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第22話 :セルス

『世界の大きさ、知ってる?』


あの時の言葉が静かな部屋に響き渡るように、こだましたような気がした。

彼女が泣きながらこの部屋と飛び出て行った後、俺はため息をつきながら

ソファーに寝転び、目を閉じた。


『世界って広いよね!どれくらい大きいか知ってる?』


幼い君が瞼の裏でくっきりと笑っている。

その言葉に幼い俺は、この世界の表面積を答えたんだ。

そしたらコアはその小さな手をいっぱいに広げて言ったんだよな。


『それって、これよりも大きいの?』


その頃から勉学に励んでいた俺の世界をひっくり返した言葉。

思い出しただけで笑いそうになり、俺はふぅと深呼吸をした。

さっきまであんなに明るかった部屋が、まるで電気が切れかけているように暗い。

コアがいないだけで、この世界は光を失ったように暗くなってしまう。

そんな事を考えながら彼女が出て行ったドアから外に出る。

ふわりと風が吹くと、空から大きな鳥のような生き物が降りてきた。


「・・ア・・ル?」

『よう。・・・ちょっと出かけないか?』


そう言えばアルも出会った時、コアと同じような目をしていた。


「あぁ。」


“世界ってそんなに広いのか?”

彼の言葉もまた、俺の心の中に残っている。

ゆっくりとその背に乗ると、黒い翼がかぜを動かし、夜へと舞っていく。


『こうも荒れてると、遠くにいてもそれが分かる。』


アルが呆れたような声を出して言った。


「・・・そうか?」

『コアと喧嘩か。』

「喧嘩・・かな。」


分かっていた、彼女が俺をどれだけ想ってくれているのか。

その気持ちに嘘なんかないってことも。彼女も俺も、唯、想い合っていただけ。

それに、彼女の言葉が持つ意味だって気づいてたんだ。

“・・・仕方ないよ。”

その言葉が決して本心じゃないって事だって。


「アルは・・・上に行きたいか?」


彼女は俺のためにそう言った事だって。

けど、その言葉が俺をどれほど悲しみに突き落としたか。

春が終わりかけて、夏の匂いを運んでくるこの風に、すこし悲しみを感じた。


『はっ。いきなり何を言うかと思えば。俺は何にもいらねぇよ。

あー・・でも、食い物食えて、寝れたらそれでいい。』


そんな無欲で、バカみたいな答えに思わず笑った。

どこから流れてくるのか、分かりもしない風に逆らいながら空を飛んでいく。


「俺は上に行きたい。」


どこまで行けば、“上”だというのか分からないが、

この風に逆らうように、どこまでも上がれる限り上へ行きたい。

そんな風に目を閉じて風を浴びながら言うと、アルは軽く笑って言った。


『だろーな。』


その言葉が心地よく感じる。


「一秒でも早くトップに立ちたい。頂点へ行きたい。」

『だから努力してんだろ。』

「あぁ・・・。」


努力と呼ぶのかどうかはどうでもいい。

ただ、自分に出来る精一杯をしている。それは・・・上に上がるため、だったのに。


『コン・・・何とかって学校はどうすんだ?』


今、その延長線上で待っているものに足がすくんでいる。

どこからともなく吹いてくる風に向かう事よりも、その先に待っているものに恐れて。

コントゼフィール学院に行けば、思い描いていた未来は確実に叶うだろう。

世界一の夢への最短ルートなのだから。


「・・・どうするかな・・・・」


それなのに、悩んでいる俺がいる。悩ませているものがある。


「コア・・・」


呟いてしまえば、その気持ちは唯真っ直ぐに心を示すのに。

あの目が俺を放しはしない。俺はあの目を見た時から捕らわれたまま。


『あのお嬢ちゃんは、何か・・・不思議な力を持ってんな。』

「あぁ、そうだな。」

『お前は、本気で欲しいもんを諦めれねぇだろ。』


今の俺が本気で欲しいものは何だ。

道の先で待っている世界一か。これから捕まえられなくなってしまう彼女か。

世界一を選ぶのなら、彼女は自由に空を昇っていくのだろう。

けど、彼女を選べば、彼女は俺を放したりはしない。彼女は俺の傍にいるだろう。

世界一が欲しいわけじゃない。けど、彼女を捕らえるようにして傍にいたくはない。


「・・・コアの所へ、連れて行ってくれ。」


二つの願いは互いに、まるで矛盾していて、どこかで繋がっている。

そう、まるで君と俺のように―――――なぁ、そうだろう?

だからこそ、願わずにはいられないんだ。それが例え、叶わないと知っていても。


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