閑話 旅立つ冒険者たち
何とか週一ペースは維持しつつ、たまに閑話なども入れていけたら良いなと思っています。
空中艦隊出陣に沸くラースラン王国の王都アークランドル。
午前中に進発して行った艦隊の威容に市民達の興奮は冷める
事無く街はカーニバルの様相を呈していた。
町の繁華街、キオナントゥス通りと呼ばれる大通りに面した
酒場兼食堂といった風情の『七色玉石亭』という店である
冒険者達が打ち上げの乾杯を行っていた。
「「「「「「「乾杯!!」」」」」」
冒険者パーティー『自由の速き風』の面々は依頼を全て終え
予想以上に多い報酬をホクホク顔で分けあってからジョッキ
をあおりつつ注文した料理を待っていた。
「ガープの連中もリヒテルの奴も艦隊と共に行っちまった。
まあここらで王都での仕事は一区切りだ。」
成り行きでハヴァロン平原の異変の報告を王都のギルド本部で
行ったまま次々ととんでもない仕事をこなす羽目になったが
それに区切りがついたので一行は今日を最後に王都を離れる
事にしたのだ。
もともと自由の速き風はラースラン王国の端、地方都市スミックを
拠点にしており伝手の少ない王都は用が無ければおさらばである。
「それにしても色々な体験をしたな。俺ぁもう多少の事には驚かなく
なったぞ。」
「ええ、もうどんな非常事態にも冷静に対処出来そうな気がします。」
コボル族の斥候クゥピィに温和に賛同するハーフトロール僧侶のパンガロ。
「スミックに戻っても依頼を受けるのは控えて少し骨休めしませんか?」
「アタシは賛成だね。たんまり儲かったし冒険は腹いっぱい。今しばらくは
行く気にならないね。」
エルフの魔術師ルティの提案に即答で賛成したコボル族の軽戦士キャンデル。
まあ、それも悪くは無いか。リーダーのリポースもジョッキの発泡酒を
飲み干しながら思った。
仕事の報酬だけでなくレクトール選帝侯が提示していたサリナ嬢を連れ戻した
報奨金は莫大で懐はとても暖かい。
「俺達もランクが上がったばかりだが確かに休養は必要だな。」
そう、彼ら自由の速き風もランクが上がりシルバー級のパーティーと
なったのだ。そのランクアップ手続きと報酬の受け取りに行ったギル
ドの様子を思い出しリポースはギルドマスターに同情をしてしまう。
「荒れてやがったなぁ『君臨者』の連中。」
「ええ、あれは難癖ですね。ギルドは冒険者の政治や戦争の利用に
難色を示しては居ますが交渉を直接妨害する事はないのですから。」
腕前は確かだが強欲さで有名なオリハルコン級パーティーの
『君臨者』は対ラゴル王朝戦争への参加条件としての報酬を吊り
上げる交渉を継続していたが急に王国側から交渉打ち切りの通告を
受ける憂き目を見た。
儲け話がパーになった腹いせに冒険者ギルドに難癖をつけているらしい。
「緑の月光旗のピウツの話だと連中はガープの情報を集めてるらしいな。」
「無茶はするまいよ。いつの間にか王国の偉いさん方とガープは
ガッチリ手を結んでやがるからな。」
「闇討ちとかは?」
「魔王軍の闘魔将を薙ぎ倒しタラスクを切り刻む連中だぞ?仕掛けた時が
『君臨者』の最後さ。」
オリハルコン級ですら歯が立たない存在。普通の冒険者では至らぬ発想だが
このパーティーにとっては当たり前の事であった。
「不思議な連中だったよな。あんだけ強くて凄えのに妙に間抜けな所が
あって頓珍漢な感じがするな。」
「そりゃ別世界から来たんだ。常識も違うだろうさ。実際に俺達には
当たり前の勇者と魔王の関係を話した時にも凄え驚いていただろ?」
クゥピィを嗜めながら時空戦闘機ハイドルで移動中の出来事を
リポースは思い出していた。
