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第62話 :コア

私は小さい頃からおじいちゃんに育てられた。

両親はいない。でも、平気。不思議だけれど、きっと2人は私を愛していたのだと、そう確信していた。

きっと私を愛してくれていて、ずっと私を見てくれてる。

私がそう言うとおじいちゃんは決まって言った。

“きっと神様がそう、教えてくれているんだろうなぁ。”って。


「すまない、つい、長話になってしまった。」


伝説の白竜を父に持つフェウスさんには、今はテパングリュスに眠る愛しい人と、その子供がいた。

その愛している人の名前は、グレーナ。

その名前をどこかで聞いた事がある。そんな風に頭の中を探していると、声が聞えてきた。


“ここに眠っているんだ。この、テパングリュスに。”


それは懐かしい、ハイドン省長官の声。そう、彼が言ったんだ。


“君にそっくりな・・・そうまさに生き写しのような彼女・・・グレーナが。”


ハイドン省長官の大切な友達であるグレーナさんも、病気で・・・。


「・・どうかしたのか?そんな顔をして。」


ヒュゥ”と風が暖かく吹いた。

ハイドン省長官にはクリュスという双子のお兄さんがいて、

カルティエさんとハイドン省長官とそのクリュスさんには、幼なじみがいた。

その人の名前が、グレーナさん。


「・・私・・・・・・」


ハイドン省長官は、お別れの日に私に1つのネックレスをくれた。

グレーナさんがいつも着けていたという、3つの指輪が通る、綺麗な金のネックレス。

そのネックレスが今、首もとでキュウッと熱くなった。


「わた・・し・・・・」


そのネックレスの中の一番大きな指輪には、確かに文字が彫られていた。



『 You are our world core. 』――――私達の世界の中心は貴女。



全てはその瞬間に繋がった。


「お・・・・父・・・・さん。」


強い風が一瞬、目の前の男の人と私の間を掛けて行った。

運命の神が通って行った、そんな気がした。


「え?」

「指輪・・これ・・・・。」


そっと手を後ろに回して、首に繋いだネックレスを外した。

立った一本のチェーンに、3つの大きさがバラバラな指輪が通っている。


「これ・・・グレーナさんのお友達が下さったんです。グレーナさんが、いつも身に着けていたものだって。」


そっとそれを渡すと、彼の大きな手がそのネックレスに通った指輪の中の一番大きな指輪を覗いた。

優しい目がジッとその指輪を見終わると、バッと私のほうを驚いた目をして見た。

風は絶えず吹き続けていた。


「私の祖父は・・白竜遣いなんです。・・伝説のマスターと呼ばれた人。」


ルキアと出会った日、ほのかに吹いた風は、運命の神がもたらしたもの。

そして、フェウスさんと出会ったあの朝に吹いていた、涼しい風も運命の神が吹かせたもの。

私の眼は急に熱くなり、じわりと何かが溢れて流れて行った。


「君・・名前は?・・・・名前を教えてくれないか。」


グレーナさんはハイドン省長官達の前から2年間姿を消していた。


「私の名前は」


その2年で彼女は少し変わったと、ハイドン省長官は言っていた。

彼女はその2年間で、愛する人と結婚し、子供を産んだ。


「――――コア――――」


おじいちゃんが教えてくれた。私の名前には『中心』という意味がこめられていると。


「・・・私達の世界の中心は・・・・・・・・・・君だったんだ。」


指輪に彫られた意味をはじめて知ったとき、私はきっと何かを感じたんだ。

運命の神がこれを私に持たせて、まだ見ぬ父に会うように。

もしも私がクラスSに入っていなければ、あの実施訓練もなかった。

あの実施訓練で総予省へと配属されなければ、ハイドン省長官に出会う事はなかった。

ハイドン省長官に出会えなければ、このネックレスを貰う事も、グレーナさんの話を聞くこともなかった。


「お父さん・・」


もしもセルスがいなければ、私はクラスSなんて入ってなかった、入れてなかった。

もしもセルスに出会っていなければ、私はお父さんに会うことも、お母さんの話を聞くこともなかったんだ。

そう思うと、今吹くこの風は、神がくれた贈り物に思えてしかたなかった。

涙は止まることなく溢れていく。

おじいちゃんが言ったとおり、お父さんもお母さんも愛してくれている事を、神様は教えてくれてたんだ。


「まさか、そんな・・・。こんな事があるなんて・・。」

「運命の神様は・・お父さんとお母さんをこんな風に、引き合わせたの?」


長い時が今動き出したような気がした。


「あぁ・・そうだ。そうだとも、我が愛しい・・愛しい娘よ。」


お父さんはそういうと、そっと私を宝物を触るように抱きしめた。

大きな腕の中にすっぽりと収まる。お母さんはもう少し大きかったのかな?

