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第122話 :ルキア


コアはアカンサスから帰ってきて、より迷いなくただ闇をぬぐうためではなく光をつかむためにまっすぐ望む高みへと向かっていった。

おじいさんへの罪悪感ではない彼女の意思が強く、彼女の中にあった。


「どうしても、入りたい。あそこで、おじいちゃんが学んできた場所で私も学びたい。」


毎日のように強い瞳で空の向こうを見つめていたコアはようやく、三次試験まで残った。

私はそのコアの瞳が好きで、惹きつけられて止まなかった。

しかしそれと同時、何ともわからない不安があるのを感じていた。


努力の分だけ、人は結果を求める。

それは当然のことだと私にもわかる。

努力が報われなかったときの恐ろしさを抱えながら、人は努力する。

その姿はあまりにも輝かしく、目を奪われる。


「たった一か月だよ。」


コアの声が真っ直ぐに私に届く。


『えぇ。たった、そう。分かってはいるのです。』


コアに与えられた課題は一か月ドラゴンと離れて、グループの中で生活すること。

その間別の学科試験なども行われる。

そして勝ち残ったグループの中から3名のみ、最終選考へと進めるのだ。

それは想像以上に厳しい道なのかもしれない。

狭き門をくぐった先にあるのは、挑戦権でしかない。


試されて試されて試されて、彼女はあの場所へと向かう。


その一歩を違えることのないように、私は信じて待つしかできない。


「次会う時は最終選考だよ。」


嬉しそうにコアが笑った。


『えぇ、きっと。』


彼女がうれしいことは私もうれしい。いつだって、そうなのだ。

それはなんら変わらないことなのだ。それでも。


「ね、ルキア。」

『はい、コア。』


シン、と静まる空気が一瞬ひどく揺れた気がした。


「遠くに行くっていうのは、声が届かなくなるってことだよね。」

『えぇ。』

「泣いても聞こえないってことだよね。」

『そうね。』

「一緒に楽しいことも、悲しいことも感じられない。」


いつだって一番近くにいたのは私だ。

コアのそばにいる権利を、時と引き換えに手に入れた。

彼女を愛し、彼女に愛され、ともに生きることを契約によって許された。

コアの笑顔が消えて、その目には大粒の涙が浮かび上がる。


「なんのための、試験なのかな。」


試されて、試されて、試されて。

彼女は望んだ場所へ向かう。


「ルキアと離れることで、得られるものって何か・・・わからなくなる。」

『コア。』


同じことを、そう。私も考えていたとはいえなかった。

こういうときの彼女は脆い。誰もが強いと、私でさえそう思う彼女の脆さを私は大切に守って生きたい。

そういう道を望んで、彼女を背に乗せた。

コアが望む道を迷うことなく歩けるなら、私は虚空の強さを広げてみせる。


『きっと見つかるわ。』


コアと離れていることで得られるものなどあるとは思えないけれど。

それでもコアが望むあの場所へ向かうことを、私は心から望んでいる。

だからそのための嘘なら平気でつくことができる。


「ルキアの声が聞こえないなんて。」


コアの声は震えているのに、決して何にも妨げられることなく私に届いた。


「ルキアが泣いているときにそばにいられるのは、私だけなのに。」


コアが呼んでも、それが聞こえても、飛んでゆけないこと。

コアが泣いているとき、飛んでゆけないこと。

コアとともに生きられないこと。

私のなかでずっと抱かれ隠された悲しみが、コアの声にそっと溶け出した気がした。


『・・・そう、ね。コア。』


私は彼女の脆さを守って、強くある覚悟をしてきたのに。


「ルキアが泣いたとき、誰がそばにいてあげられるの・・・?」


いつだってそうだ。


『コア。』


あなたは強く、優しい。

その脆ささえも、人を包み込むほどに。


努力が報われないかもしれない不安からではない。

自分の涙が私に届かないことを嘆くのではない。

自分の喜びと悲しみを伝えるためではない。

自分の涙はきっと自分でぬぐってしまう貴女は、私の涙をぬぐえないことを嘆いてくれるのね。

私のすべてを感じようと、私の見ているものをちゃんとみようと貴女はいつもそうだったのに。


『きっと、大丈夫。』


嘘なんてつかせてくれない。


『私のマスター。時を捧げて、選んだ主。コア、貴女は私のマスターだから。』


きっと、大丈夫。

声が聞こえないくらい遠くにいても、涙がぬぐえなくても、コアとなら。

心がつながる。契約に縛ることをしない彼女と、そっと優しく強く。


「ルキア。」


名を呼んで、また笑ってくれる日がすぐに来るから。


『コア。』


その日を待っているくらい、きっと大丈夫。








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