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15 鎧袖一触



「カノンタートル!ただちに攻撃を再開せよ!グロリスがまだ生存している!」



烈風参謀の言葉にモニターに映るプロトンビームの着弾点に出来た

クレーターに皆の視線が集中する。


闘魔将グロリスがその中央でゆらりと立ち上がっていた。


だがその姿は無事ではない。むしろ満身創痍といってよい状態だ。

右腕を失い全身も傷だらけ。口元からは血液と思われる青緑の液体が

流れ溢れていた。


「減衰したとはいえプロトンビームの直撃を受けて生存する生命体が

いるとはな。魔王軍の戦闘能力の値を想定よりだいぶ上方修正せねば

ならんじゃろう。」


「しかも深刻なダメージを受けていながら撤退せず戦闘継続を意図している。

どうやら勝算があるようだが残念ながら我々が先手を取らせてもらおう。」


憤怒の表情で何かの技か魔法を行使しようとしているグロリス。

だが烈風参謀の言葉通り既にカノンタートルはプロトンビームの

2発目の発射体制に入っている。


プロトンビームの連続発射。これが下級怪人ながら準戦略級の改造人間たる

カノンタートルの真骨頂であった。





「ふざけた真似をっ!!妾をコケにした事を黄泉の底で悔いるがいい!!」


グロリスは激昂した表情でカノンタートルを睨む。怒り狂いながらも先の

光線攻撃を繰り出したカノンタートルを倒せば状況を立て直せると冷静に

計算してもいた。


グロリスの双眸が赤く怪しげに光り始める。



『滅びの瞳』


グロリスの二つ名の『毒怪』を体現する秘術である。敵を視線で捕らえると

体内に猛毒を発生させその身を蝕む。だがこの力は毒化だけでなく麻痺や石化

など自由自在に状態異常を引き起こせる。込める魔力を最大にすれば必殺の

『致死』の視線を放つ事も出来るのだ。


恐ろしいのは目を合わせる必要は無くグロリスはただ見るだけで相手の

生命の中にある根源的な魔力に働きかけダメージを与えられる。魔法の

投射ではないので結界や魔法障壁などで防ぐ事は不可能なのだ。


「死ねやぁぁぁ!!!」


グロリスの瞳が悪しき輝きを放ち致死の視線がカノンタートルを

視界に捕らえた。勝利を確信しほくそ笑むグロリス。だが即座に

その表情は驚愕に変わる。


カノンタートルは倒れずプロトンビーム砲から青白い光を放とうとしていた!



その時、司令室で何かに感付いたジジルジイ大導師が叫ぶような声を上げる。


「いかん!!グロリスから滅びの瞳を行使する魔力の波動しか感じられん!!

奴は超魔力障壁を失っておるぞ!!」


「っ!!!第一、第二戦隊は装備を放棄!!全員その場で身を伏せろ!!」


烈風参謀がマイクに向かって絶叫した直後に2発目のプロトンビームが

撃ち出される。


外で戦っていた戦闘員達が伏せるのとグロリスにプロトンビームが

命中するのはほぼ同時だった。



ズガアアアアアアアアアアアンンンン!!!



