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第77話 :セルス

「南の雲行きが怪しいですね。」

「あぁ、本当だ。こっちに来るかもしれないな。」


そうブツブツと話す俺とマティスの上にはからりと晴れ上がる空が覗いている。

どこまでも続いていそうな空の端には、曇った場所が見えた。

アカンサスに来てからもうすぐ一週間が経とうとしていた。

ようやく軍事部からコアの配属場所を聞くことができ、コアの居場所が分かった。

そして彼女がまだこの地で生きていることも。


「あ、あそこじゃない?」

「あぁ、そうみたいだね。」

「あそこが東の村バンセル・・・。」

「資料に載っている写真より、ずっと何もないですね。」


そう言うマティスの手にある資料に載っている写真は、

とても色鮮やかな家が立ち並び、村と言うより、大きい町のように映っている。

ゆっくりと空を飛んで、村全体を見て回る。地上に近づいても、家屋のほとんどは崩壊していて、

日照りに村の人々はしなびているようだった。


「降りるか。」

「そうだね。」


俺の意見にロイが賛成の声を上げて、ゆっくりと俺達はドラゴンを地上へと降ろした。

乾いた土の上に足を下ろして、ゆっくりと歩く。アルはしばらく俺を見て静かに空に戻った。

熱い風ばかりが吹きぬけて、何かを羽織っていないと肌が真っ赤に焼けてしまいそうなほど熱い。

服の下では汗が流れて、滴り落ちてきている。しかし周りには水の精霊は影すらもなく、精霊自体存在していないようだった。


「こんな所に・・コアが?」

「ねぇ、あれ見て!」


不思議に思いながら歩いている俺の肩にリラが手を乗せて振り向かせた。

彼女の視線と指が指す方向にいるのは、期待したコアではなく、小さな女の子だった。

しかし、リラが指差したのは女の子ではない。端は茶色に染まっているが、

地面をこすりながら羽織られているのは、元は白かったコアのマントだ。


「コア!!」

「コアっ!」


ロイとリラはその幼く小さなマントを羽織る少女に駆け寄っていく。


「コア・・・か?」


確かに背は小さいが、何もあそこまで小さかったわけじゃない。

もう何ヶ月も会っていない彼女だが、俺は好きな奴の背丈や顔立ちを忘れるほど非情ではない。


「え?あの子がコアちゃん!?」


俺の隣ではマティスが驚いた顔をしている。こいつが驚いた所を見るのは、初めてな気がした。

駆け出したリラとロイはがばっとその少女に抱きついた。その少女の目は丸く驚いている。

どう考えても、やっぱり彼女がコアだとは思えない。


「元気にしてたの!?怪我は?どうしたの?こんなに小さくなって!!」

「何があったんだ!コア!!」


もうボケにしか感じられないが、2人はいたって本気のようだ。

そんな2人のいきなりの攻撃に少女はまだ驚いて二人を見つめている。


「リラ、ロイ離してやれ。驚いてる。」


ゆっくりと歩く俺とマティスが少女の傍につくと、コアとは全く違った。

そんなものは遠くから見ただけでも分かっていたが、少しの気体を捨てきれずにいたのも事実だ。


「ごめんね、平気?」


俺がそう声を掛けると少女は我に返って、ぶんぶんと頭を大きく上下に振った。

髪がサラサラしていて短くて色素が薄い所は、コアに似ていなくもない。

そう考える俺も、やっぱり馬鹿なのかもしれない。


「そのマント、どうしたの?」


俺の質問に少女はその白いマントをジッと見て、静かに答えた。


「知らないお姉ちゃんがくれたの。この靴も。」


そう言った少女は自分のはいているブカブカの靴を俺に見せた。

何もかもがブカブカで、バランスは限りなく悪い。それでもこの日と熱い地からは充分に守ってくれる。

確かに彼女はここにいた。そう思った。

この白いマントはとても大切なもののはずなのに、靴だってなければ困るはずなのに、

それでもあげてしまえるお姉ちゃん、なんてコアしかいない。


「お姉ちゃんねっ、鞄の中のも全部くれてね!村の人に配ってあげてってね!それでお昼も作ってくれて!

