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17 いざ王国へ


ある程度は懸念していた状況が現実となった事に

さすがの烈風参謀もいささか憮然とせざるをえない。


「やはり転移門は作動せず、か。魔力強化の護符も効き目無しじゃな。」


ジジルジイ大導師の言葉は半ば結果が見えていたような響きがあった。




ここはガープ要塞からほど近い小高い丘の中腹。ラースラン王国が設置した

『鉄砦』監視所である。ここに烈風参謀と死神教授、怪人モーキンにカノン

タートルと戦闘員たちが冒険者チーム『自由の速き風』一行とリヒテル、

そしてサリナと偽名を名乗っているメッサリナとジジルジイ大導師らと共に

やって来ていた。



「あー、爆心地からそれなりに距離あったのに爆風の影響であちこち破損

してるっスね。このままじゃ要塞から丸見えっスから補修するっスか?

よければ手伝うっス。」


「…ここはもう撤収だよ。ってかアンタらを見張る秘密監視所の補修を

アンタ達が手伝うなんてシュール過ぎんだろ…。」


冒険者パーティー『緑の月光旗』のリーダーのピウツが何ともいえない表情で

怪人モーキンの申し出を遠慮している。


鉄の砦側と和睦が成立したとの知らせと砦の怪物達が監視所から王国へと

訪問する準備の為に出張って来ると聞いた王国側は飛び上らんばかりに驚き

とりあえず対応可能な人員を送って来ていた。


『緑の月光旗』『お宝総取り!!』『きらめく刃光』『烈火の闘志』の

各冒険者パーティーと冒険者ギルドのギルドマスター。王国の親衛騎士団

が1個中隊。それに魔術師ギルドからの上級魔術師が3名が加わる。


いずれも鉄砦の監視に関わった人員である。相手の戦闘力と脅威はよく

知悉しており非常な緊張感を持って訪問を待ち受けていた。


しかしやって来た鉄砦の怪物軍団は予想以上に友好的で拍子抜けし

逆の意味で対応に困る事になる。


上級魔術師達がジジルジイ大導師を質問攻めにしている所に何故か

死神教授が混ざっているなどほほえましい形で魔術議論が始まると

すぐに魔力を持たない鉄砦側の物資や人員が転移門を使えるかという

疑問が立ち上がった。


さっそく実験とばかりに上級魔道師の1人が死神教授から受け取った

タブレットなる手鏡のような物品を持って転移門を使用。


結果はタブレットだけが残された。


その後、魔力増幅のポーションを振り掛けたり魔力強化の護符を

密着させたりといろいろ工夫しても冒頭の通りの結果である。


「これは予定の変更しかあるまい。誠に残念だが。」


結局、一緒に王都へと行くのではなくリヒテルやサリナなどを転移門で

先に送りガープ側は時空戦闘機ハイドルで空路から王都を目指す事になった。


ハイドルの飛行性能から大した時間差は発生しないがこの際に根回しの時間が

欲しいとリヒテルが申し出る。


「先だってレップウ参謀殿と考えた作戦計画を具体化し王国上層部に案を

飲ませる為にも軍港都市タングルールより第一王女殿下を招聘したいのです。」


「第一王女殿下?どのようなお方なのかな?」


「王位継承権一位で既に王太女に就いておられラースラン第一主力艦隊の

艦隊指令官・提督を兼務されておられます。現在は艦隊司令部がある

軍港都市で職務を果たしているはず。」


「ほほう、女性ながら王太子とは相当に優秀なお方のようだ。」


「は?あ、まあ優秀ですよ政治家としても軍人としても。しかし性別と

継承権はあまり関係無いのでは?男王だろうと女王だろうと王に求められる

役割に変わりはありませんし。」


(男王という言葉が有る事自体を考慮するに、どうやらこの世界には

男子のみ継承と言う考えが最初から無いようだ)


