
「おおっ。これは皆様、軍議は大変に盛り上がっておられる御様子。
私のような軍事の素人には実に頼もしい事です!」
険悪な静寂のどこが盛り上がっていると言うのか。しかし周囲の
感情や空気など意に介さず軽薄そのものな態度で現れた人物は
ザン・クオーク選帝侯と呼ばれる男だ。
敵対する相手から『佞言の人』とも呼ばれるザン・クオーク選帝侯は
血色の良い40代の男で最新流行の髪形、口髭を持ち、常に相手の
歓心を買う笑顔、地球っぽく言えば選挙期間中の政治家のような笑みを
絶やさない。しかしその瞳には常に剣呑な光りが宿り油断できない
危険な雰囲気を纏っている。
「ガリッガー卿。次なる大決戦においてもラゴル王朝のドラゴン部隊が
主力を務められるとの事、私は今からワクワク感が止まりません。」
「んん?」
「強大なドラゴンがメッサリナの大軍を蹂躙する。後の世にまで
語り継がれる伝説の戦いとなる事でしょう。パブロフ将軍、ラゴ
ル王朝の皆様が存分に活躍出来るように敵の主戦力の正面に配置
する陣立てをお願いしますぞ。」
「承知。」
「うはははははっ!虫ケラにしては良く分っておるではないかザン・ク
オーク。その通り、お前たちは我らドラゴンの活躍に刮目するが良いわ。」
「ええ。ドラゴンの皆様が味方して下さった時点で勝ったも同然。
ですので『紫の広間』にて勝利の酒宴を用意いたしました。」
「なに?戦の前に勝利の酒宴とな?」
「どうせ負けは無いのです。勝利したらまた酒宴を開けばいいのですよ。
宴は何度有ってもいい。ささっ、最高の酒、最高の料理、最高の女を用意
してございますれば宴会場の紫の間へ。」
「よし!参ろう!」
上機嫌になったガリッガーは立ち上がり、贅を尽くし金を掛けた豪華な
椅子を蹴り倒してザルク皇子に挨拶する事も無く謁見の間を後にした。
パブロフとザン・クオークはザルク皇子に先に宴席に向かう事を告げて
退去の挨拶を行い退出する。
その際、ザン・クオーク選帝侯はパブロフに耳打ちした。
「おだてて褒め称えれるだけで激戦の死地に行ってくれる。竜人とは
便利な連中よな。」
囁くような小声の言葉にパブロフ将軍は呆れる。
(あいかわらずだな。この男は。)
選帝侯と将軍が退室すると玉座でも動きがあった。
帝国ではこういう場合、特段の理由が無ければ格上
の者が最後に退室する。下々の者共の挨拶を全て受け
終えてから動くのだ。
「では殿下、私たちも参りましょう。」
「はい。母君様。」
ザルク皇子が玉座から立ち上がるとそれまで彫像のように
壁際に並んで動かなかった侍従や侍女たちが一斉に頭を下げる。
ヤネル側妃は優しい仕草でザルク皇子と手を繋ぎ歩き出した。
「…母君様。」
「どうかしましたか?殿下。」
「戦で多くの人々が死んでいると聞いています。悲しい事です。
そうまでして皇帝にならねばならないのですか?」
「…殿下。」
「私は皇帝になれなくても良いのです。母君様と一緒に居られる
だけで充分なのですから。」
「なんと無欲でお優しい殿下。その慈悲深い心こそ帝位に相応しい。」
ヤネル側妃は身を屈め真正面からザルク皇子と目線を合わせた。
その表情は慈愛に満ちている。
「殿下は世界最大の帝国の皇帝となり皆を導き尊崇を受け幸せに
なるのです。…決して竜帝王の傀儡になどさせませぬ。殿下の
未来はこの母が命に代えても切り拓いて見せます。」
そう言ってヤネル側妃はザルク皇子を深く抱擁するのだった。
メッサリナ派 ザルク派 リーナン派
帝国中枢部で3つの軍事勢力が三つ巴の争いへと進む中、
とある帝国の一地方に息を潜めて3勢力を注視する者達が居た。
広大な帝国は様々な国や地域と国境を接している。数ある国境地帯で
もっとも緊張をはらんだ伝説の地と言えるのがバーテラ選帝侯の領地ルアン。
