第124話 :ユーク
よるなバケモノ―――
その夜、私は昔の夢を見た。
声が聞こえる、私を呼ぶ声がする。
そういうと母と父は私に怯えた目を向けた。そして村の者は皆、私をバケモノだと言った。
村のどこへ行っても誰も私と口をきく者はいなかった。
そこに、彼が来た。
「一人ぼっちか、おじょうちゃん。」
傍らに白く大きな鳥のような獣をつれて、私に話しかけてきたのは、もう顔もよく覚えていないが優しい声の老人だった。
私がこくんと頷くと、そっと歯を見せて私の隣に腰を掛けると彼は言った。
「一人ぼっちはいかん。」
彼の大きなガサガサの手が私の頬を撫でる。
ひんやりと冷たいのに、優しい手だと思った。
「一人ぼっちでいると、心が乾いてしまう。」
心などとうに乾いていた。私を生んで育てる父母でさえ、私を恐れるのだ。
生きていることがまるでいけないような気さえした。
「私と話すとおかしくなるよ。皆そう言ってる。」
「ほう?皆が、か。」
ただ、声が聞こえるからそう言っただけなのに。
人はたったそれだけのことで、自分とは違うというだけで、簡単に人を遠ざけてしまえる。
だったらいっそ、もう誰とも関わらずに生きていけばいい。
「あいにくわしは昔から人と同じに生きるのが好かんのでな。」
面倒臭そうな声だった。
「え?」
「人とは皆、おかしな生き物じゃの。」
老父は優しい目をそっと大きな鳥に向けていった。
「……けど、私…声が聞こえるんだよ。皆は聞こえないのに、私だけ。」
毎日、ずっと私を呼んでる声がする。
「ほう。それがおかしい理由か?」
「おかしいよ、そんなの!」
違うの?
貴方には違うと否定できるだけの理由があるの?
私はきっとそう訴えていたのだろう。彼はそれを読み切って、答えた。
「面白くもなんともないの、そんなこと。」
「なっ!」
「その声を大切に待っているといい。いつか出会うじゃろう。
お嬢ちゃんの心を埋めてくれる、大切な友であり、パートナーとなるドラゴンに。」
ドラゴン。
老父は傍らに寄せるその白く大きな鳥をドラゴンと呼ぶことを教えてくれた。
ドラゴンは契約により時を奪われ、マスターと共に空を飛ぶことを選ぶ生き物だということも。
そしてドラゴンは時に、心から名を呼ぶことがあるのだと。
それから数年後、私は一頭のドラゴンに出会った。
「サン。」
ドラゴンとは皆白色をしているのだと思っていたが、彼女は萌える若葉のような色をしていて、私は私の前に舞い降りた彼女に一瞬で心を奪われた。
触れると冷たく固いガサガサの皮膚が、なぜだか優しく感じられ、そこにあの老父の手を思い出した。
彼女と契約を交わし、私は空を知った。
サンは常に私に寄り添い、支え、励ましてくれた。
会いたい。
サンに、会いたい。
たった一月だと自分に言い聞かせ、この試験に臨んだ。
しかしその心は早くも崩れそうになっていた。
サンのいない私を試して、何になる。
毎日そう思うばかりで、日が経つにつれ食欲もうせ、ただ一日をぼんやりと過ごすだけになっていた。
そんな私をいつしか周りは避けはじめ、自然と私は一人だった。
同じグループの人間は何度か声をかけてくれたが、やはり私は一人を選んだ。
「あいつ、アカンサスの出らしいぞ。」
その決断が正しかったと思ったのは、その言葉を聞いた時だった。
結局どこへ行っても人はいくつでも理由を見つけて、人を隔てようとする。
それなら最初から一人でいるほうが、ずっと気楽だ。
そんなふうに一月、指折り数えてサンに会える日を待つばかり。
その時、彼女に出会うまでは、そう思っていた。