第123話 :コア
五人グループの中の一人に真っ黒な服を着た女性、ユークがいた。
綺麗な人だがその目はどこか冷たさを感じさせた。
「コアさん。」
「え?」
「またぼうとしていらしたわ。私と一緒はそんなにつまらない?」
学科試験の後、私と同じグループのフォルンが私をお昼に誘ってくれた。
彼女は貴族のお嬢様だ。一つ一つの仕草がしなやかでそれはどこか、幼いころのセルスを思わせた。
そのフォルンは起こるときもやわらかい。
「ごめん!ちょっと考え事してて・・・。」
私が申し訳なさそうに言うと、膨らましていた頬をそっと元に戻して優しく笑った。
「ドラゴンのこと?」
「うん。」
黒のユークはそう、ルキアに似ていた。
昔の、出会ったころのルキアの目と同じ。
「そういえばさっき耳にしたのだけど、今年は伝説のマスターも受けているそうよ、この試験。」
びくん、と心臓がはねた。
伝説のマスターときくと思い浮かべるのは、あの優しいおじいちゃんの背中で。
彼がこの試験を受けているはずはない、と一瞬で否定し、そしてその言葉の違いに気づく。
「伝説のマスターは死んだよ。」
私のせいで。
「え?あぁ・・、初代のマスターのことですわね。違うのよ、コア。二代目をつぐ伝説のマスターのこと。一度でいいから会ってみたいわね。きっと凛々しいお方なのよ。」
フォルンは目を輝かせ、ね?と私に微笑んだ。
その目に私が白竜のマスターですとは、とてもじゃないけどいえなかった。
「おーい、フォルン!コア!」
返事をし損ねた私の耳に響いたのは、のんびりとしたジャンの声だった。
ぽっちゃりと丸いジャンは手をふってこっちへ歩いてきた。
「もうお昼はおわったかい?」
「えぇ、今。ジャンさんはこれから?」
「いや、僕ももう満腹さ。」
ほら、とお茶目に膨らんだおなかを見せる。
私より少し年上のフォルンよりも一回りほど年上のジャンは今年で七度目の受験だそうで、今年だめならもうあきらめると漏らしたことがあった。
「コアは細いなぁ!ちゃんと食べているのかい?」
おおらかで優しげなジャンはやわらかい手で私の腕をつかんだ。
「食べてるよ。ね、フォルン!!」
「えぇ。今日もスープ、二桁はおかわりなさっていたもの。」
フォルンが笑いながらそういうと、ジャンはにっこりと笑顔を見せ、よし!といった。
「最近の若い子はみんな食べないからなあ。フォルンもユークももっと食べなきゃ。」
「そういえばユークさんはきちんとお食事をとっていらっしゃるのかしら。」
「え?」
「あー。ユークはいつも食堂に来たがらないからなぁ。誘っても首を振るだけだし。」
「ユークさんって不思議な方よね。」
私は彼女について何も知らない。
今度ご飯に誘ってみようと考えながら、ふと思った。
「まだお声をおききしたことがありませんもの。」
フォルンの言葉に私とジャンは顔を見合わせたのだった。