呪い…解けたんだね
そして週末…今日は図書館で勉強の日。正直部屋に鍵を掛けて引きこもればそれで良いのだが、イケてる女子の会話が漏れる家に居るだけで精神が保たない気がする。
前日は直ぐに寝て、朝のんびりと起きた。うーんと伸びをして朝食を食べる。姉ちゃんも起きて来て、冷蔵庫から牛乳を取り出して飲み始めた。
「ぷはーっ! 泰人おはよー」
「姉ちゃんおはよ。コップ使ってよ…牛乳パックの口がふやけてんじゃん」
「飲むから良いの。おっ、ゾンビから人間に戻ったか。いや、ゾンビから人間になったのか」
「ゾンビ寄りの人間であって人間よりのゾンビでは無い」
充分な睡眠を取れば、目の隈が消えスッキリとした顔になる。
平日は読書やネットサーフィンに時間を費やすので、あまり寝ないからゾンビ顔になるのだが…実は姉ちゃんに病院送りにされ続けた結果でもある。
まぁ普通は週末に夜更かしをするけれど、俺は逆。
何故か日曜日の夜から木曜日の夜まで夜更かしをする習慣が付いているので、辞めようと思っても辞められないのが現状なのだ。
「んー、なんで泰人って平日はゾンビみたいなんだろうね。呪い?」
「寝ないだけだよ」
平日はゾンビみたいになる呪い。
姉ちゃんは不憫だなぁ…という事を毎週言ってくる。少しずつ治ってはきているんだけれどね。姉ちゃんは俺の微妙な病気を知ったら気に病むのかな。
「じゃあ週末にデートしたらモテるんじゃない?」
「そこに行き着くまでが大変なんだよ。平日にゾンビからデートに誘われるんだぞ?」
「…車持ち上げるくらい大変ね」
「ほぼ無理じゃねえか」
姉ちゃんに友達が来るから早く行けと言われたので、パジャマから服に着替える。夏場なのでラフな格好…図書館で吉野と勉強するだけなので、ジーンズにシャツという適当な感じで良いや。
勉強道具を持って出発。自転車で十五分の道のりをだらだらと進み、図書館に到着した。
……そういえば、高校に入ってから土日にクラスの奴に会うの初めてだなぁ…
中村と源は週末忙しいので、ほとんど平日だけの関係。なので、姉ちゃんに家から追い出される週末は一人が多い。
図書館に入り、借りた本を返す。それから勉強出来るスペースまで行く。開館したばかりなので誰も居なかったから、よく座る端っこの良い場所に座れた。
……そういえば何時集合とか聞いて無かったな…まぁその内来るだろ。
荷物を置いて、本を物色。良さそうな本を見付けたので、吉野が来るまで読んでいた。
「……」
徐々に人がやってくる。一応隣の席を確保しているので、吉野が座れないという事は無いが、中々来ない。
……まぁ、ゾンビとの約束なんて守らなくても心は痛まないだろう。来ようが来まいが別に良いか。
……おっ、吉野っぽいのが来た。
眼鏡に適当な感じの服…晴れた日にチェック柄のシャツとか…心開かない気満々だな。
でも吉野は適当な感じでも可愛い。身長が低く、目がクリッとしているからクラスの男子は守ってあげたいと思っているようだが…既に守護神太田が居る。
「吉野、ここだー」
「あっ、ごめんね遅くなっ……」
「とりあえず座ったら?」
「え? あ、う、うん…」
周りを見渡し、
「呼んだの私、だよね?」
何か困惑している表情の吉野が隣に座る。
凝視してどうしたよ。ゾンビ様だぞ。
「苦手な教科は?」
「数学だけど…」
「じゃあやるか」
「まっ、待って!」
「しー、静かに」
「あっ、ごめん…」
「戸橋、君?」
「なに?」
「ゾンビの戸橋君?」
「だからなに?」
「いつも死にそうで腐った目をしている戸橋君?」
「ひでえな」
普段そう思っていたのか…ショックだぞ。いや腹黒いのは知っているから違和感ないな。
何故かウンウンと私は分かっているよ…と嬉しそうな表情を浮かべている。
「呪いが…解けたんだね。人間に…戻れたんだね!」
「そんな嬉しそうな顔しても、悪口しか言ってないからな」
「ふふふ、私は分かっているよ」
「あー、まぁ良いや。ほらっ、教科書開け」
「うん!」
静かにしなされ。嬉しそうにしているが勉強嫌いじゃなかったか? おっ、クラスの男子がこっちを見ている。これは中村、源以外と話すチャンスか? でも名前知らんな…
「吉野さん…彼氏居たんだ」
何? あっ、行っちゃった。みんなで勉強会したぞという実績が欲しかったが…仲良くなりたいという事は無いから良いか。
「吉野って太田と仲良いよな」
「中学から一緒だからねー…って戸橋君も同じ中学じゃん」
「そういえばそうだな、でも吉野とまともに喋ったの今日が初めてだし」
「えー中学一緒だったんだからもっと喋ってるよー。えーっと…えー…あれ? 視界の隅に居るゾンビしか出てこない」
「記憶に残っているだけましだな。さっ、続きやるぞ」