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ゴリラは封印されし力を解き放つ。

 


「なぁ源、知っているか? ゴリラって空気中の成分からアミノ酸を作るから筋肉ムキムキなんだぜ」

「それはゴリラに限った事では無いが、言いたい事は解るぞ。いつも中村の鼻息が荒い謎の解明だな」


 姉ちゃんが家を出てから、俺も家を出た時に中学から付き合いのある源蓮司(みなもとれんじ)が待っていた。

 そしてもう一人、同じく中学から付き合いのある中村勇作(なかむらゆうさく)と合流し、三人で高校に向かっていたのだが……



 今、空き地の草むらを前にして俺と源は立ち尽くしている。


「ぐっ…うぅ…」


 そして、草むらの中でうめき声に似た声を発するゴリラみたいな男…中村を眺めていた。

 中村は身体が大きく坊主頭。後ろ姿がゴリラみたいと言われゴリラで定着している。


「なぁ…早く行こうぜ」

「……戸橋、中村は封印されし力を解き放っているんだ。俺達は目を背けてはいけない! 今こそゴリラ覚醒を目の当たりにする瞬間だ!」


 源が中村を見詰めて真剣な表情で俺に助言する。いや…遅刻するぞ。

 源のあだ名はサイコ。メガネを掛けた線の細い男だが、普通に顔が格好良い。簡単に言うとオタクだ。

 最初はマッドサイエンティストのマッドだったが、高校に入ってサイコパスと言われてからサイコで定着している。



「ぐおおおぉ!」


 ――パーン!!


 破裂音と共に、中村の封印されし力が解き放たれた。


 パーンパーンパーン…住宅街に響き渡る破裂音が、山彦の様に反響した。


「…」

「…戸橋…ゴリラが…覚醒…した…くっ…」


 俺の肩に手を置き、笑いをこらえウンウンと噛み締める様に頷く源。メガネがあらぬ方向に向くほど笑いをこらえていた。


 俺は初めて見る光景に。


「……目の前で堂々と野グソしているヤツ初めて見た」


 素直な感想をこぼした。

 そう、中村は野グソをしている。

 学校に向かう途中でいきなり大声で…

『大変だ! おまいら付いて来い!』

 と叫び、空き地の草むらに到着したのが冒頭。


「しかも…くくっ…なんだよパーン! って…初めて聞いたぞ…くっ…その効果音」


「…くっ…言うな戸橋…流石にパーン! は予想外…流石ゴリぶはぁ!」


「ひゃひゃ! 腹痛え!」

「本能覚醒しとぅあはははは!」


 予想外の効果音に堪えきれなかった……俺と源は腹を抱えて悶絶。過呼吸になるんじゃないかと思った。なんだよ…パーン! って……


 笑っている間に中村が草むらから帰還した。

 中村の表情…今感じている春の陽気のように優しく、悟りを開いた高僧のように穏やかな…そして晴れやかな顔をしていた。


「はぁースッキリした。なんだよお前ら笑って……ウンコは撃つモノだろ?」


「一般市民は撃たねぇよ! 誰を狙撃するんだ! 便器か? 地球か!? メスゴリラか!?」


「気になるあの子だな」

「一生嫌われるぞ!」


 俺と源を待たせておいて、悪びれも無く鼻をほじっている中村を殴ってやりたいが……まてよ……こいつ、ケツ拭いたのか?

 ティッシュを持っているようなタイプでは無い。ハンカチなら尚更だ。

 手は汚れていない…


「中村、ケツ拭いたのか?」

「もちろん拭いたぞ」


「ティッシュ持っていたのか」

「は? ティッシュなんて持ってねえよ。知っているか? 紙の原料は植物なんだぞ」


 草でケツ拭いたのか…益々ゴリラだな。

 ゴリラ事態草でケツを拭くのかなんて、至極どうでも良い事を考えていると、源がメガネをクイッと上げ…気になるあの子…と呟いた。

 それ、俺も気になったけれどケツ拭き問題の方が最優先だったから忘れていたよ。


「中村…好きな人居るのか?」

「好きな人じゃないけど、可愛いと思う人は居るぞ」


「誰?」

「吉野さん」


「吉野? あぁ、プリチーミンチアに出てくるひき肉ブルーに似ている子ね」

「なにそれ、青いひき肉とか腐ってそうだな」


 誰も得をしない会話を繰り広げていると、中村が時計を見て急に歩き出した。どうした?

 俺と源が首を傾げていると、振り返る中村がキメ顔で口を開いた。


「なぁ、そろそろ学校行かないと遅刻するぞ」

「誰のせいだよ、ウンコ撃ちやがって」


「え? じゃあ中村はひき肉ブルーに撃つのか?」

「源、思い出すと噴くから話を戻すな。俺は吉野を直視出来なくなる」


 遅刻はまずい。行くぞ行くぞ。

 少し小走りで更江高校へ向かう。

 学校では三人共に真面目だから遅刻はしたくない。いわゆるイケてないグループに属するので、ギリギリに到着なんて目立ちたくも無い。


 鐘が鳴る前に1年1組の教室に入り、なんとか遅刻せずに済んだ。それぞれの微妙に離れた席に座る。俺は廊下側の先頭、中村はど真ん中、源は中心の一番後ろの席。

 先週末に入学最初の学力テストが終わって、その後に席替えがあった。出席番号の席が良かったな…一番後ろだったから。


「はぁー、疲れたー」

「おはようゾンビ。遅かったね」


「よぉ、太田。中村が…もたもたしていたんだよ」


 後ろの席に座っている女子、太田杏里(おおたあんり)に話し掛けられた。

 太田は中村を女装させた様なガタイを持ち、柔道で全国大会に行くような実力者。もちろん強者の貫禄がある。このクラスで一番強い女子。

 あだ名はタイタン。中学の時から源の事が好き。それはもう丸わかりなので源が脅える存在だ。



 やがて担任の先生が入ってきて出席を取る。

 出席を取り終わると、真剣な表情で話し始めた。


「みんな、良く聞いてくれ。警察から連絡があって…今朝、三丁目で謎の発砲音が鳴り響いたという通報があったらしい。まぁ爆竹の可能性もあるが、帰り道は出来るだけ1人で帰らず、気を付ける様に」


 教室内が少しざわめく。銃を持った奴が居るかもしれない、怖い、などなど聞こえて来る。

 話題は銃の話で持ち切りだけれど…

 銃って…銃ってやべえ……駄目だ…さっき笑い過ぎて腹痛え…


 三丁目は…丁度中村が封印されし力を解放した場所。人気の無い場所だから、誰にも見られなかったのは幸いか。


 あぁ……駄目だ……これは耐えるのに必死にならなければならない。今朝のパーン! は衝撃的な過ぎる……

 ゴリラ中村が犯人だと言いたい。物凄く言いたいが我慢。

 その葛藤に支配された。


 周りのざわめきを聞いたマイペースな中村が、一人で呟いたのが耳に入ってしまった。


「…怖いな。発砲音って事は銃だろ…まじかよ」


 やめろ! お前は喋るな! なんだよその真剣な表情は! 犯人はお前だよ!


 中村…お前は凄いよ……笑いを堪えて堪えて…でも気になったから後ろを見る。ボケーっとする中村の後方、源に目をやった。


「――!」


 源は中村を指差して爆笑していた。

 無音で。


 お前もすげえな!


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