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第80話 :コア

ねぇ、ルキア。

貴女はこうなることを、分かっていたのかな?

私はなんとなくだけど、少しだけだけど、こうなる事を知っていたような気がするよ。


「永遠捕縛のアレスト!」


雨が止んで雲の合間から光が差し込む。それは希望をかたどる絵のようで、未来を映す写真のように美しい。

空の天気はこの世界に関係なくコロコロと変わるけれど、本当はとても優しいのかもしれない。

炎を消すために雨が降り、私達に未来への希望を与えるために光差す。


「コア!!」


後ろから名前を呼ばれて振り返ると、髪の毛を降ろしたトレスがいた。

その横にはルアーも一緒だ。

トレス達と戦っていた魔術師は木の幹のようなものに絡まれて、動けなくなっている。


「2人とも・・平気?」


しかし2人には小さな傷が幾つもついていた。そんな2人は私の言葉に優しく微笑んだ。

風が吹いた。


「平気だ。」

「あぁ、なんとかな!」


進まなくちゃならない。これから何度も戦うのだ。その道を選んだのだから。

だけど私は心のどこかでこうなることが分かっていた気がする。

王を探そうとする前に、守るために戦って、守るために戦いながら進んでいかなくちゃならない。

だけど私は戦わずして勝つと決めたから。勝つんじゃなくて、負けないマスターになりたいの。


「それよりコアの手・・・!!」

「え?・・なんだそれ!どうしたんだ!?」


2人は驚いた顔を少し歪ませて言った。右手は未だに血は止まることなく流れている。

風に触れるたび、その痛みは確かに感じるが、もう気にしていない。


「平気だよ。」


私が笑ったとき、急に2人が前に向いて両手を翳した。

その先からはドラゴンが3頭マスターを乗せてやってきた。空を翔けてくるドラゴンのうち2頭は灰色で

その2頭に見え隠れしていたドラゴンがバッと高度を上げて、姿を見せた。


「赤竜・・・!?」

『赤い竜なんて珍しいですね。』


一度シュランを滅ぼしかけたドラゴンとマスター。きっとその時の赤竜に違いない。


「赤いの、私が行く!」

「コア!ちょっ・・・炎の魔法により、彼らの進行を阻むように!」

「風の魔法により、我等に近づく事のないように・・コア!!気をつけろ!。」


赤竜はただ、空の上にたたずんで、その二匹の戦いを眺めているようだった。

近づくと、その背に乗るマスターの姿が見えてきた。すると近づいていく私達に、急に炎を放った。

そのいきなりの攻撃に、ルキアはすばやく身をかわす。


「ほぉ・・白竜遣いか、懐かしい。」


低い擦れた声がした。その声の主は赤いドラゴンにまたがり、にんまりと微笑んでいる。

やっぱりこの人だ。シュランを滅ぼそうとして、白竜に阻止された赤竜の主。

許せなかった。無意味に人を殺そうとするマスターが、ドラゴンをそんな事のために飛ばせるなんて。

ドラゴンは生き物を殺す事をとても嫌う生き物なのに、殺すために飛ばすなんて。


「どうして!!」


私は思わず叫んだ。理解できなかった。いや、できなくてもよかった。

ただ、その理由を知りたかった。どんな理由でも、人を殺すのは最悪だ。

けど、その理由がどうしてもしりたかった。どうして無力な者にドラゴンの炎を向けたのか。


「どうして・・シュランを!」


あれからもう10年以上たっているのに、彼らを今尚苦しめるほどの悲劇を与えた男が今目の前にいる。

その顔はおじいちゃんと同じくらいの年で、白髪が混じり、強く恐ろしいほどに睨んでくるその目の端にはしわがある。

きっとこの人を止めたのは、おじいちゃんだ。私が5つくらいの時、おじいちゃんは何日か家に帰ってこなかった。

その時、エルクーナに乗って、このアカンサスへ来ていたのだろう。


「理由なんてない、憂さ晴らしだ。」


下では大声で叫ぶ声や、剣の交わる音、魔法がかけられる音や、馬が走る音がする。

そんな下に比べて、上空はとても静かだった。これが空の聞いている音たちなのかもしれないと思った。

私達の世界とはまるで関係のない世界を、空はただ存在しているようだった。


「・・最低・・・・・・、貴方だけは許さない。」

「ふっ、あの白き使い手も同じことをいっとったわ。許しなど誰も扱いてはいない。

一つ聞きたいが、お前と私との違いなどあるのか?私が許されなくて、お前は許さないという違いはどこにある。」


赤いドラゴンの上から、そのマスターは私に聞いた。その質問に、私の声が詰まった。

私とこのマスターに違いがあるのだろうか。

それは幾度も感じたことだった。守るために戦うと言ったあの男の人と、私は違うのだろうか。

このマスターは今、軍に仕えているため、守るためと言われたら違うとは言い切れない。


なら私はどうなのか。 私はこの人を許さないといえるマスターなのか。


「幼いな。行け、ハンソン!」

『・・仰せのままに。』


