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第73話 :トレス

野原に真っ白のワンピースをなびかせる少女と、真っ白の羽に風を浴びるドラゴンがいる。

その周りには一面に緑の草と黄色の花が咲いていて、それらも楽しそうに風に揺れている。


『私が傷つく分、貴女が癒してくれるなら、私は貴女のために幾度でも盾になるわ。』


白いドラゴンはそういった。それがとても、そう、とても羨ましく思えた。


「コア。」

「・・・ん?あ、トレス!」


私の声に気づくとその草花を分けて少女が走ってくる。

暖かな太陽の下を、満面の笑みを向けて私のところに。


「どうかしたの?」


どうか、私を貴女の笑顔の下に置いて欲しい。

きっと貴女といると、何か違う世界が見られるような気がするから。


「・・・」

「??」

「や、やっぱり白いドラゴンは綺麗だな。」


そう中々素直になれずに、私は白いドラゴンを見て言った。

そんな私の言葉にコアはまたいっぱいに笑ってこっちを見ると、言った。


「ありがと!でも、ドラゴンは皆綺麗な生き物なんだよ?ルキアだけじゃないの。」

「そうなのか。」

「うん。・・・トレスってね、どこかルキアに似てる。」

「え?」


流れていく風に髪を押さえるコアは、急にそういった。その言葉に驚いて、私は小さく声を漏らした。

あの白いドラゴンに、幻の白竜と謳われるあのドラゴンに、私が似ているはずがない。

私には、あんなに誰かを信じる事も、思う事も、思われることもできない。


「初めて会った時のルキアに、すごく似てる。凄く綺麗な目をしているのに、どこか満たされてないような、そんな目。

何かを求めていて、もう諦めかけているようなそんな顔。トレスって、どこかルキアに似てる。」


信じたい、この子を、コアを。

私の体が勝手に彼女の前に跪くと、彼女は驚いて私に声をかけた。


「トレス!?」


私が欲しい物、貴女なら与えてくれる気がする。それは予感ではなくなしかな未来で、私はきっと笑顔になれる。

どうかそれまで、私を傍にいさせてはくれないだろうか。

貴女の笑顔が注がれる、その場所にいさせてはくれないだろうか。


「私も一緒に連れて行ってくれ。」

「え?」

「王探しを、一緒に・・・」

「・・トレス。ありがと!!うん、一緒に探そう?こちらこそ、お願いします。」


少女は嬉しそうな声を上げると、跪く私にぺこりとお辞儀をした。

その時吹いた風が、小さく花々を揺らした。私が顔を上げると、やっぱりコアはにっこりと笑っていた。

彼女の周りにはたくさんの花々が揺れていて、それはまるで、楽園にいる天使のように見えた。

その景色を見た瞬間、私は彼女の見ている世界をほんの少し見られたような、そんな気がした。


「さっそく、探しに行こっか。もうじっとしていられる時間もないし。」


ね?と微笑む少女がそういった時、遠くの方で小さな声が響いた。

花畑に注がれる風たちに乗って、その声は私達にそっと届いた。


「ドラゴンだ・・・・・」

「・・・・・・・・・ドラゴンがいる」

「・・こんな村の近くに・・・・・ドラゴンがいる・・・!」


その声に私とコアはその声のする方を見た。

するとそこには、シュランの村の者と思われる大人たちが立っていた。

その目には白竜が映っていて、怒りに燃え上がるような顔をしていた。

そしてなにを思ったか、彼らは急に地面にある石を持つと白竜に向かって投げたのだ。

それを見た瞬間、それまで微笑んでいたコアの横顔が急に凛々しくなり、白竜の下へと走っていった。


「ルキアっ!」

『コア、来ては駄目!』


白竜はそう言うと空へと飛びかけていた羽を止めた。そんな白竜に石があたりかけた時、コアは両手を白竜にかざして、大声で叫んだ。


「我の大切な者を守れ、バブルホール!!」


少女がそう叫ぶと、白竜の周りにはシャボン玉のような結界が出来た。

もう少しで当たりそうだった石は、その結界によって白竜の傍から跳ね返った。


「止めて!!」


ようやく白竜の前までたどり着いたコアが両手を広げて、大きなドラゴンを精一杯庇うように立ちはだかった。

すると村人は石を投げるのをやめ、その少女に魅入っていた。


「ルキアを、傷つけたら許さない!」

「お前が・・マスターか!そいつの、マスターか!!」

「出て行け!来るな!!村の傍にくるんじゃねぇ!!」


棘のついた言葉がいくつもコアに突き刺さるように飛んできた。