○ ○ ○ ○ ○
「本日ハ御搭乗アリガトウゴザイマス。本機ハ終点らーすらん王国
王都あーくらんどる飛行艦第3たーみなるマデノ直行便デゴザイマス。
到着予定時刻マデオ寛ギクダサイ。」
ガープの使節団が王都へと向かう日、彼らと共に時空戦闘機ハイドルに
乗り込む自由の速き風一行。
録音された音声の案内に驚きながら用意された客室に入る。
肘掛のない2人がけの座席が2列に並ぶ室内で指定された
場所に腰掛けた。
リヒテルの読みは正確だったなとリポースは実感していた。
バラバラに座らされたのはパーティーを分断する意味もあった
だろうがガープ側が異種族に興味が有るというリヒテルの
推測を裏付けるものだと感じられる。
さすさすさすさす
「ふむ、随分と柔らかいが密度のしっかりした毛並みですな。
これなら寒冷地での防寒機能もあるのではないですかな?」
「ああ、俺達は寒いのはへっちゃらさ。その代わり暑いのは
ちょっと苦手だけどな。」
クゥピィ、キャンデルと同じ席に座った烈風参謀が確認するように
熱心にコボル族の2人の毛皮を撫でさすっている。
さすさすさすさす
「これだけ深い毛並みなら小型の武器を隠す事も出来そうですな。」
「出来るよ。けどアタシはそういうのは嫌いでね。」
「なるほど、なるほど…」
さすさすさすさすさすさすさすさす…
リポースは他の席に目を向ける。
ハーフトロールの僧侶パンガロの隣にはモーキンが
着座していた。そしてパンガロの身の上話を熱心に聞いている。
「トロールって連中ひでぇっス!!パンガロさん苦労したんっスね。」
「ありがとうございます。苦労した分、私は素晴らしい仲間たちと
めぐり合う事が出来ました。そして母の仇を討つことも叶ったのです。」
「おお。」
「複数の冒険者パーティー合同で私の故郷を滅ぼしたトロールの群れの
討伐依頼に私たちも挑み、そして成し遂げました。慈悲深くあるべき
僧侶にあるまじき事ですがトロールの群れを滅ぼした時に私は歓喜に
震えました。」
「母ちゃんの仇を討ったんっス!当たり前っスよ。」
一方、エルフの魔術師ルティの所では死神教授が魔法に関する質問を
矢継ぎ早に投げかけていた。
「ここまでの話を要約すると魔法の行使にエントロピー増大の法則は
当て嵌まらんという訳か!実に興味深い!!これは科学の限界、その
枷に類する物が無い事になる。本気で研究する価値は充分にあるわい。」
「えんとろぴぃ?それは何かよく分かりませんが魔力を込めればその分だけ
正確に魔法の力に反映されます。魔力が無限なら魔法も無限になります。」
「ふむ!魔力さえあれば神の領域すら視野に入るか!」
「ええ、ですが個人が持って生まれた魔力はいくら修行しても伸ばせる
限界がありますゆえ…」
「なーに。やり様は幾らでもあろう。例えば魔法に長けた種族から
魔力を司る部位の細胞を取り出しクローン技術で培養して増やし
魔力発生を行える生体コンピューターを作ってしまえば…」
「???」
ジジルジイ大導師が魔術師ギルドへの報告の為に先行して帰還して
しまっていた為に魔術師のルティが代わりにされてしまったようだ。
そして人族であるリポースの隣にも手抜かり無く人員が配置されている。
戦闘員NO.240の源さんだ。
「それにしても肝が据わってるんだな冒険者ってのは。俺達みたいな
得体の知れないモンが異世界から来たって言うのをあっさり飲み込ん
じまうんだから驚きだよ。」
「そうじゃなきゃ務まらない商売だからな。けど異世界から来たってのは
別に驚く要素じゃないぜ。なにしろキッチリ五十年毎に異世界から魔王が
攻めて来るんだからな。」
