弁当箱
カクヨムさんにも掲載しています
ここに、魔法のお弁当箱があります。
おひとつ、いかがですか!
「何、それおいしいものでも出てくるの。」
そうですね、思い出深いものが食べられると思いますよ。
「何回食べられるの。」
三回くらいですね。
「なんだあいまいだな。」
すみません、でもおいしいはずです、たぶん。
「じゃあ、もらうか。」
ありがとうございます。ふたを閉じて、願ったら、食べられますよ。
「ふうん。ありがとよ。」
俺は魔法の弁当箱を買った。
何でも、好きなもんが食べられるらしい。
ありきたりのもんはつまんねえなあ…。
何を食おうか。
ああ、そうだ。
初めて食べた、弁当が食ってみたいな。
…ふたをして、初めて食べた弁当が食いたいと、願う。
ぎゅ、ぎゅ。
なにやら弁当箱が重くなったので、あけてみる。
おお!!
「おにぎり、肉団子、ゆで卵、赤いたこさんウインナー、しゅうまい。」
これは!!覚えてなかったけど、今思い出した!!
初めての幼稚園のお弁当だ!
食が細かった俺のために、母ちゃんが好きなものばかりつめてくれた、弁当。
母ちゃんは、もう、いない。
懐かしさもあいまって、俺は泣きながら弁当を食べた。
うまかった。
俺は弁当箱を洗って、乾かしておいた。
次の日。
今日は、何を食おうか。
ああ、そうだ。
俺が今まで生きてきて、一番うまいと思った弁当が食ってみたいな。
…ふたをして、一番うまいと思った弁当が食いたいと願う。
ぎゅ、ぎゅ。
なにやら弁当箱が重くなったので、あけてみる。
おお!
「卵焼き、炊き込みピラフ、ほうれん草のバター炒め。」
これは!!初めての調理実習で作った弁当だ!!
厳密には、調理実習で作ったらうまかったので、自分でも作ってみたやつ、だな。
初めて作った自分の飯に、感動したんだよ。
最近自炊すらしてねえな。久々にするか。
わしわし食いながら、そんなことを思った。
うまかった。
俺は弁当箱を洗って、乾かしておいた。
次の日。
今日は、何を食おうか。
ああ、そうだ。
俺が最後に食べる弁当を、先取りして食ってみたいな。
…ふたをして、人生最後に食う弁当が食いたいと願う。
ぎゅ、ぎゅ。
なにやら弁当箱が重くなったので、あけてみる。
おお!
「卵焼き、炊き込みピラフ、ほうれん草のバター炒め。」
これは!!初めての調理実習で作った弁当だ!!
ん?
これは、昨日食ったやつだぞ??
・・・ちょっと待て。
これって、これって。
もしかして。
弁当箱が、間違えた?
そんな、ばかな。
俺は、この弁当を最後に、息絶えると、言うのか…?
そんな、ばかな。
俺は、その弁当をスマホで写真に撮ると、一心不乱に同じ弁当を作り始めた。
毎日毎日、同じ弁当を作り続け。
毎日毎日同じ弁当を食い。
毎日毎日、明日も同じ弁当を作ると決めて、材料をそろえる。
そんな生活も、十年目。
あと、何年続けるのか。
あと、何年続くのか。
弁当に縛られた俺の毎日。
たまには違うものが、食いたい。