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第79話 :ブレイズ

雨がザァザァと音を立てて地面目掛けて走っていく。

その一粒一粒が箒に染みて、スピードと威力は確実に落ちていく。


「何してるんだよ、ハデス家は!!」


もうすぐそこまで迫っているベーレ家の軍に、ハデス家が気づいていないはずがない。

それならどうしてハデス家の軍は来ないのだろうか。


「知らない!!来たぞ!!」


雨の中をトレスの声が響いて、俺とルアーとジェラスは軍のほうから飛んでくる魔法弾を見つけた。

湿気た箒は不安定極まりない。そんな状態でも高等魔術師のプライドが弱音やいいわけはできない。

俺はここに民を守りに来た。力無き者を守るために高等魔術師になったんだ。

目の前には緑やら黄色やら青やら、色とりどりの光の弾が雨など気にせず飛んでくる。

魔法弾には、当たった箇所を焼く力がある。その威力は小さいが、馬鹿には出来ない。


「人を焼き払う光が、作り手の元に戻るように!」


冷たい雨に体が冷えていく。冷たい両手を翳して飛んでくる光に命令魔法をかけた。

ルアー達も同じように追い返している。しかし、そんなこの場しのぎの魔法では、相手にならないだろう。

負けないためには、こちらからも攻めなければならない。しかし、俺たちの中で一人たちとも攻める事を望む者はいない。

戦わずして勝つ、それが俺達の望む戦いだった。


「・・っくそ!また来た!!」


今度は数が5つやそこらじゃない。視界に映る限りの魔法弾が飛んできた。

これでは追い返す魔法は掛けずらい。できる事は自分のみを守る魔法をかけるだけ。


「我の身を守るように!!」

「我が身を包み込み守るように!」


凄い数の魔法弾はそれこそ雨のように俺達に降り注ぐ。こんな事で魔力を消耗しているわけにはいかないのに。

傍にいるトレスも必死でその魔法をかけて、ジェラス達も自分の身を守るので精一杯のようだった。

俺達がかけた結界魔法により、魔法弾は弾かれて下へと降りていく。

その瞬間、魔法弾が消え、視界が晴れると、魔術師が空から矢を放とうとしているのが見えた。


「もう守り体制じゃ無理だ!!行くぞ!」

「分かった。でも・・・」

「傷つけない方法で行こう!」

「捕らえれば問題ないだろう。」


トレスに続いてルアーとジェラスがそう言って、俺は頷いて先頭をきる。

この辺り一面には水の精霊が充満していて、今にも溢れそうなほどの力がある。


「水の精霊よ、我に力を与えよ。・・・水流が滝のように全ての攻撃を防ぐように!!」


そう叫ぶと辺り一面にいた水の精霊は最大限の力を与えて、俺の目の前に大きな魔方陣を描いて滝のように水を出させた。

その勢いに俺の体は思わず後退していく。その水が飛んでくる矢を飲み込んで尚進み続けている。

その水が、矢を放とうとしている魔術師までたどり着いたとき、隣でトレスが大声を上げた。


「流れ出した水が温度を下げて、氷と化し、動きを制するように!!」


そのトレスの両手からは冷気が溢れ、俺の出した水はパキパキと白く凍り始めた。

氷に体を捉えられた魔術師はその場で身動きがとれずにいる。

その間に箒を最大限まで飛ばして、空に残る魔術師とドラゴンマスターを捕らえなければならない。

そう考える俺の後ろに、きっと同じことを思っているジェラスが着いてきた。

こいつは気が合うだけじゃなかった。まるで心が繋がったかのように感じさせる何かがあった。

そんなジェラスの顔を見て笑うと、ジェラスもかすかに笑った。


「水の精霊よ、滝の水流を流し、全ての者に水を与えるように。」


また冷たい手からは大量の水が溢れる、雨にぬれる魔術師とドラゴンマスターは水なんてどうでも言いと思っているのか、

防御の魔法すら掛けようとしない。魔力消耗を防ぐためだろう。


「流れ出した水の水温が下がり、氷と化して、その動きを制するように。」


その魔法に水は氷となり、さっきと同じように魔術師やドラゴンの体を固めて、動けなくした。

しかし、さっきと同じようにいくわけはなかった。


「氷よ鋭い剣となって、我等を阻む者を突き刺せ!」

「熱風により氷の温度が上がり、水へと戻るように!」


魔術師達の次々の言葉に俺達は反応することが出来ず、四方八方から飛んでくる氷の鋭い剣が体を切り刻む。

腕や足を掠るだけならまだよかったが、湿った箒の所為で避けきれず小さな欠片がいくつか体に牙を立てた。


「っ・・っ!」

