表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
103/104

99 烈風参謀

本日は2話連続投稿の1話目です。



荒れ狂う超存在の戦いの最終局面クライマックス


死神教授の消滅と同時に圧倒的邪悪たるガープ大首領が復活。



その時、ラースラン王宮で魔王軍総司令ボーゼルとの戦いを終えた

聖女プレイア・ルン・ルーンは衝撃的ともいえる天恵を受け頭を抱え

うずくまっていた。


プレイアは転生者であり前世は日本であった。前世で楽しんだ乙女ゲーム

『セイント聖女クエスト』の世界観に酷似した世界で主人公にソックリな

人生を歩んできた。


ゲームに似た世界ではあったが明らかな相違点もあり、何よりしっかりとした

現実を生きる人々と触れあう事で早い段階でこれはゲームに似ただけの現実だと

認識していた。何より前世日本の記憶は曖昧であり前世での自分の名前すら

思い出せないプレイアにとって今を生きるマールート世界こそ現実である。




だが、


ガープ大首領が復活し、再生した肉体を得て野望の為活動し始めた瞬間、

彼女は前世の記憶を完全に取り戻し、同時に『勇者』としての使命と力を

得て完全覚醒したのだ!!


「私は…………私の名は桃木ももき 百恵ももえ、暗黒結社ガープと戦った

特務小隊ソルジャー・シャインの一員、シャイン・ピンクだった!!」


突然の日本語での叫びに王宮の人々はきょとんとする。唯一聴き取れたのは

忍者の紅影と蒼影で、勉強不足の紅影はハテナマーク顔だったがドラゴン姿の

蒼影は素直に驚くのだった。


「聖女プレイアは転生者だったんですか…」


だがそんな周囲の様子に構う余裕も無いままにプレイアは頭を抱えてうずくまり、

自我無き世界の意思の願いに耳を傾け続ている。


「……行かなきゃいけない!!この大好きなマールート世界を奴の、

ガープ大首領の野望に蹂躙させちゃ駄目なんだ!」


ガープに対抗する勇者プレイア・ルン・ルーンは完全覚醒すると

王宮の人々に頭を下げ


「すみません!大事な使命を思い出しました!!一旦この場を離れる事を

許してください!!」


そう言って走り出そうとするプレイアを王太女の婚約者ノービタウが優しく

引き止めて提案する。


「急ぐならこれをお使いなさい。徒歩よりはだいぶ速いですよ。」


パンパカパーンとファンファーレが鳴りそうな勢いでノービタウは

ドラーモン魔法鞄から翼の飾りの付いた光る靴を取り出した。


「大空を自在に駆ける超高速飛行靴『イダテンの靴』だよ。名前の由来は

よく分らないが凄い靴だ。足にピッタリの大きさに変形するし風より早く

空を自在に翔られるよ。」


「素晴らしい魔道具ですね!有難うございます!」


「飛行時間は3時間ほどかな。突然力が消えて落下するから

充填魔力が切れる時間までに降りなさい。ゆっくり降下とか

してくれないから。」


「げぇ!それ危なくないですか?!」


「大丈夫。たしか魔力切れになる直前に警告として足の裏が

痒くなる筈だから。ただ水虫があるなら間違いやすいので

聖女の力で治しておくといいよ。」


「水虫なんてありませんから!!じゃコレお借りします!!」


プレイアはイダテンの靴を装備するとペコリと全員に向かって

お辞儀してから駆け出す。そして第三宮殿から外に出た途端に

ジェット機のような勢いで空へと翔け出した。


「急ぐなら俺に乗ればいいのに。」


プレイアに治療してもらったブルードラゴン姿の蒼影が呟いた。


