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第27話 :コア

セルスを好き。この気持ちは、リラやロイやクレズを好きだって思うのとは違うのかな?

ふと、セルスを見てそう思った。


「編入手続き終わるまで、こっちにいるの?」

「え、あぁ、そのつもりだけど。」


違う制服を着て、当たり前のように私の隣に立ってるセルスが言った。

クレズは、セルスのことを好きだ。そう、思った。

そのとき、心の中でモヤモヤと何かが動いた。


「おはよう、コアちゃん。・・セルス!」

「おはよう。」


セルスがクレズに言葉を交わすと、胸が少し痛んだ。

私は唯にっこりと笑顔を作ることしか出来ず、セルスの横に立つクレズの笑顔を見ると

何故だかとても悲しくなった。


「あ・・えと・・・・・私、実技訓練だから!!」

「あ、コア!」


セルスの声に足を止めて振り返る。


「今日・・」


その振り返った先にセルスの隣にクレズがいる景色があって

私は思わずセルスの眼を反らした。


「ごめん、もう行くね。」


こんな気持ちになりたくない。誰かの事を嫌に思うなんて、最悪だ。

私はそんな思いで精一杯足を急がせ、その場所を、セルスから離れた。



『どうかしました?』


今日はマスター・リースの屋外授業で、私はセルスと外で先生を待っていた。


「・・何もないよ?」

『そうですか?私にはセルスさん関係で何かあったように思えますが?』


ズバリと言い当てられて、私は彼女の優しく笑う青い眼を覗いた。

それから小さく笑って、口を開いた。


「隠せないなぁ。・・・セルスは、たくさんの人に好きって言われてるでしょ?

私・・・クレズのこと嫌いじゃないけど・・・もやもやするの。」


自分でも、嫌だなって思うの。


『そうですか。・・・あ、リースさんがいらっしゃいましたよ。』

「本当だっ!先生っ!」


遠くから歩いてくる優しげな先生に、大きく手を振る。

先生はそれに返すように手を振って、昼の太陽の眩しさに眼を細めている。


「お久しぶりですねぇ、コアちゃん。」

「はいっ!!」

「いつ見ても綺麗なドラゴン。」

『ありがとうございます。』

「ふふっ、立派だわ。」


先生が笑うとこの辺いったいに春が来たみたく暖かくなる。

そんな先生のドラゴンは、きっと幸せに違いない。


「そういえば、先生のドラゴンさんはどんなドラゴンさんなんですか?」

「私の?」


きょとんとした顔で先生が見てくる。私はコクンと頷いて、首を傾げてみる。


「・・・綺麗というよりも、ドラゴンには珍しく弱弱しいドラゴンだったわ。」


先生の笑う顔が大好きだった。けど、今笑っている先生はどこか切なげで。

まるで冬の中に居るような笑顔だった。その言葉の一部に違和感を感じて聞き返す。


「“だった”・・・・・・・?」

「私にはもうドラゴンがいないのよ。」


リース先生はそこに座りながら、ドラゴンとの契約について話し始めた。


「ドラゴンがいない教師は私くらいね。

でも教師の6・7割はドラゴンを亡くしているの。」

「え?」

「知ってるでしょう?ドラゴンは死んでも、マスターは死なない。」


そう、それはドラゴン契約の中に記されている事。

ドラゴンが死んでしまっても、契約しているマスターが死ぬ事はない。でも、

マスターが死んでしまうと、契約しているドラゴンは死んでしまう。


「他の先生は、新しいドラゴンと契約するのよ。」

「じゃぁ、先生は?」

「・・・・契約するように言われているわ。やはりこうして実習のときには不便だからね。」


先生は柔らかに笑って、少し熱く感じる風に流れる髪を押さえた。


「他の先生方にも言われるのよ。“ドラゴンなんてどれも変わらない”って。」


その言葉は、きっと幾度も先生を苦しめているに違いない。

もしもルキアがいなくなったら、私だって絶対に二度とドラゴン契約なんかしない。

私がそう考えていると先生はため息をつきながら、言葉を続けて言った。


「だから、ドラゴン契約しようと思ってるの・・・。

いつまでも、彼に縛り付けられているようじゃ駄目よね。」


先生は忘れたくなくて、契約しないんだ。何が正解で、何が間違いなんか、私には分からない。

だけど、思うの。不便だから、周りに言われて傷つくのが嫌だからって契約するのは、違う気がする。


「それは、間違いだと思います。」


隣で横たえていた首を上げて、ルキアがこっちを見る。


「え?」


先生の小さな声が聞えて、私は言い返すように言った。


「私だって、ルキアがいなくなったら絶対にドラゴンマスターなんかやめます。」

『・・・コア。』

「どうして・・・マスターがいなくなれば、ドラゴンも死んでしまうのに。

ドラゴンが死んでも、マスターは生きていられるのか分からない。」


もしもルキアがいなくなったら、私は生きてなんかいたくない。

生きているんじゃなくて、唯生かされていると思うかもしれない。


「契約令も間違ってるけど、先生も間違ってます。

先生はドラゴンに縛られているんじゃなくて、抱えているんじゃないんですか?」


大切な思い出として、覚えていようとする事が縛られているという事なの?

忘れたくないから、新しいドラゴンと契約を結ばないのは間違い?


「大切な思い出を、忘れたくないんでしょ?」

「コアちゃん。」

「それなのに、新しいドラゴンと契約するなんて。不便だからって、忘れたいからってそんなの違う!!

先生も・・・あの試験官と同じなの?」


先生は違うと思ってた。他の先生達とは違って、ドラゴンの事凄く優しいめで見るから。

先生は、ドラゴンマスターなんだって。


「罵声を吐いたのは、やっぱりコアちゃんだったのね。」


ドラゴンは道具でも、玩具でも、僕でもない。私達はドラゴンと一緒に空を飛ぶ。

私達こそ、ドラゴンがいなければ何も出来やしないのに。


「忘れちゃ駄目なんです。覚えておかなくちゃ。

でも、ドラゴンと新しく契約する事も・・・間違いじゃないと思うんです。

もし、先生を待ってるドラゴンがいるのなら、先生は・・・進まなくちゃならない。」


新しい出会いを、塞ぎこんでちゃ駄目だと思う。ドラゴンに抱く感情は、どこか恋に似ているの。

もしもセルスがいなくなったからって、私が他の人を好きにならないとは限らない。

だけど、絶対にセルスを好きだと思った感情は忘れない。

誰よりも彼を大好きだったこの時間を、忘れようとは思わない。


ルキアをこんなにも大切に思っている時間を。私はこの先何があっても忘れはしない。


「本当に・・・アナタは彼にそっくりね。」

「・・・?」

「伝説のドラゴンマスターに。」


先生はそれだけ言うと、静かにその場に立ち上がって言った。


「今日の授業はここまでです。・・・アナタに教える事は何にもなかったわね。」


そんな事ない。優しく笑いかけてくる先生を見ながら思った。


「ありがとうございました。」

「明日は一時間目からだから、遅刻しないようにね。」

「あ、はい。」


先生は、教えてくれたよ。セルスに抱く感情も、仕方ない事。

だからってこのままじゃ駄目なんだよね。

今、このときを大切にしなくちゃいけない。

大切な人がいる、大切な人のことで悩めるこの時を精一杯生きなくちゃいけない。


『・・・セルスさんの所へ行きますか?』

「うん!」


今は好きだと言えなくても、それでもこの気持ちはきっと彼だけへの感情だと気づいたから。

そのことを彼に伝えたい、ずっと抱いていたこの気持ちを。

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