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分かたれた双星と白金の機神  作者: 侍射得乃沙
第一章 黒き獣の氾濫
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第8話 黒い獣

 



次の日の朝、トゥルシールの街は建設以来の慌しさに溢れていた。ずらりと並んだ避難民の馬車を率いたエフィとリアが、名残惜しそうに何度もこちらを振り向きながら、王都方面の門を出て行く。

俺達はもう一度、必ず会おうと心に誓いながら見送った。

 避難が完了したのを確認した俺達は、すぐさま迎撃の準備に移った。

 山側の城門の外に<イズル>十五機を並べ、弩弓を構える。一機に付き二十発のボルトを用意していた。

 ランディさんは全てを見届けるのが私の役目だと主張し、城壁にある物見部屋で山脈を睨んでいる。

 俺や、マルク、ジェイスさんは<イズル>の射線を塞がない位置で、それぞれ待機していた。

 俺はすでに半一体化を済ませている。いつでも全力で動けるようにしておかないとな。

 街には極力近づけたく無かったのだが、十五機の<従士型(アルリード)>の戦力を余さずに使うには、山の中では無理あり、ある程度の広さが有る場所だと街の付近しかなかったのである。


「来たぞ。ジェイス!」


 物見部屋で遠見眼を使っていたランディさんがジェイスさんに呼びかけた。


「全員、戦闘準備だ。<イズル>隊は弩弓を構えよ!」


 <イズル>隊が一斉に弩弓を前方に構えた。俺達の間に緊張が走る。

 そして遂に二十匹もの大型魔獣が姿を現したのだ。その威容は軍隊が攻めてきたに匹敵するだろう。

 図らずも俺の額に汗が流れた。その真ん中には自然では有り得ない黒い色をした大型魔獣が居た。

 元は狼だったのだろうか。だがそいつは狼男のように二足歩行をし、その顔には醜悪に擬人化したような表情が張り付いていた。ああ、確かにあの黒い恐竜と同類だ。

 ずらりと並んだ<イズル>に一瞬躊躇した獣達だが、蹴散らせると判断したのか、一斉にこちらに向かってきた。

 ジェイスさんはすぐに攻撃命令を出さずに、引き付ける算段のようだ。大地を轟かせる獣達の音だけが響く。


「よし、<イズル>隊、撃て!」


 命令がはしり、<イズル>隊の発射した弩弓の音が、獣達の足音を消した。

 十五本のボルトが風を切り、獣達に吸い込まれる。ボルトが刺さった数匹の獣が叫び声を上げ、その場で倒れ込み他の獣もそれに巻き込まれて、団子のように転がった。

 よし、うまくいったぞ。


「次弾装填せよ!」


 一糸乱れぬ動きでリロードを終わらせ、もう一度、一斉射。それを計四回繰り返した時には、獣達にかなり接近を許してしまった。弩弓で仕留められた獣の数は八匹だ。<従士型(アルリード)>の戦果としては破格だろう。


「我らが前に出る!<イズル>隊は散開、後に各個の判断で我らを援護せよ!」


 ジェイスさんの命令で、<イズル>隊はバラバラに分かれた。そして俺とマルクはジェイスさんと共に獣の集団の前に躍り出た。

 生き残った魔獣達は無傷な者は無く、身体のどこかには数本のボルトを生やせていた。

 ただ、あの黒い魔獣だけは少し後方にいたからなのか、傷一つ付いていない。

 まあ、仮に弩弓で撃たれていたとしても、傷が付いたか怪しいもんだが。


「オーキ、君の死角は僕が守るから、君は攻撃に専念してくれ!」

「了解!」


 俺は防御を省みずに剣を振るった。まずは目の前にいる猪の魔獣の首を切り飛ばす。

 その隙を突いて山猫の魔獣が俺に襲い掛かるが、マルクの<タルシス>が盾で防ぎ、返しに剣で魔獣を切り裂いた。

 ジェイスさんは、少し離れた場所で両手斧を振り回し魔獣を牽制し、それで足が止まった魔獣に散開した<イズル>から弩弓の攻撃が飛んでいた。

 やはり、少なからず負傷した獣達は動きが鈍くなっている。これならなんとか行けそうだ。問題はあの黒い魔獣だけか。

 

