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第3話 :ルキア

この世界は変わった。昔のように風は香らないし、色はすさんでいる。

何よりも、マスターに一寸の光も感じない。

だから私はここでこうして眠っている。マスターなんかいらない。私は誰にも誓いはしない。私は誰にも従いはしない。

私はそうやって世界から目を閉じて、永い眠りについていた。


ほんの小さな声だった。まるで消えてしまいそうなほどに小さな、幼い少女の声だった。


「・・・ドラ・・・ゴン?」


しかし運命の神ラスティは、私とたった一人の少女とを出会わせた。

小さく小さく森の中に響いたその幼い声に私は、閉じていた目を静かに開いて世界を映した。


「あなたが、私を呼んでいたの?」


私の目の前には小さな少女が1人で立っていた。それ以外の景色は前に目を開けた時と何ら変わりはしない。

鬱葱と生い茂る木々や草花、風の通らない崖の下で、私は動かずに眠り続けていた。


『・・・誰です?』


薄暗がりの中、古い土の匂いと温かな陽だまりの匂いがした。


「コア、私の名前はコア。」


丸い眼があまりにも綺麗で、私は吸い込まれそうな気持ちになった。

永い眠りから覚めて初めに目にしたものが、こんなに幼い少女だなんて。そんな私の考えを無視してその少女は私に聞いた。

しかしその問いは、ばかばかしい質問だった。


『私に名前があるとでも?』


契約をしていないドラゴンには、名前なんて物はない。契約を交わし初めてドラゴンは主から名を与えられる。

それがドラゴン契約だ。誰とも契約を交わしていない私が名前なんてあるわけない。

それは今だけでなく、これからもずっと私に名前なんてない。

私が目を覚ますといつも男や女が立っていて、私に誓わせようとする。白竜だと騒ぎ立て、マスターとの契約をさせようとする。

今だってそうだ、この少女はドラゴンマスターを目指す者の目。


「ないの?」

『契約していないドラゴンに、名前なんてあるわけないでしょう。』

「そっか。」


木々が日の光や風さえ妨げるほどに茂るこの森に、少女が笑うと暖かな光と、フワリと春の風が吹き込んだ気がした。

その風に一瞬、気を抜いていたときだ。


「じゃぁ、つけてあげる。ん〜っとねぇ・・・ルキアなんてどう?」


何を言い出すのかと思えば、この少女はいきなりとんでもない事を言ってきた。


『・・・ドラゴンに名をつけられるのは、契約してマスターとなった者だけですよ。』

「そうだったっけ?でも、今だけはルキアって呼ぶね!」


私はその言葉に全く理解できなかった。


『貴女、マスターでしょう・・・?』

「え、うん。一応、その試験を受けているの!」


その予想は確信へと変わった。その瞬間に私の心は一気に曇った。

マスターなんて嫌い、自分勝手で、私達の事をおもちゃと勘違いして。

だから私はどんなマスターとも誓う気なんかなく、ここに来るマスターは丁寧に追い返して、また一人で静かに眠りについた。

名前を呼ばれても、目をあけなければいい、眠り続けていたらいい。そう分かっていても私は目を開いてしまう。


「ルキアって、何か願いがあるの?」


アホっぽい顔を向けて少女がそう聞いてくる。どうして私は目を開けるのだろうか。名前を呼ばれても眠り続ければいいのに。

マスターを見るたび嫌になる。それでも、私はこの世界に何かを求めているから目を覚ます。


『ドラゴンマスターの貴女には、与えられないものです。』

「それ、何?」

『・・・・・・・マスターが我々から奪うものですよ。』


私の母とそのマスターは、伝説と(うた)われるドラゴンマスターズだった。

母の白い背にマスターは嬉しそうに乗って、2人は空を高く飛ぶ。綺麗な空を、それは美しく、気高く。

そのマスターは、今のマスターたちとは全く違っていた。

母を一番に思い、主従関係を求めず、ただ幸せを求めて母の背に乗り世界を飛んでいた。私は求めていたのだ、きっと。

あの2人のように、真の絆と、矛盾している自由を。


「四日後ね、試験があるの。それに合格できなかったら私はゴンマスターにはなれなくなる。

絶対に与えてあげる。ルキアが願うもの、与えてあげる。だからもし、与える事ができたらね。私と契約してくれませんか?」


少女は真っ直ぐに私を見るとそういった。貴女には見つけられない。他の誰にも、見つけることなんかできない。

信じる心が欲しい。何かを、誰かを信じてみたい。

それを、貴女に与えられるはずなんかない。ドラゴンマスターを目指すものに、与えられるわけない。


『いいわ、コア。』


それは小さな約束だった。眼を開いたとき、私の目の前に立っていたドラゴンマスターを目指す少女との、小さな小さな約束。

私は彼女のそんな言葉にゆっくりと微笑んで頷いた。でも私はその約束が果たされることなんて、頭の端にもなかった。

私の願いはドラゴンマスターの目をする貴女に、見つけられるわけなんかない。そんな私の心の中の声は少女に届くことはなかった。


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