「何だって?!」
何気ない会話、此処じゃごく普通の事を言っただけなのに意外に大きな
反応されたのを受けリポースは説明する事にした。
この世界は3000年前から50年ごとに異界から魔王が現れる。
そして魔王が現れると対応するようにこの世界に勇者が生まれて
英雄神ゼノスを奉じる『神聖ゼノス教会』と『五大賢者』によって
見出され世界の命運をかけ魔王と対決する。
「魔王と戦うのは勇者だけなのか?異界からの侵略者に国や
冒険者ギルドとかは対応していないのか?」
さすさすさす
質問しながらでもクゥピィの腹毛を擦る手は止めないのか参謀さんと
思いながらリポースは答える。
「神聖ゼノス教会は教義として魔王と雌雄を決するのは勇者であると主張し
五大賢者も国家の関与を戒めている。曰く国々は後方支援や資金提供のみ
行い全てを勇者に任せよって言ってるな。」
「何しろ神聖教会と五賢者の権威は超高いからな。逆らえる国は少ねぇよ。」
リポースの言葉をクゥピィが補足する。
「……その神聖教会とかの権威って五十年毎に高まったんじゃないッスか?」
「まーな。それでも意に介さない国が出るが何か上手く行かないんだな。
やっぱ魔王と勇者の戦いは運命的なモンで他は介在しちゃダメなんだろ。」
「上手く行かないとは?」
いつの間にかガープ関係者全員が真剣な表情で話に加わっていた。
さすさすさすさす
表情は真剣なまま烈風参謀は傍らのクゥピィの発言について質問した。
それにクゥピィが答える。
「たとえば今度来た大魔王クィラに対してラースラン王国や大アルガン
帝国、ポラ連邦とかが征伐を仕掛けたんだが運命に負け全部失敗さ。」
「アルガン帝国の先帝ミットラー陛下は傑物でした。神聖教会や
五大賢者の反対に対して『世界の危機に国家が責任を持たずにどうする。
勇者という個人に責任を押し付け世界の命運を背負わせるなど言語道断。』
そう押し切って空前の規模の帝国軍を動員し大魔王征伐に乗り出したのです。
しかし…」
クゥピィ、パンガロと説明が続く。真剣に聞き入るガープ側。
そのまま説明はリポースが引き継いだ。
「アルガン帝国は征伐軍を送る直前に皇帝ミットラーと皇太子パトロスが
魔王軍に暗殺され帝国は継承権争いが勃発。外征どころじゃ無くなった。
聖王国支援の名目で魔王討伐に動いていたラースラン王国もアンデッドの
罠に掛かり予定進路に隠れていた魔王軍部隊の奇襲に遭い大損害を被ったし
ポラ連邦じゃステーレン総統の側近の裏切りが発覚。血の粛清が荒れ狂った
と聞いている。」
「ちなみにじゃが皇帝暗殺は魔王軍の仕業で確定かの?」
「…逆にそれ以外の可能性はあるのですか?シニガミ教授殿。」
「……。」
ガープ側からしてみれば衝撃的な情報だが知能が低い訳でもない
現地の冒険者が何も疑問を抱かない事も驚かされる。
(3000年の重みか。)
「これは抜かったな。衛星の準備が整う前でも可能な情報収集の
手段を検討せねば。」
「歴史の違い、常識の違いを確認するのは初歩というに。
我ながら節穴じゃったかの。」
「…一体どうなさったのですかな?ガープの皆様。」
パンガロが様子の変わったガープ側におそるおそる聞く。
「何、この世界の歴史にほんの少し疑念が生じただけの事。
懸念めさるな。それよりもう1つだけ質問を宜しいか?」
「ええ、何なりと。」
「3000年前、他に何か大きな歴史的な事件などあったのでは?」
「それは勿論。神界から来たと称して英雄神ゼノスがこの世界に
降臨したのです。その威を人々に示し、ゼノスを信仰する神聖ゼ
ノス教会が生まれ大陸暦が始まりました。」
ここで僧侶のパンガロは首を振り、