先ほどの砲撃とは比べ物にならない大爆発がモニターを真っ白に染め

ビリビリとした衝撃が要塞内部に伝わってくる。


400メートルの至近距離で戦術核に匹敵する破壊力が炸裂したのだ。


「要塞外壁の損傷の有無を確認じゃ!!外の連中は頼む!」


死神教授がコントロールパネルに張り付き烈風参謀が出撃している

人員の安否を確認するなど司令室は慌しく動く。


結局、


ガープ側の被害は出撃していた戦闘員のうち重傷2名、軽傷11名で死者は無し。

カノンタートル本人もコロコロ10メートルほど弾き飛ばされたが無事だった。


一方のグロリスは殆ど自らの肉体で対消滅を起こしたようなもの。断末魔を上げる

間もなく一瞬でその身体は消し飛び僅かな残滓も1000万度を超える高熱と

核兵器並みの爆発で完全消滅していた。




「今回は自分のミスや。ほんま申し訳ありません。」


作戦司令室で三幹部を前にペコペコ頭を下げるカノンタートル。


「気にせんで良いわ。敵を確実に葬り去り味方に死者はいない。

軽微な損害で勝利を手にしたんじゃ。」


「ジジルジイ殿の情報提供と検討によって体内に魔力を持たない我々に

滅びの瞳は無効である可能性は高いとの結論に至っていた。だが確実な

話ではない。ゆえに最大火力で応戦する判断は間違ってはいないぞ。」


「軽微な損害ちゃいます!!ケガ人は出とるし50ミリ自動擲弾銃は48丁が

破損し11丁は完全にオシャカ。電磁レール砲も71門がアウトや。備蓄の

鉱物資源に限りがあるのに生産コストのかかる武器を仰山ダメにしてしもて

泣きそうですわ。」


兵站・生産部門の所属者らしいカノンタートルの嘆きに横から声が掛かる。


「魔王軍との戦いぶり、お見事でした。まさに圧倒的勝利でしたね。」


リヒテルが姿勢を正して祝意を述べる。


(拙速だろうか?いや、こういう事は時間を掛ければ掛けるだけ不利になる。)


「横から話を伺っておりましたが備蓄資源の残量に不安があるご様子。

どうでしょう、戦闘前の会見で話された我が国との友好関係の構築を

前倒しされてはいかがですか?我が国からの物資の供給も迅速に開始する為にも…」


ここでユピテルは一旦言葉を切り深呼吸すると、


「我々の帰還と御同行できる使節団の派遣を要請したい。一刻も早い我々との

友好条約の締結を望みます。私の全てを賭けても交渉のテーブルを王国側に

用意させましょう。どうか平和条約から相互防衛条約など軍事同盟へと結びつき

を強化する方向でご検討いただきたい。」


「貴殿にそこまでの権限が?」


「この件に関して私は国王陛下から全権に準じる大きな権限を与えられています。

私の立場はこちらの魔術師ギルドの高位幹部であるジジルジイ大導師が保証して

頂いております。」


「ふむ。」


ガープ三大幹部は想定以上に早い王国側の政治判断に内心驚いていた。

戦闘により力を見せ付ける事ができたゆえに平和条約の話が出る事を

烈風参謀は読んでいたが此処まで果敢に速い決断を下すのは予想以上だった。


「即断即決だな。我等への信頼の可否や王国上層部の説得など思い悩む

要素が多い事案だと思うが・・・。」


「貴方たちが侵略するつもりなら最初から攻め取るだけの実力がある。

策略を用いるなら我々を捕らえ人質にするのが手っ取り早いはずだ。」


「なるほどな。」


「貴方たちの目的は正直さっぱり分らない。しかし和平条約がその目的に

合致していると読んだ。ならば我が国の国益とも合致します。」



(優秀な若者だな。思慮深さと実行力のバランスが取れている。)


「ぶっちゃけ我々は戦力が欲しい。魔王軍だけでなく以前説明を申し上げた

ように我が国にはラゴル王朝という宿敵が居ます。奴らは世界の頂点にドラゴン

族が君臨し人類を含む他種族を隷属させる野望を隠していません。奴等は我が国と

の国境でも挑発を続け一触即発の危機にあります。」



烈風参謀はリヒテルの真摯な訴えに耳を傾けながらこの世界の人々を見つめる。

和平の先に可能性を感じているらしいメッサリナ。戦闘映像の衝撃から立ち直り

つつある『自由の速き風』の面々。皆この和平の話しに期待している様子である。

烈風参謀の流れる視線が仔犬のようなクゥピィとキャンデルの所で止まった。

モコモコの毛玉のような姿を真剣な表情のまま見詰めつつ、



「その前向きな提案を受け入れさせて頂こう。使節団を率い貴方達と共に王都へ

行かせて頂く。」


完璧な敬礼を持って烈風参謀は応え決断を述べた。





その時、


ジジルジイ大導師は奇妙な気配と微かな魔力を感じたような

気がした。


気配を感じた方向を向くが何も無い。また羽虫が飛ぶ

程度の魔力を感じた気もしたが目を向けても姿も無ければ

気配も何も無かった。



「?、気のせいかの。」



すぐ興味を失った大導師は何も無い虚空から視線を戻すのだった。



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