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第12話 :コア

朝から何かがずれているような、そんな気持ちを感じていた。

マスター・リースが見せてくれた古くて、埃をかぶるその本を開くと

私には読むことなんか出来そうもない文字が、ありのように並んで列を帯びていた。


「あら、興味ある?」


マスター・リースが教えてくれる魔術は、どこか華やかで私は好きだった。

おじいちゃんの言葉を思い出すたび、その感情の大きさが増す。

“魔術は幸せを与えるためだけに、存在している。”


「はいっ!」


私の返事にリース先生がそのページに、シワシワのその手をかざして何かを唱えていた。

その瞬間、唯列を作り止っていた文字達がいっせいに動き出す。

所々しか読めなかった文字が、頭の中に住み着くようにグルグルと回る。


「・・っ?」

「少し辛いかしら・・?平気?」


頭が一瞬グラッとして、それからもとの広い中庭の景色に戻る。


「平気です・・。」


そういうと先生は笑ってその本を閉じた。


「世界一のドラゴンマスターになるなら、これくらいは頑張ってみて。」


それまで心の中に感じていた、何かが絡まっているような感情がすっとほどけた気がした。

“世界一”

その言葉を聞いたのは、少し前だった。

その時からずっと、心の中に小さな違和感が生まれていた。


「そ・・・か。」


全てが解けたような感覚に、私は口から理解の言葉を零した。


「どうかした?」

「いいえっ!」


先生の言葉に首を横に振る。

ルキアはそんな私にどこか気づいていたようで、私のことを心配してくれいた。

それからその呪文を唱えながら、私は手を地面の上から何かを描き出すように動かす。

ドラゴンは主を持ってからは、主が得た呪文が持つ力を使い、成長するといわれている。

そのためか、私が呪文を唱えるたびリズムを合わせるように風に羽をバタつかせていた。


お昼、目の前に散らばったその教科書の端にそれと同じ呪文が見えて座りこむ。

指で文字を追うと、頭の中でまたありの列が激しく運動を始めるような感覚が襲う。

そのこと自体は、とても嬉しくて、授業で成功した事をリラに報告した。


空を背景にリラはいつもより大きな声で、その目を輝かせて私に言った。


「セルスにも、勝るかもしれない!世界一のマスターになれるかも!」


ずっと、心の中で絡まり続けていた感情がより大きく絡まったような気がした。


“世界一”

そう言われるのは、ルキアがいるから。

ルキアがいなければ、私なんて何も出来ない落ちこぼれ。


だから、そう言われることに喜びを感じることがどうしてもできなかった。

大好きなリラがあんなにも嬉しそうなのに、私は喜ぶ事ができなかった。


私はきっと、世界一になりたいわけじゃないんだ。

そう思ったとき、スルスルと絡まりは解けて授業中に感じた感情が再び生まれる。


魔術は幸せを与えるためだけに存在するもので。

私はそれを使って、世界一になりたいわけじゃない。

そんな固定観念が、外からの声に反応してどこか壁のようなものを作り始めいたんだ。


リラ逃げるように去ったのは、そんな壁が作ったものだろう。

だけど、私にも分からない。

世界一になれなくていいのなら、私は何になりたいのだろう。


“最高のドラゴンマスター”


その名をもつ、ドラゴンマスターになりたい。

そう思っていた私は、少しずつ何かがずれていくような気持ちを感じたんだ。


“世界一” = “最高” 


そんな方程式は、私の中ではどうやら成り立たないらしい。

頭の中で歩いていたあり達が、さまざまな場所へ散っていく。


この手に掴んだものを、この手から逃すように。



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