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異世界、それは自らが認識する世界とは異なる世界。
日常が非日常となり、非日常が日常となる世界。
今までの常識が通用せず、異なる法則が支配する世界。
そんな世界に、オレは誘われた。
『ミーン、ミーーン、ミーン』
その日は、朝からうるさい蝉の鳴き声にたたき起こさた。
汗ばんだシャツに不快感を感じ、朝食を取る気にもならず着替えてすぐに家を出た。
いつもどおり遅刻する時間ギリギリに学校へ到着し、自分の教室に入り席につく。
なにも変わらない普段どおりの日常。
時たまクラスメートが此方の様子を伺うが会話することはない。
一年ほど前からずっとこんな調子だ。
午前の授業が終わり昼休み、購買に寄ってから屋上へと向かう。
屋上へは机で作られたバリケードを乗り越え、2m程の高さにあるハシゴを登り扉を押し上げなければ行くことが出来ない。
当然、普段から禁止されているこの場所に他人が来ることはない。
だから屋根付きベンチがあるこの場所は、天候に左右されず、オレのお気に入りスポットになっている。
屋上でぼんやりと空を見上げるこの時間が一番心休まる。
何も考えず頭を空っぽにし、精神を落ち着かせる。
普段どおりの日常がこのまま過ぎ去っていくはずだった。そうこの時までは。
突然、周囲から音が消える。
「いったい、何が」
ふと、呟くと自分の声さえも聞こえないことに気付く。
突然の振動に、周囲を確認すると、校舎が地面から離れ浮いている。
頭上に気配を感じ、ふと見上げれば校舎を丸々吞み込めそうな巨大で真っ黒な円が出来ているではないか。
そしてその円に徐々に引き寄せられているのが分かる。
逃げようにも、既に足は地面から離れてしまっている。
為されるがままに身を任せて、身体が黒円をくぐり抜けた瞬間、オレの意識はそこで途絶えた。