「何か今日は機体の動きが軽い。これなら行けそうだ」


 マルクが盾を構えながら呟いている。確かにいつもより動きに切れがあるな。

 ジェイスさんの方も絶好調のようだ。反応速度が段違いに上がっているのが見て取れる。

 <イズル>隊の皆も<従士型>とは思えない程、機敏な動きで獣を翻弄していた。

 こういう不可思議な現象の原因は、この場ではこいつしかいないだろう。


(おい、アスタス。お前、何かしたのかよ?)

 

 俺が頭の中で問いかけると、すぐに答えが返ってきた。


《うむ、我が属性は<将の器>。我の本領は軍勢を率いた時にこそ発揮されるのだ》


 凄く、自慢げに語りかけてくる。よほど自身の力を自慢したかったようだ。こいつにもこんな人間臭い一面があったんだな。


(じゃあ、お前がマルク達に力を貸してくれてるって事でいいんだな)

《然り、<将の器>は戦場の戦意を糧に汲み上げた力を駆動機を通して流し込みその機体の能力を向上させる事が出来る。白金第二位の<王の器>と比べれば影響範囲は狭いが戦術的観点から言えば我が<将の器>のほうが有用と言えよう》

 

 ムンッと胸を張っているのが解かるような口調で語るアスタス。俺はこいつの事をこの世界の事を何でも知っている、賢者的な存在と少し思っていたのだが、どうやらその印象を修正しなければならないようだ。

 主に下のほうに。そういや、教えて貰ったは良いが、数百年前の知識で今では違っているとかあったか。間が抜けた所が有るのは前からだったか。

 

 俺達は連携しながら、一匹づつ順調に獣達を狩っていく。<イズル>隊の人達も付かず離れずの絶妙な距離で牽制と援護をしてくれている。

 俺は迫り来る犬の魔獣を切り伏せながら、黒い魔獣を視界に捕らえるが、奴は厭らしい笑みを浮かべたまま、自分の群れが減っていくのを黙ってみていた。

 ジェイスさんの両手斧が、弩弓のボルトが刺さって動きを止めた山羊の魔獣を切り裂いた。

 魔獣はそのまま自らが流した血の海に沈み倒れ伏す。これで、この場で動いているのは俺達と黒い獣だけとなった。

 <イズル>隊は手持ちのボルトをほぼ打ち尽くし十五機の内、九機が行動不能な損傷を受けている。

 俺のアスタスとマルク、ジェイスさんの<タルシス>は多少の損傷はあるが、まだ戦闘に支障が出ない程度のものだ。

 俺達は残った黒い獣と対峙する。相変わらず、その顔には厭らしい笑みが浮かんでいる。

 動く事の出来る<イズル>隊が、一斉に残っているボルトを黒い獣目掛けて正射した。

 そのタイミングに合わせて、ジェイスさんの<タルシス>が両手斧で切り伏せに掛かった。俺は咄嗟に止めようとするが間に合わない。

 いかな大型魔獣とは言え、普通ならば抗える事なく狩られていただろう。そう普通なら。

 黒い獣は避ける事すらせず、攻撃を無防備に受けた。


「なっ?!」


 ジェイスさんが驚愕の声を上げた。自分の目が信じられないのだろう。まあ、その気持ちは分かる。

 鋭い音を立てて飛んできたボルトは、刺さる事無く黒い毛皮に弾かれて地面に転がり、自分は振るった斧はその身を切り裂く所か、毛皮の毛一本すら切れずに刃が欠け斧自身にヒビが走っていたのだ。

