表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/136

第45話 :クリュス

あの日もそうだった、私が彼に初めて出会った日もこんなふうだった。


「君がセルス君かな?」


木陰が作られたベンチの上に何かを期待するような表情を見せて座っている少年に声を掛ける。

彼が着ているコントゼフィール学院の紋章が描かれた白いマントが一層彼を思わせた。


「はい。」

「初めまして、僕は・・・知ってるか。クリュスだ。」


しっかりと返事をしてこっちを痛いくらいに見つめてくる彼に笑いかけると、彼も静かに笑った。

そよそよと夏を匂わせて風が吹く。


「セルスです。」

「思っていたより若いなぁ。いくつ?」


キリッとした顔はその若さを隠しきれずにそこにあった。

頭の中で無造作に思い描かれていた少年は、もっと少年から抜けきっているような感じで

彼の外見とは全く違うが、彼自身とは少しばかり似ているような気もした。


「15です。」

「15で、コントゼフィールを?」

「はい、一応。」


彼は16の時にコントゼフィールに入学した。

その彼よりも幼くしてあの学園に入学するとはよほどの力の持ち主なのだろう。


「残念ながら1時間くらいしか取ってあげる事ができなくてね。すまないが話を聞かせてほしい。」

「お忙しいのにすいません。それじゃぁ・・・・」


立ったまま話し出しそうな勢いの彼に、そっとベンチへ腰掛けるよう促して

自分もゆっくりとその隣へと腰を下ろした。


「・・今、一番聞きたいことを聞いてもいいですか。」

「どうぞ?」


黒い目その目が射る様に私を見てきたので、笑顔を見せて頷いた。

その黒い目はまるで彼を思わせてならない。

黒くて真っ直ぐな短髪に、人を吸い込んでしまいそうなほど深い黒い目。


「フェウスさんと言う方をご存知ですか?」


それは唐突に、そのままの形で投げかけられた質問だった。

彼はその質問の答えをもちろん知っていて、これからの質問のための確認に言葉を使っただけ。

それを知っている彼にわざわざ嘘をつく必要もなく、私は頷いた。


「あぁ、知っているよ。」


そう、目の前にいる少年はまるであの日のフェウスにそっくりだった。

外見が似ているというのも少しある、がそれ以上に心のどこかが似ていた。


「フェウスさんとは・・会わせてもらえませんか?」


全てを知りたいと望んでいるその目が、私を放しはしない。

幼い少年は少年ではなく、俺さえも見透かしてすでに世界へ飛び立とうと羽をばたつかせている。


「知らないかな?彼は今、行方不明・・」

「貴方なら、ご存知だと思いまして。」

「私が?どうして?」

「彼が唯一心を許していた友だとお聞きしていたので。」

「ははっ。まぁ、確かに彼は友達づきあいがあまりよくはなかったからね。」


そんな目の前の少年を見ていると思い出す。そんな少年が恋を知った、その瞬間を。

全ての運命が始まりの音を告げた、あの時を。


「どこにいるのかご存知ないですか?」


まるで確かめるだけの質問に、俺は首を横に振ることをためらっていた。

知らない・・・わけじゃないからだ。

ただ、それを教える事はできない。彼はある目的でそこにいるから。

彼が自らその場所から飛び立つ事をしない限り、私でさえ会う事はできない。


「・・・すまない。彼の居場所を知らないと言えば嘘になるが、そこを教えるわけにはいかないんだ。」

「え!?」

「彼はある目的を持ってそこにいる。彼自身が自らそこを発たない限り、私にさえ会うことはできない。」


少年は私の言葉に少し考えて、目を開けた。


「そうですか。」


その言葉で、彼が私の言葉の全てを事実として受け取ったことが分かった。

その少年はその後、その場所を聞くわけでも、その目的を問うわけでもなく、私を見つめた。


「―――――――――ある少年と少女の話をしようか。」


長い沈黙が続いた後、ふと頭に浮かんだ言葉が、外へと漏れた。


「え?」

「私の知り合いの話だ。まぁ、長い独り言だと思ってくれたらいい。

聞くも、聞かないも君の勝手だよ。」


まるで老人になったかのような気分が私を襲って、その空気全てが私に年を与えたようだった。

彼は私のそんな言葉に小さな疑問をあげながらも答えた。


「聞かせてください。」


長い独り言は、会話を了解されて、考えてもいなかったことが口からすべり落ちていく。


「その少年と私が出会ったのは、私が13で彼が15のときだった。」


その場所には何もなくて、それでも私は彼と彼のドラゴンが空を舞う姿だけを映していた。

その場所に唯一咲いている花を必死で魅入るような、そんな気持ちだった。

目を閉じると、声が聞えるよ。君には聞えるかな?



あの冷たい目をしていた君が、これから生涯を掛けて愛する事になる少女と出会ったあの日の声たちが。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