「私の信仰する秘神を含めゼノス以外に地上に顕現した神はいません。
ゼノスの神託により魔王の出現と勇者の誕生を知る神聖教会がいまや
宗教の最大勢力となりますね。」
「…ふむ。」
死神教授が短い嘆息を漏らした後、重苦しい沈黙が場を支配した。
ピンピーン♪
「御搭乗ノ皆様、本機ハ目的地らーすらん王国ノ王都飛行艦たーみなるニ
到着イタシマシタ。忘レ物ナド無イヨウ御注意下サイ。本日ハ本機ヲ御利用
イタダキ誠ニアリガトウゴザイマシタ。」
静寂を破ったのは場違いに明るい到着を告げる録音アナウンスだった。
そして正面に外部の映像が出る。既に飛行艦発着場に到着し垂直降下して
いる所だ。
ズゥンン
機内には何の衝撃も感じないまま着陸。外には王国関係者が緊張した
様子で待っているのが見える。
「よしっ!ここは俺が斥候らしく様子見しながら先陣を切るぜ。」
それでも続いていた重苦しい雰囲気を打破するようにコボル族の
クゥピィが座席から飛び降り開きつつある開閉扉へと駆け出した。
どんな化物が姿を現すのか。モルトフ外務大臣を筆頭にラースラン
王国側が失神しそうな程の極限の緊張で見守るなか時空戦闘機ハイ
ドルの開閉扉が開く。
そこからポメラニアンの仔犬のようなクゥピィの顔がヒョコっと
覗き、驚き固まった王国関係者の目が点になったのだった。
その後、王国が用意した馬車に移乗する時にはガープのメンバーは
いつもの調子に戻っておりクゥピィを制止できなかったリポース達も
それ処では無くうやむやのまま馬車に乗った。
後で王国側からお叱りがあるかと憂いていたが親衛騎士団長のカリ
バーが小さな声で『おかげで良い具合に緊張が解れた。礼を言う。』
と言われホッと胸を撫で下ろしたのだった。
馬車が迎賓館前に到着し烈風参謀と死神教授がネータン王太女と共に
迎賓館の中に入ると自由の速き風はモーキンと残りの戦闘員を闘技
コロシアムに案内する。
本来なら依頼はここ迄なのだがモーキン達の世話を命じられた
侍従や侍女たちが怯えてしまい涙目でリポース達の袖を掴んで
離さないのでやむなく留まる羽目になった。
「怖い思いさせて申し訳ないッス。お詫びにコレを差し上げる
っス。和平に来たから心配しないでほしいっスよ。」
事態を把握したモーキン達が『生キャラメル』なる菓子を侍女達
関係者に配り慰撫に努めた。自由の速き風の一行も食べたが
極上の甘さと旨さに驚く。場の雰囲気も落ち着きようやくコロ
シアムから離れる事が出来た。
モーキン達に手を振って別れようやく依頼達成である。
それ以来、ガープ関係者に会う事も無く今日と言う日を迎えた。
「色々な意味で規格外の連中だったな。あれほどの奴等と
関わる事はもう無いだろうなぁ。」
「それはどうかね?」
リポースの独白にキャンデルが異議を唱えた。
「ん?」
「だってリヒテルはガープとべったりなんだよ?いつの日か
再び関わる事になる気がしてアタシゃ仕方ないだけどね。」
「…かもしれねえな。ま、そん時ゃそん時さ。」
諦観の篭った言葉を吐いてリポースは酒のおかわりを注文する。
ちょうど料理も並び始め一行は大いに飲み食いを楽しんだのだった。
翌日の早朝、
まだ薄暗い中に始発の乗合馬車に乗り込む自由の速き風。
馬車の護衛を引き受ける事で運賃を相応に割り引いて
もらい武装した状態で旅立つ。
「出発しまーす。」
御者が出発を告げガタゴトと馬車が動き出す。
「さらば王都よってか。」
市外に出る門を通るさいにリポースは呟いた。
馬車は順調に進み遠ざかって行く。
王都から見て豆粒ほどだった馬車は朝日が昇る頃には
完全に見えなくなっていた。




