どうしよう…
……どうしよう。
今、俺はお風呂に入っている。
「ふふふ…」
律子さんと共に。
もちろん俺に律子さんと対面する勇気は無いので、背中合わせになってお風呂に入っている訳だが…狭い。
背中は時折触れている…三角座りをギュッとし過ぎて苦しい。
…もうドキドキしすぎて胸が痛い。
鼓動が激しく鳴っているので、確実に律子さんに鼓動が伝わっている。それを思うと更に鼓動が激しくなる。
「やすと君、ドキドキしてる」
「そ、そりゃしますよ。こんな事初めてですし…のぼせるんで出たいんですけど…」
「…分かったよ」
水の滴る音と共に律子さんが立ち上がる。良かった…やっと解放される…その滴るお湯が欲しいと思ってしまうのは変態なのか……あれ? また入った?
「っ!」
う…わ…後ろから抱き締められた…
立ち上がったのは身体の向きを変えただけだったのか。
「私もドキドキしてるよ?」
律子さんの身体が背中に押し付けられ、柔らかい物が2つ当たる感覚。
確かにドキドキしている。つい背中に意識を集中してしまうが、硬直して動けない。どうしたら良いんだ…全く解らない…
「…良い身体」
律子さんの顔が直ぐ横にあり、至近距離で見詰められていた。
汗が止まらない。目に汗が入って痛い。のぼせそう…
「汗、かいてるね」
律子さんが手に持っていたタオルで顔を拭いてくれたけれど、早く出ていって欲しい。精神が保たない! でも出ていってなんて言えない!
思考ばかり暴走している内にドンドン汗が出てくる。
そして、首筋に柔らかいものが這う感覚…なに? 舐められた…だと…
「ふぁふ…何するんすかぁ」
「ふふふ…のぼせるから出よっか」
今度こそ律子さんが立ち上がり、ご機嫌な様子を背中で感じる。……足音から風呂場から出ていくのが解った。
扉が閉まり、チラリと扉を見ると、すりガラスの向こうで律子さんが身体を拭いている。下着を着け、脱衣所から出ていくのを確認したのでお風呂から立ち上がった。
そして下半身を見ると、バッチリ身体は正直だった。
「どないしょ」
とりあえず少し経ってから、そーっとお風呂場から出て身体を拭く。落ち着かない下半身にドウドウ言いながら。
脱衣所の中でパジャマに着替え、ドライヤーで髪を乾かしながら歯を磨く。時間を稼ぐが、律子さんが扉の向こうで待っている予感がしてならない。
「無心だ、無心」
そして、脱衣所から出ると誰も居なかった。ホッと一息付くが、少し残念に思う自分も居る。ヘタレておいてなんだってんだ俺は…
気持ちを冷やす様に水を飲み、トイレに行ってから真っ暗な自分の部屋へ。
もしかしたら俺の部屋に居るかも…と思ったが、居る様子は無い。ホッとしたような、残念なような…
付きっぱなしのパソコンを消して、ベッドに入る。
「…眠れねぇ」
姉ちゃんと琴美さんが居なかったら、間違いなく陥落していた。
なんだよあの色気は…
――ピロリン。
ん? トーク…誰から?
律『さっきはごめんね。てへっ』
……俺のID教えたっけ?
まぁ良いか…でも、なんて返信すれば良いんだ?
御馳走様は違う…文句も違う…
泰『いえ…ビックリしましたが、良い経験をありがとうございました』
律『また入ろうね!』
いや、過去形にしてもう終わりを表現したんだけれど…
泰『機会があれば…』
律『じゃあまた泊まる日ね! 眠れないから行って良い?』
泰『それは…勘弁して下さい』
律『なんで?』
なんで? だけ送られると物凄く怖い。
ってこれは早く返信しないとヤバい!
泰『好きな人居るんですみません!』
律『お風呂一緒に入ったじゃん。一緒に寝る方が簡単だよ♪』
泰『順序がありますし』
律『お風呂に入って寝る…しっかりした順序だね♪』
くそぉ…どないすりゃ良いんだ…
このままではこっちに来てしまう。いや、別に来ても大歓迎なんだけれど、流石に…ねぇ。
泰『今日のところは、勘弁して下さい! お互い本気になったらにしましょう!』
正直に言おう。律子さんも勢いな部分がある筈だ。俺のドキドキは好きというより、緊張のドキドキだから。
律『ふふふ、そうだね。私、焦っちゃったみたい…ありがとね』
泰『はい、ではまた明日。おやすみなさい』
律『おやすみー』
うぉっ…ハートマークなんて初めて貰った。
なんとか…正解だったみたいだけれど……このまま好きになってしまうんだろうな。




