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第15話 :ロイ

「あっ、ロイ!!」


人ごみの中から誰かの呼ぶ声が聞えて、俺は足を止めた。


「・・コア?」

「やっぱりロイも受けるんだよねっ、クラスSのテスト。」


広い講堂にごった返す人は皆、クラスSへの昇降テストを受ける者。

今日は試験内容を聞きに、ここに集まったのだ。

そんなこの場所に、コアがいる分けないと俺は目を何度も瞬きさせる。

けれど景色から彼女が消える事はなく、笑いながらこっちを見ている。


“ロイも・・・”・・・も?


「まさか、コアも受けるの!?」

「まさかって・・・失礼なっ。うん、このテストでクラスSを目指してるの。」


俺はこの学校に入学して、今回で6度目のクラスSのテスト。

それを今回初めての彼女が、受かるわけがない。


「まぁ、いい経験にはなるよね。」

「あははっ、ロイも冗談が言えたんだねぇっ!」


彼女が堂々とそういうのを見て、俺は少し笑いそうになった。

俺が本気だとも気づかずにそういった彼女はどうやら自身があるようだった。


「本気だよ?・・・もしかしてコア、受かるつもりだったり・・・するの?」

「当たり前だよっ!!」


希望者のほとんどはクラスAか、B。時々クラスCの者が希望する事もあるが。

きっとクラスDからの希望者は、コアが初めてに違いない。


「落ちるつもりで受ける人なんか、いないよっ!!」


それもそうだ。

それならわざわざ受けなくても、練習を摘む方が賢い。

なら、彼女は本当にこの試験に受かるつもりなのだろう。


「そうか・・・。本気なんだね。なら、お互い頑張ろう。」

「うん。私、ロイには負けない!」


意気込む彼女に、俺は何も言えなかった。

彼女はそんな俺に笑いながら、それじゃ頑張ろうね。と手を振りながら走って行った。

それから周りの人数が少しずつ減り、俺も静かにそこを後にした。


外へ出ると、風がいつもよりも冷たい気がして体を強張らせる。

試験内容を聞いた限りは、今回は行けるかもしれないと思えた。

帰って練習だな。

そんな風に思い、練習メニューを考えながら手をかざした。


「来い。」


どんよりとした曇り空の端から、薄い青色をした竜が姿を見せる。

俺はメニューを作り終え、目の前まで飛んできたエルク(ドラゴン)の背に乗る。


『今度の試験は、頑張りましょうっ。』

「あぁ。」


時々思う。

俺がエルクを選んでいなければ、白竜に選ばれることが出来たかも知れないのに。と


どうして卵を買って、育てようと思ったのだろう。

もしかしたら、俺が伝説のドラゴンマスターになれていたのかもしれないのに。

探し続けていれば、ルキアに出会い、俺が伝説の白竜を従わすことができたのに。


ふとエルクの背中から目を放して、ふわりと浮かぶ空の向こうを眺めた。

どんよりとしたこの空の下に、真っ白の竜が飛んでいるのが見えた。

彼女のドラゴンを見るたびに思うんだ。


どうして俺じゃなく、コアなんだ?・・・と。


『筆記もあるんですよね?』

「あぁ」

『実技、頑張りましょ!!』

「あぁ」


誰もが憧れるであろう、幻の白竜が存在し、伝説だとうたわれていた話は今

コアの手によって、新たなページを描こうとしている。

それを俺はただ、横で見ていることしかできないのだ。


「・・・くそっ」


優雅に舞う白竜から、またエルクの背中に目を落とす。

俺のそんな言葉は前から吹きつけてくる風にかき消され、エルクには届いていない。


伝説を描く事ができたなら、どれほど幸せだろう。


そんな風に思いながら、俺は静かにエルクの背に収まっていた。


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