 微動だにせず立っていた黒い獣がニンマリと嗤い、斧を振り下ろしたまま固まっている<タルシス>を全力で殴りつけた。

 四mの巨体が真横に吹っ飛び、城壁に叩きつけられる。城壁を破壊し尻餅を付いた状態の<タルシス>はそのまま反応がなく、ジェイスさんが気絶したのか駆動音が停止していた。

 その光景に<イズル>隊とマルクが呆然としている。やはりこいつは一筋縄ではいかないようだ。


(おい、アスタス。準備はいいか)

《うむ、戦意は十分集まった。あとは<参式理法兵装>を展開すれば理法の封印は解く事が出来る》

(そのなんとか兵装ってのが、何かは知らないけどやるぞ)

《<参式理法兵装>だ。だがこれを展開するには一分はかかる。その間は無防備となるぞ》


 ならば、俺は友を信じるだけだ。俺は隣で呆然としているマルクに語りかけた。


「マルク、一分間だけでいい。なんとか奴の気を引いてくれないか。そうすれば後は俺がなんとかする」


 呆然としていたマルクはハッと我に返ったように、<タルシス>の頭部をこちらに向けた。そしてすぐに決意に満ちた返事が返ってきた。


「わかった。たとえこの身がどうなろうとも、必ず一分間持たせてみせる」


 マルクの<タルシス>は盾で全身を覆い隠すように構え、俺を隠すように黒い獣の眼前に踊り出た。

 いかに防御に優れた盾を装備した<タルシス>でも、あの黒い獣の一撃を貰えばただでは済まない。そう判断したマルクは攻撃を捨て、防御に集中する。

 黒い獣は羽虫を払う様に<タルシス>に腕を振るうが、マルクは盾でその衝撃を受け流した。凄まじい衝撃に冷や汗を流しながら、マルクは眼前の黒い獣を睨み、ここを必ず死守すると覚悟を決めていた。


「良し、やるぞアスタス」

 

 俺もあいつの覚悟に答えてやろう。そしてアスタスが厳かに俺に告げてきた。


《本来ならそんな事はないのだが今回は封印されている所を無理矢理こじ開けるのだ。かなりの痛みがある事を覚悟せよ。<参式理法兵装>起動》


 <アスタス・クシェール>の背後に理力で出来た直径五mほどの大円陣が出現した。そしてそれに伴い俺の身体を突き抜けるような痛みが走った。


「がああぁぁぁ!!」


 痛い、いたい、いたい!!!身体の中を焼きゴテでかき回されたような痛みが全身を蝕む。ともすれば痛みに気を失いそうになる意識を、俺は歯を食いしばって耐える。親しい人達を失う事に比べれば、これくらいの痛みがなんだってんだ!



ランディ視点



 私は城壁の上からそれを眺めていた。足が竦みそうになるほどの大型魔獣の群れが目の前にいる。その威容を前にして誰一人逃げる事なく、戦意を漲らせている我が街を守る戦士達を私は手放しで賞賛したい。

 そして彼らは日頃の訓練の賜物のように一糸乱れぬ動きで、弩弓を正射した。

 戦果は大型魔獣を八匹も仕留めるという快挙を成し遂げた。まさか<従士型(アルリード)>が大型魔獣を倒すなどと誰が想像しただろう。 

 これで弩弓の有用性は証明された。この戦いを生き残れたなら、陛下に正式採用をお薦めしなければな。

 私の眼下では、みなが大型魔獣相手に一歩も引かずに奮戦している。

 灰色の<理晶騎(セイルリード)>が臆する事無く、獣達に切り込み魔獣を蹴散らしていた。

 オーキ・マサカリ、この私の命の恩人は不思議な男だった。記憶を無くし自身の過去がまったく分からないと言いながら、私達が知りえない知識を持っている。

 弩弓の設計などを提案し、ヘイヴァスや整備士達とも仲が良く、男親として複雑だが、エフィも彼の事を好いている。

 この所の我が娘の彼への露骨なアプローチは見ていて、頭を抱えたくなると同時に微笑ましいものだった。

 ここ数週間の付き合いだが、彼が悪い人間で無いのは、悪意が分かる以前の問題で理解している。

 普段は少し気の弱い所もあるが、いざと言う時にここまで頼りになる人間もそうは居まい。

 願わくば、我が娘の初恋が成就しますように。

 私がそんな事を考えている間に、魔獣の群れは残す所、黒い魔獣一匹となっていた。

 これで終わったかと安堵していた私は次の瞬間、目を疑った。


「ばかな……」

  

