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分かたれた双星と白金の機神  作者: 侍射得乃沙
第一章 黒き獣の氾濫
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第1話 目覚めればそこはいきなりクライマックス

 ドガガッ!!

 突然の衝撃に俺の意識は覚醒する。寝ている時、ベットから転げ落ちた時を思い浮かべてほしい。準備もなにも出来ていない状態での衝撃は身体にキツイものだ。


「痛たた……。なんだよこれは?」


 俺は文句をつきながら、周りを見渡す。何か椅子の様な物に座っているようだ。そして何やら計器の様な物や操縦桿?みたいな物が並んでいる。目の前には窓のようなディスプレイのような物があり、青空を映していた。どうやら仰向けの状態になっているらしい。


「うん?ここ何処だよ?」


 首を捻ってみても答えは出ない。そんな所にズシン、ズシンと地響きが近づいて来た。俺は意識することなく自然に操縦桿みたいな物を握り、その地響きの正体を確認しようと、身体を起こそうとした。椅子に押し付けられるようなGが俺の身体にかかり、ディスプレイに移っていた青空が動き、どこかの森の風景を映し出した。

 そして木々をへし折りながら近づいてくる黒いモノが見える。針葉樹林っぽい木と同じくらいの背丈だから5mくらいだろうか。その姿は醜悪に擬人化した恐竜とでも言うべきか。

 爬虫類に近い顔なのに、明らかに悪意があるのがわかる表情をしている。黒い恐竜はそのままこちらに接近し、あろうことか殴りかかってきた。


「うお!」


 俺は条件反射で顔を庇おうと両腕でガードしようとするが、手は操縦桿を握りしめたままだった。その代わりに眼前に白銀の装甲に覆われた腕が現れ、黒い恐竜の攻撃を防いだ。

 それを見た黒い恐竜の顔が憎悪に歪む。なにがなんだかわからないと混乱する俺の頭の中にガラスを爪でひっかいたような耳障りな声が響いてきた。


「オノレ、モウ鍵ヲ召喚シタトイウノカ!イマイマシキ白金ヨ。ダガオソイ、コンカイコソハ、ワレラノ陣営ガ勝利サセテモラウ!」

 

 黒い恐竜は吼え狂い、渾身の力を込めて尻尾を振るってきた。

 マズイ!俺の心に恐怖が走った。その瞬間、視界が切り替わる。そして後ろに飛び退き、尻尾の攻撃をかわした。

 木々の天辺が視点と同じ位置にある。目を下に向けると、そこには白銀の装甲に覆われた手足と身体。自分が巨人になったような、爽快な感覚が俺を襲った。

 そして目の前の黒い恐竜をぶち倒すという、闘志が湧き上がってくる。

 俺は混乱した。だってそうだろう。目が覚めたらいきなりこんな状況で、前には見たこともない醜悪な恐竜が明確な憎悪と怒りを向けてきているっていうのに、恐れるどころか戦える事の歓喜に震えている自分がいるんだ。

 自分が自分でないような、訳のわからない状態だ。そこに頭の中に色々な情報が流れ込んでくる。

断片的ではあるが、それは現状を打破するための知識だ。俺は今、全長5mくらいのロボットみたいな物と一体化している事。

 この黒い恐竜はこのロボットを破壊しようとしている事。このままロボットが壊れたら俺自身も死んでしまう事……

 まて、こら。今、さらりとヤバイ事を教えられたぞ……。


「おい、言葉が通じるなら、ちょっと待て。話し合おうじゃないか!」


 俺は平和的解決を恐竜に呼びかける。が、返事の変わりに、恐竜の鉤爪が首筋に迫る。問答無用かい。

 避けた鉤爪が木に当たり、バターのように切り裂いた。あれ、当たってたら胴と首が泣き分かれしてるよね。


「くそ、やられっぱなしだと思うなよ!」


 攻撃後の隙の出来た恐竜の横腹に、俺は蹴りを叩き込んだ。白銀の装甲に覆われた足が恐竜の鱗を抉るようにめりこみ、黒い巨体を吹き飛ばした。


「グゴォォ……」


 恐竜がうめき声を上げ、こちらを睨み付ける。おいおい、そっちが仕掛けてきたのに、反撃したからといってそんなに恨めしい目をしないでくれよ。

 まあ、相手の動きも今のところ視えているし、ロボットの動きも俺が思ったとおりに反応してくれる。だけど、恐竜の様子を見る限り、殴る、蹴るでは攻撃力が足りなさそうなんだよな。

 思案していると、恐竜の周りに何やら光で出来た円陣が4つ浮かび上がっているのが見えた。


「<コオリ、ヤリ、ホトバシレ>」


 恐竜が言葉を呟くと、4つの円陣から氷の槍が出現し、こっちに矢の様に飛んできた。


「うお!」


 咄嗟に横に飛び退いたが、氷の槍の1本が左肩にぶち当たった。衝撃を感じたが、白銀の装甲が氷の槍を弾き返していた。


「なんだよ、今のは」


 俺の疑問に答えるように、また知識が頭の中に入ってくる。

 理法(センシス)。この世界には理力(セイル)と言う力の流れが存在し、特殊な言葉を使い、流れを自分の望む形に変え現実に干渉するものらしい。言葉の組み合わせによって、自然現象を再現したり、やり方によっては、それ以上の事も出来る不思議技だそうだ。

 というか、爬虫類がそんな魔法じみた力を使うんじゃないよ?! 


