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第31話 :コア

「すまないが、私は子供ガキを信頼するほど甘ったれた仕事をしているわけではない。」


私の事をガキだといって、見下ろしてくる長身の男。

彼の名前はハイドン省長官。

総予省の長官で、私が配属されたこの部署で最も偉いお方である。


「あのっ!!私の名前はコアです。」


訴えるように二度目の自己紹介をして、彼を見上げた。

すると彼はその冷たい目を細めて、まるで軽蔑するように私を見ていった。


「君、考えて分からないか?傍にいる人間に話しかけるのに、そんな大声を張り上げる必要がどこにある?」


嫌味たっぷりの言葉に私は、下唇をかみ締めて小さく謝った。


「すいません・・・。」


全く、と投げ捨てるように言葉を放つと彼はため息をついて、言葉を続けた。


「これが白竜の選んだ伝説のドラゴンマスターか?」


資料が大量に積まれたその部屋は、何人かの人が私達の存在を無関係に走り回っている。

クレズが言っていた事は本当だったようで、それ以上かもしれない。


「仕事は与えてやらん。」


”去年の奴が失敗したから今年はもっと厳しいだろうなぁ。もしかしたら、仕事なんか与えてくれないかも。”

そうロイが言ってた通りだ。


「でもっ!」


食い下がるまいと私も精一杯に食いつく。

私の眼から反らされていた目が、鬱陶しいというように私を見て言った。


「白竜の眼も、落ちたもんだな。」


あまり大きくもないその声が、私の心の中にグサリと突っ込んできた。

黙り込む私に彼はまたため息をついて、完全に見下した声を出した。


「こんな子供に割く時間はないんだよ。」


その瞬間、ルキア契約を交わしたあの森がパッと脳裏に浮かびあがり、

あの日吹いた強い風が、私の心の中にもう一度吹いたような気がした。


「待ってください!!」


背中を見せて、1・2歩離れて歩く彼を呼び止めた。


「なんだ」


こっちを見ることもなく、言葉だけが背中から投げ捨てられる。


「・・・今の言葉は、撤回してください。」


逆らっちゃ駄目、言い返しちゃ駄目。心の中で小さな反対がうごめく。

その反対を押し切って、私の口からは言葉が出て行く。


「は?」


その言葉に彼が振り返り、その冷たい目が私を映す。


「今の言葉、撤回してください。」

「・・・貴様、私が誰かと知っての言葉か?それは。」


あの試験のときと同じだ。“ドラゴンなんて唯の道具にすぎないんだよ、君。”

白いひげをいじりながら、私を軽蔑するかのように見てくるあの目に私は感情を抑えられなかった。


「知ってます。でも、ハイドン省長官もドラゴンマスターですよねっ?

それなのにそんな事を言うのなら、私は貴方がマスターだとは思いません。」


地位が関係あるのだろうか。能力や、技術がドラゴンマスターの力に関係するのだろうか。


「先ほどの“白竜の眼も、落ちたもんだな。”って言葉、撤回してください。」


たった一度のその言葉が、心のどこか深くにこびりついている。

初めて来たこの場所で、こんなふうに言い返すことがどれほど大きなことかちゃんと知ってる。


「私が上司だと知っての言葉だというのか。」

「はい。」


たとえこの先に繋がらないとしても、ここで私の夢が途絶えてしまったとしても。私は絶対に後悔しない。

でも、ここで折れてしまったら私はこれから先夢が叶ったとしても、欲しいものを手に入れたとしても、絶対に後悔する。


「ははっ。」


緊張していたその空気を一気に乱すように、ハイドン省長官が笑い声を上げた。


「お前のドラゴンはさぞ幸せだろうな。悪い、撤回しておくよ。お前のドラゴンは良き主を選んだ。」


冷たい目はまだ、冷たい目をしたままだった。だけど、どこかあの試験官とは違う。


「ありがとうございます!!!・・・あのっ!」

「あぁ、仕事は与えんからな。」


きりっとした顔に戻ると、彼はそのまま忙しくどこかへ行ってしまった。

この場所は違う。あの試験官のような人はいないんだ。

そう思うと資料室のように薄汚いこの場所にいる事がとても幸せに感じる。

仕事はくれない。それが何の苦悩になるのだろうか。

ハイドン省長官の目は、仕事をしろと言っているような気がした。

仕事なんか、与えられなくてもあるんだ。

星じゃなくてもできること、星には出来ない事があるから。

私は星になんかなれなくてもいい。


「はいっ。」


去っていく彼の背中に、私の返事が届いたかどうかは分からない。

私は今ここで出来る事を、精一杯する。

そうだよね、ルキア、セルス。

心でそう問いかけると、風が一瞬強く吹いて資料が部屋に舞い散る。

それがルキアとセルスが返事をくれたように感じた。


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