「アンタさぁ、あの靴より速く飛べる自信あるの?」


「…俺なら飛行だけじゃなくて戦力にもなるだろ?」


紅影の疑問に蒼影が応えていると穏やかな少女の声がかけられた。

イモーテア王女だ。


「蒼影様はお優しいのですね。」


「それほどでもありません。それにしても聖女様は快活な方ですね。

想像と全然違います。確か殿下は御学友でしたね。普段からあのような

お方なのですか?」


「はい。元気いっぱい正義感いっぱいで常に駆け回っている私の

……大切な大切なお友達なのです。」





世界そのものが軋む。


超存在同士の壮絶な戦いは灼熱のエネルギーが交差する世界の破滅そのものだ。


巨大なヒルのような姿の邪神ゼノスと周囲に時空を歪ませる渦を展開した巨大な

脳髄、ガープ大首領は目まぐるしく位置を入れ替え背筋の凍るような威力の攻撃を

間断なく繰り出し相手を滅ぼそうとしていた。


  (ガープ大首領!コノ世界カラ消エ去ルガイイ!!

   貴様ノヨウナ悪辣ナ存在ハ不快ダ!!)


『狡猾で強欲な邪神めが!!この世界は私の物だ!全ての世界、全ての存在を私が

支配する。薄汚いゼノスよ、貴様には私の世界の砂粒一つ食う事も許可しない!』


悪ならば悪に好感を持つか?


否である。


基本的に自己中心でしか考えず、自分の事を棚に上げ別の悪を見下し

嫌悪し決して信頼しない。利害の一致でしか手を結ばず野望の行く手を

阻むなら邪魔者として消すだけだ。


世界の全てを食い尽くしたい邪神ゼノスと

世界の全てを支配したいガープ大首領、彼らの

利害は真正面から激突している。


相互に嫌悪する両者の攻撃に容赦する要素は一つも無く膨大なエネルギーを秘めた

破壊力を叩きつけ合い天変地異のような余波を巻き起こしていた。


ゼノスが破壊の思念を乗算させた妖念動力を連射する。一撃で山脈に穴を穿つ

恐ろしい攻撃が次々とガープ大首領に降り注ぐが強固な防御に阻まれ致命傷には

至らない。構わずガープ大首領も次元圧縮破壊をゼノスに浴びせ猛反撃で逆襲し

ダメージ蓄積を狙う。


凄まじい破壊力の殆どはゼノスと大首領に命中して行くが攻撃の余波は

周囲に広がる。例え余波でも簡単にラースラン王国を滅亡させうる恐ろしい

ものだ。


その余波を必死に防いでいる超越者たち。9柱の神竜達がその神秘の力を

最大に発揮し妖精王クリークもフルパワーの精霊魔法で守護、バーサーン

最高導師と魔術師ラニアも奥義や秘法を惜しまず使い魔術的な防御で支え続けた。


そして最後のガープ大幹部の烈風参謀も最上位怪人クリスタルテラーとして

全力で破壊の権化どもの戦いの余波を防いでいた。


ゼノスと大首領、どちらも圧倒的な存在だが彼らの攻撃能力はその上を行く

凄まじさで決着はそう遠くは無さそうだ。だが英雄的に余波を防ぐ者達の

消耗も激しい。特に魔力を含まないガープ大首領の攻撃余波を殆どが

クリスタルテラー単独で受け持っており現段階で既に深刻なダメージを

負っていた。


ゼノスに防がれた空間を切り裂くガープ大首領の時空間断刀、その余波として

無数のエネルギーの刃が空間を切り裂いて飛び散る。クリスタルテラーは高速で

飛翔しレーザー剣フラッシュ・ハーケンで可能な限り刃を切り払い、間に合わな

い分は防御シールドを最大化して身体で防ぐ。


「ぐああああああああ?!」


防御シールド越しなのに太刀で斬られたような衝撃と苦痛に呻く

クリスタルテラー。


(何としてでも食い止めねば!!)


