俺も可愛い姉ちゃん欲しい
「なぁ源、俺も可愛い姉ちゃん欲しい」
「中村、100万円貯めたら一ヶ月くらい可愛い姉ちゃん出来ると思うぞ」
「そうか、バイト頑張るわ」
「おまいら…速い」
帰り道。学校の敷地を出て、夕方になっても暖かいコンクリートの上を雑談しながら歩いているのだが、俺達三人は早歩きだ。
それは後方に太田、吉野が居る為。太田を怖がる源が先陣を切り、それを俺と中村が追いかけている。
「ゾンビは勉強教えるの上手かった?」
「うん! また教えて貰うの!」
早歩きで進んでいるのに、後方との距離が広がらない。焦る源はギアを一段階上げる。
しかし睡眠不足の俺は息切れしていた。
「はぁ、はぁ…おまいら、俺はもうダメだ…」
「戸橋! 諦めるな! まだ半分だぞ!」
「この事件現場を過ぎればビクトリーロードだ!」
「くっ…やめろ…笑かすな…ゲホッ…グホッ」
アホか…むせてしまったじゃねえか。振り返る中村と源。その表情には焦燥感が見える。しかし歩みを止めない。歩みを止めると、源が太田に抱き締められてしまうからだ。
「「戸橋ー!」」
「ゲホッ…俺の事は気にするな! 先に行けー!」
「くっ、行くぞ中村!」
「戸橋! 絶対、生きて帰るんだぞ!」
「ゾンビだから死んでんじゃね?」
「まぁ、それもそうか」
「じゃあなーおまいら」
「「また明日ー」」
呼吸を整え、ゆっくりと起き上がる。すると太陽を遮る大きな影と小さな影が俺の目の前に立ち塞がった。
「三人共、仲良いねー」
「ゾンビ、大丈夫か?」
「ああ、いつもの遊びだ。太田、源が行ってしまうぞ」
「杏里ちゃん、先行って良いよー」
「うん! 後でね!」
太田と吉野は勉強会をする様だ。俺と吉野はドスドスいう太田を眺めながら歩き出す。
「あぁ、絶対明日筋肉痛だ…」
「戸橋君運動しないの?」
「…する事はするけれど…姉ちゃんのサンドバッグになるから最近はしてないな」
「私も運動不足だから、今度一緒にランニングしない?」
「運動かぁ…」
俺は帰宅部。小学校の時は姉ちゃんと一緒に空手を習ったが、先生と反りが合わずに辞めている。まぁ姉ちゃんに嫌という程に殴られているので身を守る術はあるが。
「吉野は彼氏と走れば良いだろ。俺はその内やるよ」
「ん? 彼氏居ないよ?」
「そうなのか? 源が言っていたぞ。吉野に彼氏が居るって噂が男子中に流れてるって」
「えー…なんでそんな噂…」
でも居ないと言って居るパターンもあるって姉ちゃん言ってたな。吉野は腹黒いから解らない。
でも勝手に噂を流され、吉野はムスッと口を尖らせていた。なんか小動物みたいで可愛い。
「そうだ。倉田さんと何か話してなかった?」
「あぁ、話したと言えば話したか?」
「…何話したの?」
出掛けるって言うと倉田が嫌がるかな? 目立ちたくなさそうだし…
「まぁ…雑談だ」
「…その雑談は何話したの?」
「言うほどの事じゃないけど…」
「…言うほどの事じゃないなら言えるよね?」
「…そんなに気になるの?」
「ほっ、ほら。学年1位と2位の会話って気になるじゃん!」
俺はテストで学年1位。倉田は2位。だから気になると言うが、出掛けると言えば何か嫌な予感がしたので適当に話した。
「俺が適当に喋って倉田が頷くだけだぞ?」
「えー…でも倉田さんの口元…(倉田さんは絶対笑わないと思っていたのに…戸橋君が笑う様な事を言ったんだ…気になる。凄く気になる)」
「じゃ、じゃあまた明日」
「…連絡するね」
家に着いたので、逃げる様に家の中へ。そこに玄関で姉ちゃんが待ち受けていた。帰るの早くね? 暇なのか?
「ただいまー…姉ちゃんどうしたの?」
「律子が言ってたけど、土曜日出掛けるの?」
「ああ、出掛ける」
「そんな…お昼どうしたら良いのよ!」
「…作っとくよ」
「あら素直ね。じゃあよろしくー」
はぁ…不安だ。




