第4話 :コア
声が私を呼んだ。その声の主は、茶色をしたドラゴンだった。
そのドラゴンの眼はとても綺麗な青をしていて、その声はまるで天使の囁きのように澄んでいるの。
けど、そのドラゴンはどこか満たされないような顔をしていた。何かを求めていて、もう諦めかけているようなそんな顔。
私がそれを与えたら、契約してくれる?と聞けば頷いてはくれたけど、その目は絶対に契約しないという目を隠しきれずにいた。
「私ね、どうしてもドラゴンマスターになりたいの。」
そのドラゴンの顔の前に座って目を見る。綺麗な青い目がゆっくりと私を見てくれている。
「おじいちゃんが、ドラゴンマスターだったの。すごい素敵でね、カッコイイの。ドラゴンと仲良くて、強くて。世界中を飛び回って。」
ルキアは、何も言わずに目を閉じる。土ほこりをかぶった肌に手を触れそうになり、私は急いで引っ込めて言った。
きっとまだ彼女は触れられたくはないはずだから。彼女はどこか冷たい。
人を信じきる事をしないで、いつだって傷つけられないために羽を閉じている。
「困っている人を助けた事とか、戦争を終わらせた事もあるの!」
だけど彼女が本当に冷たいかと言うと、それは違うと思う。
自分が傷つかないために、冷たくしているだけで、本当はとても優しい目をしているの。
私の話だって、聞いていないような風で、ちゃんと聞いていてくれている。
「私の憧れ。・・・でも、もしかしたらもう無理なのかも知れないんだけど。」
ルキアに話しながら、私は自分に言い聞かせるように言った。分かっていた。あの試験が、どれほど大事かって。
クラスBへ行ける、大切な試験だったって。試験官やマスターたちに逆らう事は、無礼になり失格になるってことも。
「でも、これでよかったの。」
それでも後悔はしてない。もしもあそこで黙っていたら、私は一生、私の目指す『伝説のドラゴンマスター』にはなれなかったと思うから。
「ドラゴンと私達、何が違うのかな。」
おじいちゃんを見ていたとき、よく思った。ただ、2人でいるだけで世界はあぁも輝くのだと。
あの眼は私にたくさんの事を語ってくれた。その全てが私を魅了してやまない。
だけど先輩とか、先生とか、ドラゴンマスターを見ていると悲しくなる。
「どうしてマスターがいてドラゴンがいるだけで、
ドラゴンはマスターの召使みたいになって、マスターは自分を偉いと思いこんでしまうんだろう。」
おじいちゃん達の間には、そんな面倒くさいものなんて何もなかったのに。
2人はいつも楽しそうで、喧嘩して、怒って、笑って。私はそんなドラゴンマスターに憧れていた。
私が奪ったその二人の未来を、私は背負いたい。そんな思いもあった。
「変だよね。」
私の声だけが小さく森に響いた。ドラゴンマスターがそんな風に思う事は、おかしいと言われる。
だけど、どうしてもそう思わずにはいられないの。ドラゴンは私達と何にも変わらない。
『ドラゴンなんて唯の道具でしかないのだよ、君。』
そんなの全然分からない。分かりたいとも思わない。息をして、世界に希望を抱いて、優しさも、苦しみも知りながら生きている。
大切な人を守ろうとして傷ついて、大切な人を想って暖かくなる。ドラゴンは私と一緒なのに。何も違いはしないのに。
「ルキアは、マスターが嫌いなんでしょ?」
眠ったようなルキアに語りかけてみる。返事なんか、もちろんない。
初めてルキアに会ったとき、彼女の眼は多くの闇を抱えているように見えた。その瞬間に分かったの。
ルキアの眼をこんな風にしたのだって、ドラゴンマスターなんだって。
だけどそれと同時に彼女の眼にはほんの少しだけ、ほんの少しだけだけど小さな輝きが見えた。
私はその輝きをもっと大きな光に変えてあげたい。
「私もマスターなんて嫌い。」
だからこそ、諦める気にはならなかった。
彼女がドラゴンマスターをどれだけ嫌っていたとしても、私は伝説のドラゴンマスターを知っているから。そのことを彼女に教えてあげたい。
ルキアに闇を与えたのがドラゴンマスターなら、私は彼女に光を与えられるドラゴンマスターになりたい。
優しい風に、睡魔が襲ってくる。こんなに傍にいるのに、何も分からないルキアの願い。
ドラゴンマスターが奪うものなんて、多すぎて。でも、ルキアの冷たい目がいつか。優しくなるのなら、私は探すから。
ずっと、探し続けるから。私は彼女に光を与えられるような、ドラゴンマスターになるから。2人と・・・・・・・ルキアのために。