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お隣さんの純情ギャルが美味しく頂いてくれるので  作者: みかん屋
第三章 お隣さんに食べてもらいたいので
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第13話


 ハルさんの待ち望んだ昼休みがやって来る。

 授業が終わる数分前のハルさんの姿を思い出すと思わず笑ってしまう。


 そわそわとしながら、黒板の上の掛け時計を10秒おきに確認するハルさんは傍から見ていてとても楽しかった。

 昼休みを告げるチャイムが鳴った時に見せた笑顔は、僕の目に焼き付いている。


 そして、授業終了と同時に立ち上がったハルさんが僕の左腕を掴む。


「そーくん、早くいこ!」


 ハルさんの引っ張る力は大して強くなかったが、僕はされるがままに体を揺らされる。


「ハルさん、急ぐのはいいですけど財布は持ちましたか?」

「あ、ヤバ!」


 僕の指摘にハルさんが慌てて自分のカバンを探りだす。

 僕は、もう少し揺らされてから言えばよかったなんて考えながら、自分も財布を準備する。


「今度こそ準備おっけーだよ!」


 胸を張ってそう言ったハルさんを先頭にして僕たちは学食へ向かう。

 すると、教室から廊下に出たとことで一人の男子生徒から呼び止められた。


「桂川さん、ちょっといいかな!」


 その男子生徒は、クラスメイトの一人だった。

 彼は、僕のことには目もくれずにハルさんに話しかける。


「この後、時間ある!? 話があるんだけど!」


 彼は慌てている、というよりも緊張した様子だった。

 それに対してハルさんは、いつもの調子で答える。


「お昼食べてからだったらいいよー」


 すると、彼は――。


「だったら、一緒に食べない!?」


 彼がそう言うと、ハルさんは僕の方をちらりと確認してから口を開いた。


「なら、一緒に学食行く?」


 彼は、ようやく僕の方を見るとその顔に複雑な表情を浮かべた。

 どうやら、今まで僕の存在に気付いていなかったらしい。


 無駄に大きくて目立つ僕が、こうして見落とされるのはある意味で新鮮だ。

 ハルさんの存在感がいかに大きいか実感させられる。


「あー、うん。やっぱいいかな……」


 そんな彼の様子を見て、なんとなく察してしまう。

 しかし、僕としてもハルさんとの昼食を譲るつもりはないので助け船などは出さない。


「そっか。じゃ、後でね」


 そう言ってハルさんは彼に手を振りながらその場から離れる。

 僕はハルさんの後を追いながら彼の方に目を向けると彼はやはり複雑な表情で僕の方を見ていた。

 そんな彼に、僕は少し優越感を持ってしまう。

 そして、学食へ移動する間、彼の話題には触れず他愛もない会話をした。


 学食にたどり着くと、その活気に少し圧倒される。

 一年生とおぼしき生徒の数は少なく、上級生の数が多いのも理由の一つだ。


「すごい人だねー」


 ハルさんも驚いているようだったが、その目線の先に捉えられているのがお盆の上に乗った料理であることは明白だ。


 券売機に並びながら僕は高身長を活かして張り出されているメニューを確認する。


「日替わりランチが結構安いですね。ちなみに大盛はプラス50円だそうです」

「そーくん、なんで大盛の値段に触れたの?」


 そう言ったハルさんの声のトーンが少し低い。

 僕は若干の恐れを感じながらハルさんの方を見ると、彼女は恨めしそうな視線を僕に浴びせていた。

 ハルさんが食いしん坊だというのはすでに僕の知るところではあるが、それでもあらためて強調するのは良くないのだと思い知らされる。


「ごめんなさい」

「まったく、乙女心がわかってないんだから」


 それはまさにその通りであった。


 そんなやり取りをしていると、列が進み順番が回って来る。

 僕は、日替わりランチとプリンの食券を2枚購入。

 そしてハルさんは、僕の予想通り日替わりランチの大盛を購入していた。


 僕は口には出さないが、気付いていない振りも無理があるので意味深な視線をハルさんに向ける。

 ハルさんは恥ずかしそうに頬を赤らめると、僕の背中を弱めに小突いた。

 そんな反応をしてくれることが僕はとても嬉しく思う。


 購入した食券を学食のオバちゃんに提示すると、あっという間に日替わりランチが出てきた。

 学食のモットー、“早い・安い・美味い”が垣間見える。


 料理を受け取った僕たちは、空いている席を探す。

 ハルさんは今にも食い付きそうな顔でお盆の上を凝視している。

 早く席を見つけないと愉快なことになりそうだ。


 しかし、学食内は混雑しており複数人掛けのテーブル席は見える範囲では埋まってしまっている。


「困りましたね……」


 僕がそう言うと、料理にしか視線を向けていなかったハルさんがようやくそれ以外に目を向けた。


「そーくん、あそこ空いてる」


 ハルさんが指さした先は窓際のカウンター席だった。

 そこには、お一人様の利用者が多くいたがちょうど二人分の席が空いている。


 僕たちは慌ててそこを確保する。

 僕がお盆を置いて席に座ると、その左隣に座ったハルさんが僕を見て言う。


「お隣さんだね」


 その言葉で僕は気付いた。

 教室でも、家でも、そして学食でも、僕の隣に居るのはハルさんだな、と。


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