 数本の弩弓のボルトが襲い掛かり、ジェイスの駆る<タルシス>の斧が直撃したというのに、黒い魔獣は傷一つ負ってなかった。それどころか、<タルシス>を吹き飛ばし城壁に叩き付けたのだ。

 城壁は破損し、その衝撃の揺れで私は立っていられず這い蹲った。

 なんだあれは?群れを率いているというからただの魔獣ではないと思っていたが、あれは異常すぎる。

 震える身体を起こし、私は下を覗いた。そこでは防御に徹したマルレイク君の<タルシス>が、懸命に黒い魔獣の攻撃を防いでいた。

 だが、私の目はその後ろにいる灰色の<理晶騎>に釘付けになってしまう。

 オーキ君の愛機<アスタス・クシェール>の背後には、見た事もない大きさの理法で扱う円陣が展開していたのだ。

 機体全体が大量の理力を纏い、光輝いている。部分、部分の装甲が盛り上がり、その隙間から熱気が排気されているように見える。

 異変に気づいた黒い魔獣が<アスタス・クシェール>を狙おうとするが、マルレイク君が必死になって、それを阻止している。

 やがて光が収まり、開いていた装甲が閉じた<アスタス・クシェール>が持っていた剣を投げ捨てた。

 だが良く見ると、灰色だったその装甲が、篭手の部分だけ白色に変化している。

 <アスタス・クシェール>が手を前に突き出し、そこに現れたのは理法の円陣。馬鹿な。<アスタス・クシェール>はどう見ても<騎士型(ナイトリード)>だ。

 それが<理法士型(センスリード)>のように理法を扱うなど不可能なのだ。


「まさか、<源将騎(エルドセイル)>なのか……」


 だが、現存する<源将騎(エルドセイル)>はそれぞれの国で国宝として扱われている。

 それぞれの王が特別な式典などで騎乗する以外は厳重に保管されている。国外に出す事など無いはず。

 ましてや他国の山中で災害に巻き込まれるなど、ありえない。だが目の前では実際に理法が展開されようとしているのだ。

 私は興奮するのを抑えられないまま、凝視していた。






 永遠に続くかと思われた痛みに耐えた俺にアスタスの声が聞こえた。


《これで封印は解かれたはずだ。我は力を使い果たした故また眠ることにする。あとは汝次第だ……》


 力尽きたように声が消えた。ああ、ここまでお膳立てをしてもらったんだ。負ける訳にはいかないよな。

 俺は痛みに耐えて汗でべっとりとしている身体に鞭打って、気持ちを奮い立たせた。

 マルクは俺との約束通りに黒い獣相手に踏ん張ってくれている。その巧みな盾捌きは見事なものだ。

 

「<我、疾く、閃しれ>」


 前に使った、身体強化の理法(センシス)を己に施した。というか、これと後は<破理の剣>しか知らないんだよな。

 また今度エフィにでも教えてもらうかね。そして俺が扱える最も強い武器を紡ぎだす。


「<我、掴む、理力の刃金、不滅の聖約>」


 左手の掌に円陣が展開して、理力(セイル)で出来た柄が出る。


「<抜剣、破理の剣>!」


 所狭しと猛り狂った純粋な理力で出来た刀身を抜き放つ。やはり完全な状態ではないのか、前に比べて内包された力が少ない気がするが、こいつ相手なら充分だろう。俺は直感でそう判断する。


「マルク、助かった。後は俺に任せてくれ!」


 呼びかけと同時に俺は黒い獣目掛けて駆けた。マルクは黒い獣の攻撃を盾で一度受け流した後、すぐに後退した。近くで見ると、盾はかなりひしゃげており、所々ヒビが走っている。

 <タルシス>のほうも盾を支え続けた左腕が、負荷に耐え切れずに煙が出ている。まさに満身創痍だ。


「お前の踏ん張りは、無駄にはしない」


 身体強化された機体は風を切り閃しる。さあ、そのにやけた面を止めさせてやるぞ。

 野生の勘なのか、俺の<破理の剣>を回避しようとするが、遅い!

