12 毒をもって毒を制す
要塞中枢部の大作戦室。
三幹部と3体の怪人、戦闘員の多くが集結していた。
手の離せない仕事に従事している者や電脳仮想空間で
休養している者も皆すべて中継で会議の様子を見ている。
「ガープ同志諸君。」
壇上でまず烈風参謀が進行役として発言する。
「いきなりの召集に驚いたと思う。これより皆に報告・検討要請する
のは判明したこの世界の情勢と幹部として考えた今後の方針の素案だ。」
ざわざわ
ざわざわっ
「この世界の者達と接触した直後では性急すぎると感じるやもしれぬ。
しかし迅速な判断が今後を左右するに違いない懸案が想起された。」
ざわめきが静まった。とにかく話を聞かねば始まらない故。
「我らが接触した文明圏の者達はこの世界を『マールート』と呼んでいる。
他の大陸や文明圏があるかもしれぬから暫定ではあるが。」
「来訪した冒険者の衣服の縫製や装備品の冶金・製造技術から推定して
技術レベルは14世紀相当、ただし文化や社会制度、通信などは18世紀に
匹敵する。このレベルのズレは『魔法』の存在によるものじゃろう。」
死神教授が説明を次ぐ。実はパーティー自由の速き風の一行の装備を
回収し返却する際にちゃっかりセンサーを使って調べていたのだ。
ふいに正面上方の巨大な液晶ディスプレイが映像を映し出す。要塞入口で
烈風参謀が冒険者達を迎え入れている様子の録画だ。
「見ての通り皆が想像していたファンタジーそのまんまだ。現実に様々な
種族がパーティーを組み剣と魔法の世界を生きてる。まあ定番だな。
そして定番の問題もあるって訳だ。」
培養槽ごと来ていた闇大将軍がそう言うと烈風参謀に視線で合図を送る。
烈風参謀はうなずくと何かを操作し足元から譜面台のような物が伸び上がる。
そして懐から烈風参謀が何か茶色い巻物を取り出すと台の上に広げた。
すると巨大ディスプレイの画像がその巻物に変わる。古風な羊皮紙の
地図だ。
「これは来訪しているラースラン王国の副騎士団長リヒテル殿から
借り受けた周辺地図だ。正確な測量で作成された物ではないので
距離などの正確さに欠けるが概略図として立派に役立たせて貰っている。」
地図の中では境界線で土地が区切られている。地図の中央より左寄りの
一角がCG映像で赤く表現され彼らの紋章ガープ・シンボルが点灯する。
「ここが我らの現在位置。『ハヴァロン平原』と呼称されている。
地域では特に畏怖を持って『アンデッド湧き出す死の大地』などと
呼ばれているそうだ。」
「まんまッスね。」
「元々はアンデッドは出没せず魔獣が徘徊する程度の危険地帯でここまで
酷い最厳重危険地帯ではなかったらしい。そしてその原因は此処だ。」
地図の上にまたCGが重なった。今度はハヴァロン平原の西に隣接する
地域が黒く表示されドクロマークが点灯する。
「以前は此処に聖王国ヤーンなる国家があったそうだが大魔王クィラの
率いる魔王軍の侵略を受けて滅亡し現在は魔王の領域だそうだ。」
「大魔王!!」
「魔王軍とかまた物騒なんがお隣かいな。かなわんな。」
ふたたび作戦室内がざわめいた。
「まさに定番の悪役というわけだ。そして聖王国を救援しようとした
ラースラン王国に対する陰険なトラップ、牽制として大魔王はこの
ハヴァロン平原に死霊術をかけアンデッドの群れを配置したそうだ。」
一つの国を滅ぼし他国との闘争の為におぞましい死骸の群れを
召喚するような邪悪な勢力が隣接する事実。しかしこの場の全員、
ガープ構成員たちに驚きはあっても恐れは皆無であった。
「目下の最大級の懸案事項は大魔王だが、もう1つ、無視できぬ
大きな懸案がある。しかも此方は時間を掛ける訳には行かぬ。
問題が進行する前に早急の措置が望ましい。」
今度は地図での南方側の一面、一部しか現していないが広大な国土を
持つ国家領域にCGの黄色が重なり抽象的な巨塔と3つの三日月が
幾何学的に配置された紋章が浮かんだ。
「大アルガン帝国という国家だ。この大陸最大の領土を持ち多数の民族を
統べる超大国。不味い事に周辺の列強諸国を巻き込んで内戦が勃発した。」
「マッズイなそれ。参謀はん、その争いの規模はどんなんですか?!」
「うむ、まだ内戦は始まったばかりで帝国全土や各国に戦乱は波及しては
おらぬ。迅速な判断を下さねばならんのは此処だ。このまま放置すれば
大陸全土を覆う永い戦乱の時代が到来する。食い止めるのは今しかない。
可能な時間は少ないぞ。」
「それは…つまりこの世界の情勢に我々が介入して行く方針で?」
集まった構成員たちの大多数の思いを代弁するであろうウオトトスの問い。
烈風参謀は頷き、真剣な口調で応える。
「我々、あえて我々というが、あの大首領が倒され精神支配が解けた時の
衝撃と悔悟、重い自責の念。皆も覚えているだろう?」
無自覚のまま邪悪な大首領に洗脳され、地球の人々を苦しめ嘆き悲しませてきた
事実が正気を取り戻した彼らを苦悩させていた。
「・・・・・。」
水を打ったように静まりかえっている室内に烈風参謀の言葉が続く。
「私は亜空間要塞が暴走した時、そのまま破滅するのは自業自得だと
考えた。当然の報いだと。だがもし生まれ変わるようならば次は人々の
