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第14話 :リース

白いドラゴンが、朝の白い空を駆けて私の目の前に舞い降りた。


「あら、ルキア?」


その瞳は何を語るでもなく、ただ幸せそうだった。


「せんせぇっ!」


その背中から小さな声が上がり、ちらりと白いマントが見えると

今度はドラゴンではなく、少女が舞い降りてきた。


「あぁ、コアちゃんだったのね。」


彼女の頬は赤く染まり、その目はぱっちりと開かれて世界を映している。


「私っ、クラスSに行きたいデス!!」


昨日の曇っていた表情はどこかへ消えて、その顔は今朝の空のように晴れきっている。

例えるのなら、秋空の雲ひとつない大空のように。


「え?」


そんな彼女が嬉しそうに言った言葉が、私には理解できなかった。

その言葉と、その顔が私の中でまるで一致しない。


「私、クラスSに行きたいです。」


興奮しきっていた声を精一杯抑えるように、彼女は落ち着いてそういった。


「・・・クラス、S・・・?」


唯呟くだけのように、声を漏らした私に彼女は短く返事をした。


「はい。」


もう、意志は決まっているのが分かる。

しかし私は何も言えずに、黙っているだけだった。


クラスSへの試験は難しく、クラスAの生徒でもほとんど受かりはしない。

それなのに、クラスDの彼女が今度の試験でクラスSの試験を受けるだなんて。

きっと彼女以外の誰もが驚くに違いない。


「確かに貴女は凄いわ。白竜であるルキアの主だもの。」


伝説のドラゴンマスターになるかもしれない。

私だって確かにそう思う。


「でも・・・。きっと、クラスSは無理だと思うわ。」


今までにクラスA以外からクラスSへ進級したものはいない。

私がそういうと、彼女は大きく息を吸ってそれからルキアを見るとまた私を見た。


「ルキアが白いから、私は凄いんですか?」


彼女をクラスSに行かせたいとは思わない。


「伝説の白竜だもの。」


行かせたくない理由は、彼女の眼だ。

何人もの生徒を教えているが、クラスSの生徒も、クラスAの生徒もこんな目をしてない。

真っ直ぐで、純粋で、この世界の放つ光を映すその瞳はクラスSには向いてない。

ゆっくりとした朝風が、その湿りをそっと乗せたまま彼女と私の間を流れる。


「・・・ルキアは唯白い色をしているだけの、普通のドラゴンです。」


その風が一瞬強く、私に打ち付けたかと思うくらいの衝撃だった。


「ルキアは普通のドラゴンでしょう?

早く走れるわけでもないし、魔法が使えるわけでもない。

辛い事があれば涙を流すし、嬉しければ笑う。・・・矢で打たれたら死んでしまう。」


白竜だって伝説だと言われているだけで本当は唯のドラゴンだったのかもしれない。


「ルキアが白い色をしているだけで、私が凄いわけじゃないです。」


彼女は普通のドラゴンライダーで、自分のドラゴンが伝説の白竜だということを

自慢しているわけでもなく、恥じているわけでもない。

そう思ったとき、彼女の顔がスッとその緊張を解くように笑っていった。


「それにね、先生。」


その笑顔は唯の少女にしか見えない。

趣味はオシャレや買い物で、兄弟と喧嘩したり、好きな人と過ごしたりしている。

そんな唯の15歳の少女にしか見えないのに。


「私の“限界”を決めるのは、決められるのは、私だけですよっ。」


そんな風に笑って、誰もが思いもしないようなことを簡単に言ってのけてしまう。

誰が私の限界を決める?・・・そう、私にとってそれは答えのない質問だった。


「私はまだ、無理だ何て思ってません。」


太陽はゆっくりと昇り始め、この世界の全てを平等に照らしている。

風はどこから生まれるわけでもなく、この世界を吹き通す。

この景色はいつも変わらず、ここにあって、私は毎日のように見ている。


彼女に出会う前まではそうだった。


彼女と出会い、彼女の言葉は私に魔法をかけた。

いや、もしかしたら・・・世界の作られた常識に魔法をかけられていた私に

魔法を解く呪文の言葉を発していただけなのかもしれない。


太陽は彼女だけを真っ直ぐに、彼女のような人を励ますように照らしていて

風は彼女から生み出され、彼女のような人が風を吹かせる。

そして、この景色は唯の一度も同じであった事はなく

いつも変わっているのかもしれない。


世界はいつから、こんなにも広くなったのだろう。


「分かったわ。クラスS頑張りましょう。」


私は彼女が見ている世界に、今少しだけ足を踏み入れたような気がした。

その世界は私の立っている世界とは全く違って、何十倍も広大で、輝きに満ちていた。


その世界に足を踏み入れて、私は知った。


世界は彼女がいるだけで、こんなにも広がるのだと言う事を。


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