最上級怪人の身体をボロボロにし自己修復が追いつかない大ダメージを

受けながらもクリスタルテラーの戦意は衰えていない。


そこに1匹のアゲハ蝶がクリスタルテラーの元に飛んで来た。普通の蝶は

舞うように飛ぶがやって来た蝶は羽を水平に固定しジェット機のように飛行する。

『ルイ霊蝶』という精霊に近い蝶でバーサーン最高導師の使い魔だ。


ルイ霊蝶の羽には大きくドクロの模様がある。それがバーサーンの顔に変わり

バーサーンが送る思念を言葉に代えてクリスタルテラーに伝えて来た。


『無理するんじゃないよ?うちのギルドでも魔道科学のデータからある程度の

科学の力への対応が可能なんだからね。』


「お申し出を感謝します。ですが私が大首領の攻撃余波を防ぐのが現時点で

最も効率が良いし……けじめですから。」


『けじめ??』


「私のしくじりです。我が新勢力ガープの計画が狂い綱渡りのような策で

世界の命運を賭ける破目になったのは私の作戦立案と判断が甘すぎたから。

………私は参謀たる器が無い無能です!私が出来るベストは怪人として全力を

尽くす事のみ……」


『アンタが無能なら全世界に有能な奴なんて居やしないさ!!とにかく

全て背負い込むのはアンタの悪い癖だよ?冷静におなり。』


「……すみません次の余波が来たようですので失礼!」


そう言ってクリスタルテラーはマッハの速度で次の脅威に向かって行った。

世界最速の蝶といえど流石に追いつく事は出来ない。



(全ては私の判断ミスだ!!犠牲も大損害も全て私の責任。

私は……私を許せん。故に断じて退かん!!!)


クリスタルテラーは不退転の決意で己の使命を全うするべく空を駆けた!!




そんな周囲の弱き者達に一瞥も向けず極限の憎悪で睨み合う

ガープ大首領と邪神ゼノス。



『うっとおしい邪神め、こうなったら貴様でも防ぎきれない最大攻撃で吹き飛ばし

抵抗能力を全て破壊して貴様と存在波長が同一化しているルーシオンとやらと

同じ水準まで衰弱させ時空共振破壊で同時に消し去ってやる!』


  (不気味デ邪悪ナ宇宙怪物ガホザクナ!!貴様ノ最大攻撃ナンゾ我ノ奥義、

   『暴食ノ神罰』デ逆ニ消シ飛バシ、魂ガ逃ゲル隙モ与エズ確実ニ滅ボシテ

   クレルワ!!!)


同時に叫ぶと、同じタイミングで洒落にならないほど巨大な破壊の奔流が

2人の巨悪から互いに向け放たれた!!



ガープ大首領は亜空間を展開し、空間内で可能な最大規模の擬似恒星を発生させ

直後に空間内で超新星爆発させ発生したガンマ線バーストを次元レンズで集束して

ゼノスに向かって放射したのだ。


宇宙の恒星が誕生から消滅までの数十億年かけて放つエネルギーの総量以上の

エネルギーを数秒間で全て放つガンマ線バースト、それを集束した極大怪光線。

もしゼノスではなく地表に撃っていたら大陸どころかこの惑星の中心が打ち抜かれ

一瞬で崩壊し消滅していただろう。


対するゼノスが放ったのは神格としてこの世界を構成していた権能そのものを

総動員して放った神通の力。まるで極彩色の稲妻を束ねたような力の奔流は

進む先のエネルギーや大気など物質も現象も全てを喰らい飲みながら大首領

に向け直進した。皮肉な事にガープ大首領のガンマ線怪光線の通過で周囲の

空間に発生し拡散しつつあった破壊的なエネルギーはゼノスの力に吸い取られ

影響を撒き散らす事を防いでいる。



激突する圧倒的パワー、暴食の力が壮絶な勢いで集束したガンマ線バーストを

捕食吸収しようとしているがガンマ線のエネルギーの量と勢い、指向性などに

より処理しきれずど真ん中で激突状態のまま停止していた。だが、やがて大半の

エネルギーを喪いながらガンマ線極大怪光線はゼノスの暴食ノ神罰の中央を撃ち

抜いてゼノス本体に命中。だがゼノスの神罰も真ん中を裂かれ威力が激減しながら

も消滅せず直進し大首領に当たり痛打を与えた。


『ぐああああああああああ!!』


  (ギエエエエエ!!!!!!)