役に立ち善を成す人生を得たいとも願っていた。」
「皆も参謀の言いたい事はわかってんだろ?何の因果か俺達は生き残った。
そして今、目の前には平和とは程遠い不安な日々を送る人達がいるんだ。」
闇大将軍の言葉に頷く者達も出始める。
「我らガープはこのマールートの地において善を成し平和をもたらす為に
活動すべきである!もし反対意見があるならば遠慮なく、、」
「うおおおおお!!!」
「やるッス!!平和をもたらすッスよ!!」
「やったろうじゃねえか!」
「吾輩は大賛成でありますぞ!」
烈風参謀の言葉は圧倒的な賛同の歓声にかき消されてしまった。
「皆、賛同を感謝する。」
高揚した場の雰囲気が落ち着くまでしばし時間が経った。
ようやく皆が静聴する姿勢になったところで参謀の言葉が続く。
「我等は善を成す為に介入する方針に決した。だが残念ながら我等には
慈善活動や平和維持活動などの経験が皆無なのだ。」
「あー・・・。」
「我等にあるのは破壊工作活動、諜報や策略に軍事などいわば
悪のノウハウだ。よってこの悪のノウハウをもって善をなし平和を
成し遂げようと思う。」
「はあ?!」
「『毒をもって毒を制する』という言葉を知っているな?我等は
悪のノウハウを用いてこの世界の邪悪と正面から激突して行く
対抗毒になろうと考えている。」
「悪が悪と戦ったらダメなんて決まりは無えからな。悪が同士討ち
をやらかしたら善良な人々が漁夫の利を得るって寸法さ。」
「蛇の道は蛇、悪党側の手口を知り抜いているワシ等ならではの
手法があるとは思わんか?」
「どうだろうか?これが我らの出した結論だが皆は如何に考える?」
三幹部の考えた方針がこの場の全員に理解・浸透してゆく。
「正直、もう破壊活動は嫌っス。できれば誰にも迷惑をかけず隠遁したい。
でもまずは罪滅ぼしっスよ!!今の俺に出来る事は何でもやるっス!」
「まず、足を洗っても大魔王とかウロチョロしとったら安眠も出来へんし。
悪者退治はやるべきやし乱世到来は断固阻止せなあかん。」
「フフフ、悪VS悪ですか。面白い。我らとこの世界の悪党共のどちらが
強力な毒か勝負と言うわけですね。」
毒をもって毒を制する、その毒になろう。三怪人に続き全員が方針に賛同した。
その後、暫定的な戦略方針が定められた。
当面の敵として大魔王の率いる魔王軍とアルガン帝国の内戦に火をつけ野望を
顕わにしたドラゴン族の国ラゴル王朝を標的として絞る。
「まあ、この2つの勢力の活動だけでここまで急激に情勢悪化はするまい。
影に隠れて暗躍している連中も多かろう。じゃが手口など知れておるわい。
察知し次第に全てひねり潰してくれるわ。」
「そのラゴル王朝って国はどんな感じっスか?」
「ドラゴンが人型に変身して支配階層となっている国で竜族以外は下等動物と
して奴隷や家畜にし酷使している国家らしい。竜帝王ラゴル・ダイナスとか
いう支配者は暴虐で野心の強い巨大なミスリルドラゴンだって話だぜ。」
「その選民思想でラゴル王朝は周辺国と険悪、特に国境を接するラースラン
王国やソル公国とは幾度も武力衝突が発生しているらしい。そこに今回のアル
ガン帝国の継承権争い。以前から送り込んでいた竜族の妃を手駒にして超大国
を牛耳り竜族を大陸全ての支配者とする計画を発動したのだ。」
「ほほう?それはラゴルと敵対するラースラン王国側からの情報ですか?」
「そうだ。ラースラン王国やメッサリナ皇女派と友好関係を結ぶつもりである。
彼らからの情報が虚偽であったり彼らが弱者を虐げる圧制国家だった場合は
表面的な友好関係を維持したまま内部へと侵食し内側からボロボロに食い荒ら
して滅ぼすまで。いずれにせよこの世界の裏側に潜む悪を効率的に処分して
いく為にも現地の友好的勢力は必要だろう。」
「なるほど。」
「では先の2勢力に対する戦略案を説明する。まずラゴル王朝に対しては
対立して行くであろうメッサリナ派や後ろ盾のラースラン王国に軍事援助を
行い間接支援で対処するつもりだ。」
「大国の継承権争いに列強諸国が絡む事案じゃ。我らが前面に立ったら国際
政治の渦中に巻き込まれ身動きが取れん立場に立たされかねん。」
「逆に大魔王に対しては真正面から激突するつもりである。情報収集しつつ
防備を固め魔王軍を迎撃しながら機が熟すのを待ち戦闘力を基準に編成した
攻撃部隊で魔王領域に殴り込みをかける。」
「ふむ、『機が熟す』とは具体的に何時ですか?」
ウオトトスの問いに培養槽の中から闇大将軍が応える。
「俺の身体が再生する時さ。」
不敵な笑みを浮かべる大将軍。
暗黒結社ガープの改造人間は強力である。モーキンたち下級怪人でも
恐るべき力を発揮するが更に上級怪人ともなると下級怪人とはケタ違い
の実力を誇る。
だが、三幹部が変身する最上級怪人は上級怪人などとも次元の違う
圧倒的な力を持つ。その中で特に戦闘力に特化した闇大将軍の実力は
1人で核戦力を含む先進国の1国の全軍事力に匹敵すると評価されていた。
「俺が回復した暁には先頭に立って攻撃部隊を率い大魔王を叩き潰してやる。」
ニヤリと笑う闇大将軍。その言葉には自信と自負が溢れていた。




