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第2話 :コア

私はここ3日間、ろくにご飯を食べてなかった。

そんな私の周りにあるのは、日を隠すくらい高い木ばかり。地面にはうっそうと生い茂る草。風は流れも何も感じない。

私1人でここへ来たのは間違いだったのかもしれないと少し後悔していた。セルスやリラやロイには黙ってここへ来たのだ。

家を出てからもう何日もこの森をずっと歩いている。もしかしたらセルスたちは心配しているかもしれない。


「あと4日・・・」


あの老いぼれ試験官の所為で、今私はこんな所にいる。

『ドラゴンは唯の道具でしかないのだよ、君。』

あの言葉は思い出しただけでも腹が立つ。今のこの世界ではほとんどの人がそう思っているのかもしれない。

だけど、私にはその理由がどうにも納得できないのだ。

この世界は間違っている。誰かがそう認めさせなければ、ドラゴンマスターは皆いつまでも、真のマスターではなくなると思う。

マスターとドラゴンの間にあるのは、主従関係。私にはそれが全く理解しがたいものだった。

だから私はそんなものに縛られない、ドラゴンマスターになろうと思った。

そう、おじいちゃんとエルクーナのように。そして、そう意気込む私がどうしてこんな森の奥深くにいるか、その答えはいたって簡単。

   追試。


「老いぼれ試験官のばかぁ〜!」


そう大声で叫ぶと、遠くでギャーとかバサバサッとか、生き物が飛んだり鳴いたりしている音がする。

それが何とも不気味でしかたない。あの老いぼれ試験官の所為で私は今こんな所にいるんだ。

あの試験官が私をクラスDへ落とさせた所為で私は1人こんな所で彷徨っている。

もう嫌だそう何度も思った。引き返そうと思えば、いつだって引き返せる。

けど私はセルスやリラと頑張ると約束した。何よりも、私はドラゴンマスターになりたい。


「待っていて、私のドラゴン!」


これはクラスS〜Dまで全ての生徒に出された課題だった。その内容は、竜と契約を結び、共に空を飛ぶ事。

そしてこの課題、クラスDの生徒にとっては試験になる。

もし、竜と契約できなかったり、空を飛ぶ事ができなかったりすると、その時は問答無用の退学となる。

だからクラスDの生徒は皆、卵や子供を買ったと聞いた。で、どうしてその『クラスD』の私がここにいるかというと。

『ドラゴンを探しに来た』というのが最も正しい答え。


「お腹すいた・・・疲れた・・・。」


卵を買えばよかった、子供を育てればよかった、それが退学せずに済む最も安全な方法だと分かっている。

でも私が目指すのは唯のドラゴンマスターじゃない。その感情がどうしてもドラゴンを買う事を許しはしなかった。


あの日からしばらくして、私は小さな声に気づいた。

私を呼んでいるような、待っているような、その声を辿ってこの森の中でその声の主を探していた。

幼い頃の記憶が、不意に声となって耳の奥に響く。

『声が聞えるまで待ってみるのもいいかもしれんな。』

大好きなおじいちゃんのその言葉に、私は知らず知らずのうちにこの森で、ドラゴンを探していた。

私を呼ぶ声が少しずつ、少しずつだけど大きくなって、その声を頼りに、何日も森を歩いた。

食べ物が尽きて、飲み物を調達して、何日も、何日も。

そして試験まで後4日まで迫った今日、私は未だドラゴンとは出会えていない。

それでも、私は探し続ける。私がなりたいものは、伝説のドラゴンマスターだから。

 

「ぎゃ!」


私は何かに(つまづ)き急にバランスを失って、体が重力のままに下へと滑り落ちていく

。周りの景色がグルグルと何度か回転し、体のあちこちを地面にこすりつけながら止まることなく落下していく。

(ガサッ)滑り落ちた坂の下からは空を見上げても全く何も見えない。私は静かにそこに生える草をかき分け、息を整えて立ち上がった。

その時、今まで曖昧だった私を呼ぶその声が急にはっきりと耳に響いてきた。あぁ、この声だ。

目を閉じて、耳を澄ますとその草の奥からシンと優しく響いてくる。

高くて綺麗で澄んでいて、それはまるで、おとぎ話の白竜のような声。

私はきっとこの声の竜と出会う。そして、恋に落ちるように物語を始めるんだ。

私はそう興奮しながらその場をゆっくりと声の方へとくだった。大きな草を除けて一歩踏み出す。

その先に見えたのは、想像よりはるかに大きな茶色の物体だった。


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