「…リヒテル殿の言う通りだな。いずれにせよ時間の調整は了解した。…しかし

返す返すも同行できないのが残念だ。」


どこか寂しげな表情の烈風参謀にリヒテルは1つの提案を示す。


「どうでしょう、『自由の速き風』の者達に王都への道案内役に残ってもらい

ハイドルという飛行艇へ同乗するよう依頼しましょうか?」


「それはありがたい!ぜひ道案内を頼む!!」


弾む声で烈風参謀は即座に提案を受け入れた。




  ○  ○  ○  ○  ○




「そう言う訳で皆には彼らと共に空路で王都へ向かって欲しい。」


「そりゃ依頼って話なら受けるが俺達を付けるのは道案内だけが

目的か?」


『自由の速き風』のリーダー、リポースがリヒテルの真意を確認する。


「言っとくが俺達に秘密裏の監視や牽制する役割は期待するなよ。

俺達の実力じゃ手に余る。」


「そんな大袈裟な事は頼まないさ。これはまあ、只のご機嫌取りかな?」


「ご機嫌取りだあ?」


「仕事以外の時はレップウ参謀殿はずっとキャンデルやクゥピィの方を

見ていた。おそらくエルフやコボル族など異種族に興味があるのだろう。

彼らの元世界には異種族が存在しなかったらしいからね。」


「なるほど、私たち『自由の速き風』は異種族率が高いから適任なのね。」


エルフの魔術師ルティがそう言って頷く。


「こういった小さい事の積み重ねが意外と効果を上げるんだ。とにかく

いま友好関係を損なう訳には行かない。皆よろしく頼む。」


「ああ任せとけ。そんな難しい事でもないしな。」



リヒテルが『自由の速き風』に同乗の依頼をしているタイミングで天幕から

サリナが姿を現した。


身支度を整え髪を結い上げたサリナは繊細な仕立てでシックな色合いの

ロングドレスを着用しており凛とした気品を放っている。


「…これは予想以上にお美しい。」


「まあ、お上手ですこと。ですが好印象の手柄の殆どは王国から転移門で

取り寄せて頂いたこのドレスにありますわ。」


ロングドレスに触れながらサリナは言葉を続ける。


「ガープの皆さんより頂いた軍服もとても機能的で気に入っていたのですが

転移門をそのまま通れば丸裸。さすがにそれは論外ですので。」


「友好条約が成り交易を始めれば我が王国の素材で出来た軍服を用立ててもらう

事も出来ましょう。」


「転移門を通れる軍服も悪くは無いですがまず真っ先に入手したいのは例の

無線通信機ですわ。あれは軍事と経済を一変させる…」


リヒテルがラースラン王国とガープ側との友好条約締結の動きを見せると

サリナも大アルガン帝国の利益の為に友好関係構築の働きかけを行った。


烈風参謀ら三幹部から前向きな反応を得た際に無線通信機一式の貸与を

打診し検討する旨の約束を取り付けていたのだ。


通信に膨大な魔力と手間が掛かる魔道通信。1文字1文字を送るのに魔石を

消費し一方通行のそれに比して無線通信の利便性は圧倒的だった。


「確かにあの技術は常識を一変させるでしょう。しかし私には導入する

勇気が出ない。あの技術は…」


「あの技術はガープの物。間違い無く私たちの通信はガープ側に傍受され

筒抜けになるでしょう。ですがそのデメリットを甘受してもメリットは

あります。今は戦時なのです。」



リヒテルと危機感を共有しつつもガープの技術の受け入れを決断していた

サリナ。彼女は戦火に燃える帝都を目の当たりにしている。祖国の危機を

救う為ならどんな力も欲していた。


(危機を乗り越えさえすれば危険な技術を排斥する事も可能ですし、

それに…)


「あの技術の原理を理解し製造技術を習得出来れば傍受されぬ工夫にも

目処が立つでしょう。消極的に恐れていては何も手に出来ません。」


「…実に正しいお言葉です。私も方針転換した方が良さそうだ。」



「そろそろ準備はよろしいでしょうか?」


サリナの仕度が整ったと見た上級魔道師が声をかける。


「ああ、いつでも出立できるよ。」


そう言ってリヒテルはサリナと共に転移門へと歩を進める。

サリナの身柄は最優先で王国に送り届けねばならない。


撤収作業など事後処理を残る者達に任せまずサリナとリヒテル、

ギルドマスターの3人が先行して転移する。


「諸々の事、とても感謝致しております。それでは皆様いずれ

またお会いしましょう。」


サリナが感謝を述べ、それを合図にしたように転移門が作動し3人の

姿が虚空に消える。




ラースラン王宮内、魔力を効率的に流れるよう緻密に設計された

『転移の間』。


その転移門が光り3人の人影が現れる。サリナ、リヒテル、ギルドマスターだ。

おおむね予定通りの到着で待機していた人員もあまり待たされずにすんだ。


その中から1人の老貴婦人がサリナに向かってお辞儀をする。


「貴方様がサリナ様でいらっしゃいますね。ようこそラースラン王国へ。

私は女官長のバーヤと申します。大変な思いをされたようですがもはや

心配ご無用。帝国への御帰還までの間おくつろぎ下さい。まずは湯浴みの

仕度を整えておりますれば此方へ。」


「ご歓待感謝いたします。お世話になりますが宜しくお願いします。」


深くお辞儀をして女官長や侍女たちと湯殿に向かうサリナ。その姿を

この場に待機していた王宮書記官ミディ・ミトラは目をまん丸に見開いて

凝視していた。


「彼女の正体は不明だが本人の希望で詮索不要だからミディ書記官。」


何故か絶句している王宮書記官にリヒテルは一声かける。


「…あの、メッサリナ殿下との婚約準備や肖像画の確認は行って

おりますよね殿下?」


「!!っサリナ嬢がいくら魅力的でも婚約の事を忘れてはいない。余計な

心配は止めてくれないか?」


(コイツ、メッサリナ殿下の肖像画を見てないな!!)


「……ある意味、両方が気が付かないのは僥倖かも。一方だけが気付かない

場合は深刻な外交問題になりかねなかったし…。」


ミディ書記官は頭痛を堪えるように額に手を当てながら聞き取れないほどの

小声で独り言を呟き、


(本人同士もいい感じに収まりそうだし国王陛下に言上…その前にできるだけ

早く国王陛下とメッサリナ殿下との極秘会見をセッティングしなければ…)


「そんな事より至急陛下への謁見を手配してくれ。出来れば宰相か国防大臣の

同席を。それとタングルールの艦隊司令部へ連絡を頼む。姉上を呼びたい。」


「タングルールの艦隊司令部?ネータン王太女殿下を呼ばれるのですか?」


「5日後には『新勢力ガープ』の使節団が王都に到着する。彼らと友好条約を

結び軍事同盟を締結。そのまま共同戦線を展開し軍事行動に出る。大車輪で

行動し根回しを終らせねばならない。」


「軍事行動?!いくらなんでも急ぎ過ぎではありませんか?!」


「今が好機なんだ。」


リヒテルは王子の顔で真剣そのものな口調で応える。


「我が国と魔王軍だけがガープの実力を知り他国はまだこの情報を

掴んでいない。我々を囲む外患を同時に始末をつける好機。帝国の

内戦やラゴル王朝との紛争を早期に決着させ魔王軍の力を削ぐには

今しかない。」


千載一遇の好機を逃すまい。ラースラン第三王子は固く決意していた。

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