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第5話 :ルキア

空を飛んで思いをはせて、どこまでも途切れることなく続くこの空に。


『ずっと昔、そんな目をしたマスターがいた気がする。』


まだ幼い私と母の前に現れて言った。

『俺を呼んだのはお前か?』と。

彼女の目は、彼にとても似ている気がする。明るくて、喜びや悲しみを知っていて、それでいてどこか深みがある目。

母は死ぬときに言った。『何を引き換えにしてでも、彼に出会えてよかった。』と。

母は何度も傷つき、何度も空を飛べなくなった。白く美しいその翼を赤く染める事も、黒く汚す事もあった。

けど最後の最後まで、この空に彼との思いをはせていた。


だから私はきっと眼を開き続けてきたんだろう。たとえこの世界がどれほど濁ろうとも、私を呼ぶその一声に世界を映す。

そうしてもしかしたら、私は最高のドラゴンマスターと出会えるんじゃないかという期待を描いて。

 

“あなたが、私を呼んでいたの?”


私は心のどこかで求めていたの、私の主を。そんな私の目の前に現れたのは、幼い子供だった。

けど彼女の眼はずっと真っ直ぐでしっかりしていて、深みがあった。そんな彼女は私にかってに《ルキア》という名前を付けた。

それからずっと、彼女は私に色んな話をした。優しくてしっかりしている、友達がいること。

いつでもはしゃぎまわって、よく怪我をする事。とても素敵な男性がいて、その人のことを大好きだと言う事

。その目はとても幸せそうで、どこか切ない。『凄く大切な人なの。』なんてね、と彼女の軽い笑顔がとても温かな風を生むように。

くだらない事ばかりだけど、聞きたいと思ってしまう。彼女が楽しそうに話すからなのか、それがとても楽しい事に思える。

その話を聞くたびに、頭の中でその様子が浮かび上がる。そのたびに思った。彼女と過ごすと、毎日が飽きないだろうと。


きっと世界は輝きに満ちているに違いないと。


星が空を瞬く。もう何年もあの空を飛んでいない。


 「綺麗な星だね。おじいちゃんが、言ってた。」


今日は、おじいさんの話?そんなふうに目を閉じる。彼女はおじいさんの事を本当に大好きで、とても尊敬している。

そして彼女はそのおじいさんを目指していると同時に何かを抱えていた。


「『ドラゴンは、星がすきなんだよ。平和を願う者達だから。」て。」


私は星になりたいなんて思わない、だけど。彼女がここに来てから、私にとって世界はまるで未知との遭遇で。

見えない可能性を秘めているように思えて、世界は不思議と輝いて見える。

美しいと思えるものがあり続けて欲しいと思うように、彼女にも存在していて欲しい。


『星・・・私も好きです。』


聞えただろうかと心配になるくらい、小さな声が自分の喉から流れていく。すると彼女は嬉しそうにこっちを見て微笑んだ。


「だけど、ルキアは星になりたいわけじゃないんでしょ?」


夜の風を透かして、彼女の声は真っ直ぐと私に届く。空に輝きを与える星たちは、とても美しいと思う。

けど、私は美しくなくてもいい。ここで私が出来る事があるなら、美しくなくてもいい。 


「私も別に、星になりたいわけじゃないの。」


彼女の言葉は空気を響いて、冷たい風に乗り聞こえた。ゆっくり眼を開くと彼女は空を見上げていた。

その横顔に私は思わず魅せられていた。その後彼女はゆっくりと地面を見るといきなり立ち上がり私を見た。


「待ってて。私ここで出来る事、精一杯頑張るから。」


そう言うと彼女は闇が張る木々の間を走って行った。何時間たっても彼女は帰ってこなかった。

どう足掻いても、無理なのに。貴女には与えられない。私の願うものは矛盾しているから。

そう思いながらゆっくり。ゆっくり。私は静かに一人で目を閉じた。

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