天国への扉
金色の海原が英作の目の前に現れた。視野に入る限りの眩い光と反射した輝き。
英作は感動した。涙が一筋、頬を伝った。
自分は扉を開いたのだ。叩いた扉は最初、
小さく、鈍い音を響かせたが、一瞬静まると大きくどこまでも限りなく開き、輝いた金色
の大海原を覗かせた。神々しい静寂の中に英作は温かく包まれていた。天使がたくさん現れて英作をもっともっと高いところへといざなった。英作は天使の大群の差し伸べる手に心も身体も委ねた。今、自分には心配することが何もない。穏やかで平和な気持ちで英作の身体は金色の大海原を高く高く昇った。
そうこれは人が最後に行きつく永遠の安らぎ、天国である。
一方、時を同じくして、満は天上界まではたどり着かず裁きを受けることになる。
足がなんだか熱い。次第に火が身体のいたる所に飛び火していく。指先から手、腕、身体の中の骨や肉が焼かれている。息ができない。苦しい。呼吸が困難になった時、初めて、自分がこのような目に遭うことになった理由を知った。
自分は実の兄である英作を欺いた。だから神が自分をこのように裁いたのだ、と。
満は今、自分の身体がどこに在るのかが分からない。地底から恐ろしい地響きのような音がする。やがて音はかすかに聞きとれるほどの言葉になり、ようやくはっきりした言葉になった。
「おまえは私の子。しかし、私の子であるおまえの兄弟を欺いた裏切り者。」
「ああ、お母さん助けてください!」
思わず満は遠く先だった母のことを呼び求め、むせび叫んだ。
満の視界に凍ったような冷たい青白い母が現れた。その顔は歪み、目は憐れみと悲しみとで潤んでいるようであったが、一度目を伏せて物哀しそうに満を見ると消えていった。
「お母さんも私を見離すのですか。」
満は絶叫した。自分は炎で身体が燃えている。
満はふと思い出した。子供の頃の祈りを。
朝起床すると厳格な教育者である母は子供たちが全員そろって一緒に住むようになった数年間は朝の祈りを日課にさせた。
その祈りの文句を満は思い出したのだ。
「今日一日、そして今週中、人の心を傷つけることなく、出会う人々を兄弟として迎え、喜びも苦しみも分かち合うことができますように。神よ、いつもあなたの道を歩ませてください。」
満は灰色になった頭の中がくらくらとしてきた。