傍目にも両者の肉体に深刻なダメージが入った事は見て取れた。

だが周囲の者達はそれに意識を向ける暇など無い。


「まずい!!皆様方!ここが正念場と思われます!!死力を尽くしましょう!」


妖精王クリークの切迫した叫び。


超存在の放った必殺技の激突の余波はそれほど凄まじかったのだ。

特にゼノスの暴食の権能が消え食う者が消滅し野放図に放たれた

エネルギーの規模は国を滅ぼすレベルの代物だったのである。


邪神の権能の余波として押し寄せる妖力の波を魔力を尽くして防ぐ

神竜や妖精王、魔術師ギルド全員も全てを捧げ対応している。


そして烈風参謀クリスタルテラーもガンマ線バーストの余波で発生した

高エネルギー電磁波の波に防御フィールドを展開して突入するのだった。


「ぐっ!!とりあえず一撃目は防いだ!!!」


クリスタルテラーの外殻が割れキラキラと輝くクリスタルの破片を

撒き散らしながらも高エネルギー電磁波の第1波を防ぐ事に成功。


そのまま引き続き第2波第3波とボロボロになりながら独りで電磁波を

防ぎ続けるクリスタルテラー。大地に向かう電磁波だけ優先して必死に

防いでいるだけで肉体の限界が近い。最優先すべきは電磁波を止める防御フィ

ールドの維持だ。故に全身の装甲は大きく損壊し右腕を残して手足はもげ落ち

ている。だが怯んではいられない。1波でも電磁波が地表に到達されたら王都

アークランドルが一撃で更地になってしまうのだから。


消耗しきっているクリスタルテラー、だがその高感度アイが

次の高エネルギー電磁波が4波5波と連続して発生するのを捉えた。


「いかん!!」


怯む事無くそれに立ち向かうクリスタルテラー。第4波の電磁波を

食い止める事には成功した。だが戦意は衰えずとも冷厳たる物理限界

は訪れる。烈風参謀ほどの者でも経験の無い戦いの様相に計算違いが

発生、その身体にツケが回って来てしまったのだ。


光り輝いていたクリスタルテラーの甲殻にひと際巨大な亀裂が走り

亜空間制御器官は限界を突破して停止してしまう。


激痛と限界突破した亜空間制御の衝撃に打ちのめされた

クリスタルテラーは意識を失いそうになりながらも

参謀として次の電磁波への対処方法を模索する。


(……な、何とか電磁波の正面に…到達出来れば……体内の

亜空間制御器官を強制起動で…自爆させこの身体ごと電磁波を

消滅……)


その時、


勢いを失い落下しそうになる烈風の横を疾風のように飛翔する

少女が駆け抜け高エネルギー電磁波の前に躍り出ると右手を掲げ

電磁波に触れる事で跡形も無く消し去って見せた。


「あっ……」


力無く地表へと降下しながら驚くクリスタルテラー。もはや意識は

朦朧とし始め感覚器官も機能を失いつつある彼女では捉えられなく

なった第6波の電磁波に対処し余波を食い止め終えた少女が降りて来た。


既に大地に落ちていたクリスタルテラーに驚きの声を上げる少女、

それは対ガープ勇者として覚醒したプレイアだった。


「やっぱりクリスタルテラーじゃないの!!あの常に冷静で

自信たっぷりだった烈風参謀が何でボロッボロになってんの?!」


そう問いかけながら聖魔法で治療しようとしたプレイア。

かつて知略を持って苦しめてきた最強の敵だったが今の

烈風参謀が身を挺して王都を救おうとしたのを見ている。

迷いは無い。


だが聖魔法も魔法である限り烈風参謀を癒す事はできなかった。

  

  …バリン……


パキピキと結晶体の身体を崩壊させながら烈風参謀は

後事をプレイアに託そうと言葉を紡ぐ。


「…どなたか分からないが…貴女は奴の力を防げるようだ…」


「ちょっと?!」


  …バキビキィ……


バリバリと亀裂が走り、砕けて行く結晶体の音にかき消されそうになる

か細いクリスタルテラーの声をプレイアは何とか聞き取っていた。


「あの……太古の邪神と戦っている怪物…あれも邪悪な存在で

ガープ…大首領という…圧倒的邪悪同士を…争わせて………

消耗した瞬間…同時に奴ら…とどめを刺して…世界を平和……」


  バキイイィィィィィィィンンン!!!