ルアンと中規模の川を挟んだ対岸はかつて聖王国ヤーンが存在した場所。
現在は魔王の領域と呼ばれる呪われた地である。
ここルアンは勇者ゼファーの拠点として勇者パーティーや超人的な強さを
持つという三大英雄、そして五大賢者が集い日々魔王軍を相手に激しい
戦いを繰り広げながら魔王の領域へ一進一退を繰り返していた。
ルアンに有る白亜の離宮。
ここに1人の皇位継承者が機会を覗い隠遁している。
熱心な神聖ゼノス教会信者であり熱烈な勇者信奉者として有名な
セスターク皇子である。
セスターク皇子は素直な感嘆の声を上げていた。
「中央での情勢、そしてここまでの推移。それこそリーナン派が帝都から
撤退しザルクとメッサリナが決戦に至るまで完璧に貴方の予想通りだ。
流石は五大賢者の1人ですね。『赤玉の賢人ラーテ』殿。」
「正確な情報を知り正しく推論を組み立てた結果に過ぎません。」
気負った様子も無く淡々と答えるラーテと呼ばれたエルフの男。
ラーテは不思議な文様のローブを着込み、ベネチアンマスクのような
仮面を付けている。
奇妙な事に目元を覆うマスクには目の所に穴が無く、その変わり中央に
真紅で実に大きいガーネットが1つ嵌め込まれていた。その仮面の顔は
まるで単眼巨人を彷彿とさせる。
赤玉の賢人ラーテ。
この世界で絶大な影響力を持つ五大賢者の1人はセスターク皇子に
向けて流れるような弁舌をふるう。
「我々には遠隔地であっても存在の大きさや強者の力量を知る手段が
あります。もっとも正確な情報を以って深く考察し検証すれば今後を
読み解くなど造作も無い事です。」
「諜報に頼らずとも良い?」
「ええ。例えばザルク派に付いたラゴルのドラゴン。指揮官はゴールド
ドラゴンで数は31頭ですね。対するメッサリナ側に味方したラースラン
の艦隊は戦列艦と呼ぶ大型艦が5隻に戦闘艦艇20隻。後は支援艦で
しょう。いずれも存在の大きさから放たれる魔力が実に強い。」
「メッサリナ派には魔術師ギルドが支援しているとの噂もありますが?」
「正確には魔術師ギルド長のバーサーンが自ら出陣して来ていますね。」
「魔術師ギルド長が?!」
「あのケタ違いに強烈な魔力、バーサーンの女狐に相違ありません。」
「では魔術師ギルドに召喚されたデーモン軍団の話も真実ですか?」
「そんな者は存在しません。」
賢人ラーテはキッパリと言い切った。
「おそらく欺瞞情報でしょう。いかなる魔力も感応しません。デーモン軍団など
という者があの地に存在する可能性など皆無です。」
断言したラーテはさらに今後の展開をまるで確定した出来事のように話す。
「ドラゴン、空中艦にバーサーン。ザルク派とメッサリナ派の戦力は拮抗して
います。対決すれば激烈な消耗戦の後に微妙に戦力の劣るメッサリナ派が敗退
し歴史から消える。ドラゴンの大半、まず間違いなくゴールドドラゴン以外を
失う大損害を被ったザルク派にリーナン皇子が決戦を挑む。そして・・・」
ラーテはセスターク皇子に手を差し伸ばして、
「その後背を突いてセスターク殿下が両派を打倒し帝位に就く。そして
『勇者と魔王の伝説』の成就に貢献する皇帝セスターク陛下の献身により
英雄神ゼノスと勇者ゼファーが大魔王を滅ぼし世界を救うのです。」
五大賢者の言葉を誰が疑うだろうか?ラーテの言葉に力強く頷くと
セスターク皇子は家臣達に向け命令を発した。
「ただちに手勢をまとめよ。バーテラ選帝侯と共に挙兵する!!」
各陣営が反応し動き始めるなか、メッサリナの軍勢の快進撃が
続く。街道の要衝を守る砦や関所の守備兵は大半が親メッサリ
ナ派でありほとんど素通りでき、中にはそのままメッサリナ軍の
隊列に加わる者もいる様子。数少ない中立の兵達はメッサリナ軍
の大軍に戦う前から逃亡し何の障害にもならなかった。