「<シップウ、ウズ、ハレツセヨ>」


 今度は至近距離に円陣が出現し、そこから爆発的な風が吹き荒れる。これには避ける間も無く、直撃を受けてしまった。だが、強風にあおられた程度の衝撃を感じただけで、嵐のような暴風は霧散してしまった。


「ヤハリ理法(センシス)デハ、ソノ甲殻ハ突破デキンカ。ドコマデモ、イマイマシイ」


 なるほど、どうやらこの白銀の装甲は理法を無効化できる力があるらしい。しかしこっちも恐竜に効きそうな攻撃手段が無いしな。このままだと膠着状態だよな。出来ればこのまま諦めて、どこかに去ってくれればいいんだが、あの様子じゃ、それも無理か。


「おい、何かあいつに効果のある攻撃はないのかよ?」


 駄目もとで問いかけると、またも色々と知識が湧き上がってくる。というか、そんなのが有るなら最初から教えておいて欲しい。

 自身の身体能力を底上げ出来るものと、理力(セイル)を剣状にして武器にする理法(センシス)か。理力の剣の方は展開するまで、隙が多そうだから、まずは身体強化からやるべきだろうな。


「<我、疾く、閃しれ!>」


 知識に導かれるままに、理法を展開する。多少の精神の負担を感じた後に、出現した円陣が身体を包み込む。

恐竜に向けて突っ込むと、解き放たれた矢のような勢いで接近する。そしてそのままの恐竜のどって腹に拳を叩き込んでやった。


「ゴバァ!」


 こちらの急な加速に反応出来なかったのか、直撃を受けて木々をなぎ倒しながら、その巨体を吹き飛ばされていく。

 恐竜が地面に転がるのを見届けてから、俺は理力の剣を発動させる準備をする。


「<我、掴む、理力の刃金、不滅の聖約>」


 鋼鉄の左の手の平に、一際輝く円陣を創り出し、そこから濃密な理力(セイル)で出来た柄を出現させる。

 そして俺は右の手でそれを掴んだ。


「<抜剣、破理の剣>」


 鞘から剣を引き抜くように、円陣から光輝く長剣を抜き放った。エネルギー体で構成されている筈の剣は、確かな質感を持ちその刀身は陽の光を受け、七色に輝きを揺らめかせていた。


「バカナ、破理ノ剣ダト?ソコラノ有象無象ヲ鍵ニシテ、ソレホドノ高等理法ヲ、扱エル訳ガナイハズ。イッタイ、ドノヨウナ者ヲ喚ンダノダ」


 何やら、混乱しているようだが、こっちの知ったことでは無い。俺は立ち上がりかけている恐竜に向けて駆け出した。

 下段の構えからの斬り上げに光の尾を引きながら、破理の剣が走り斬撃を飛ばす。

 恐竜は腕で防御しようとするが、七色の刀身は、黒い鱗を硬さを感じさせないように切り裂き、そのまま肉と骨を断ち切り、腕を斬り飛ばす。


「グアァ!!」


 黒い血を噴出しもがく恐竜を尻目に、俺は振り上げている剣を、袈裟斬りに切り下ろした。

 恐竜の生態など詳しくは知らないけど、さすがにこれは致命傷だろう。

 俺はそう思い力を抜いた。だがそれは油断以外の何者でもなかった。

 恐竜が黒い血を撒き散らしながら、こちらに組み付いてきたのだ。


「うお、なにを!」


 俺は振りほどこうをもがくが、ビクともしない。


「オノレ、オノレ!タダデハ死ナン。我ガ命ヲモッテ貴様ノ力ヲ封印サセテモラウワ!呪ワレヨ白金!必ズ同胞ガ貴様ヲ・・・・!」


 恐竜は凍えるような呪詛を喋りながら、その体内に理力(セイル)の渦を発生させる。そして組み付いたまま自らの身体を爆発させた。

 黒い血がバケツで水をかぶせたみたいに、降り注いだ。

 俺の視界が黒に染まり、その瞬間、無理矢理に全身の皮膚が引き剥がされたような衝撃が襲った。


「があぁぁ!」


 あまりの衝撃に俺の意識はショートしたように、落ちてしまった。





「ううん……」


 全身を濡らす汗の不快感に、俺は目を覚ました。

 視界には、最初に見た操縦席の風景が写る。改めて周りを見渡した。さっきまではいきなりの命の危機に考える暇が無かったが、まったく何故こんな所に自分がいるのかさっぱりわからない。