考えている私達に、彼らは突っ込んできた。ルキアはその攻撃に急いで反応して避ける。

赤い竜が何度も私達に炎を吐いた。ルキアはそれに対抗するように、何度も冷気を吐く。

しかし、マスターもただ見ているだけではなかった。そのドラゴンに加勢して、ドラゴンが吐く炎に魔法弾を幾つも混ぜた。

ルキアが吐いた冷気により、炎は一切届くことはなかったが、炎の中に隠されて進んできた魔法弾はルキアの肌を掠った。


「ルキア!」

『平気ですよ、これくらい。』


魔法弾が掠った傷跡には、火傷のように黒く焦げて煙を小さく上げている。

白い肌がその部分だけ黒くなる。だけど私は未だに答えが出せなかった。

あの男と私のどこが違う?守るためだといいながら、結局はこうして戦うためにルキアを飛ばせている。

あの男を傷つけるために、空を飛ばしているのと同じじゃないのだろうか。

もういい、もうやめよう。そう言葉に出しそうだった。


『コア・・貴女はまた・・・・・』


だけど私はもう躊躇ったりしないと決めた。


「水よ我に従い、彼を捕らえよ!ウォーター!」


人を傷つけることが、人を守ることじゃない。誰かを傷つけなくては守れない時なんて、この世界にはないのだ。

誰も傷つけずに、人を守るなんて無理かもしれない。でも、無理でもその方がずっといい。

私の出した水は重力に逆らって、凄い勢いで赤竜の炎も魔法弾も追い払い、その体にたっぷりと染みた。

するとルキアは今まで以上に冷気を一気に吹きかけて、私の水を一瞬にして氷に変えた。


「私は貴女とは違う。誰かを傷つけないと、人を守る事はできないなんて、誰が決めたの。

私は誰も傷つけずに、守ってみせる。そのために、私がどれだけ傷つくとしても。

だから、貴女とは違う。誰かを傷つけることと、守ることは違う。

自分の、誰かを傷つけなければ守れないという未熟さを言い訳にして、人を殺したりなんかしない。」


守るために戦う。その戦いの中で重要なのは勝つことではなく、負けないこと。

それはきっととても大変な事で、勝つよりもずっとずっと難しいことなのだろう。

だけど、それでも逃げたりしない。ルキアが傍にいるのだから。何も怖くはない。


「馬鹿な。」


男がそういうと、2人を包んでいた氷は一気にバラバラに飛び散った。

その残骸から私を守るようにルキアが翼で盾を作る。


「あの男もそう言った。お前みたいに悩みはしなかったがな・・・。

人なんて生き物はちっぽけだ。ちょっとつついただけでも死んでしまうだろ。

そんな生き物を敵にして、殺すことなく守るなんて不可能だ。」


全てが全てそうは行かないかもしれない。だけど、できるだけそうできるように努力する事はできる事で。

それは決して無駄なことなんかじゃないから。


「ちっぽけな生き物だから、守るの。ほんの少しの事で死んでしまえるから、大切にするの。

そんな人間が敵だって、それは変わらない。相手がちっぽけなら、私はその分傷つけないで戦うことができる。」


けど、逆に赤竜のマスターのように強い人間だったら、そうはいかない。

どれだけ頑張っても自分の力最大限でようやく張り合える相手を、傷つけないようにする余裕なんて自分にはない。

だから、きっとこの先私は人を傷つけて進んでしまう。そしてその度に後悔して、悲しみに涙を流す。


「最後だ。バーリアント・ブレット!」


男はそういった。唯それだけだった。

私に向かって手をかざすと、大きな魔方陣をその両手の前に描いて光の魔法を作った。

その魔方陣の大きさからしても、私の結界では守りきることなんか出来ない。

きっとルキアが避ける事だって不可能なほど大きな魔法弾だ。それを逃れる唯一の方法は、同じだけの魔法弾をぶつける。


「ビーミング・ブレット!」


私の小さな傷が幾つもついた左手と、真っ赤な血が乾いている肌の上をまだ赤い血が流れ続けている右手を重ねる。

その両手の前には彼と同じくらいの魔方陣が大きく広がった。


『コア!?』


ルキアの声が響いたとき、私の魔方陣と彼の魔方陣からは、

大きな光が放たれて、滝の水ように流れ出す白と赤の魔法の光が左右から交わった。

白い光が私の魔方陣から止め処なく溢れて、今にも全てを飲み込みそうなほどの力をぶつける。

向こうからは赤い光が私たち目掛けて全てを飲み込むほどの力で進んでくる。

たった一瞬気を抜けば、命なんてなくなる。


「・・・駄目・・私は・・・・負けられない。守ると決めたものがある。たくさんの約束もある。」


あの村を守ると約束した。この世界を平和にすると誓った。

ただいまを言うために戻ると約束した、大切な人がいる。

セルスに会うまでは、死ねない。


光は輝きを増して、進んでいく。


それはたった一瞬のことだった―――――――――


全ての音が消えて、光だけが世界を暖かく包んだ。その光は赤ではなく、白の光だった。

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