「あ?!」


最上級怪人クリスタルテラーの身体は一瞬で崩壊し崩れ去る。



 サラサラ……


   サラサラ……


光り輝く結晶片となり風に散るクリスタルテラー、いや烈風参謀に

呆然としていたプレイアはグッと眉を寄せ怒った様に叫ぶと大地を蹴って

大空に向け飛び出した。


「言われなくてもやってやるわよ!」






オオオォォォォォ…… …


(よし。)


ガープ大首領は展開した亜空間内で超新星爆発から発生した

擬似ブラックホールを処理し終えた。不安定で本物のブラック

ホール化しかねない危険物を排除。いわばこれはガンマ線怪光線の

カラ薬莢だ。


最速でカラ薬莢を排除した大首領は再び擬似恒星を発生させ

ガンマ線怪光線をスタンバイした。


牽制攻撃で応酬しながら準備していた必殺技の発射態勢が整った。

ゼノス側からの反撃で威力が大幅低下させられる事を織り込み、

今度は次元レンズを調整して最大火力で撃ち出すつもりだ。


本来、上に向かって使用しても大気圏内で撃てば地殻が剥がれ

惑星上の全生命が死滅しかねない威力。だがゼノスが半減させ

周囲の小物達が影響を打ち消してくれるなら最大威力の使用は

可能と計算した。


『今度こそ決着を付けてやろう。』




対する邪神ゼノスは焦りながらも力を結集し、より威力を高めた

暴食の神罰を放とうと急ぐ。


神界より見放され、神格を失ったゼノスは神から最大最強の怪物へと

墜ちていたようなもの。暴食の神罰を撃った直後にその影響を痛感する。


技を権能としてではなく能力として何倍も力を振り絞って使う破目に

なっていた。憎むべきガープ大首領は先程の攻撃を最大出力で撃とうと

している事を全知によって感知し、全てを注込んだ暴食の神罰で対抗すべく

パワーを集中してゆく。


〈コノ段階デ放ツ以上コレガ奴ノ最大ノ攻撃ダロウ。ツマリ是ヲ凌駕スレバ

我ノ勝チダアアア!!〉


やや劣勢ながらも最終的な勝利を確信するゼノスの戦意は高い。

もし次の一撃で倒されてもルーシオンが居れば復活出来る。…

ただしエネルギーを失った万全とは程遠い状態な上に神格を失った

からにはもっと弱体な感じでの復活だろうが。


〈我ハ蘇ル。奴モソレヲ分カッテイルカラ寸前デ威力ヲ調整スル筈。

ルーシオント同時ニ止メヲ刺ス為ニ。奴ノ計算高サガ命取リヨ。〉


これ程の存在共が即座に再生出来ないほど深刻な大ダメージを負っている。

にも関わらず再生に力を入れず最大必殺技に全力投入していた。



『消え去るがいい!!』


ガープ大首領の絶叫と共に格段に威力を増したガンマ線怪光線が発射された。


   (滅ビ去レ!!)


次の瞬間、一拍遅れて邪神ゼノスからも数倍の勢いで暴食の神罰が放射される。



力と力の衝突の瞬間。爆発した訳でもないのに核爆発のような轟音と

衝撃が拡散する。


先程の必殺技の応酬と酷似する展開だが唯一にして圧倒的な違いは規模だ。

対で消滅して行く破壊力も大きいが突き抜けて相互に殺到する必殺技も

予想以上に凄まじい物だった!!


『ぐおぉぉ!!想定の最悪を…しかしこれを耐えれば!』


  (アアアアアアア?!イッソ倒レル方ガ…マシダッタワ!)