髪の毛はもっと長かった?肌ももっと白くて、私みたいに筋肉なんてなかったのかな。


「運命の神は確かにいる。君が私に出会ったように。グレーナが私に出会ったように。

私の目指した幻の白竜のマスターである父を継いだのが、私の娘の君であるように。

私は心のどこかで願っていたんだ。自分の娘が、父の後を継いでいるんじゃないかと。

そして白竜に乗って、いつか私の目の前に現れるんじゃないかと、願っていた。」


そう、そして私は白竜に乗って、父である貴方の前に舞い降りた。


「どうして・・君だと思わなかったんだろうか。

グレーナにそっくりなその強い目と綺麗な髪で、分かったはずなのに。」


それはきっと、グレーナさん・・・お母さんのいたずらだったのかもしれない。

何故だか私はそう思った。


「お母さんの・・意地悪だったのかもしれない。」

「え?」

「必ず出会えると信じてたから。

お父さんがお母さんの話を私にして、私は何も知らないままそれを聞いて、お父さんを憎まずにすむように。」


もしもお父さんだと知ってその話を聞いていたら、私は少し疑ったのかもしれない。

けど、お父さんも知らずに話し、私も知らずに聞いた。

私が疑わないために、お母さんがそうしてくれたのかもしれない。


「グレーナらしい。」


私はこの人と、この人の愛した人に愛されて生まれた。

その後おじいちゃんに預けられたとしても、私は何も悲しくなんてないよ。

私は確かにお父さんとお母さんに愛されて、おじいちゃんにも愛されて育ったんだ。

そしてお父さんが憧れたように、私もおじいちゃんのようになりたくて、マスターを目指した。

マスターを目指して、学校へ入り、私は自分を呼ぶ声を探してルキアと出会った。


「私も、運命の神様を信じてたのかもしれない。」


ふとハイドン省長官の声が聞えた。

お母さんが眠る、テパングリュスの地で彼が言った

“いつか、その真実と出会える日がくる。”という言葉が。


もしかしたら、彼は知っていたのかもしれない。

私がグレーナさんの子供だと。彼の言った真実とは、きっとこのことだったんだ。


「コア。」


初めて名前を呼ばれて、体が小さく揺れた。


「私も決めたよ。世界に戻ろうと思う。」


世界から姿を消していたというお父さんの私を見る目は、とても強くて、真っ直ぐで、どこかセルスに似ていた。

私の目はお母さんに似ていると、お父さんは言ったけど、お母さんが私の目を見ればきっと、

お父さんに似ているというんだろうなぁ。

私はそんなふうに思いながら、にっこりと笑って見せた。


「うん。」


世界のトップを目指していたその目は、紺のドラゴンと共に伝説を作る。


「出来ればコア、君について行って助けてやりたいのだが。」

「私は平気。だから、この村や他の村を守って。」

「あぁ、任せておけ。その代わり、君1人じゃ不安だ。あの2人は必ず連れて行ってくれ。

それと・・・これが終わったら、必ず一緒にグレーナに会いに行こう。」


お母さんはきっとお父さんの空を飛んで、遠くを真っ直ぐみるこの強い目が好きだったんだ。

私もそうなように。セルスのあの遠くを見据えて空を飛ぶあの姿に恋するように。

お母さんは私に似て、趣味が悪いんだなぁ。

私はそう考えると、頭の中でセルスとお父さんを並べ比べて笑いそうになった。


「うん。」


そのときは、セルスも一緒に。

私の大切な、大好きな人ですって紹介したいから。


約束しよう?


全てが終わるとき、私達は確かに幸せな時間をもう一度作り始めると。

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