 袈裟斬りに振るった<破理の剣>が黒い獣の胸板と腹にかけて切り裂いた。だが、浅かった。

 毛皮を切り血が噴き出すが致命傷には僅かに届かなかった。


「ガァァァ!」


 初めて傷ついた痛みに黒い獣が叫びを上げる。その顔にはにやけた嗤いは無く、憎しみに満ちた眼を向けてきていた。

 さて出来れば、さっきの一撃で決めたかったんだがなぁ。

 <破理の剣>を構えなおし、黒の獣と対峙する。自分の中にある理力(セイル)を扱う力が、どんどん<破理の剣>に吸い取られていくのがわかる。長期戦は出来なさそうだな。

 やはりエフィに効率の良い理法(センシス)を習ったほうが良さそうだ。

 俺は<破理の剣>を縦横無尽に振るうが、黒い獣も互角に応戦してくる。

 身体強化をしたアスタスと、互角にやり合うとは、やはり普通の魔獣より身体能力は上って事か。

 小さい傷は多く付ける事は出来ているが、決定打を与えられない。

 先ほどの封印を解いたダメージもあり、俺の力は限界が近づいてきていた。

 焦れば焦るほど大振りになり、黒い獣に攻撃が当たらなくなる。このままでは悪循環だ。

 俺は攻める事を止め<破理の剣>を正眼に構え直した。そして敵の攻撃の待ちに入った。ここはカウンターでの一撃に賭ける。

 黒の獣は警戒していたが今度は奴の方が焦れたのか、その鋭い爪を振り下ろしてきた。

 俺はアスタスの半身をずらし、紙一重で爪を避ける、そして交差気味に<破理の剣>を振り上げる。

 血飛沫が飛び散り、黒い獣の左腕が宙を舞った。だが、俺の限界もここで来てしまう。

 <破理の剣>を維持していた理力(セイル)が切れ、霧のように霧散してしまった。

 左腕を失った黒い獣が血走った眼を向け、体当たりをしてくる。俺はそれを避けられず押し倒された。

 そして黒い獣にマウントポジションを取られた。

 俺は振り払おうとするが、うまくいかない。そして残った右腕でこちらに止めを刺そうとした。まずい、やられる!

 反射的な行動だったが、俺は右腕を突き出した。そこで偶然、ヘイヴァスさんが取り付けていた固定武器を操作していた。

 手甲に装着されていた折り畳まれた剣が展開する。そして、その剣で黒い獣の左胸を貫いていた。

 そこは一撃目で<破理の剣>で切り裂いていた傷口だった。


「グギャァァァ!!」

 

 さすがに黒い魔獣でも心臓を抉られたらキツイようだな。ヘイヴァスさんには感謝しないと。後で何か奢ろうかな。

 俺は黒い獣を振り払って立ち上がった。黒い獣は苦しみに転げまわっている。

 これで即死しないって、いったいどれだけの生命力をしているんだ。


「マルク、剣を貸してくれ!」


 俺の声にマルクはすぐに自分の剣を投げて寄越してくれた。俺はそれを掴み逆手に持つ。そして転げまわる黒い獣を足で固定し、その傷口に剣を突き入れた。さすがの魔獣も一度、ビクンと痙攣してから動きを止めた。


「やったのか……?」


 マルクが<タルシス>を軋ませながら近づいてきた。俺はそれに答えるようにアスタスの右腕を上げた。

 その瞬間、周りから歓声が上がった。俺はさすがに限界になり、そのまま意識を失ったんだ。



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