大ダメージを負っていた上に数倍の規模の必殺技を受け冗談抜きで

虫の息となる超存在達。


ガープ大首領は初めて周囲の者達にも目を向け、凄まじ過ぎる影響に

四苦八苦して対処し自分に向かう余裕が無い事を確認していた。


一方の邪神ゼノスは決断を迫られていた。自殺し即座に蘇る方策を

取るべきか否か。蘇りは一瞬で現状よりマシな状態で再生するだろう。


だが大首領の超推論で読まれる可能性があり、最悪な事に付近に

ルーシオンが潜伏している気配も感じていた。この条件では邪悪な

大首領に読まれ仮の自殺が本当の自殺にされかねない危険があった。




ガープ大首領の確認と邪神ゼノスの逡巡。


超存在ゆえの大きな油断。瀕死の状態でこの余裕は致命的だった!!



最初に気が付いたのはガープ大首領だった。1人の男が高速の

イオノクラフト飛行で邪神ゼノスに突撃して行く。だが次の瞬間、

自分の目前に1人の少女が飛び出して来た。


『貴様は……何だ?』


「ここはお前の居るべき世界ではないわ!今度こそ滅びなさい

ガープ大首領!!必殺シャインフラッシュ!!!!!」


聖女にして対ガープの勇者プレイア・ルン・ルーンは特務小隊

ソルジャーシャインの一員として瀕死のガープ大首領に全力攻撃を

叩き込んだ。勇者の聖撃ではなくソルジャーシャインの攻撃技、

拳にパイルバンカー・アームの変わりに勇者の力を宿らせて渾身の

右ストレートを叩き込んだ!


『シャインフラッシュ?!何故…ヴ、ヴァルルヲヲヲヲヲアアアアアアア!!!』


ガープ大首領の肉体は完全破壊され魂までも崩壊消滅の危機に晒される。

即座に大首領は魂の移送を開始した。理論的に切断はありえない霊力通信

を使い魂の保管を行う。予め保管し遠隔操作で肉体を操る場合もあれば

緊急避難で安全に魂を保管場所に送る事も可能なのだ。


(一旦ガープ要塞の保管場所予備に逃げる。死神教授が倒されたから

私を捕捉出来る者はいないはずだ。)


大首領の退避と安全は保障されている筈だった。しかし……


(何だと?!)


霊力通信の経路に霊波動の変数が書き加えられていた。ネットワーク通信で

ゲートウェイのパスワードが書きかえれているような物だ。


(死神教授か!!奴め、霊力通信の操作も魂の保管技術も全て掌握していたか!)


ガープ大首領の能力ならば死神教授の霊力通信の書き加えなど1秒で修正できる。

しかし崩壊寸前の大首領にとって此処からの1秒はあまりにも遠大な時間だった。


(ば、馬鹿なああああああああ!!!!!!!!!)


数多くの星間文明を滅ぼし無数の生命を死滅させ不幸と破滅をばら撒いてきた

ガープ大首領。全てを欲し全てを支配しようとした宇宙怪物は1秒を得られず

完全消滅したのである。



そして邪神ゼノスにも宿命の敵が目の前に迫る。


  (貴様ルーシオン!!)


邪神ゼノスの正面に飛んで来たのは自身の心臓にして天敵である

ルーシオンだった。ボロボロに消耗し尽くし安全に転移すらおぼつかない

ゼノスは周囲に白い煙を放射する。命を吸い取る吸精の死雲エナジードレイン・デスクラウドだ。


  (コレデ体当タリ自爆ハ出来マイ。他ノ手段デ我ヲ……)


「三千年ぶりだなゼノス!!御託を聞く気は無い!今こそ決着を付けてやる!!

勇者ルーシオン、いやガープ上級怪人クーガースナイパーとしてな!!」


叫びながら一瞬で姿を変えるルーシオン!


