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第65話 :ルアー

「それじゃぁ、行くね。」

「あぁ、気をつけて。」


ここに来てからもう3週間が経とうとしていた。

その日の朝、俺達は彼女の口によって驚くべき事を聞かされた。

“王家の血を継ぐ者が南にいるかもしれないんだって。

私ね、その人を訪ねようと思う。それで、その人を王座につかせるために、戦おうと思うの。”

その傍らには、白いドラゴンがもちろん自分も決意は同じだ、と言う目をしてこっちを見ていた。


「フェウスさん。俺の名前は、ジェラスです。」


隣でジェラスが名を名乗った。

驚いたのはもう1つ。この男の人、フェウスさんがコアのお父さんだったのだ。


「ジェラス君・・・いい名だな。どうかコアをよろしく頼む。」

「はい。」


コアはまだ15歳なのに、母はなくなり、父の行方も知らなかったなんて、俺には考えられなかった。

俺には父も母も弟さえもいて、一応貴族の端くれだったため、金に困ることもなく高等魔術師になれた。

それはコアに比べたら、何と楽な生活だろうと自分でも思えてしまうほどだ。


「君の名前は?」


フェウスさんが俺を見て言った。

俺は急いで背をピシっと伸ばして、返事をする。


「ル、ルアーです!!」

「ルルア・・君?」

「いえ、ルアーです。」

「あぁ、ルアー君。綺麗な響きだな。君も、あの子を守ってくれ。」

「はい。」


15の少女は自分で王家の血筋にある者を求めて、南へ行くと決めた。

初めて会う父に笑顔を向けて、自らその父の元を離れようとする。

それがどれだけ辛い事なのか、考えれば分からないわけではない。

この世界にたった一人の親なのに、自ら離れていく道に進むなんて考えられないほど辛いだろう。

それでも彼女は自分で道を見つけて、進むと決めた。


「私はそんなに弱くないよ、ルキアがいるからね。」


その真っ直ぐな目に映るのは、愛する人で、恐怖や不安は一寸も見えない。

光を映し、揺らぐことなく世界を映すドラゴンマスターの眼だった。


「体に気をつけて。」

「お父さんも。」

「3人とも、無事で会おう。」

「「「 はい。 」」」


その言葉を最後に、コアは一番に地から足を離した。

白いドラゴンの背に乗ると、まるで15だとは思えないほど凛々しい横顔が目に映る。

その後に続いてジェラスが箒で空へと舞う。

俺も箒を出して後を追おうとすると、フェウスさんが俺の腕を掴んだ。


「ルアー君、これをあの子に渡してやってくれ。」


そう言って俺の手に何かを握らせる。

その手を開いてそれが何かを確認すると、フェウスさんは言った。


「こんな事を頼むのは間違っていると百も承知だ。しかし、聴いて欲しい。

ルアー君。どうかあの子を助けてやってくれ。私は傍にいてやることができない。だからどうか・・・」


どんな理由であれ、この人はコアを捨てて空を選んだ人だ。

そんな人が今さら、コアを助けてくれなどと言う権限はない。

もしも、コアのあの顔をみていなければ俺はきっとそう言ったに違いない。

彼女の顔を見た瞬間に、思ったんだ。

コアは離れていてもこの人を父と思い、愛されていると感じ、愛しているのだと。

だからこの人はきっと本当にコアのことを愛していたんだと、俺は思った。


「分かりました。必ず、助けます。守ります。そう、約束します。」

「・・・・・・ありがとう。」


コアの目はきっとこの人譲りだ。コアの母さんを見た事はないが、きっとそう。

真っ直ぐで揺るがない、強い意志を持つマスターの眼。


「置いていかれるんで、もう行きますねっ!」

「あぁ。・・・気をつけて。」

「はい。」


それはいつもとなんら変わらない、日が暑く照りつける昼下がり。

俺は2人を追って空を飛んだ。俺を待っていた二人は、俺を見ると優しく微笑んだ。

ジェラスは睨みつけてきたが。

その横でコアは可愛い笑顔を向けてくる。この笑顔を見ていると、ただの子供にしか思えないのに。

