1 プロローグ1 さらば世界よ
悪の秘密結社ってロマン溢れますな。ストックがある限り毎日更新。…それほどストック無いけどがんばります。
時は22世紀末、世界を震撼させて来た暗黒結社ガープは遂に終焉の時を
迎えようとしていた。
異形の超科学を持つ暗黒結社に唯一対抗できた特務小隊ソルジャー・シャイン。
超能力を持ち正義の心を携えパワースーツに身を包んだ彼ら若者達が遂に
暗黒結社の本拠地に突入したのだ。
通常空間から切り離された時空の狭間に浮かぶ亜空間要塞。まさに暗黒結社の
中枢たるその最奥の総司令部において死闘を繰り広げていたガープ大首領と
ソルジャーシャイン達。
「これで、、終りだぁぁぁぁ!!!」
仲間達の懸命な牽制で作られた僅かな隙を全力で突くシャインレッド。
大首領の熾烈な攻撃を全身に受けながら猛進し渾身の一撃を叩き込む!!
『ヴァルルヲヲヲヲヲアアアアアアア!!!』
巨大な脳髄に眼球を持ち無数の触手を生やした姿のガープ大首領は
外宇宙より飛来した怪生命体らしい異様な声色の断末魔を叫びながら
絶命しその身体は崩壊してゆく。
ザン!
片膝を床に付き姿勢が下がるシャインレッド。呼吸も荒く全身の損傷も激しい。
それは彼だけでなくソルジャーシャイン全員とも激しく消耗していた。
永かった戦い。だがまだ終ってはいない。総司令部にはまだ敵が居た。
大首領が倒れた事に呆然としている暗黒結社三大幹部のうちの2人。
二名の幹部の死神教授と烈風参謀に向け構えるシャインレッド。ちなみに
残りの幹部の闇大将軍はガープ最強の怪人でもあり要塞に乗り込んできた直後の
ソルジャー・シャインに怪人に変身して戦いを挑み、必殺技を直撃され今は
虫の息である。
「次は貴様達の番だ!!行くぞ死神教授!!」
黒い研究服に身を包み顔の右半分を仮面のようなプロテクターで覆った
初老の男と軍服を身に付け長い黒髪を持った凄みのある美女。
だが外見の通りの者ではない。闇大将軍ほどではなくとも彼らも
相当強力な怪人に変身する事は分っている。だが…
「見事じゃ。ソルジャーシャイン。くくく、貴様らの勝ちよな。」
「?!」
ごごごごぉぉ……
その時、要塞全体が細かい振動で揺れだした。
そちらに気を取られたシャインレッドに死神教授が何かを放り投げた。
「ほれ、勝者の権利、戦利品じゃぁ。」
爆発物かと警戒したが軽く放物線を描き、ヘロヘロと投げられた
それは記憶媒体であった。
「貴様らのもう1つの目的、γウィルスのデータじゃよ。構造、ゲノム解析に
特効ワクチンの製法から応急処置の手順まで全て入っておる。」
「!!こっこれ本物です!!」
ECMと情報解析を担当するシャイン・イエローが機器で記憶媒体の内容を
読み取り興奮気味に叫ぶ。
「くくく、直ぐに持ち帰れば我らが撒いたγウィルスがパンデミックを起こす前に
対処できようぞ。γウイルスから人類は救われようさ!」
「…どういうつもりだ?」
シャインレッドの問いに烈風参謀がどこか楽しげな口調で答える。
「戦おうと戦うまいと貴方達の勝利は動かない。暗黒結社ガープは壊滅だよ。」
「それはいったい……」
「この要塞を含む亜空間制御の技術は大首領が外宇宙から持ち込んだ物じゃ。
ワシでさえ一部を解析し応用できているに過ぎん。特に要塞の亜空間制御など
大規模な物は全て大首領の生体亜空間制御器官にコントロールされておった…」
(忌々しい事にのう…)
「つまり、大首領が死んだ今、この時空要塞の亜空間制御は暴走しておる。
あと数分ほどで時空の彼方に我等は消し飛ぶのじゃ!」
「なにぃ!!」
「その手土産は長年戦ってきた我等が宿敵への敬意よ。それを持って
さっさと脱出するといい。我等は此処で有終の美を飾らせてもらうとしよう。」
「さらばじゃ!!我らが最強の敵ソルジャー・シャイン!!」
「どう?彼らは無事に脱出できたか?」
振動が激しくなって行くのを感じながら烈風参謀が尋ねる。
「うむ、何とか奴等の時空戦闘機パルサーレインは通常空間へ無事に
到達したようじゃ。」
「飛べなかったら此方の時空戦闘機をあげるつもりだったんだろう?」
「まあな、奴等の戦闘機の時空エンジンは墜落したワシ等の戦闘機の
物をむりやり使っていたようじゃからの。危なっかしいわい。」
「時空戦闘機はある。時空エンジンを作れるだけの応用技術があれば
残存人員を脱出させる時間を作るくらいには要塞の暴走を押さえられる
・・・。脱出する意思はないがな。」
「当然じゃ。ワシ等のような者は地球に帰還してはならん。もう迷惑を
かける訳に行かんのじゃ…。」
ガープ大首領が倒された瞬間、2人の、いや暗黒結社全員の脳内に衝撃が走った。
その瞬間まではあの恐ろしい姿の大首領を親の様に慕い恋人のように愛情を向け
絶対の忠誠を誓っていた。そして理由無く人類社会に強い敵意を抱いていた。
だが大首領が消滅した瞬間に全て霧散した。大首領に植付けられた感情が消え
精神構造が正常に戻った時に強烈な罪悪感と後悔の念が沸いたのだ。
そして思う。例え贖罪の為でも暗黒結社ガープが地球へ再訪しては恐怖と
混乱を巻き起こしてしまうだろう。ならばこのまま滅亡する事こそ望ましい。
「私達はどうなるのかしらね・・・。」
「くくく、まず99.9%ほどの確率で時空の彼方で消し飛び我らは素粒子
へと還元されるじゃろうな。」
「…ふさわしい報いと言えるだろうな。」
「そうじゃな。ただ、迷惑をかけた後始末ぐらいは付けたかったの。
次に生まれ変わったら世のため人のため善行を積むとしようかの。」
「!ぷっ!!」
「なんじゃい?」
「正真正銘のマッドサイエンティストがオカルトなんて笑わせないでくれ。」
「くははは。そりゃそうじゃな。」
「でもいい考えだ。次があったら人の役に立つ。悪くないな…。」
奇妙なほど楽しげに語りあう幹部の2人。やがてひと際強烈な振動が巻き起こり
圧倒的な衝撃が全てを飲み込んだ。