表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
127/136

第126話 :ユーク


「だから私はどれだけ難しくても、その人自身を見ていたい。いつか私がそうしてもらったように。」


それはとても澄んだ声だった。

幼い容姿には似合わぬ凛々しい瞳が、あの日私に向けられた老人の暖かな瞳によく似ていた。


ずっと何も望んでなどいない、とそう思っていた。

サンに出会う前もこの世界に何も望んでなどいなかった。

それでも私はサンに出会い、この世界に光を得たように感じていた。

だからこそ、もうこの世界にこれ以上の光などあるはずがないと思っていた。


けれど、もしかするとそれは大きな思い違いだったのかもしれない。


私はずっとこの世界に光りを求めていて、今も求め続けているのではないか。

ふと、そう思った。

人と触れる度に私は落胆し、諦める。

決して私を理解するものなどこの世界に在りはしないと思ってため息をつく。

けれどそれは、この世界のどこかには私のことを見てくれる存在があるのではないかと期待したからだ。

私はきっと、この世界は光に溢れていることを知っていたのだろう。

そしてその光に照らされることのなかった自分がただ、光などないと否定しただけにすぎなかったのだ。


今ならそう思えた。


コア。

彼女に吹く風の匂いがまるでサンと出会ったあの日の風を感じさせる。

あの日と同じように、運命の神が私の頬をそっと撫でて通り過ぎていく。


“ユークにとって我が光なら、我にとってユークが光だったのだよ。”


いつか私にそっと囁いたサンの言葉が心の中で優しく響く。

ただサンにとってそうなのだろうと思っていた。けれどそれは違った。

私にとってサンが光であったように、私も誰かの光となるのだ。

私はこの世界に光を求めていたけれど、私自身が光でもあったのだ。


「―――コア。」


気付けば、そう声に出して名を呼んでいた。


「ユーク。」

「コア、貴女は強いな。」


目をそらしてしまいそうなほど強い光を放つ少女。


「ユークは優しいよ。」


太陽のように強く眩く、そして暖かい。


「この試験を受けに来て、よかった。」


サンのいない私を試してどうするのだと思っていた。

もう諦めてしまおうとさえ考えた。

けれどここに来たのには意味があったのだ。

ただ諦めず求め続けて、生きることをやめなかった私に運命の神は優しく微笑んだ。


人はいくつでも理由を見つけて、人を隔てようとする。

けれどそれでもその隔てを超えて、人を繋ぐものもいる。


私がそう在ればいい。


コアのように、あの老人のように、人と同じに生きる必要などない。

それを知るために私はきっとここへ来た。

サンのいない場所で試されてまでここへきて、何の意味があるのだろうと嘆いたけれど。

これがその意味。

そしてこれこそ、これから生き続ける意味なのだろう。


「友達になってもらえますか、コア。私の、友達に。」


諦めずに歩み続けた先に、きっと私は求めたものを見つけてゆける。


「ぜひ!」


コアは大きな声でそういってそっと私の手をとった。

小さなその手は、思っていたのと違い、固くて骨ばっていてがさがさしていた。

けれどやはりほんのりと暖かい、彼女の優しい手だった。

そしてそのコアをそっと見つめていた不安げな眼が、ふと私に向けられる。

フォルンと呼ばれる美女の瞳は私と目が合うと困惑をみせ、一瞬怯んだ。


けれどそれは決して逸らされることはなく、困惑を奥にそっと笑みを見せた。


「フォルン。ぜひ、貴女とも友人になりたい。」


私の精一杯の声はどこか震えて響き、そっと彼女に届いた。


「・・・あ、の・・・ごめんなさい。」


彼女は申し訳なさそうに答える。


「・・・あ、違うんです。・・・私でいいのですか・・?」


ふわりと甘い匂いがした。


「はい、ぜひ。」

「俺も!ユーク、俺も友達だろ!」


ジャンがほっこりといつもの笑顔で私を見る。


「えぇ、そうですね。友達です。」


気付けばそこで私を求めてくれる者だって、あったのかもしれない。

それに気づけただけでも私はここへ来て、よかったのだ。





あけましておめでとうございます。

昨年は大きな災害に見舞われた大変な年となりました。

それでもこうしてこの作品を書き続けられていることに感謝しています。

初詣ではきっと多くの人々が大切な人とただ平和に暮らせることを望んだでしょう。

私も今年訪れる小さな幸せを大切に今年一年を精一杯生きていこうと思います。

今年もどうぞよろしくおねがいします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