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第23話 :コア

「君がコアちゃんかな?」


薄暗がりの中、私の部屋の前に立っていた知らない男の人が、私を見て微笑んだ。


「?」


頭がいっぱいだった。セルスはもしもの話をしてたけど、もしもじゃなくて。

それは私にとって、とても辛いもので。

差し出された小さな紙には、その人の名前が書かれていた。

私はとりあえず部屋に上げ、そっと暖かい紅茶を入れた。

ふと息をつくと、その人は一枚の紙を机の上において話をし始めた。

その内容はほとんど覚えてない。最後の言葉だけが、私の耳に入る。


「推選者の中には、同じ学校のセルスという生徒もいますよ。」


知りませんかね、と男の人は軽く笑う。


「・・・本当ですかっ?」

「え?」

「本当に、セルスがっ!?」

「・・え、えぇ。知り合いでしたか。」


もしもの話はこの話だったんだ。私の中で明らかになった事実がじんわりと広がる。

セルスにとってこんなにもいい話ないのに、私と比べてくれたんだ。

そんな思いで、心がまたいっぱいになる。


「私っ、行かなきゃならないところあるんで、失礼しますっ!!」

「え、あ・・コアさん!このお話しは?」

「―――――――。」


振り返ってその答えだけを告げて、急いで外へ出る。

私なんかと比べてくれるだけで、充分に嬉しかった。それなのに私、最低な事言ってしまった。

彼がどれほど悩んで、その話を私にしてくれたのかも知らずに。

早く、セルスに謝って・・・言わなきゃ。

大きな扉をくぐって、道を走って敷地の外へ出たとき。

風の流れが変わった。


「コアっ!」


上から降って来たのは、黒い竜とセルスの声。


「セルスッ!」


その声に返事をするのと同時に、アルが着地して、その背中からセルスが降りてくる。


「言いたい事があるんだ。」

「セルスねっ、コントゼフィール学院に推選されたんだね。」


セルスの言葉を遮って、風に向かって言葉を放つ。

暗い道に、立つセルスが眩しくて仕方ない。


「な、んで知ってるんだ?」

「私も・・・推薦者の中に入ったから。さっき来た先生みたいな人が教えてくれた。」

「お前っ!!推選されたのかっ!?」

「うん。」


ルキアは伝説の白竜、そして私は伝説のドラゴンマスターの卵だと呼ばれてる。


「でも、私はセルスに言わなくちゃいけない。」

「は・・・?」

「―――― いってらっしゃい。」


理由がどうであれ、私はセルスと同じ場所には立てない。


「推選されたんだろ!?」

「うん、でも断ったの。」


怒るように言うセルスの言葉に、私はゆっくりと答えを返す。

セルスが驚いた顔をしたまま、こっちを見ている。


「何で?!」

「・・・セルスは頑張って、頑張って、頑張って。それで、選ばれた。

そんな人と同じ場所に立つなんて、私にはできない。」


それが私の選んだ答え。


「お前、バカかっ?!コントゼフィールに行けるだけでも・・」

「それじゃ駄目なの!・・私が目指すものはその先にはないから。

コントゼフィールに行けば近づけるかもしれない。だけどねっ。

そうやって甘えてたら、きっと手に入れても嬉しくなんかない。

もしかしたら、遠ざかって、一生手に入らないような気がするの。」


私が目指すものは、私が努力しなきゃ得られないものだと思う。

ルキアがいるから入れたなんて、ルキアに失礼だよ。


「じゃぁ・・・」


濁るようなその目を見せて、彼は言葉の続きを言おうとする。


「駄目だよ?セルスは行くの。」


その先の言葉は聞きたくない。私には聞けない。

それはセルスの優しさかもしれないけど、私はそれを受け取るわけにはいかない。


「セルスが大好きだから、私はそれを許す事はできない。

もしも、私がセルスのためにそんな風にしたらどう思う?」

「それは・・・」

「それを優しさだって受け取れる?・・違うよね。だから、いい。

セルスは、行くの。行かなきゃならないの。」


こんな所で、私の所為で立ち止まってなんかいてほしくない。

遠くから吹いてくる風に逆らいながら、もっと遠くで飛んでいて欲しい。

私は、頑張って、少しでも高く飛べるようになりたいから。


「頑張って?私、すぐに行くから。」


行きたいけど、傍に居たいけど。少しでも強がりを言わせてね?


「それがお前の、大好きか。」

「うん。」

「・・・俺はお前みたいな奴、待ってるほど優しくないけど。」


ここにいて欲しい。一緒に歩いて行きたい。

でも、私が好きになったのはいつだって今できる精一杯をしている貴方だから。


「すぐに来い。・・・・・・ちゃんと、想っててやるから。」

「うん!」


遠くても、辛くても、苦しくても。頑張って、隣に立つよ。

・・・ううん、いつか、それ以上に。


「ま、俺に彼女が出来ていたら・・・」

「やだぁぁっ!!」


抱きつけば、手を握れば、もう二度と放さなくてすむように。


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