第28話 :リース
目を閉じれば鮮やかに彩られたあの世界が思い出せる。
『待ってよっ、リース!!』
「本当にお間抜けさんね、リュークは。」
ドラゴンとは普通りりしく、綺麗で気高い生き物だといわれる。
けど、彼は全く違ってた。
『待ってってばっ!!』
おっとりしていて、マヌケで、可愛い。
黒い羽を精一杯開いて、後ろから付いてくる。
まるで、弟のようなドラゴンだった。
「リュークは、弱弱しいわ。」
『強くなるよっ!!』
「期待してる。」
“強くなる!!”そう言う彼の眼がとても好きだった。
強くなんかならなくていい。ただ、こんな風に笑えていたらそれで。
彼は充分美しく、凛々しく、気高かった。
私は優秀者で、人から恨まれたりすることもあった。
その優秀者のドラゴンが、リュークだから特にだ。
けど、その度彼は凛々しい顔をして、悔しがっていた。
私はどうでもよかったのに、彼だけは怒ってた。
“僕の所為で、リースがそんな風に言われるのは嫌だ”って。
彼がいなくなったその日だってそうだった。
本当は、弱かったのはきっと私のほうなの。
彼に私が必要なんじゃない。
私に彼が必要だった。
「リューク!!戻ってきてっ!!」
湖の上に羽を広げてこっちを見る彼。
嫌な予感がしてた。
私の妹が溺れて、水が怖くて飛び込めずにいた私の変わりに
私なんかよりもずっと水が嫌いだったリュークは最後に私に笑って言った。
『僕は強くなれなくてもいいんだ。けど、大切な君を悲しませたくはない。』
それから、高く助走をつけるために空に舞い上がり水に飛び込む瞬間に言った。
『戻ってきたら、僕を誉めてね!』
妹は息をしたまま岸に流れ着き、リュークの名前を呼びながら泣いていた。
「リュークは!?」
「リュ・・クッ」
何もいえなかった。彼女が助かってよかった。
本当にそう思った。
けど・・・・・・・リュークはいくら待っても上がってくる事はなくて。
私の手に記されたドラゴンマスターの印は・・・熱く焦げるような痛みを与えて消えた。
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『戻ってきたら、僕を誉めてね!』
戻ってこなかったら?
アナタはいつもそうだった。
弱弱しいくせに、私が弱くなると強くなって。
本当に弱かったのも、必要としていたのも。
アナタじゃなくて 私だったんだ。
“先生は・・・進まなくちゃならない。”
捕らわれてるままじゃ駄目。
そう思ってた私に、逃げるんじゃなく受け止めて進めと彼女はいった。
“お前は、進まなくちゃならないんだ。”
彼と同じ眼をしてた。
伝説のドラゴンマスターと呼ばれた白竜遣いの彼と。
その目を見たときに思ったの。
彼女はきっと、伝説のドラゴンマスターに違いないって。