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お隣さんの純情ギャルが美味しく頂いてくれるので  作者: みかん屋
第三章 お隣さんに食べてもらいたいので
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第14話


 放課後。

 ハルさんは、アキさんとユウさんに連れられて先に帰ってしまった。

 僕もさっさと学校を出てスーパーに向かうべく帰り支度を済ませて教室を後にする。


 一人で歩く通学路は、なぜか今朝歩いた時よりも長く感じた。


 そう言えば昼食を食べた後、ハルさんはクラスの男子に呼び出されていたのでそちらへ行ってしまったけど、何の用事だったのだろう……。

 いや、僕にそれを知る権利も理由も無いのだけれど、なぜか気になってしまう。


 ハルさんと二人きりで話をする。


 そのシチュエーションを想像する。

 昼休み、人気の少ないところで、ハルさんと二人。

 その状況は、まるで――。


 そこまで考えたところで、僕はハッとする。

 それは、入学式当日の帰り道に僕が経験したそれと同じではないかと気付く。


 公園のベンチに二人きりで昼食を食べた。

 嬉しそうに、おいしそうに食べるハルさんの笑顔は僕の目に焼き付いているようで、目を瞑れば鮮明に思い出せる。


 そもそも、ハルさんと二人きりという状況になるのは僕の方が早かったし、回数も多い。

 何を気にする必要があるのか。


 ……いや、なんで僕はそんな事を張り合っているのか?

 何でこんなに気にしているのか?


 その理由を考えるよりも早く、僕は目的地についていた。



 自動ドアを通って店内へ入る。

 まだ時間帯が早いこともあり、店内はそれほど混雑していない。


 今ならば、惣菜コーナーの弁当も選びたい放題ではないか、などと考えてしまうが今日の目的はそれではない。

 今日は、カレー作りに挑戦するのだ。


 買い物カゴを持った僕は早速野菜コーナーへ足を進める。

 袋入りでは無く、一個ずつ売っているニンジン、玉ねぎを見つけてそれをカゴに入れる。


 あとはジャガイモ、と視線を向けると僕は目に飛び込んできたそれを見て少し困ってしまう。


「いっぱいある……」


 ジャガイモの陳列棚には、聞き覚えのある男爵やメークインの他に聞いたことも無いような名前のモノがずらりと顔を並べている。

 かつて南米にあり、コンキスタドールに滅ぼされた帝国の名前が付いたモノまである。

 多分、由緒正しいジャガイモなのだろう。


 階級で行けば、南米帝国が一番でメークイン女王が二番、男爵が三番といったところか。

 いや、それが何だって話なんだけど。


 ともかく、この中から一種類を選ぶ必要があるわけだが、判断基準が僕には無い。


 なら、判断できる人間の意見を聞くべきだ。

 そう思った僕は、スマホでメッセージを送信する。

 内容はこうだ――。


『教えて、みぞれ先生』


 すると、瞬時に反応が返ってくる。


『説明しよう』


 その返信の速さに思わず吹き出してしまう。


『早い、みぞれさん早い、早すぎて怖い』

『そろそろ泣きついて来ると思ったから待ってた』

『いや、泣いてはいないけど。え、なに? もしかしてどっかから見てる?』


 そんなことあり得ない、と思いながら返信しつつも思わず周囲を見回してしまう。

 だが、やはりそれらしい人影は無い。

 スマホに視線を戻すと同時にみぞれからの返信が表示される。


『アタシみぞれさん、今あなたの後ろに――』


 頭を上げて振り返る。

 そこには山盛りのキャベツの山しかない。


『いたら面白いのに』

『ホントだったら笑えないから』

『スオーのギャグよりは面白い』

『なら今度やってみせてよ』


 そのメッセージを送った後に気付く。

 みぞれにおちょくられて本題ができていない。


『そんなことより、教えて欲しいことがある』


 僕は、目の前に並ぶジャガイモについて簡単に説明した。

 すると、やはりみぞれから素早く返信が送られてくる。


『スオーはとりあえず男爵とメークインの特徴だけ覚えればいい』

『インカ帝国は?』

『スオーに新大陸は早い』

『いや、ジャガイモがそもそも南米原産だろ』


 しかし、僕のツッコミはスルーされる。


『男爵はフライドポテトとかコロッケとかに向いてる。煮崩れしやすいからカレーに入れるならそれを理解したうえで使うこと』

『僕はジャガイモがしっかり残ってる方が好きだなぁ』

『なら、メークインは煮崩れしにくいからそっちを使えば?』


 僕は、みぞれの助言に従ってメークインを選択する。

 買い物かごに入れた後、みぞれにメッセージを送った。


『ありがとう。助かった』

『分からないことがあればいつでも聞いてくれてかまわないから』


 このメッセージを送るみぞれの姿は簡単に思い浮かべることができる。

 みぞれは、いつものような無表情ながらもほんの少し、わずかに口元を笑わせていると思う。

 なんだかんだで、僕はみぞれの知識には助けられてきた。

 なので、お礼の気持ちは素直に伝える。


『みぞれ先生は頼りになるなぁ』


 しかし、それに対するみぞれの反応は相変わらずだった。


『ほっとくと食中毒で倒れかねない』

『僕を何だと思ってるの? というか、僕の料理の腕前知らないよね?』

『少なくとも、キャベツとレタスを辛うじて見分けられる程度だと思ってる』

『残念、白菜もわかりますぅ』

『それ、自慢できるところ?』


 結局、みぞれと他愛もないやり取りをしてしまう。

 改めてお礼を送った後、僕は買い出しに戻る。


 料理が上達したら、ぎゃふんと言わせてやろう。

 そんな事を考えながら、僕は残りの食材を見て回った。


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