公称10万から実戦力として進軍するのは7万3千。そのうち1万は
後衛部隊として後方に配置されている。後詰め、戦略予備としては
いささか距離を置いている事から後方との連絡線や補給路確保の
意味合いの強い部隊である。何よりの証拠は輜重隊を1万で厳重に
警護している事実だ。
後衛は置くが前衛は置かない。
その代わり恐るべき姿のデーモン軍団ことガープ戦闘部隊が
最先頭を行く。
改造人間ウオトトスと戦闘員94名。既に時空戦闘機ハイドルが
運搬してきた装備を装着し武装を構えセーフティー解除している。
偵察により位置が特定されたザルク軍主力と間も無く会敵するからだ。
ザルク側はロォス帝国街道の要衝に至る荒地に陣を敷いていた。
シオズイー岩山の麓、街道を塞ぐ形で斜線陣を取っている。
主力と思われる最先頭の右翼隊の左側は岩山地帯で巨岩や低潅木が
ゴロゴロしていて進軍に不向き。右翼隊の左から包囲するのは難しい。
逆に斜めに引いている左翼側に進出して後方に進み包囲を意図しても
最後尾に配置されている左翼隊が行く手を阻み中央隊が側面を突く。
大軍相手に包囲されないよう工夫を凝らしパブロフ将軍は待ち構えている。
対するメッサリナ軍を指揮するレクトール選帝侯は奇をてらわない横陣を
敷いた。主力と思われるザルク軍右翼隊の正面に精鋭隊、そしてガープ
戦闘部隊を配置して。大軍ゆえいずれの隊の陣容も分厚いがザルク派に
動揺する気配は無い。
メッサリナ軍中央。引っ切り無しに伝令兵が出入りし騎士ゼノビアに
指揮された精鋭部隊に守られた本陣にメッサリナ皇女本人がいる。
指導者が自ら出陣し兵たちと同じ決戦の地に立つ。将兵の士気は
これ以上ないくらい高い。
皇女の傍らには最高指揮官のレクトール選帝侯とラースラン王国の
ユピテル第三王子が控えている。そのユピテルが気高い表情で前を
見つめているメッサリナに言葉をかけた。
「流石は軍務に就いておられただけの事はありますね。武者震い
すらしていないとは。聡明なだけでなく強靭な心をお持ちのようだ。」
「聡明?ですか?婚約者の顔すら確認しなかった私など私には聡明とは
程遠いように思われます…。」
「それを言われると私の方も耳が痛いですね。よりによって婚約破棄の
話を貴女に持ちかけるなど間抜けの極みだった。今思うたびに顔から
火が出るほど恥かしい。しかし…」
「ええ。お互いに偽名で名乗り合っていたからこそ逆に本音で話せました。
これは得がたい事です。最初から遠慮という垣根が取り払れたのですから。
私は時間の許す限り貴方と語り合いたい。」
「まったくの同意見です。その為にもまず目の前の障害から片付けて行き
ましょう。」
「そうですね。まずはこの戦いに勝ち残りましょう。ユピテル殿下。」
戦機は熟した。
メッサリナ軍上空のラースラン艦隊が動く。ドラゴンを警戒しつつ砲撃艦
10隻が横一列の陣形で低空に降下。艦首を下げザルク軍陣営を指向する。
砲撃艦はその名の通り艦首に固定の大型魔道砲を備え排水量に比して
多数の武装を搭載している艦。防御力を削って得ている火力を対地攻撃
に使用すべく発射体勢をとった。
その瞬間、
上空の雲の中から複数のドラゴンが飛び出し砲撃艦に向け急降下攻撃を
仕掛けて来た!!
同時に地上でも動きがあった。
ウオトトスらガープ戦闘部隊の目前、ザルク軍主力からフード付きローブ姿の
者達が進み出て横一列に並ぶ。
間髪を入れず過剰な飾り付けの付いた極彩色のローブが弾け飛び21頭の巨大な
ドラゴンが出現した!!!
中央のひときわ巨大なゴールドドラゴンが咆哮を上げるとウオトトスは不敵な
仕草で頭のシルクハットを投げ捨てる。
遂にメッサリナ派とザルク派との決戦の火蓋は切って落とされた。