私はその場から一歩も動く事ができずに、その様子を見ていることしか出来なかった。

さっきまで私の傍にいたあの幼い少女は、絡みつく草花を払いのけながら一秒でも早くドラゴンの下へと走った。

その姿がまるで、そう、あの日の母とかぶって、私はギュッと足をその場に縛り付けられていた。


「どうして・・・?何も、ルキアは何もしてないのにっ!」


コアの声に村人達は、張り合うような大声を出して答えた。


「ドラゴンは災いのもとなんじゃ!ドラゴンなんぞこの世に必要ない生き物じゃ!!」


その言葉に、コアは唇を噛み締めて涙をこらえていた。

その姿があまりにも強くて、本当に私よりも幼いのかと疑いたくなる。

しばらく睨み合いが続くと、村人達は逃げるように走って行った。

村人達の姿が見えなくなると、コアはフワっと花畑の中に姿を消す。

私の縛り付けられていた足も、フワリと解けて、動けるようになった。


「コア!!」

『コア・・・、平気ですか?』


白いドラゴンの下に座り込んで、背の高い花々にその姿を隠されたコアはその白いドラゴンにそっと背を預けて泣いていた。

白いワンピースの上に幾つもの涙が零れ落ちていくのを、私はただ離れた場所から眺めていることしかできなかった。

その涙はあまりにも綺麗で、全てを浄化しそうなほど清らかだった。

あの人も、あんな風な涙を流していた。


「ルキアは・・・この世に必要なのっ・・!絶対・・絶対・・・必要だもん・・・。」

『コア、貴女は本当に泣き虫ですね。』

「やだよっ・・何で?ルキアは・・この世界に・・いなくちゃ駄目なのに・・!」


それをあやすようにドラゴンは優しくコアの頬に顔を擦り寄せた。

結界が解かれたドラゴンは、綺麗な羽で小さな風を起こして、花々を揺らした。


『私は、他の誰に必要とされなくてもいいんです。たとえセルスさんに同じことを言われても、私はそれでも構わない。』

「セルスはそんな事言わないっ・・・!!」

『えぇ。でも、もし貴女の大切なセルスさんにそう言われても、私は構いません。

ただ、コアがこうして泣いてくれるだけで私には充分すぎるほどですから。』


慰めるように白竜がそういうと、涙を拭いては流し、拭いては流ししながら、

コアはゆっくりとドラゴンの方へ向いて立ち上がった。

それからその涙が溜まって、赤く腫れている目をジッと睨みつけるようにドラゴンに向けて言った。


「駄目!・・・ルキアは気にしようとしてないだけで、・・・傷ついてないわけじゃない。

だから、駄目。ルキアを傷つける人を私は許せないから。」


ドラゴンは一瞬驚いた顔をして、それから優しい笑顔をコアに向けた。

その2人を取り囲む花が、まるで私を拒んでいるようだった。


『どうするんです?』

「そんなの決まってる。」


その強い目からは自然と涙が引いていて、コアは分かってるでしょ?といいながら白竜に微笑んでいた。

それからその小さな手をそっと白竜の頬に伸ばして、言った。


「ルキアを綺麗って言わせる!!」


その言葉に白竜と私は思わず笑い声を上げてしまった。

するとようやく私の存在に気づいたのか、コアが私のほうを見て言った。


「トレス。この村で、しばらく王を探そう?」

「・・・そのことだけど、王は・・・」

「?」

「王は『紫苑の花』がたくさん咲いている村にいるそうだ。」

「紫苑の・・・花?」


ここに咲くのは黄色の名もわからないような花だけど。

『紫苑の花』はとても凛としていて、脆いようで、強い紫の花。


「ここにはない。」

「じゃぁ、後3日。3日だけ、私に頂戴?」


あの人もあの花が大好きだった。私も大好きで、今でもよく思い出す。

今の王座は紫の椅子だと聞いたことがある。それはまるで『紫苑の花』のように脆いようでしっかりとそこにある。


「3日で、ここの村の人達にルキアを綺麗って言わせて見せるから!」

「・・・・・分かった。」


あんなに酷く言われても、君は絶対に屈しない。この真っ直ぐな目はいつも、ずっと真っ直ぐだったんだろう。

どれほど酷いことを言われても、折れることなく、曲がることなく、貫き通してきた、そんな目だろう?

私もそんな目になれるだろうか。君のように、あの人のように。


「トレス、大好き!!」


何気ないその言葉に、私はあまりに嬉しくて涙がほんの少しだけ目に溢れてきた。

ずっとずっと求め続けてきたものが、今ほんの少し、目の前に輝いたような、そんな気がしたから。

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