皆凄く助かったの。お姉ちゃんがいる間は、食べ物の心配しなくてすんだの!」


少女は急に目を輝かせてそう語った。そう語らせるのは、きっとコアだからだろう。

彼女は今、裸足なのだろうか。荷物もマントもあげて、彼女は日に照りつけられているのだろうか。

きっと彼女はどうなっても、全てをあげてしまったんだろう。

真っ白な肌が赤く焼け腫れても、綺麗な足が熱い土に焼かれ、小さな砂に傷つけられてボロボロになったとしても。

彼女はそういう子だ。


「・・・おねえちゃんがいる間・・ですか?」


ふいに俺達を眺めて立っていたマティスがそう小さく呟いた。

その言葉に俺もハッと気づいて少女を見た。すると少女は俺とマティスを交互に見て答えた。


「遠くに行ったんだって。おばばが言ってたよ。王様を見つけるんだって。

王様を見つけたら、皆もっと笑えるんだって。

だからお姉ちゃんはね、凄く凄く綺麗な真っ白の大きな鳥に乗って行ったよ?」


真っ白な大きな鳥・・・きっと白竜のルキアに乗って、彼女は遠くへ飛んだんだ。

その理由が、王様を見つけるため?

俺は彼女がもうここにはいないという悲しみと、不安にかられた。

熱い風が吹くたびに、きっとコアもこの風を浴びているのだろうなと心を躍らせていたのに。

彼女はもうここにはいない。そんな失望感に襲われている俺にマティスがいった。


「王を探すという事は・・・、この国の王家の血はまだ残っているということですよね。

その王家の者を探すために、ココを離れた。でも・・・そのコアちゃんが誰も残さずにこの村を見捨てますかね?」


マティスは優しく微笑んで、同じように失望しているリラとロイに言った。

マティスがいいたいのは、きっとコアの行き先を知る者が必ずいるということだ。

そしてその者はここにいるか、もしくは必ず戻ってくる。


「もう何日か待ってみようか。」

「そうね。きっと・・行き先が分かるわ。」


ロイとリラにも希望の光が見えたようだ。

ただ何日もここに居たくはない。コアは王を探しに出たのだから、同じ場所でじっとしているわけじゃない。

一日でも早くここを発たないと、コアはどんどんと離れて行って、ついには居場所が分からなくなってしまう。


「リラとロイはここにいてくれ。」

「え?」

「セルス!?貴方はどうするの!?ここで待たないの?」

「俺は・・・とりあえず、探せるだけ探す。情報が入ったら連絡するから。」


ジッとなんてしていられない。一秒でも早くこの腕に、コアの存在を確かめたいんだ。

だから俺はこの村の遠くにある村々を探そうと思っていた。そんな俺にマティスが言った。


「なら、私も行きますよ。」

「え?」

「私は貴方についてきたんですから。」


その目は、一人では不安でしょう?と笑っていた。


「あぁ。ありがとう。」


俺やリラやロイよりもずっと年上で、やっぱり時間と経験をつんでいるだけある。

その優しさはとても暖かく、必ず俺の助けになる。プレンティが好きだと思う理由も分かる気がする。

決して変な意味ではないが。


「それじゃぁ、行きますか。ロスカ。」

「あぁ。アル!」


空に手をかざすと真っ黒の竜が目の前に嬉しそうに舞い降りた。

その横には青いドラゴンが降りる。


『コアを探しに行くんだろ?』

「あぁ。」

『ここでじっとしているなんて、たいくつだったんだ。思う存分、飛ばしてくれ。』

「助かる。」


きっとこの広い台地には幾つもの村があるだろう。そんな村を探し回るなんて可能性の低い事で、

アルにはかなりの負担である事も理解していた。それでも俺はじっとしていられなかった。


『私もだ。こんなに空を翔けることなんて滅多にないのだからな。』

「えぇ、そうしましょう。」


ロスカも優しく微笑んでいる。命令ではなく願いを聞き入れるドラゴンはとても美しい。

だから早くルキアをこの眼に映したい。白く輝くあの翼が空を舞う姿を。

そしてその背に乗る、コアの姿を。


「コア」


名前を呼べばすぐそこで、何?と笑って飛びついてきそうなコアがいる気がした。

幾度も約束した事を、俺は果たせていない。

お帰りというつもりだったのに、待つと約束したのに、彼女の影を追ってこんな遠くまで来てしまったのだから。

ただ、それでもいい。約束を破ってでも果たしたい夢があった。

この手でそっとコアを抱きしめたいと、何度も何度も願って。


ごめんと謝る理由をつけて、君に会いに行こう。

この空の下を白いドラゴンと翔ける君に―――――――――。

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