「どうなってんだよ。俺は確か……。あれ?」


 俺は自分がどうしてこんな事になっているのか、思い出そうとして唖然とした。ちょっとまてよ。さっぱり思い出せない。


「まてまて、冷静になれ。まずは自分の事を」


 パニック状態な頭を強引に冷まそう。そう、まずは自分は何者かからだ。

 うん、よし俺の名前は……。柾狩 逢喜。そう、俺の名前は柾狩逢喜(まさかりおうき)だ。十九歳の生粋の日本人だ。ここまではいい。

 さてこれからが本題だ。なぜこんな見たことも無い場所にいるのかだ。


「……あれ?」


 どうなってんだよ。自分が何者かは理解してる。社会的な常識とかも覚えているのだろう。なのに、なのに。


「ちょっとまてよ」


 なんで生まれてから、今までの事が何一つ思い出せないんだよ!そう、この場所で目覚める前の記憶が、完全にゼロになっていたのだ。俺は途端に寒さと心細さを覚える。無駄とは知りつつ、何か助けになるものはないかと目を走らせるが、そこにあるのはディスプレイから入ってくる陽の光に照らされる、操縦席の機械類だけだった。


《よくぞ、黒を退けてくれた》


 突然、操縦席内に重厚な声が聞こえた。


「な、誰だ?」


《我は白金第参位に座するモノ。仮名を<アスタス・クシェール>という。汝が今いるこの機体の意志を司るモノである》


 俺の質問にそいつはそう答えた。つまり今のこの状況を作り出した元凶という事か?


「おい、お前が俺をここに呼んだって事か?さっきの恐竜はなんなんだ?それに俺の記憶がないのはお前のせいなのかよ?!」


 俺は続けざまに質問する。ちゃんと説明してもらわないと、訳がわからないぞ。


《今の我にはあまり時間が残されておらんゆえ、簡潔に語ろう。汝を喚んだのは我だ。予期せぬ時に地上に出てしまった我を黒の尖兵が発見し、襲撃してきおった。我らは古の盟約により、鍵なくては身動きすら出来ぬ状態ゆえ、鍵たる力を有する汝を異星より喚びよせたのだ》


「異星?ちょっとまて、ここは地球じゃないのか?」


 冷や汗が流れた。嫌な予感しかしないぞ。


《然り。現状ではこの星オブリムには、我の鍵になれる者は存在していなかった。ゆえに、遥かに近く極めて遠い星である異星にて検索し、一番初めに見つかった汝を喚んだのだ。まあ、汝が選ばれたのは偶然ではあるがな》


 なんですと?選ばれし勇者とか言われるのも御免蒙りたいが、それって運が悪かっただけってことかい。


《あの黒の尖兵は、我らこのオブリムの維持を司る白金の陣営と敵対している、変革を求める黒金の陣営に属する尖兵だ。この星が今の姿になってから我らは戦い続けている》


「とりあえず、あの黒いのは倒したんだ。俺の記憶を元に戻して、さっさと地球に返してくれ」


 俺は必死に訴える。だが声の答えは俺を落胆させるものだった。


《汝の記憶に関しては、我は関与していない。鍵の召喚でそのような副作用は無い》


「はあ?でも実際、俺は記憶を思い出せないんだぞ」


《おそらく、ここに召喚される前にその状態であったと仮定する。あと先程の黒の尖兵の呪いにより、かなりの力を失った。このままでは汝を還す所か、黒金との戦闘もままならん。ゆえに我は力を取り戻す為に休眠状態に入る》


 すごく無責任な事を言ってないか?こいつ。


「お前、アスタスだったか?こんな、見知らぬ世界に一人で放り出すなよ!」


《汝に、この星で生きるための知識を与えよう。我の中にはこの土地の地図もある。我に騎乗した速度で半日進んだ所に人族の集落があるはずだ。まずはそこに向かうがいい》


 操縦席の中に白い光が生まれ、それと同時に俺の頭の中にまたもや、知らないはずの知識が流れ込んでくる。こいつが現状で発揮できる性能、基本的な操作の仕方、この世界の言語や常識的な事。


《まあ、我が眠りに付く数百年前の情報だから、多少は変化があるだろうが、自力でなんとかしてくれ。では、我が目覚めるまで、壮健であれよ。我が鍵よ》


「はあ!?」


 おいおいおい、最後にとんでもない事を言いやがったな。そんな中途半端な知識を寄越すんじゃないよ。俺の抗議の声も空しく、アスタスは返事を返すことなく沈黙していった。



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