十六台の自転車(二)
赤松先生に注意してもらったら大丈夫と思っていたら
次の日も奴らはやって来た。家の前が自電車で埋め尽くされる。
谷山中学校に電話をした。
「赤松先生、また今日もいっぱい来ています
それに、うちでタバコを吸っている子もいて私が注意するとベランダ逃げるのです。
怒っても全然聞いてくれません」
「分かりました。すぐ行きます」
それから30分後、赤松先生と、加島先生が自転車で駆けつけて来た。
「こんにちは、どうも 赤松です。」
「あぁ赤松先生、
お忙しい中来てくれてありがとうございます。加島先生もありがとうございます。
助かります。どうぞおあがりください」
私は、ぱっと赤松先生の頭を見てしまっていた。綺麗な五分刈りだった。
「ああ、僕は家が寺なんですよ」
「ええ?お寺の住職さん?お坊さんですか?」
「はい、今は教員ですけど」
「じゃあ、いずれはお寺を継ぐのですね」
「はい、おそらくそういうことになるでしょうね
では優太の部屋にちょっとお邪魔します」
その頃ちょうど私は近所の葬儀屋さんでアルバイトをしていた。
いつも色々な宗派のお坊さんを見ているので赤松先生がお経をあげている姿がさぁっと浮かんできた。
先生は息子の三階の部屋まで来てくれた。
「こら~君達そんなに大人数押し寄せたら
優太のお母さんにもご近所さんにも大変な迷惑がかかるだろ。
それくらい考えろ。
ここは、平野の家やで。生活の場所や。わかるやろ?君らの遊び場やないで。
はい、みんな撤収、外に行くか自分の家に帰りなさい」
「う~わ、なんやねん、せっかく遊んでるのに
赤松せっこいわ~邪魔すんなや」
とブツブツ言って、みんな文句を言いながら散らばって行った。
優太は友達を追い出されぶすっとしていた。
皆を追い出した後
「お母さんこりゃ、毎日大変ですね」
「そうなんです、いくら言っても聞いてくれなくて好き放題、たまり場にされているんです。
優太も悪いんです。家にいれるから。
雨風をしのげて冷暖房完備でトイレもある。
お腹がすけばすぐコンビニに行って好きなものを買って食べる。みんな結構お金持っているみたいです。
一日千円位は余裕で使っているみたいですよ。
何で、こんなことばかりするのか。真面目に部活や勉強している子もいるのに
ここに来る子は来る事が日課になっていて、私も仕事で毎日いないし大変困ります」
「困りましたね、いくら言って聞かないとは深刻な問題ですね」
と話していると、優太が赤松先生の前に来て、
「赤松、せこいんじゃ、何しに来たんや?邪魔するな」
声を荒立てて怒鳴った。
「優太、お母さんに迷惑かけたらあかんやろ、ちゃんと学校に出てこい」
「うるさいんじゃ、黙れ!」
「何が不満なんや」
優太は私を指さしてこう言った。
「こいつ、ご飯作ってくれへんねん、ちゃんとめし作れや」
「ほう、ご飯食べてないんか?
それは大変なことやな。
でも、おかしいなあ、お前生きてるやないか。
ご飯食べてなかったら、とっくに弱ってるやろ。
何で今まで生きて来れてるねん?
ちゃんと声も出てるし元気そうやないか
何も食べてないってことはないやろう。
今生きているって事はご飯を食べているからやろ?
食べてなかったらとっくに、ガリガリにやせ細っているのと違うか?」
「うるさいんじゃ、黙れ、黙れ~ ちゃんと飯作れ」
と泣きながら叫んだ。
ご飯は、決してごちそうではないが作っている。作れない時はお金を渡している。
「あんた、一体何言うてるの、作ってるやないの、ラップしていつもここに置いているやろ」
そりゃごちそうは作ってないけど、
もっとすごいごちそうが食べたいんか?
「うるさい、黙れ 黙れ」
優太は泣きながらわめいた。
加島先生もかなり怒っていた。
「優太、これ以上もういい加減にしろ
お母さんになんて口の利き方するんだ。謝れ」
「加島、まぁまぁ、落ち着いて」
優太は泣いて自分の部屋に戻った。
「先生、ほんとうにすみませんでした。
みんなこれでもう来ませんかね」
「そうですね、まだわかりませんね。奴らは注意しても全く聞いてませんからね。
また、来るかもしれません。まあ、様子を見ながら行きましょう。
おかあさん今日は、これで失礼します。また何かあればお電話ください」
「赤松先生、加島先生、お忙しいのに今日は来てくださってありがとうございました」
赤松先生と加島先生は帰って行った。