その背に背負うものは重く大きなものだったんだと思った。

父も母もいないのに、それさえ感じさせないほど明るく笑う彼女は俺の年下だとは思えない。


「コア!」

「何っ?」

「これ、預かってきた。」

「え?」


風の合間を通り抜けて、俺の声に彼女が反応するとドラゴンの背から手を伸ばしてきた。

その手にそっと手渡されたネックレスを握らせる。

金のネックレスには、指輪が3つ。ワンピースと一緒に身に着けていたネックレスだった。


「それ何なんだ?」

「え?これ?これね、私の宝物。」

「へぇ〜。」


俺の質問に笑って答えるコアを見て、横からジェラスが声を上げた。


「3つの指輪には意味があるのか。」


暗いその声にも彼女は優しく微笑んで、1つずつ指輪を見ながら答えた。


「この一番小さいのが私の指輪。この中くらいのがお母さん。この一番大きなのがお父さん。

お父さんの指輪の内側にはね、文字が彫ってあるの。」

「文字?」

「『 You are our world core. 』」


その笑顔は夏の太陽さえ跳ね返すほどに、輝いていて俺は思わず目を閉じそうになった。

彼女と出会ってから俺は少しだけ、ほんの少しだけ前とは変わった気がする。

どうでもいいとか、親なんか糞くらいだとか、こんな世界に興味はないとか、そんな風に思っていたことが

少しだけ変わった気がする。


「『私達の世界の中心は貴女。』って意味なの。」


その指輪を愛おしそうに見つめるその目は、15歳の少女よりもずっと幼い少女の眼だった。

さっきの凛々しい横顔も、フワリと和らぐ子供に見える。

そう、出会ったのがコアだったから。

俺が出会ったのがコアだったから、俺はほんの少し変われたんだ。


「伝説の・・マスター・・・・・・か。」


貴族の中で生きてきた俺にとっては、コアとの出会いはとてつもなく大きなものだった。

そしてそれはきっと、ジェラスにとっても同じなんだろう。


「何か言った?」

「いや、何も。」


そう?と微笑む少女は、白竜をその小さな手で優しくなでた。

白竜はその手に気持ちよさそうな声を上げる。

幻の白竜が、コアと誓った理由がわかる気がする。

ドラゴンは何千年も生きることが出来るが、主を持つとその主の寿命と同じかそれ以下にしか生きられなくなる。

それは俺でも知っているくらい有名なドラゴン契約の中の1つで、主が死ぬときドラゴンは死ぬという契約。

しかしマスターはドラゴンが死んでも、死ぬ事はない。

それは俺にとって見れば別に普通なのだが、きっと彼女達にとっては違うんだろう、と思う。


「ドラゴンマスターになればよかった。」


それは自然に零れるように出た言葉だった。

コアを見ていると、そう思ってしまう。ドラゴンマスターを目指せばよかったと。

俺がともに空を飛ぶのは無機物な箒。しかし、彼女は息をして言葉を伝えて、共に笑うドラゴンと空を飛ぶ。

それがとても幸せそうに見えてならないんだ。


「俺もそう思う。」


そう言ったのは隣で相変わらずの仏頂面をしたジェラスだった。

しかしその眼は確かに2人を羨むような目だった。

ドラゴンは、自分の寿命を削ってまでマスターと契約を結ぶ。

その理由は全く分からない。何千年と生きられるのに、人間のたった少しの寿命に合わせて死ぬんだから。

それを分かっていて契約するほど、得たいものなのだろうか。


「まぁ、そうじゃないドラゴンもいるんだろうけど。」

「ん?何の事だ?」


俺の独り言にジェラスが不思議そうに聞いてくる。

遠くを飛ぶコア達には、俺達の声は聞えない。


「いや、なんでもない。」


卵で買われたドラゴンは、有無を言わさず契約することになる。

それも1つの運命だといえば、運命なのだろうけど。

もしもドラゴンマスターになれたら、俺は俺だけのドラゴンと契約したい。


コアとあの白竜のように。



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