上級怪人クーガースナイパー


人間のプロポーションで直立したクーガーといったシャープな

シルエットの怪人で全身の毛並みは黄金色をして帯電している。


7色の虹彩の瞳の他に額に水晶のような構造体が宝石を飾るみたいに

存在していた。そして何よりの外見上の特徴は両肩に2門備わった

スリムな高射砲のような武装だ。


  (何ダト?!ガープ怪人???)


驚愕するゼノスに構わずクーガースナイパーはイオノクラフト効果で

立った姿勢のまま浮遊し、ゼノスを正面に捉え主武装の亜光速破壊砲を

発射した!!


クーガースナイパーの両肩に装備された亜光速破壊砲は小さな弾丸を撃ち出す

シンプルな攻撃を行う兵器だ。ただし、撃ち出される弾丸は亜光速のスピード

に加速される。質量を持った弾丸の初速が亜光速。弾丸が蒸発する僅かな時間、

距離にして1kmが最大射程だが射程内で破壊出来ない物体は存在しない。

概算で貫通力は電磁レール砲の1億倍以上だ。


しかも弾丸はルーシオンことクーガースナイパーの体内のミネラルや金属原子を

抽出して形成された、いわば亜光速で飛ぶルーシオンのゲンコツである。

それは三千年の時を超えたルーシオン渾身の想いが込められた一撃だった。


あまりにも身近すぎてルーシオンが勇者に覚醒した時点から全知の力が

及ばない事も分らなかったゼノスのそれを油断と評するのは酷かもしれない。


しかしその代償は大きすぎた。ルーシオンがガープ怪人に改造された事を

悟る事も出来ず勇者の力の篭った必殺砲撃を叩き込まれてしまったのだから。



  キン!!!!!!!パチャッッッ!!!!!



   (ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア??!!)



勇者のゲンコツが邪神の黒い口に直撃!!!水風船を割るような音を立て

軟体動物のようなゼノスの肉体は徹底的に破壊されて吹き飛び、その魂も

砕け散って霧散しゼノスという存在は完全消滅してしまった。


言葉も思いも悔恨も何も残せず完全消滅。


その瞬間、神界の冥い場所に新たな神格が

誕生した。ゼノスの消滅により世界の構造法則

に望まれて暴食を司る新たな神格が出現しゼノス

という存在は世界から完全抹消されたのである。



「……勝った…のか?」


「勝ったに決まってるでしょ!ガープ怪人!!」


実感の湧かないルーシオンに感極まった少女の声が届く。


「うわ、凄え美少女に声かけられた!!」


「ちょっと!初めて見るタイプの怪人さん、私は聖女をやっているプレイアよ!!

とにかく勝ったの!!世界は救われたし、貴方も烈風参謀の仇を討てたのよ!」


「え?まあ一応そうなるな。俺は勇者ルーシオンでガープ上級怪人クーガー

スナイパーだ。」


「ガープ怪人で勇者???何それ?」


テンションの高いプレイアに目を白黒させながらルーシオンは

混乱していた。


(ゼノスは確かに滅びた。勇者としてはっきりそれは分る。…けど

俺は何で生きているんだ?)


その疑問を他ならぬ目前のプレイアが教えてくれた。急に神妙になった

プレイアがルーシオンに届いている女神の神託を伝える。


「女神チュッチュ様からの神託よ。自分の命が犠牲になる事を承知で

神界の反逆者を討伐してくれた褒美として神界はゼノスと結び付けられた

貴方の魂の呪縛を断ちルーシオンに未来を与える。だって。」


「………そうか。」


万感の思いをルーシオンが噛み締めていると光の粒子を振りまいて

妖精王クリークが飛んで来た。


「何を沈んでいるんだい勇者達!!ごらん。そしてお聞きなさい。救われた

世界が感謝する声を!!!」


2人の勇者の周りに守護していた者達が集まり喜びを爆発させている。

そして王都アークランドルから大歓声が上がっているのを聞き、ようやく

ルーシオンは実感するのだった。



圧倒的邪悪が消え去り正義が戦いに勝利した。


邪神と大首領という絶望は消え世界は破滅の危機から救われたのである!







  ガープ大幹部  烈風参謀         戦死



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