「熱風!」


ジェラスは俺の小さな呻き声に反応して、動けずにいる俺の前を飛んでくる氷の結晶に熱い風を当てつけた。

その瞬間にユラリと俺の前の視界は歪んで、蜃気楼のようになると、氷たちを解かして消していた。

それから急いで俺は体に刺さった棘を抜き取る。その氷には血がついて赤く染まっている。


「・・っぐ・・っ。」


もう一つ自分の声ではない呻き声が耳に入る。雨の音にかき消されてしまいそうなほど小さな声を上げたのは

俺を狙う氷に熱風を浴びせて、その間自分の防御をおろそかにしたジェラスだった。


「おい!ジェラス!!」


ジェラスに刺さっているのは、小さな欠片ではなく、氷の断片そのものだった。

その痛みに耐えるようにジェラスは顔を歪ませて、自分の体に突き刺さる氷を勢いよく引き抜いた。


「・・っうあ゛・・っ、は・・はぁ・」

「ジェラス!・・・・呪縛の魔法により、雨が渦になり、魔術師を捕らえるように!」

「そんな高等・・魔術・・」


今この魔法を使わなければ、もっと傷つく。たとえ消耗が大きいとしても、捕らえなければ攻撃され続けられる。

今のジェラスには、こんな消耗の激しい魔法を使うことは危険だ。なら、俺がするしかなかった。

俺の魔法によって空から降る雨は渦を描いて、魔術師たちの視界を奪い、動きを止めた。


「降り注ぐ雨よ、刃となり、かの魔術師を刺せ!」

「防御の魔法により、我とジェラスの身が守られるように!」

「防御を逃れ彼らに降り注ぐように!」

「ぐっぁっ・・!」

「うっ・・」


大粒の雨が防御の壁を通り抜けると、剣となって体を真上から突き刺した。

氷よりも小さい者の、その痛みは確かに存在して体が悲鳴を上げる。

箒を安定させる力も失い、体が重力に沿って落ちていく。

空と魔術師とドラゴンがどんどん遠ざかっていく。ジェラスの体もそのあとから俺に追いつくように落ちてくる。

あいつだけでも守らなければ、一瞬そんな想いが頭の端に思い浮かぶと両手が勝手にジェラスに翳された。


「浮遊の・・・魔・・法により、ジェラスの体が・・空中に留まるように!」


その言葉を言い終えると、手の前に魔方陣が浮かび上がり、バッと消えて、彼を透明に近い結界のような物が覆った。

それを見ると安心して体の力がフッと抜けた。痛みも何も感じなくなったような気がした。

しかしその瞬間、真っ白の何かが俺の目の前を通って、俺の右手は強い衝撃を受けた。

その右手を見ると、しっかりと小さく幼い手に握られていた。


「・・コ・・・ア?」

「死なないでっ。・・私の目の前で誰も死んで欲しくなんてない!」


雨に濡れ白く輝くドラゴンと、その少女は俺の手を握ったままゆっくり地上へ降り立った。

俺は力なく地面に足をついて、握られている右手を見た。


「お前っ!!この手・・・!?」


俺を握るその幼い少女の右手からは、真っ赤な血が止め処なく溢れている。

そんな手で落下していく俺を引き止めるなんて、きっと考えられないほど痛い筈なのに。

少女はそんな痛みを隠すわけでもなく、俺に微笑むとゆっくりとドラゴンの背にまたがった。


「ルキアがいるから平気なの。」


その声を合図に白いドラゴンは俺の前から飛び立ち、また空高く昇って行った。

数え切れないほど残っている魔術師とマスターに向かって、たった一人の幼いドラゴンマスターが突っ込んで行った。

向こうの方では氷を解いた魔術師を相手にトレスとルアーが戦っている。

空中にはまだ、ジェラスが浮いている。


ゆっくりと時間が止まったように、魅せられた。

雨の中を白いドラゴンと白いワンピースを着る少女が空を舞った。


その瞬間、空に切れ目が生まれ明るく眩いほどの日の光がその2人に注がれた。


「白のドラゴン・・」「伝説の・・マスター」「あれが・・」「幻の白竜・・・」


地上からは零れるような小さな声が生まれた。

地上で辺りを焼き払っていた兵士も、空で俺達を襲った魔術師もマスターもそのドラゴンマスターズに魅せられていた。

たった一瞬、ほんの一瞬だけだが、全ての者は戦うことをやめ、光を浴びて空に舞うその二人を見ていた。


『幻の白竜が誓う時、伝説のマスターが現れる。』


予言書に書かれている伝説を果たすたった一人の少女が現れた。


たった一人の少女と、たった一頭の白竜が空を舞う。

万人の時刻ときを止め、この世界を平和へと導くために―――――――――。

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